キミノイバショ

神奈川雪枝

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連れて帰るよ

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君と過ごしていた、あの夏。

何時になったら、君は戻ってくるん ?




夏。

雪枝は、何時でも自然体で居る子だった。

化粧っけが無いけれど、
夏なんて、Tシャツに短パンだけれど、
とにかく笑顔が眩しくて、
健康的な女の子だった 。

家が隣同士で、
良く遊びに行っていた 。

雪枝の部屋には、クーラーが無くて、
いつも、扇風機だった 。
(今にも壊れてしまいそうな扇風機やったけど、涼しかったよな。)


「 なぁ、太郎 。」

「 何?」

夏休み、
課題を机に広げるだけ広げて、
二人とも、漫画を読んでいた 。


「 蝉、めっちゃ喘いでへん?」

「はっ?笑」


雪枝は、漫画を置いていて、
俺の手からも漫画をとると、
俺に擦り寄ってきた 。

「 暑いね?w」

「ちょ、もう何やねん?w」


俺の眼を真っ直ぐに見つめて、
雪枝は、ニヤっと笑った 。

「 私と太郎も、もっと汗かいた方がええんやない?w」

「 淫乱っ 。w」

ちゃんと好きだとは言ってないけれど、
一緒に居る、これだけで充分やって想ってたんや 。

俺も君も、
お互いに互いを求める 。


眩しい日差し。
暑い夏の日。
風は全然窓から入ってこなくて、
扇風機の微風を感じながら、

確かに俺と雪枝は、

愛を深めていたんやと想っていた 。

「 太郎。」

また、いつものように夏休みの午後。

君はいつもと変わらない口調で、言ったんや 。


「 私、学校やめて働くわ。」

「はっ?」

君はニコっと笑って、
「風俗嬢になるねん?w」って言った。

「ちょ、何言ってんねん?
 冗談 やろ?」

一瞬だけ切なそうな目をして、
君は、

「冗談なんかちゃうよ、本気や。w」って、
俺の目を真っ直ぐに見つめて告げた 。

( 何で風俗なんか 。)


それが、
最後やった 。

次の日、
家に行ったら、
もう、彼女は居なかった 。

突然の家出、失踪 。

意味わからん 。




そのまま、
彼女は帰ってくる事もなく、

俺は、
ずっと彼女と過ごした夏を引きずり、

もう、何回目の夏だろう?

君と過ごさない夏は、
恐ろしいほど冷えているようだ 。


夏が来る度、
冷風を浴びるたび俺は、
君の不幸を願ってる 。

( 早く、戻ってきてや ?)

冬 。

街は浮かれて、
恋人は幸せそうな顔をしている 。

雪 。

( このまま、雪に掻き消されたいわ 。)

地下鉄 。

沢山の人。

俺は何時だって、
雪枝を探しているのに 。

後姿 。

 雪枝に似ている後姿は沢山あって、
全部確認して、

( 全然ちゃうわ 。)

一人、落胆を繰り返す日々。

( 何で居らへんねん 。)







そんな時だった 。

人込みで、
今日も君を探せなかった自分に立ち尽くしていると、
勢い良く誰かが打つかってきた 。

 ドンっ。

「 すいません 。」

ぶつかって来た人は忙しそうに歩き続けている 。


その人の後ろ姿 。

長い明るい茶髪のパーマがかった髪の毛。
派手な色の服装 。

明らかに俺の知ってる君ではないのに、
声が、君だと認識させる 。


( 変わってしまったん ?)

俺はすぐさまその人の事を追いかけた 。

忙しそうに歩く彼女。
( やっぱり、人違いなんかな?)

俺の知ってる君は、ゆっくり歩く人やったから。
景色を楽しんで歩く人やった 。

目の前の彼女は、
ただ真っ直ぐに地面だけを見て歩いている 。


やがて、
アパートに着いた 。

扉の前。

彼女は鞄から、
がさがさと鍵を取り出す 。

「 もうーっ 。」

鍵を取り出して、
乱暴にガチャガチャとドアノブに当てる 。

 ガチャっ ガチャ 。

「 何やねん、もうー 。」

そう彼女は言うと、地面に崩れた 。



「 意味わからん 。」

蹲っている女性は、やっぱり彼女だと想った 。

声 は、変わってない 。


( なぁ、何があったん ?)

