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2025年、春。
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今は、
西暦2025年。
4月!
俺の誕生日、
4月25日。
今年で30歳になる男です。
25歳の時に合コンで知り合った杏子。
俺と同い年。
黒髪ロングの姉御肌。
猫目で可愛い俺の彼女。
ゴールデンウィーク目前。
4月の連休初日に、
5年付き合った彼女、
杏子にプロポーズしようとした。
いや、した!
高いビルの
ちょっとお高めなレストラン予約して、
婚約指輪なんかも用意して!
スーツ着て!
杏子もいつもより上品なワンピースなんか着てきてさ!
俺は思った、
杏子も5年も付き合ってきたし、
そろそろ今日あたり
プロポーズされる気配、
感じてるんじゃないかってさ!
滅多に食べないコース料理の気品に
圧倒されながら、
食べ進める。
メインディッシュが終わって、
一呼吸。
(やっぱ、デザートの前だよな?)
プロポーズして、
二人ではにかみながら食べる、
デザート、
最高じゃん?!
ふぅと、深呼吸する。
「杏子!あのさ!」「ごめんなさい!」
「え、なにが?」
「もっと早く言えば良かったんだけど…。」
「え、まじなに?」
「私、とおると結婚できない!」
「は?」
「ずっと別れなきゃって思ってて!」
「え?」
「最近とおる凄いご機嫌だし。
記念日でもないのに
レストラン予約したって聞いた時から、
もしかして、
私プロポーズされるかもって
思ってたのに、
なかなか別れ話出来なくて……。」
「別れ話?」
「私、とおるとは結婚とか無理だから。」
「なんで?!」
「本当、ごめん!」
「いやいや、ちょっと待ってよ?!
俺たち、
5年間も楽しく過ごしてたじゃん?!」
「本当にごめん。
結婚だけは勘弁して。」
「はぁ?!」
「今日は、雰囲気ぶち壊したお詫びに
私が払うから。
もう、今日で別れよ、私たち。」
「いやいや、意味分かんないよ、急に?!」
デザートが運ばれてくる。
空気が重い。
(杏子と目すら合わない。)
食後のコーヒーが運ばれてくる。
杏子は猫舌なのに、
ふーふー息を吹きかけて、
ごくごくと飲み干していく。
(意味分かんねぇ?!)
(食後のコーヒーってもっと余韻に浸って
ちびちび飲むもんじゃねぇのかよ?!)
コーヒーを飲み干した杏子は、
伝票を持って、
席を立つ。
「じゃあ、とおる。
今までありがとう。」
「あ、杏子!」
「本当にごめん!」
杏子は駆け足に俺の傍から居なくなった。
(はぁ??!!??)
正直、
デザートの味なんか全然味わえなかった。
衝撃過ぎて、
メインディッシュとかの味も忘れた。
ただ、呆然と、
一人暮らしの家に帰る俺。
(プロポーズしたら、
杏子は嬉しそうに笑って、
二人で住む家探したり、
結婚式の事とか考えたりする
はずだったのに。)
布団にうつ伏せに倒れ込む。
(俺、杏子に何かした?)
(何で5年も付き合ったのに?)
じわじわ杏子との思い出が思い浮かぶ。
(杏子は、俺と一生一緒に居たくないの?)
滅多に泣かない俺だけど、
目から涙が流れてきた。
スーツのポケットにある、
箱に入ったままの婚約指輪。
せっかく奮発したのに。
杏子の喜ぶ顔が見たかったのに。
杏子に見せる事なく家に帰ってきた。
スーツもせっかくクリーニングに出したのに。
髪の毛だって、
久しぶりにワックスで整えたのに。
「杏子。」と、
俺は悲しみの中眠りに落ちた。
ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン。
呼び鈴の音で目が覚めた。
日曜日の朝から連打する奴に、
俺は心当たりがある。
「うるせぇー!」と、立ち上がる。
(あ、俺昨日そのまま寝たんだっけ。)
シワシワのスーツ。
鍵を開けると、
ニコニコした幼なじみ、
まち(25歳)がいた。
黒いポロシャツに茶色のミニスカート。
(随分爽やかですこと。)
「とおるくん!おはよう!」
「早くね?今何時?」と、
腕時計を見ると、
朝の8時だった。
「まちぃー!早すぎる。」
「いいじゃん!早起きは三文の徳だよ?
おじゃましまーす!」
まちは、
俺の部屋に入ってきた。
手にはビニール袋。
「とおるくんの朝ごはん買ってきて
あげたんだよ?」と、
俺にビニール袋を見せる。
「ああ、ありがとう。」
(頼んでねぇーけど!)
茶髪のショートボブのまち。
(髪の毛てかてかしてる。)
「はい、とおるくんの朝ごはんは、
冷やしそば!」
「朝から?!」
「私は冷やしうどん!」
「まち、俺もう30なんだよ?」
「知ってる!
おめでとう!」
「まち、暇だからって日曜日の早朝に、
俺の家に来るなよ。」
「なんで?!
駄目なの?!」
「朝ゆっくりしたいんだよ。」
「いやいや、時間が勿体無いよ!
時は金なりだよ!」
(若い。)
5歳しか違わないのに、
なんだ、この差は?!
コンビニの冷やしそばを
日曜日の朝8時に
情報番組を見ながら
幼なじみと食べる俺。
(寝みぃ~。)
「まち、食べたら帰れよ?」
「えー、やだ!」
「俺はもう1回寝る。」
「だめだよ!
見たい映画あるんだから!」
「はぁ?」
「早く食べて着替えて!」
まちは、美少女だ。
顔だけすごくいい。
いや、性格も明るくて元気、
裏表なさそうだし?
何より、
なぜか昔から俺に懐いてる。
悪い気がしないのが、
厄介だよな。
食べ終わって一服と思ったけど、
やめた。
まちがいるから。
(まちの前で
タバコ吸うの抵抗があるんだよな。)
「ていうか、なんでとおるくん、
スーツきてるの?」
「べつに。」
「昨日仕事休みだよね?」
「休みだよ。」
「じゃあ、なんで?」
「試着?」
「意味わかんない!」
「俺、風呂入ってくる。」
「え、昨日入ってないの?!」と、
まちは、鼻をつまむ。
「大人は忙しいんだよ!」と、
俺は干してあるバスタオルを手に取って、
浴室へ向かう。
シャワーを浴びながら、
昨日の事は本当に起こった事なのか、
杏子のこと、夢じゃないかとか。
グルグル考える。
杏子に思いを馳せていると、
ドンドンと浴室の扉をまちが叩いてきた。
「なに?!」と、声をかける。
「まちも、シャワー浴びたいんだけど!」
「は?!」
「朝走ってきたから汗かいた!」
「あとにしろよ!?」
「いいじゃん、一緒にあびたいー!」
「ダメに決まってんだろ?!」
「一緒に浴びた方が節約になるよ?」
「俺の後で入れよ?
狭いんだから!」
「狭くても気にしないよー?」
「俺が気にするわ!」
「とおるくんのケチー!」
「いいからテレビでもみてろ!」
「えーん。」と、
まちの声が遠ざかる。
まちの距離感は昔からバグってる。
俺たち、男と女なんだぞ?
家族みたいな関係っぽいけど!?
俺は、
バスタオルを巻いてリビングへ向かう。
テレビがついてる。
裸にバスタオルを巻いたまちがいた。
「?!」
「遅いよ、とおるくん。」
「なんでもう脱いでんの?!」
「だめ?」
「早く風呂いけ!」
「とおるくんが遅いからだよ?」
まちが立ち上がる。
(見るな見るな俺!!)
まちって体細いのに、
出ていて欲しい所には、
ちゃんと肉がついてる。
朝から25歳のまちの谷間は、
刺激が強い。
油断してた。
(ヤバい。)
「ねぇ、とおるくん?」
「な、なに?!」
「やっぱり一緒に浴びない?」
「浴びない!」
「なんでぇー?!」
「早く風呂に行けよ!」
まちの二の腕を掴もうとして、
躊躇する。
(上目遣いで俺を見るな?!!?)
「じゃぁ!」と、
まちが俺を抱き締める。
「離れろっ!」
俺の胸板にまちが、
顔をすりすりと擦り付ける。
(当たってる、まちのおっぱいが、
タオル越しに当たってる。)
(ダメだ、ダメだ!)
「まち!」
「えー、怒んないでよ?」と、
まちが離れた。
「早く風呂場に行きなさい。」
「はーい。」と、まちが風呂の方に行った。
(危ねえ!)
(杏子と、最近してなかったからな。)
刺激的な朝だぜ。
俺は急いで体を拭いて、
着替える。
テレビの音とシャワーの音が聞こえる。
まちと俺はちょうど
頭1個分身長が違う。
まちとハグなんて、
したことない。
まちの髪の毛、
良い匂いしたなと考える
自分が気持ち悪く感じて、
頭をブンブン振った。
「なにしてるのー?笑」
目を開けると、
また裸にバスタオルを巻いたまちがいた。
風呂上がりのまちが
目の前にいた。
「な!?」
「暖かくなってきたよね~?」
「なんで服持ってかなかったの?」
「脱衣場せまいんだもん!」
「はあー?!」
「夏くるよ、もうすぐ!
プール行かない?」
「行かない。」
「なんでー?
