清く正しく生きなさい

私は悪くありませんっ！

「私は間違ったことは言っていません。」

彼女は正しすぎたのだ。

正しすぎた故に、
こうして吊し上げられている。

「どうしてですか？
　悪い事を悪いと言って、何がいけませんか？
　私には理解できませんっ。」

彼女の心からの訴えに、
皆目を伏せていた。

悪くないのだ。
彼女は何一つ。
そんなことは分かっている。

あまりの真っ直ぐさに、
皆怯んでしまっただけなのだ。

こういう事態になると、
何が正義で、
何が悪なのか、
訳がわからなくなる。

彼女から見たら僕たちは限りなく悪で、
僕たちから彼女を見たら、
全うな正義なのだ。

自分が悪になるなんてな。
仕方ないのだ。
同調圧力、
ここではそれが一番生き延びる術なのだから。

「私は、助けたかった。
　私は、彼女を助けようとしましたっ。
　それがいけないことですか？」

人を助ける、
大変素晴らしい。

でも、
助けちゃいけない人もね、
いるかもしれないことを、
彼女はわかってない。

だからこうして、
罰せられている。

人は平等であるはずなのに、
助けるとか、
助けないとか、
選んでいる。

これがここの決まりだから。
従わないと。

彼女の悲痛な訴えがいつまでも耳に残る。

雰囲気を変えることは、
とても簡単で、
難しいことなんだよ。

彼女の墓前に手を合わせられるようになっただけでも、
進歩といっていいのだろうか。