俺は声を掛けれなくて、
ただ、彼女を見つめていた 。


俺は、一旦家に帰った 。

( 会えただけで俺は満足やのに 。

 雪枝は、何したいねん ?)

俺は、お前の力になりたいねん 。

俺は、お前の傍でずっと支えてやりたいんやで 。

君と会う事が出来たのに、
あまりにも変わってしまった君に、
俺は、未だに声をかけれずにいた 。

( 昔の雪枝は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いておったんに、
 今の雪枝は、まるで太陽に反発してるみたいやわ 。)

また、
夏が来た 。

今日こそは声を掛けようと、
駅で君を待つ 。



電車が来て、
沢山の人が降りる 。

派手な化粧に、
派手な服 。

 頬が赤くて、眼が虚ろやった 。
(本間に、風俗なんかで働いてんの ?)


ふらふらとした足取りで、
君は電車の中から出てきた 。

酔っ払った男が一人、
君に絡んでいった 。


「 なぁ、一緒に呑まへん~?」

「 ……。」

「ちょ、無視すんなやぁ~?」

「……。」

「 呑みいこ~?」

男は、何も言わない彼女の腕を引っ張る。
( 触んなや 。)


俺は、見ていられなくて男から彼女の腕を振り払った 。
背中に、彼女。

「 なんやねん?」


「 こいつは、俺の女や。
 気安く触んなや、ぼけ 。」

「 何や、男居ったんかぁ~。」

酔っ払いは一人ふらふらと歩き出し、
違う人に絡みだした 。

( どんな精神してんねんっ 。)



「 …… 太郎っ ?」

 雪枝は、後ろから俺の事を抱きしめた 。

「 そうやで、 。」
(俺の事、覚えててくれたんや 。)


彼女の細くい腕、指 。
俺は久しぶりに触れた 。
( 爪、マニキュアしてんのや 。
 細すぎやろ、ちゃんと御飯食べてんの?)


「 なぁ、 雪枝。

 家に、帰ろうや ?」


俺が優しく言えば、
彼女は泣き出した 。

「 もう、家になんか戻れる訳無いやんか 。

 ありがとうな 。

 ごめん 。」

彼女はそう言うと、
一度だけ俺の背中に顔を押し付けて、
俺の事を強く抱きしめて、

すぐに、

俺から離れて走り去った 。


( なんでやねん 。

 何で、ごめん なん?


  戻る場所がないみたいに、言うなや 。)

朝 。

俺は、彼女のアパートに向った 。


( 風俗の世界は、お前には合ってないんちゃん?)


 ぴんぽーん 。

静かな空間に響いた 。


ゆっくりと、扉が開いた 。


出てきた君は、俺を見ると急いで扉を閉めようとした 。

「ちょ、待ってや 。」

「何で太郎っ ……。」

扉を想いっきり引いて、
君の事を抱きしめた 。

「 家に帰ろうや ?」

君はやっぱり、
泣き始めた 。

( 目、めっちゃ腫れてんで ?)

「 帰れ へん って 、もう 。」


あまりにも細くて脆い君は、
髪の毛はボサボサで、
爪は長くて、
マニキュアが禿げてるし、
爪が欠けていたり、
あまりにも揃い過ぎている眉に、
付けまつげはばっさばっさしてるし、
違和感のある紅すぎる唇 、
アイラインが落ちて、
君の涙は、真っ黒やったけど 、

それでも俺は、
ずっと、
ずっと、
 雪枝の事が好きやねんで ?







☂ 君に何があったのかは分からないけど、俺は君を連れて帰るよ 。☂




「 雪枝。
 もう1度家に帰ってやり直せそうや?

 俺が、支えたるやんか 。」

俺がそういえば、
君は大声で泣いて、
俺の事を強く強く、
抱きしめた 。
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