🌊海は?」
「行かない。」
「えー?」
「いいから、早く服着て!」と、
後ろを向く。
「とおるくん、厳しい。笑」と、
まちの笑い声と、
バスタオルが肌を擦れる音が聞こえる。
(考えるな、考えるな、俺。)
必死で意識をそらそうとする俺。
「とおるくん!服きたよ?」と、
まちの声が聞こえて、
振り向くと、
下着姿のまちがいた。
「おま、え!!」
「えへへ?恥ずかしい。」
「ふざけんなよ!」と、また後ろを向く俺。
(見ちゃった。)
思いっきり油断して、
見ちゃった。
(まち、スタイルいいな。)
きも、俺きもい、幼なじみに!?
まちの紫の花柄の下着姿が、
頭いっぱいになる。
(くそぉ。)
分かってる、
まちはまだ幼くて、
俺のことを兄貴みたいな存在で懐いてて、
男の性欲を甘く見てる。
だから、
エロい目で見ちゃダメなんだ、
俺はまちのこと、
妹みたいに、可愛がらないと!
「とおるくん!」
「今度嘘ついたら怒るからな?」
「大丈夫ー!ちゃんと着た!」
振り向くと、
服を着たまちがいた。
「可愛いでしょ?」と、
クルクル回るまち。
ミニスカートの裾がヒラヒラ俺を嘲笑う。
「はいはい。」
まちのやつ、
そのミニスカートの下には、
紫の花柄のパンティを履いてて、
その、黒のピチッとしたポロシャツの下には、紫の花柄のブラジャーをしてるのかよ、
エロい、な、なんて、
気持ち悪すぎる俺……。
自己嫌悪する。
「え、なんで元気なくなってるの?」
「朝から疲れた。」
「困るよ!これからデートなんだから!」と、俺の腕に腕を絡ませるまち。
(だからぁ、当たってる)、
俺の腕にまちのおっぱい当たってる😢涙)
そのまま、俺たちは映画館に向かった。
朝から刺激的なものを見て、
ご無沙汰の俺。
(ムラムラする。涙)
まちはニコニコしてるし。
「はぁ。」
「なんで、ため息?!」
(お前のせいだよ。涙)
まちが俺と見たいと思った映画は、
ホラー映画だった。
(俺無理なんだけどぉ。)
「他のにしない?」
「とおるくんとみるなら、
やっぱこれしかないよ!笑」
スプラッター映画だった。
(グロ……。)
見終わってぐったりしていると、
「ねね、新しくできたラーメン屋さんにいかない?」と、
俺の腕を引く。
(あっさり系であれ!)
ついたラーメン屋は、
入る前からこってりした匂いが漂っていて、
さっき見た血飛沫と相性悪くマリアージュしていく。
「美味しいね!」
まちは笑顔でぱくぱく食べている。
(最近の子は肝も据わってらっしゃる。)
何とか食べ終わり、
俺は家で休みたいと申し出た。
「だめー!」
「なんで?もうよくね?」
まちは俺の事をじぃーっと見つめる。
「彼女さん、杏子さんだっけ?」
「な、なに?」
「5月の連休に家に連れてくるって、
おばさんから聞いたよ?」
(ああ、そう言えば言ったかもな……。)
「何で今日元気ないの?」
「疲れてるんだよ。」
「ウソ!」
「何が?」
「本当は振られちゃったりしてたりして?」
「は、はぁー?!」
「私見つけちゃったんだよね!」と、
まちは鞄から
俺が昨日渡せなかった婚約指輪の箱を取り出した。
「ちょ、おま、なんで?!それ?!」
「まちのことを侮ってはいけませんよ?」
「返せっ!勝手に触るな!」
「プロポーズ、失敗しちゃった?」
無邪気に聞くなよ。
失敗したよ。
振られたよ。
なんていえばいいのか分からなくて、
その場に蹲る。
まちはしゃがんで、
俺の肩を叩く。
ちょうど目線の先に、
まちのパンツが見える。
そんなもので元気になりたくないのに、
俺はまだ現役なんだな、
美少女幼なじみのパンチラで
少しだけテンションが上がった。
「とおるくんには、まちがいるじゃん?」
「まちは、……。」(俺の事、好きなの?)って言いかけて、やめた。
好きだったとして、
俺、まちとは恋人みたいな事出来ないよ。
(だってまちは、
ずっと俺の自慢の可愛い
幼なじみだもんな。)
まちの顔をまじまじと見てみた。
パッチリ二重の黒目の大きい目。
筋の通った鼻。
リップ塗ってツヤツヤの唇。
(遺伝子大優勝してんじゃん。)
俺はまちの頭を撫でて、
立ち上がる。
「帰るぞ。」
「えー、やだぁ!」
駄々をこねるまちを連れて、
帰路に就く。
まちは、
「とおるくんと
夜ご飯も一緒に食べたいー!」と騒いだが、
何とか帰らせた。
アパートに1人。
まちから取り返した婚約指輪。
携帯を見ても、
杏子からは何も連絡はない。
(咳をしても一人か。)
部屋にはうっすら
まちの甘い香水が残っていた。
(そういや、
仕事持ち帰ってきてたっけか。)と、
仕事の鞄からノートパソコンを、
取り出す。
電源を入れる。
ウィーンという音が部屋に響く。
眼鏡を取り出し、
パソコンと向き合う。
カタカタとキーボードを打ち込み、
仕事を処理していく。
気がつけば部屋は真っ暗だった。
(無心、強し!)
立ち上がり、お湯を沸かす。
戸棚から
常備しているカップラーメンを取り出す。
ヤカンに水道水をいれて、
火にかける。
お湯が沸いて、
カップラーメンに注いで、
3分待つ。
カップラーメンを食べて、
一服。
(煙草吸うのなんか久しぶりだな。)
煙を燻らせる。
杏子に振られた事と
まちの下着姿。
俺の今日のハイライト。
まちでするのは何だか気が引けて、
エロサイトで動画を漁って、
脱力した。
(ああ、ゴールデンウィークなのに。)
俺は一人でなにしてんだ?
5月の連休は、
杏子と過ごすのだと思っていたから、
何も予定がない。
(切なっ!)
4月の連休が終わって、
出勤。
当たり障りなく業務をこなし、
5月の連休がやって来た。
前の日は同僚とお酒を飲んだ俺は、
布団で爆睡していた。
ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン!
デジャヴ?!かと思う
その連打インターホンの音に
俺は怒りながら、
玄関に向かった。
ドアを開けると、
麦わら帽子を被った
薄い緑色のミニスカワンピースの
まちがいた。
「よっ!」
「まじでぇ、おまえぇ!」
「ゴールデンウィークだよ?」
「だから、なんだよ?!」
まちは俺の事を無視して、
部屋に入ってきた。
「とおるくん、昨日呑んだの?」
「別にいいだろ。」
「換気したほうがよさそうー!」と、
まちは、窓を開ける。
5月の晴天だった。
爽やかな風が部屋に入ってくる。
窓の近くに居る
まちのミニスカワンピースの裾が
ヒラヒラと揺れる。
(だからぁ、30歳独身男性の部屋で
25歳美少女の生足は
刺激が強すぎるんだってぇ……。)
俺は目線を逸らした。
「とおるくん。」
「なに?」
「ピクニック行こうよ!」
「はあ?」
「コンビニでサンドイッチとか買ってさ!」
「そこは、手作りしてこいよ笑」
「まち、壊滅的に料理出来ないもん。」
「ああ!カレーも作れなかったもんな?笑」
「忘れてよ!」
まちが中1の時、
まちの両親が親戚の家に行くから、
まちが夜ご飯作るって言ったものの、
玉ねぎ切る段階で目にしみて
涙が止まらないと、
隣に住む俺に電話をしてきた。
「とおるくん!」
「なに?」
「玉ねぎ、めっちゃ😢涙でる!」
「そりゃぁね。」
「カレー作れる?」
「カレー?」
「今日、まちがカレー作るんだけど、
玉ねぎ切れなくてやばい。
お父さんとお母さん、
帰ってきちゃうよ!
カレー出来てないよ!」
「知らねぇー。笑」
「とおるくん、助けて、お願い!」
「仕方ないな。」
俺の家は親が共働きで、
部活休みの時とかは、
俺が夜ご飯を作ったりしてたから、
カレーなんて簡単だろって思って、
まちの家に行ったら、
台所で、まちが困った顔してて、
思わず笑った。
(フレンチ作るわけでもないのに?笑)
一緒にカレーを作って、
出来たあたりにまちの親が帰ってきた。
「あれ?とおるくん?」と、
まちのお母さんが俺を見て、
びっくりしていた。
「お母さん、私一人じゃ作れなくて…。」
「まちは不器用だもんな。」と、
まちのお父さんが笑う。
「とおるくん、ありがとうね。」と、
まちのお母さんは、俺に微笑む。
「いえ、暇してたんで!」と、
俺は帰ろうとしたら、
まちが、
「とおるくん、本当にありがとう!」と、
笑う。
「別に。」と、俺はまちの家を後にした。
「まちぃ~、玉ねぎくらいもう切れるよな?笑」
「とおるくんの意地悪っ!」
まちと外に出る。
コンビニで
サンドイッチとカフェラテ買って、
近くの公園に来た!
(杏子とも桜見に来たりしたなぁ涙)
「いただきます!」
卵サンドイッチ、
ハムレタスのサンドイッチ。
(久しぶりに食べたな。)
「とおるくんさ、
何で振られちゃったの?」
カフェラテを飲みながら、
まちが問う。
不意打ちすぎて、
俺はむせてしまった。
「なんだよ、いきなり?!」
「まちから見たらさ、
とおるくんが
振られる訳ないんだよね!笑」
「バカかよ。」
「ねぇ。」「まちは、仕事どうなの?」
「え?」
「おばさんから転職したって聞いたぞ!」
「何で知ってるの?!笑」
「俺らの情報は筒抜けだな。笑」
「怖い~笑」
「で、どうなの?」
「慣れてきた、感じかなー!」
「良かったじゃん!」
それから、
まちと他愛ない話をした。
こんなにゆっくりお互いの事を話すの、
すごい久しぶりだった。
「ねぇ!」
「なんだよ?」
「とおるくんがさ、
すっごい歳とって!
ヨボヨボのおじいちゃんになっても、
1人暮らししてたらさ!
まちも1人だったらさ!
その時は、一緒に暮らさない?」
「 やだよ。笑」
「なんで?!」
「まちには、
きっと良い人すぐに見つかるよ。」
「もう!まちは本気なんだからね!」
「ほら、帰るぞ。」
歳とっても1人はイヤだな。苦笑
ゴールデンウィーク、
まちはその後も来るかと思ったけど、
家には来なくて、
俺は昼まで寝て夜更かしする連休を
過ごしていた。
おかげで
連休明けはあくびが止まらなかった。
季節は流れて、
6月になった。
雨が多い。
梅雨になった。
いつも鞄に折りたたみ傘を入れているのに、
なぜかなくて、
帰り道、突然の雨に降られて、
俺は最寄駅から、
走ってアパートに向かった。
(冷たっ。)
帰ったらまず、
風呂だなとか考えて歩いていたら、
俺の部屋の前に、
しゃがんでる女が居た。
まちだった。
「まち?!どうした?!」
「とおるくん、遅いよ。」
よく見ると、まちは傘を持ってなくて、
白いブラウスが濡れていた。
「とりあえず、入れ」と、
まちと一緒に帰宅した。
適当にタオルをとって、
まちに渡す。
「いつから居たんだ?」
「25分前かな?」
「来るなら連絡くらいしろよ?」
「帰ってくると思ったんだもん」と、
まちはタオルで髪の毛をふく。
くしゅんと、
まちがクシャミをした。
「大丈夫か?」
「無理、寒すぎ」
俺も結構濡れてたから、
寒いんだけど、
まちに風呂を勧めた。
「え、とおるくんの方濡れてるじゃん!
先に入りなよ!」
「俺は別にいいから。」と、
まちの背中を押す。
「本当に?」
脱衣場にいるまちに声をかける。
「服洗濯してやるから、
洗濯機にいれろよ?」
「ありがと!」
部屋から適当に着てないスウェットを探す。
シャワーの音が聞こえる。
脱衣場に入って、
まちの服が入った洗濯機を回し、
スウェットとバスタオルを置く。
リビングに戻って、
とりあえず、煙草に火をつける。
(まちと会うの、
ゴールデンウィーク以来か?)
テレビをつける。
20時25分だった。
バラエティーを適当に選んで流す。
(飯どうしようかな?)
買い物をしてないから、
冷蔵庫には調味料しか入っていない。
(困ったな。)
なんて考えてると、
俺のスウェットを着たまちが、
出てきた。
「ありがと、とおるくん。」
「おう。」
「とおるくんも体冷えてるでしょ?
シャワー浴びてきたら?」
「うん。」
タバコを消して、
風呂場に向かう。
洗濯はまだ終わっていない。
浴室に入ると、
まちの匂いがした。
(無心、無心、無心。)
シャワーから上がると、
洗濯が終わっていたので、
洗濯物を持って、
リビングに向かった。
洗濯干しに干していく。
普通に真顔でまちの下着を干そうとしたら、
気づいたまちが、
「ちょっと、とおるくん?!」と、
俺の手から下着を奪う。
「なに?!」
「デリカシー!」
「は?」
「25歳女性の下着ですよ?!」
「だからなんだよ?」
「もう!」と、
まちは隅に下着を干した。
(えー。
この前は見せてきたのに??
何で怒るわけ?)
意味がわからないと、
目をつぶる。
「お腹空いた!」
「ああ。」
「いきなり雨降ってきたから、
「買い物してこれなかったよ。」
「カップラーメンしかないけど、いい?」
「なんのカップラーメンあるの?」
戸棚をあける。
「私、塩がいい!」
手前にあった塩ラーメンを取って、
まちに手渡す。
「「俺はなににしようかな~。」
醤油しかなかった……。
(買い置きしとかねーとな!)
「とおるくん、お湯!」
「今沸かす。」と、
やかんに水道水を入れる。
「えー、めっちゃベタ笑」
「なにが?」
「金色のやかん!可愛いね!」
「意味わかんねぇ。」
火にかけて、
沸騰したから、
カップラーメンに注ぐ。
「3分はかるね!」と、
まちは携帯のタイマーをセットした。
「真面目か!」
「へ?」
「時計みて
適当に3分たったら食えばいいだろ?笑」
二人で笑った。
テレビを見ながら、
カップラーメンを食べた。
21時25分になっていた。
テレビはバラエティーから、
ドラマになっていた。
「まち、そろそろ帰れよ?」
「雨やんだ?」
「小雨にはなってきてるな。」と、
窓を見る。
「泊まっちゃダメ?」
「はぁー?」
「だって、服まだ乾いてないよ?」と、
まちは立って洗濯物を触る。
確かにまだ全然時間が経っていなくて、
洗濯物が乾くわけがない。
(俺に金があれば……。
乾燥機付き洗濯機、高ぇからな……。絶望)
「今日だけだからな!」
「え、いいの? やったー!」
まちは無邪気に笑う。
「そういえば、
冷蔵庫にアイスあったかも!」と、
俺は冷凍庫をあけた。
アイスがちょうど2個あった。
「ソフトクリームとモナカ、
どっちがいい?」と、
まちに見せる。
「えぇー、迷う!」と、
まちは、ソフトクリームを手に取った。
テレビを見ながら食べる。
バラエティーとか報道番組を
チャンネルを変えながら流し見する。
「疲れた。」と、
まちがトイレに行く。
時計を見れば23時25分だった。
(そろそろ寝るか。)
そう思った時、
この部屋には、
客用の布団が無いことに気がついた。
(まじ?)
こんな狭いアパートに泊まらせる事なんて
ない。
(杏子は彼女だったから、
狭いけど俺のシングルベッドで
一緒に寝てたしなぁ。)
「とおるくん、まち、寝る。」
「まち、お前の布団はない。」
「へ?」
「俺のベッドにある布団しかないんだ。」
「一緒に寝る?」
「寝ない!」
そう宣言したんだ。
俺はリビングで
家にあるバスタオルを広げて
寝ることにした。
(5枚しかなかった。)
「ねぇー!」
寝室から声がする。
「とおるくんもベッドで寝ようよ?」
「気にするな。」
そうはいったものの、
酒を飲んで寝落ちするなら、
リビングで寝るのもアリだけど、
改まって寝るには、
敷いてあるマットじゃ、
床を感じすぎている。
テレビを消して、
電気を消して、
時計の秒針が部屋に響く。
チクタクとなる秒針と、
俺の心臓の鼓動がイマイチ協和音でなくて、
眠れない。
目をつぶる。
寝室からまちの寝息がかすかに聞こえる。
……。
……。
……。
なんか生温かい風が、
鼻をかすめる。
(なんだ?!)
寝ぼけ目で、
隣を見ると、
まちがいた。
「あ?!」
まちがスースー寝息を立てて寝ている。
(何でここで?!)
俺は急いで、
まちの肩を揺らして声をかける。
「おい、まち!」
「ん?!なにぃー?!」
まちは寝ぼけている。
(しゃーないな。)
俺は一呼吸置いて、
まちをお姫様抱っこして、
寝室まで運んだ。
ベッドに寝かせて、
布団をかける。
無防備な寝顔だった。
俺はリビングに戻って、
また目を閉じる。
……。
……。
……。
なんか声がする。
「とおるくん、朝!起きて!」と、
まちが俺の顔を覗いていた。
「早起き、だな?」
「うん、ぐっすり寝ちゃった!笑」
俺の冷蔵庫には、
相変わらず何も無い。
朝からカップラーメンも
アレだしなってことで、
着替えて、
近くのコンビニに来た。
「とおるくんは?
朝は米派?パン派??」
「おにぎりがいいかなー!」
「おにぎりいいよね!
鮭?ツナマヨ??」
「昆布!」
「私なにしよう。」
おにぎりとカップみそ汁を買って、
アパートに戻る。
雨がやんで、
今日は快晴の土曜日だ。
テレビをつけて朝食を食べた。
(まちといると、
時間があっという間だな。)
またどっかに行きたいとか言うのかと
思ったら、
まちは、
朝食を食べ終えると、
「お邪魔しました!」と、
帰っていった。
ペースを乱されてばかりだな、俺。
朝早くから起こされて、
時間が出来てしまった。
近くのスーパーに買い物に行くかと、
俺は外に出かけた。
6月も下旬になってきた。
梅雨はまだ続いている。
そんな金曜日の仕事帰り。
また、アパートの部屋の前に
白いブラウスを着たまちが居た。
今度は傘を持っている。
俺も折りたたみ傘を常備していたので、
突然の雨だったが、
濡れていない。
「まち?」
俺が声をかけると、
まちは携帯から顔を上げた。
「とおるくん!」と、
満面の笑みで俺を見た。
「相変わらず暇人だな?笑」
「いやいや!笑
とおるくん、
寂しくしてないかなと思って!」
「大きなお世話だな?」
「今日は、
お母さんから素麺もらったから、
お裾分けに来た!」
「まじで?」
俺たちは楽しく会話をしながら、
部屋に入った。
素麺か。
ジメジメ蒸し暑いからな、
さっぱりしてて良いかもな。
と、俺は鍋に水を入れて、
火にかけた。
「とおるくんの家、
めんつゆあるの?」と、
まちが笑う。
「めんつゆか?
ないかも!笑」
(普段料理なんてしないからな、俺。)
「やっぱり!
めんつゆ、
途中のスーパーで
買ってきておいて正解だった!」と、
まちはスーパーの袋から
めんつゆを取り出した。
「とおるくんは、
味濃い派?薄い派?」
「素麺、水っぽくなるからな、
濃くしていいよ!」
「OK!」
めんつゆと水の割合、
2対1なんだけど、
割合考えるの苦手なんだよな。と
まちをみる。
まちは計量カップすらないこの家で、
器にめんつゆを注いで、
水を入れた。
「勘か?」
「計量カップくらい買った方がいいよー!笑」
「うるせぇ!笑」
鍋の水が沸騰した。
素麺をパラパラと入れる。
(1分なんだ?!)
あまりの短い茹で時間に驚く。
あっという間に茹で上がった。
ザルに入れて、
水でしめる。
皿に分けて、
完成。
「なんか久しぶりにガスコンロ、
使ったわ。笑」
「とおるくん、普段何食べてるの?!笑」
(弁当か冷食だもん、俺。)
テレビをつけて、
まちと一緒に素麺をすする。
「うまいな。
久しぶりに素麺食ったわ。」
「さっぱりしてていいよね!」
食べ終わって、
食器を洗って、
テレビを見た。
(まち、帰らねぇーの?)って、
なんか言えなくて。
ダラダラ時間が過ぎていく。
「とおるくん、
今日泊まってっていい?」
まちの方から口を開いた。
「帰れよ。笑」
「もう夜遅いじゃん!笑」
「はぁ?まだ20時25分だけど?笑」
「とおるくんの家、駅から遠いもん!笑」
仕方ないなと言えなくて。
まちが定期的に泊まるとは思ってなくて、
布団を用意してない。
「布団買ってないから。」
「いいよ!気にしない!
一緒に寝よ?」
「無理無理!」
まちは笑いながら、
「じゃあ、
今日は私がリビングでタオルと寝る~!」という。
いやいや、
女の子に悪いじゃん。
かといって、
リビングでタオルで寝るのは、
床が近すぎて痛いんだよな。
(どうすっかなぁ~。)
「じゃんけんできめない?」
「ルールは?」
「2回私が勝ったら、
まちがベッドで寝るとか?」
「いいねぇ!」
「「じゃんけん、ぽんっ!!」」
(負けた。)
まちストレート勝ち!
「とおるくん、弱すぎぃ~!笑」
「うるせぇー!笑」
23時25分。
俺はリビングの床に横になっている。
(くぅ、床いてぇ。)
「とおるくんー!」
「なにー?」
「ベッドで寝ようよー?」
「早く寝ろ!」
時計は日付を跨ぐ。
なんか体に重さを感じて、
目をうっすらと開ける。
窓からの月明かりに照らされて、
まちの姿が見える。
見えるというか、
俺に跨がってる?!?!
「な?!」
「起こしちゃった?」と、
まちは笑う。
「なにしてんの?!」
よく見ると、
まちは下着姿だった。
「は?」
「とおるくん。」
「な、なんだよ?!」
「成人した男女が、
1夜をともにするんだよ?」
「んあ?」
「ただ寝て朝を迎える訳、ないよね?」
「まち?!」
まちの顔が近づいてくる。
(ちょっ、へ?!)
顔を横に向ける。
そんな俺の顔を正面に向けるように、
まちが俺の両頬を両手で包む。
心臓がドキドキしてくる。
(ちょいまて、ちょいまて、これは、
あかんやつ!?!?)
「とおるくん。」と、
まちの唇が近づいてくる。
「まち、やめろ。」と小声で言うも、
まちは近づいてくる。
(まじ、で?!)
俺、あんなに大切に可愛がってきた幼なじみとチューしちゃうの?!
だめだろ!
寝起きだし、
ドキドキして、
体に力が入らない。
もうダメだと思って、
目をつぶった。
まちとの距離、
1センチ。
小声でまちが、
「そんなに、いやなの?」と聞く。
「嫌とかじゃないけど、さ。
俺たち、幼なじみじゃん……。」
「とおるくん、可愛い。」と、
まちは顔を離して、
俺に覆いかぶさってきた。
「おお?!」
まち、離れろってやりたいのに、
下着姿のまちはあまりにも
無防備で、
肌に触れちゃう。
「まち、やっぱり、
とおるくんと一緒に寝たいな。」と、
まちは俺の隣に横になった。
「服、服きろよ。」
「えー、なんで?」
「風邪、引くぞ。」
「とおるくん、暑くないのー?」と、
まちが俺のスゥエットのズボンに手をかける。
(やばいやばい。)
「暑くない。」
「ちぇ。」
まちは、すやすや寝息をたてはじめた。
(よくこんな状況で寝れるね?!キミ?!)
小さく口を開けて寝ているまち。
(可愛い顔してんだもんな。)
(困っちゃうよ。)
まちの下着姿、
見たの2回目。
(今日は黒のレースなんだ?)
まちが寝てるのをいい事に、
まじまじと見てしまった。
(なにやってんだ、俺。)
俺はまた、
まちをお姫様抱っこして、
ベッドに運んで、
布団をかけた。
(俺はまちが心配だよ。)
こんな無防備だと、
男にやられちゃうよ。
俺は、
リビングに戻って、
横になった。
目をつぶると、
さっき見た下着姿のまちの残像が何度もリフレインする。
(忘れろ、忘れろ。)
もんもんとして気づけば朝だった。
「とおるくん!」と、
朝なのにまだ下着姿のまちが、
俺を起こす。
「だからぁ、何で服きてないの?!」
「とおるくん、
もしかして、まちのことヤラシイ目で
みてるんじゃないの?!」
「なわけ。」と、顔をそらす。
「とおるくん、好き。」と、
下着姿のまちが俺に抱きつく。
「離れろ!」
「とおるくん、好き好き!」と、
まちが俺に胸を押し当てる。
(朝から勘弁してくれ。)
「まち、いい加減にしないと!」と、
振り返ると、
まちの顔が真正面にあった。
「チュー、しちゃう?」と、
まちが笑う。
「し、しないよ。」
「うそ、したいでしょ?」
「いい加減に……。」(いい加減にしろって言いかける俺にまちは近づいてくる。)
ちゅっ。
まちは、俺の頬にキスをした。
「ドキドキした?」
「からかうなよ!」
「朝ごはん買いに行こっか?」と、
まちは立ち上がる。
俺の心臓は凄い勢いで脈打っている。
まちはやっと服をきてくれて、
二人でコンビニに来た。
「今日はなにたべるー?」
「おにぎりだな。」
「この前もだったじゃん!」
「好きなの食べればいいじゃん。」
まちは、
「とおるくんと同じのを食べたいの!」と、
頬を膨らまして、
おにぎりを手に取った。
アパートに向かう。
隣を歩く、まち。
手が触れそうで触れない距離。
俺にいつでも無邪気に笑いかけるまち。
そんなまちも、
そのうち彼氏が出来て、
俺なんか見向きもしなくなるのだろうか?
ちくっと、
心臓が痛くなった気がした。
「とおるくん、話聞いてた?」
「ああ、聞いてるよ。」
アパートで朝食。
テレビの天気予報では、
もうすぐ梅雨明けだと報じた。
「とおるくん!」
「なに?」
「今年の夏は、
一緒にお祭りいかない?」
「えー。」
「プールも行こうよ!」
「めんどくさー。」
「海も行きたいな!」
「友達といけよ。笑」
「とおるくんといくのがいいの!」
まちは、可愛いな。
「とおるくんは、どんな浴衣が好きー?」
「浴衣?」
「色とか柄とか!」
「派手じゃなかったらなんでもいい。」
「もう!
じゃあ、水着は?」
「水着ぃー?」
「どんなの、まちに着てほしい??」
昨日の下着姿が頭によぎる。
「貝殻のやつとかきたら?笑」
「なにそれ?!笑」
二人で笑いあってる時間が、
楽しいと感じる今日この頃。
まちは、お昼前に
「友達と約束してたから。」と、
帰っていった。
(友達いるんじゃん。)
まちに起こされると、
早起きだから、
時間が有り余るな。(苦笑)
気晴らしに晴れてるし、
散歩する事にした。
歩いていると、
見慣れた人が目の前に。
(杏子?!)
「げ、とおるじゃん!」
「なんだよ、その反応!!
俺まだ納得してないんだけど!
なんで、別れることになるんだよ?!」
杏子は面倒くさそうな顔をした。
とりあえず立ち話じゃあれだからということで、近くのカフェにきた。
「とおる、何飲む?」
「アイスコーヒーでいいかな。」
杏子は、アイスコーヒーを2つ注文してくれた。
「なぁ!あれから連絡もくれないしさ!
どういうこと?!」
「私、アメリカに転勤になるの。」
「アメリカ?!」
「そう。
大きなプロジェクトで、
私プロジェクトリーダーになったの。」
「すごいじゃん!」
「だから、とおると結婚したら、
子供作ろうってなって、
仕事から離れるかもって考えたの。」
「うん。」
「私、仕事がすごく好きなの。
憧れの上司だっている。
自分もそういう人になりたいなって思ってて。」
「なら、そういってくれよ。」
「そう言ったら、とおるは、
遠距離恋愛でも私と関係を続けようとすると思って。」
「そりゃ、もちろん。」
「申し訳なくなる。
きっと、40歳くらいにならないと、
私の仕事落ち着かないと思うの。
とおるの時間をそこまで奪えないなって思って!」
「杏子。」
「だから!あのタイミングになっちゃったけど!別れる事はずっと決めてたの。
言い出すのが、あのタイミングで本当にごめん。」
「理由は分かったよ。
杏子らしいな!笑
よかった、嫌いになったから別れたいとかじゃなくて!」
「とおるとは、気も合うし楽しかったよ!」
「俺も!」
二人で笑いながらお茶をした。
(杏子は、大きい決断をしたんだな。)
その決断に、俺は入ってなかったけど。
でも、それが杏子の思いやりだもんな。
(応援しないとな!)
「じゃあね、とおる!」
「頑張れよ、杏子!」
杏子が俺に背を向けて歩き出す。
何度もデートに来てきた青のストライプのワンピース。
杏子の流れるような艶のある長い黒い髪。
胸がきゅっとなる。
(俺は杏子の事、大好きだったよ。)
未練がましく、
杏子が視界から消えるまで見てしまった。
(まちの言う通り、
早起きは三文の徳かもな!笑)
スーパーで夜飯を買って、
アパートに帰ってきた。
引き出しにしまった、
杏子の為に買った婚約指輪を取り出す。
(杏子に似合うと思ったんだけどな。)
売るのも気が引けるし、
もうしばらく、
引き出しに寝かせておくか。
ふと、壁に貼ってあるカレンダーを見たら、見覚えのないピンクのペンで書かれた文字がたくさん書いてあった。
(なんだ?!)
その文字は、まちによるものだった。
猫のイラストとかが意味もなく書いてある。
(俺の予定が見えづらくなってる!!)
まちは、
きっと俺の母親から話を聞いた
まちの母親から、
「とおるくん、残念だったみたいよ」的なことを聞いて、
まちなりに俺の事を励まそうとして、
遊びに来てくれているのかもしれない。
(大きなお世話だけど。笑)
婚期を逃した俺、とおる。
年齢30歳。
さあてどうなる、俺の人生。
まちに振り回されるのはごめんだけどな。
杏子の事が本当に大好きだった。
結婚して、家庭を築くイメージもしてた。
きっと、杏子とならうまくやっていけると
思い描いてた。
杏子が仕事に一生懸命なのは、
知ってた。
そんな杏子が会社に認められて、
大きなプロジェクトのリーダーになったんだ。
アメリカ行きは栄転なんだ。
応援しなきゃな。
杏子もわかっているんだ、
今が仕事か結婚かの選択の時期だって。
今仕事を選んだら、
結婚適齢期を過ぎた頃にしかできないとわかった上で、
仕事を選んだんだ。
(かっこいいな、杏子。)
俺はそんな岐路に立たされたら、
杏子みたいにはっきり決められるだろうか。
杏子のかっこいいところが好きだった。
杏子といると俺は凄く安心出来た。
杏子。
杏子。
涙が出てきた。
(楽しかったな。)
どんなに遅くまで残業しても、
休みの日はちゃんと俺とデートしてくれて。
本当に優しい。
杏子の作る肉じゃがが本当に美味しくて
好きだった。
もう食べられないのは、
痛手すぎるな。
杏子、
頑張れよ。
杏子なら出来る。
なんで今日せっかく会えたのに
もっと伝えたい事沢山あったのに、
俺は笑って楽しい話しかしなかったんだ。
寝よう。
寝て起きたら、
俺も仕事を頑張ろう。
7月になる頃、
杏子のLINEのアイコンが変わった。
俺と行った旅行の時に食べたご飯の写真から、
英会話の本の写真になった。
杏子とは、多分もう会うことはないんじゃないかと、うっすら思う。
こんな未練タラタラの俺だから、
杏子ははっきり別れ話をしてくれたのかな?
梅雨が明けた。
夏が来る。
日差しが眩しい。
ピンポーンと、
呼び鈴がなる。
「とおるくーん!」と、
元気いっぱいなまちが来た。
俺の夏は、
杏子が居なくても、
まちのおかげで寂しくならなそうだ。
「とおるくん!」と、
玄関に出ると、
まちは俺に笑顔を向けた。
「だからさ、朝早すぎなんだよ!笑」
「「早起きは三文の徳。」」
「え?笑」
「毎回聞かれてれば覚えるよ。笑」
「今日も暑いねぇー!」
「日差し強いから帽子かぶったほうがいいぞ?」
「それ!今日は一緒に帽子買いに行かない?」
「はぁ。笑」
「とおるくん、早く出かける準備して!」
「仕方ないな。」
2025年の夏が来る。
西暦2025年。
4月!
俺の誕生日、
4月25日。
今年で30歳になる男です。
25歳の時に合コンで知り合った杏子。
俺と同い年。
黒髪ロングの姉御肌。
猫目で可愛い俺の彼女。
ゴールデンウィーク目前。
4月の連休初日に、
5年付き合った彼女、
杏子にプロポーズしようとした。
いや、した!
高いビルの
ちょっとお高めなレストラン予約して、
婚約指輪なんかも用意して!
スーツ着て!
杏子もいつもより上品なワンピースなんか着てきてさ!
俺は思った、
杏子も5年も付き合ってきたし、
そろそろ今日あたり
プロポーズされる気配、
感じてるんじゃないかってさ!
滅多に食べないコース料理の気品に
圧倒されながら、
食べ進める。
メインディッシュが終わって、
一呼吸。
(やっぱ、デザートの前だよな?)
プロポーズして、
二人ではにかみながら食べる、
デザート、
最高じゃん?!
ふぅと、深呼吸する。
「杏子!あのさ!」「ごめんなさい!」
「え、なにが?」
「もっと早く言えば良かったんだけど…。」
「え、まじなに?」
「私、とおると結婚できない!」
「は?」
「ずっと別れなきゃって思ってて!」
「え?」
「最近とおる凄いご機嫌だし。
記念日でもないのに
レストラン予約したって聞いた時から、
もしかして、
私プロポーズされるかもって
思ってたのに、
なかなか別れ話出来なくて……。」
「別れ話?」
「私、とおるとは結婚とか無理だから。」
「なんで?!」
「本当、ごめん!」
「いやいや、ちょっと待ってよ?!
俺たち、
5年間も楽しく過ごしてたじゃん?!」
「本当にごめん。
結婚だけは勘弁して。」
「はぁ?!」
「今日は、雰囲気ぶち壊したお詫びに
私が払うから。
もう、今日で別れよ、私たち。」
「いやいや、意味分かんないよ、急に?!」
デザートが運ばれてくる。
空気が重い。
(杏子と目すら合わない。)
食後のコーヒーが運ばれてくる。
杏子は猫舌なのに、
ふーふー息を吹きかけて、
ごくごくと飲み干していく。
(意味分かんねぇ?!)
(食後のコーヒーってもっと余韻に浸って
ちびちび飲むもんじゃねぇのかよ?!)
コーヒーを飲み干した杏子は、
伝票を持って、
席を立つ。
「じゃあ、とおる。
今までありがとう。」
「あ、杏子!」
「本当にごめん!」
杏子は駆け足に俺の傍から居なくなった。
(はぁ??!!??)
正直、
デザートの味なんか全然味わえなかった。
衝撃過ぎて、
メインディッシュとかの味も忘れた。
ただ、呆然と、
一人暮らしの家に帰る俺。
(プロポーズしたら、
杏子は嬉しそうに笑って、
二人で住む家探したり、
結婚式の事とか考えたりする
はずだったのに。)
布団にうつ伏せに倒れ込む。
(俺、杏子に何かした?)
(何で5年も付き合ったのに?)
じわじわ杏子との思い出が思い浮かぶ。
(杏子は、俺と一生一緒に居たくないの?)
滅多に泣かない俺だけど、
目から涙が流れてきた。
スーツのポケットにある、
箱に入ったままの婚約指輪。
せっかく奮発したのに。
杏子の喜ぶ顔が見たかったのに。
杏子に見せる事なく家に帰ってきた。
スーツもせっかくクリーニングに出したのに。
髪の毛だって、
久しぶりにワックスで整えたのに。
「杏子。」と、
俺は悲しみの中眠りに落ちた。
ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン。
呼び鈴の音で目が覚めた。
日曜日の朝から連打する奴に、
俺は心当たりがある。
「うるせぇー!」と、立ち上がる。
(あ、俺昨日そのまま寝たんだっけ。)
シワシワのスーツ。
鍵を開けると、
ニコニコした幼なじみ、
まち(25歳)がいた。
黒いポロシャツに茶色のミニスカート。
(随分爽やかですこと。)
「とおるくん!おはよう!」
「早くね?今何時?」と、
腕時計を見ると、
朝の8時だった。
「まちぃー!早すぎる。」
「いいじゃん!早起きは三文の徳だよ?
おじゃましまーす!」
まちは、
俺の部屋に入ってきた。
手にはビニール袋。
「とおるくんの朝ごはん買ってきて
あげたんだよ?」と、
俺にビニール袋を見せる。
「ああ、ありがとう。」
(頼んでねぇーけど!)
茶髪のショートボブのまち。
(髪の毛てかてかしてる。)
「はい、とおるくんの朝ごはんは、
冷やしそば!」
「朝から?!」
「私は冷やしうどん!」
「まち、俺もう30なんだよ?」
「知ってる!
おめでとう!」
「まち、暇だからって日曜日の早朝に、
俺の家に来るなよ。」
「なんで?!
駄目なの?!」
「朝ゆっくりしたいんだよ。」
「いやいや、時間が勿体無いよ!
時は金なりだよ!」
(若い。)
5歳しか違わないのに、
なんだ、この差は?!
コンビニの冷やしそばを
日曜日の朝8時に
情報番組を見ながら
幼なじみと食べる俺。
(寝みぃ~。)
「まち、食べたら帰れよ?」
「えー、やだ!」
「俺はもう1回寝る。」
「だめだよ!
見たい映画あるんだから!」
「はぁ?」
「早く食べて着替えて!」
まちは、美少女だ。
顔だけすごくいい。
いや、性格も明るくて元気、
裏表なさそうだし?
何より、
なぜか昔から俺に懐いてる。
悪い気がしないのが、
厄介だよな。
食べ終わって一服と思ったけど、
やめた。
まちがいるから。
(まちの前で
タバコ吸うの抵抗があるんだよな。)
「ていうか、なんでとおるくん、
スーツきてるの?」
「べつに。」
「昨日仕事休みだよね?」
「休みだよ。」
「じゃあ、なんで?」
「試着?」
「意味わかんない!」
「俺、風呂入ってくる。」
「え、昨日入ってないの?!」と、
まちは、鼻をつまむ。
「大人は忙しいんだよ!」と、
俺は干してあるバスタオルを手に取って、
浴室へ向かう。
シャワーを浴びながら、
昨日の事は本当に起こった事なのか、
杏子のこと、夢じゃないかとか。
グルグル考える。
杏子に思いを馳せていると、
ドンドンと浴室の扉をまちが叩いてきた。
「なに?!」と、声をかける。
「まちも、シャワー浴びたいんだけど!」
「は?!」
「朝走ってきたから汗かいた!」
「あとにしろよ!?」
「いいじゃん、一緒にあびたいー!」
「ダメに決まってんだろ?!」
「一緒に浴びた方が節約になるよ?」
「俺の後で入れよ?
狭いんだから!」
「狭くても気にしないよー?」
「俺が気にするわ!」
「とおるくんのケチー!」
「いいからテレビでもみてろ!」
「えーん。」と、
まちの声が遠ざかる。
まちの距離感は昔からバグってる。
俺たち、男と女なんだぞ?
家族みたいな関係っぽいけど!?
俺は、
バスタオルを巻いてリビングへ向かう。
テレビがついてる。
裸にバスタオルを巻いたまちがいた。
「?!」
「遅いよ、とおるくん。」
「なんでもう脱いでんの?!」
「だめ?」
「早く風呂いけ!」
「とおるくんが遅いからだよ?」
まちが立ち上がる。
(見るな見るな俺!!)
まちって体細いのに、
出ていて欲しい所には、
ちゃんと肉がついてる。
朝から25歳のまちの谷間は、
刺激が強い。
油断してた。
(ヤバい。)
「ねぇ、とおるくん?」
「な、なに?!」
「やっぱり一緒に浴びない?」
「浴びない!」
「なんでぇー?!」
「早く風呂に行けよ!」
まちの二の腕を掴もうとして、
躊躇する。
(上目遣いで俺を見るな?!!?)
「じゃぁ!」と、
まちが俺を抱き締める。
「離れろっ!」
俺の胸板にまちが、
顔をすりすりと擦り付ける。
(当たってる、まちのおっぱいが、
タオル越しに当たってる。)
(ダメだ、ダメだ!)
「まち!」
「えー、怒んないでよ?」と、
まちが離れた。
「早く風呂場に行きなさい。」
「はーい。」と、まちが風呂の方に行った。
(危ねえ!)
(杏子と、最近してなかったからな。)
刺激的な朝だぜ。
俺は急いで体を拭いて、
着替える。
テレビの音とシャワーの音が聞こえる。
まちと俺はちょうど
頭1個分身長が違う。
まちとハグなんて、
したことない。
まちの髪の毛、
良い匂いしたなと考える
自分が気持ち悪く感じて、
頭をブンブン振った。
「なにしてるのー?笑」
目を開けると、
また裸にバスタオルを巻いたまちがいた。
風呂上がりのまちが
目の前にいた。
「な!?」
「暖かくなってきたよね~?」
「なんで服持ってかなかったの?」
「脱衣場せまいんだもん!」
「はあー?!」
「夏くるよ、もうすぐ!
プール行かない?」
「行かない。」
「なんでー?
🌊海は?」
「行かない。」
「えー?」
「いいから、早く服着て!」と、
後ろを向く。
「とおるくん、厳しい。笑」と、
まちの笑い声と、
バスタオルが肌を擦れる音が聞こえる。
(考えるな、考えるな、俺。)
必死で意識をそらそうとする俺。
「とおるくん!服きたよ?」と、
まちの声が聞こえて、
振り向くと、
下着姿のまちがいた。
「おま、え!!」
「えへへ?恥ずかしい。」
「ふざけんなよ!」と、また後ろを向く俺。
(見ちゃった。)
思いっきり油断して、
見ちゃった。
(まち、スタイルいいな。)
きも、俺きもい、幼なじみに!?
まちの紫の花柄の下着姿が、
頭いっぱいになる。
(くそぉ。)
分かってる、
まちはまだ幼くて、
俺のことを兄貴みたいな存在で懐いてて、
男の性欲を甘く見てる。
だから、
エロい目で見ちゃダメなんだ、
俺はまちのこと、
妹みたいに、可愛がらないと!
「とおるくん!」
「今度嘘ついたら怒るからな?」
「大丈夫ー!ちゃんと着た!」
振り向くと、
服を着たまちがいた。
「可愛いでしょ?」と、
クルクル回るまち。
ミニスカートの裾がヒラヒラ俺を嘲笑う。
「はいはい。」
まちのやつ、
そのミニスカートの下には、
紫の花柄のパンティを履いてて、
その、黒のピチッとしたポロシャツの下には、紫の花柄のブラジャーをしてるのかよ、
エロい、な、なんて、
気持ち悪すぎる俺……。
自己嫌悪する。
「え、なんで元気なくなってるの?」
「朝から疲れた。」
「困るよ!これからデートなんだから!」と、俺の腕に腕を絡ませるまち。
(だからぁ、当たってる)、
俺の腕にまちのおっぱい当たってる😢涙)
そのまま、俺たちは映画館に向かった。
朝から刺激的なものを見て、
ご無沙汰の俺。
(ムラムラする。涙)
まちはニコニコしてるし。
「はぁ。」
「なんで、ため息?!」
(お前のせいだよ。涙)
まちが俺と見たいと思った映画は、
ホラー映画だった。
(俺無理なんだけどぉ。)
「他のにしない?」
「とおるくんとみるなら、
やっぱこれしかないよ!笑」
スプラッター映画だった。
(グロ……。)
見終わってぐったりしていると、
「ねね、新しくできたラーメン屋さんにいかない?」と、
俺の腕を引く。
(あっさり系であれ!)
ついたラーメン屋は、
入る前からこってりした匂いが漂っていて、
さっき見た血飛沫と相性悪くマリアージュしていく。
「美味しいね!」
まちは笑顔でぱくぱく食べている。
(最近の子は肝も据わってらっしゃる。)
何とか食べ終わり、
俺は家で休みたいと申し出た。
「だめー!」
「なんで?もうよくね?」
まちは俺の事をじぃーっと見つめる。
「彼女さん、杏子さんだっけ?」
「な、なに?」
「5月の連休に家に連れてくるって、
おばさんから聞いたよ?」
(ああ、そう言えば言ったかもな……。)
「何で今日元気ないの?」
「疲れてるんだよ。」
「ウソ!」
「何が?」
「本当は振られちゃったりしてたりして?」
「は、はぁー?!」
「私見つけちゃったんだよね!」と、
まちは鞄から
俺が昨日渡せなかった婚約指輪の箱を取り出した。
「ちょ、おま、なんで?!それ?!」
「まちのことを侮ってはいけませんよ?」
「返せっ!勝手に触るな!」
「プロポーズ、失敗しちゃった?」
無邪気に聞くなよ。
失敗したよ。
振られたよ。
なんていえばいいのか分からなくて、
その場に蹲る。
まちはしゃがんで、
俺の肩を叩く。
ちょうど目線の先に、
まちのパンツが見える。
そんなもので元気になりたくないのに、
俺はまだ現役なんだな、
美少女幼なじみのパンチラで
少しだけテンションが上がった。
「とおるくんには、まちがいるじゃん?」
「まちは、……。」(俺の事、好きなの?)って言いかけて、やめた。
好きだったとして、
俺、まちとは恋人みたいな事出来ないよ。
(だってまちは、
ずっと俺の自慢の可愛い
幼なじみだもんな。)
まちの顔をまじまじと見てみた。
パッチリ二重の黒目の大きい目。
筋の通った鼻。
リップ塗ってツヤツヤの唇。
(遺伝子大優勝してんじゃん。)
俺はまちの頭を撫でて、
立ち上がる。
「帰るぞ。」
「えー、やだぁ!」
駄々をこねるまちを連れて、
帰路に就く。
まちは、
「とおるくんと
夜ご飯も一緒に食べたいー!」と騒いだが、
何とか帰らせた。
アパートに1人。
まちから取り返した婚約指輪。
携帯を見ても、
杏子からは何も連絡はない。
(咳をしても一人か。)
部屋にはうっすら
まちの甘い香水が残っていた。
(そういや、
仕事持ち帰ってきてたっけか。)と、
仕事の鞄からノートパソコンを、
取り出す。
電源を入れる。
ウィーンという音が部屋に響く。
眼鏡を取り出し、
パソコンと向き合う。
カタカタとキーボードを打ち込み、
仕事を処理していく。
気がつけば部屋は真っ暗だった。
(無心、強し!)
立ち上がり、お湯を沸かす。
戸棚から
常備しているカップラーメンを取り出す。
ヤカンに水道水をいれて、
火にかける。
お湯が沸いて、
カップラーメンに注いで、
3分待つ。
カップラーメンを食べて、
一服。
(煙草吸うのなんか久しぶりだな。)
煙を燻らせる。
杏子に振られた事と
まちの下着姿。
俺の今日のハイライト。
まちでするのは何だか気が引けて、
エロサイトで動画を漁って、
脱力した。
(ああ、ゴールデンウィークなのに。)
俺は一人でなにしてんだ?
5月の連休は、
杏子と過ごすのだと思っていたから、
何も予定がない。
(切なっ!)
4月の連休が終わって、
出勤。
当たり障りなく業務をこなし、
5月の連休がやって来た。
前の日は同僚とお酒を飲んだ俺は、
布団で爆睡していた。
ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン!
デジャヴ?!かと思う
その連打インターホンの音に
俺は怒りながら、
玄関に向かった。
ドアを開けると、
麦わら帽子を被った
薄い緑色のミニスカワンピースの
まちがいた。
「よっ!」
「まじでぇ、おまえぇ!」
「ゴールデンウィークだよ?」
「だから、なんだよ?!」
まちは俺の事を無視して、
部屋に入ってきた。
「とおるくん、昨日呑んだの?」
「別にいいだろ。」
「換気したほうがよさそうー!」と、
まちは、窓を開ける。
5月の晴天だった。
爽やかな風が部屋に入ってくる。
窓の近くに居る
まちのミニスカワンピースの裾が
ヒラヒラと揺れる。
(だからぁ、30歳独身男性の部屋で
25歳美少女の生足は
刺激が強すぎるんだってぇ……。)
俺は目線を逸らした。
「とおるくん。」
「なに?」
「ピクニック行こうよ!」
「はあ?」
「コンビニでサンドイッチとか買ってさ!」
「そこは、手作りしてこいよ笑」
「まち、壊滅的に料理出来ないもん。」
「ああ!カレーも作れなかったもんな?笑」
「忘れてよ!」
まちが中1の時、
まちの両親が親戚の家に行くから、
まちが夜ご飯作るって言ったものの、
玉ねぎ切る段階で目にしみて
涙が止まらないと、
隣に住む俺に電話をしてきた。
「とおるくん!」
「なに?」
「玉ねぎ、めっちゃ😢涙でる!」
「そりゃぁね。」
「カレー作れる?」
「カレー?」
「今日、まちがカレー作るんだけど、
玉ねぎ切れなくてやばい。
お父さんとお母さん、
帰ってきちゃうよ!
カレー出来てないよ!」
「知らねぇー。笑」
「とおるくん、助けて、お願い!」
「仕方ないな。」
俺の家は親が共働きで、
部活休みの時とかは、
俺が夜ご飯を作ったりしてたから、
カレーなんて簡単だろって思って、
まちの家に行ったら、
台所で、まちが困った顔してて、
思わず笑った。
(フレンチ作るわけでもないのに?笑)
一緒にカレーを作って、
出来たあたりにまちの親が帰ってきた。
「あれ?とおるくん?」と、
まちのお母さんが俺を見て、
びっくりしていた。
「お母さん、私一人じゃ作れなくて…。」
「まちは不器用だもんな。」と、
まちのお父さんが笑う。
「とおるくん、ありがとうね。」と、
まちのお母さんは、俺に微笑む。
「いえ、暇してたんで!」と、
俺は帰ろうとしたら、
まちが、
「とおるくん、本当にありがとう!」と、
笑う。
「別に。」と、俺はまちの家を後にした。
「まちぃ~、玉ねぎくらいもう切れるよな?笑」
「とおるくんの意地悪っ!」
まちと外に出る。
コンビニで
サンドイッチとカフェラテ買って、
近くの公園に来た!
(杏子とも桜見に来たりしたなぁ涙)
「いただきます!」
卵サンドイッチ、
ハムレタスのサンドイッチ。
(久しぶりに食べたな。)
「とおるくんさ、
何で振られちゃったの?」
カフェラテを飲みながら、
まちが問う。
不意打ちすぎて、
俺はむせてしまった。
「なんだよ、いきなり?!」
「まちから見たらさ、
とおるくんが
振られる訳ないんだよね!笑」
「バカかよ。」
「ねぇ。」「まちは、仕事どうなの?」
「え?」
「おばさんから転職したって聞いたぞ!」
「何で知ってるの?!笑」
「俺らの情報は筒抜けだな。笑」
「怖い~笑」
「で、どうなの?」
「慣れてきた、感じかなー!」
「良かったじゃん!」
それから、
まちと他愛ない話をした。
こんなにゆっくりお互いの事を話すの、
すごい久しぶりだった。
「ねぇ!」
「なんだよ?」
「とおるくんがさ、
すっごい歳とって!
ヨボヨボのおじいちゃんになっても、
1人暮らししてたらさ!
まちも1人だったらさ!
その時は、一緒に暮らさない?」
「 やだよ。笑」
「なんで?!」
「まちには、
きっと良い人すぐに見つかるよ。」
「もう!まちは本気なんだからね!」
「ほら、帰るぞ。」
歳とっても1人はイヤだな。苦笑
ゴールデンウィーク、
まちはその後も来るかと思ったけど、
家には来なくて、
俺は昼まで寝て夜更かしする連休を
過ごしていた。
おかげで
連休明けはあくびが止まらなかった。
季節は流れて、
6月になった。
雨が多い。
梅雨になった。
いつも鞄に折りたたみ傘を入れているのに、
なぜかなくて、
帰り道、突然の雨に降られて、
俺は最寄駅から、
走ってアパートに向かった。
(冷たっ。)
帰ったらまず、
風呂だなとか考えて歩いていたら、
俺の部屋の前に、
しゃがんでる女が居た。
まちだった。
「まち?!どうした?!」
「とおるくん、遅いよ。」
よく見ると、まちは傘を持ってなくて、
白いブラウスが濡れていた。
「とりあえず、入れ」と、
まちと一緒に帰宅した。
適当にタオルをとって、
まちに渡す。
「いつから居たんだ?」
「25分前かな?」
「来るなら連絡くらいしろよ?」
「帰ってくると思ったんだもん」と、
まちはタオルで髪の毛をふく。
くしゅんと、
まちがクシャミをした。
「大丈夫か?」
「無理、寒すぎ」
俺も結構濡れてたから、
寒いんだけど、
まちに風呂を勧めた。
「え、とおるくんの方濡れてるじゃん!
先に入りなよ!」
「俺は別にいいから。」と、
まちの背中を押す。
「本当に?」
脱衣場にいるまちに声をかける。
「服洗濯してやるから、
洗濯機にいれろよ?」
「ありがと!」
部屋から適当に着てないスウェットを探す。
シャワーの音が聞こえる。
脱衣場に入って、
まちの服が入った洗濯機を回し、
スウェットとバスタオルを置く。
リビングに戻って、
とりあえず、煙草に火をつける。
(まちと会うの、
ゴールデンウィーク以来か?)
テレビをつける。
20時25分だった。
バラエティーを適当に選んで流す。
(飯どうしようかな?)
買い物をしてないから、
冷蔵庫には調味料しか入っていない。
(困ったな。)
なんて考えてると、
俺のスウェットを着たまちが、
出てきた。
「ありがと、とおるくん。」
「おう。」
「とおるくんも体冷えてるでしょ?
シャワー浴びてきたら?」
「うん。」
タバコを消して、
風呂場に向かう。
洗濯はまだ終わっていない。
浴室に入ると、
まちの匂いがした。
(無心、無心、無心。)
シャワーから上がると、
洗濯が終わっていたので、
洗濯物を持って、
リビングに向かった。
洗濯干しに干していく。
普通に真顔でまちの下着を干そうとしたら、
気づいたまちが、
「ちょっと、とおるくん?!」と、
俺の手から下着を奪う。
「なに?!」
「デリカシー!」
「は?」
「25歳女性の下着ですよ?!」
「だからなんだよ?」
「もう!」と、
まちは隅に下着を干した。
(えー。
この前は見せてきたのに??
何で怒るわけ?)
意味がわからないと、
目をつぶる。
「お腹空いた!」
「ああ。」
「いきなり雨降ってきたから、
「買い物してこれなかったよ。」
「カップラーメンしかないけど、いい?」
「なんのカップラーメンあるの?」
戸棚をあける。
「私、塩がいい!」
手前にあった塩ラーメンを取って、
まちに手渡す。
「「俺はなににしようかな~。」
醤油しかなかった……。
(買い置きしとかねーとな!)
「とおるくん、お湯!」
「今沸かす。」と、
やかんに水道水を入れる。
「えー、めっちゃベタ笑」
「なにが?」
「金色のやかん!可愛いね!」
「意味わかんねぇ。」
火にかけて、
沸騰したから、
カップラーメンに注ぐ。
「3分はかるね!」と、
まちは携帯のタイマーをセットした。
「真面目か!」
「へ?」
「時計みて
適当に3分たったら食えばいいだろ?笑」
二人で笑った。
テレビを見ながら、
カップラーメンを食べた。
21時25分になっていた。
テレビはバラエティーから、
ドラマになっていた。
「まち、そろそろ帰れよ?」
「雨やんだ?」
「小雨にはなってきてるな。」と、
窓を見る。
「泊まっちゃダメ?」
「はぁー?」
「だって、服まだ乾いてないよ?」と、
まちは立って洗濯物を触る。
確かにまだ全然時間が経っていなくて、
洗濯物が乾くわけがない。
(俺に金があれば……。
乾燥機付き洗濯機、高ぇからな……。絶望)
「今日だけだからな!」
「え、いいの? やったー!」
まちは無邪気に笑う。
「そういえば、
冷蔵庫にアイスあったかも!」と、
俺は冷凍庫をあけた。
アイスがちょうど2個あった。
「ソフトクリームとモナカ、
どっちがいい?」と、
まちに見せる。
「えぇー、迷う!」と、
まちは、ソフトクリームを手に取った。
テレビを見ながら食べる。
バラエティーとか報道番組を
チャンネルを変えながら流し見する。
「疲れた。」と、
まちがトイレに行く。
時計を見れば23時25分だった。
(そろそろ寝るか。)
そう思った時、
この部屋には、
客用の布団が無いことに気がついた。
(まじ?)
こんな狭いアパートに泊まらせる事なんて
ない。
(杏子は彼女だったから、
狭いけど俺のシングルベッドで
一緒に寝てたしなぁ。)
「とおるくん、まち、寝る。」
「まち、お前の布団はない。」
「へ?」
「俺のベッドにある布団しかないんだ。」
「一緒に寝る?」
「寝ない!」
そう宣言したんだ。
俺はリビングで
家にあるバスタオルを広げて
寝ることにした。
(5枚しかなかった。)
「ねぇー!」
寝室から声がする。
「とおるくんもベッドで寝ようよ?」
「気にするな。」
そうはいったものの、
酒を飲んで寝落ちするなら、
リビングで寝るのもアリだけど、
改まって寝るには、
敷いてあるマットじゃ、
床を感じすぎている。
テレビを消して、
電気を消して、
時計の秒針が部屋に響く。
チクタクとなる秒針と、
俺の心臓の鼓動がイマイチ協和音でなくて、
眠れない。
目をつぶる。
寝室からまちの寝息がかすかに聞こえる。
……。
……。
……。
なんか生温かい風が、
鼻をかすめる。
(なんだ?!)
寝ぼけ目で、
隣を見ると、
まちがいた。
「あ?!」
まちがスースー寝息を立てて寝ている。
(何でここで?!)
俺は急いで、
まちの肩を揺らして声をかける。
「おい、まち!」
「ん?!なにぃー?!」
まちは寝ぼけている。
(しゃーないな。)
俺は一呼吸置いて、
まちをお姫様抱っこして、
寝室まで運んだ。
ベッドに寝かせて、
布団をかける。
無防備な寝顔だった。
俺はリビングに戻って、
また目を閉じる。
……。
……。
……。
なんか声がする。
「とおるくん、朝!起きて!」と、
まちが俺の顔を覗いていた。
「早起き、だな?」
「うん、ぐっすり寝ちゃった!笑」
俺の冷蔵庫には、
相変わらず何も無い。
朝からカップラーメンも
アレだしなってことで、
着替えて、
近くのコンビニに来た。
「とおるくんは?
朝は米派?パン派??」
「おにぎりがいいかなー!」
「おにぎりいいよね!
鮭?ツナマヨ??」
「昆布!」
「私なにしよう。」
おにぎりとカップみそ汁を買って、
アパートに戻る。
雨がやんで、
今日は快晴の土曜日だ。
テレビをつけて朝食を食べた。
(まちといると、
時間があっという間だな。)
またどっかに行きたいとか言うのかと
思ったら、
まちは、
朝食を食べ終えると、
「お邪魔しました!」と、
帰っていった。
ペースを乱されてばかりだな、俺。
朝早くから起こされて、
時間が出来てしまった。
近くのスーパーに買い物に行くかと、
俺は外に出かけた。
6月も下旬になってきた。
梅雨はまだ続いている。
そんな金曜日の仕事帰り。
また、アパートの部屋の前に
白いブラウスを着たまちが居た。
今度は傘を持っている。
俺も折りたたみ傘を常備していたので、
突然の雨だったが、
濡れていない。
「まち?」
俺が声をかけると、
まちは携帯から顔を上げた。
「とおるくん!」と、
満面の笑みで俺を見た。
「相変わらず暇人だな?笑」
「いやいや!笑
とおるくん、
寂しくしてないかなと思って!」
「大きなお世話だな?」
「今日は、
お母さんから素麺もらったから、
お裾分けに来た!」
「まじで?」
俺たちは楽しく会話をしながら、
部屋に入った。
素麺か。
ジメジメ蒸し暑いからな、
さっぱりしてて良いかもな。
と、俺は鍋に水を入れて、
火にかけた。
「とおるくんの家、
めんつゆあるの?」と、
まちが笑う。
「めんつゆか?
ないかも!笑」
(普段料理なんてしないからな、俺。)
「やっぱり!
めんつゆ、
途中のスーパーで
買ってきておいて正解だった!」と、
まちはスーパーの袋から
めんつゆを取り出した。
「とおるくんは、
味濃い派?薄い派?」
「素麺、水っぽくなるからな、
濃くしていいよ!」
「OK!」
めんつゆと水の割合、
2対1なんだけど、
割合考えるの苦手なんだよな。と
まちをみる。
まちは計量カップすらないこの家で、
器にめんつゆを注いで、
水を入れた。
「勘か?」
「計量カップくらい買った方がいいよー!笑」
「うるせぇ!笑」
鍋の水が沸騰した。
素麺をパラパラと入れる。
(1分なんだ?!)
あまりの短い茹で時間に驚く。
あっという間に茹で上がった。
ザルに入れて、
水でしめる。
皿に分けて、
完成。
「なんか久しぶりにガスコンロ、
使ったわ。笑」
「とおるくん、普段何食べてるの?!笑」
(弁当か冷食だもん、俺。)
テレビをつけて、
まちと一緒に素麺をすする。
「うまいな。
久しぶりに素麺食ったわ。」
「さっぱりしてていいよね!」
食べ終わって、
食器を洗って、
テレビを見た。
(まち、帰らねぇーの?)って、
なんか言えなくて。
ダラダラ時間が過ぎていく。
「とおるくん、
今日泊まってっていい?」
まちの方から口を開いた。
「帰れよ。笑」
「もう夜遅いじゃん!笑」
「はぁ?まだ20時25分だけど?笑」
「とおるくんの家、駅から遠いもん!笑」
仕方ないなと言えなくて。
まちが定期的に泊まるとは思ってなくて、
布団を用意してない。
「布団買ってないから。」
「いいよ!気にしない!
一緒に寝よ?」
「無理無理!」
まちは笑いながら、
「じゃあ、
今日は私がリビングでタオルと寝る~!」という。
いやいや、
女の子に悪いじゃん。
かといって、
リビングでタオルで寝るのは、
床が近すぎて痛いんだよな。
(どうすっかなぁ~。)
「じゃんけんできめない?」
「ルールは?」
「2回私が勝ったら、
まちがベッドで寝るとか?」
「いいねぇ!」
「「じゃんけん、ぽんっ!!」」
(負けた。)
まちストレート勝ち!
「とおるくん、弱すぎぃ~!笑」
「うるせぇー!笑」
23時25分。
俺はリビングの床に横になっている。
(くぅ、床いてぇ。)
「とおるくんー!」
「なにー?」
「ベッドで寝ようよー?」
「早く寝ろ!」
時計は日付を跨ぐ。
なんか体に重さを感じて、
目をうっすらと開ける。
窓からの月明かりに照らされて、
まちの姿が見える。
見えるというか、
俺に跨がってる?!?!
「な?!」
「起こしちゃった?」と、
まちは笑う。
「なにしてんの?!」
よく見ると、
まちは下着姿だった。
「は?」
「とおるくん。」
「な、なんだよ?!」
「成人した男女が、
1夜をともにするんだよ?」
「んあ?」
「ただ寝て朝を迎える訳、ないよね?」
「まち?!」
まちの顔が近づいてくる。
(ちょっ、へ?!)
顔を横に向ける。
そんな俺の顔を正面に向けるように、
まちが俺の両頬を両手で包む。
心臓がドキドキしてくる。
(ちょいまて、ちょいまて、これは、
あかんやつ!?!?)
「とおるくん。」と、
まちの唇が近づいてくる。
「まち、やめろ。」と小声で言うも、
まちは近づいてくる。
(まじ、で?!)
俺、あんなに大切に可愛がってきた幼なじみとチューしちゃうの?!
だめだろ!
寝起きだし、
ドキドキして、
体に力が入らない。
もうダメだと思って、
目をつぶった。
まちとの距離、
1センチ。
小声でまちが、
「そんなに、いやなの?」と聞く。
「嫌とかじゃないけど、さ。
俺たち、幼なじみじゃん……。」
「とおるくん、可愛い。」と、
まちは顔を離して、
俺に覆いかぶさってきた。
「おお?!」
まち、離れろってやりたいのに、
下着姿のまちはあまりにも
無防備で、
肌に触れちゃう。
「まち、やっぱり、
とおるくんと一緒に寝たいな。」と、
まちは俺の隣に横になった。
「服、服きろよ。」
「えー、なんで?」
「風邪、引くぞ。」
「とおるくん、暑くないのー?」と、
まちが俺のスゥエットのズボンに手をかける。
(やばいやばい。)
「暑くない。」
「ちぇ。」
まちは、すやすや寝息をたてはじめた。
(よくこんな状況で寝れるね?!キミ?!)
小さく口を開けて寝ているまち。
(可愛い顔してんだもんな。)
(困っちゃうよ。)
まちの下着姿、
見たの2回目。
(今日は黒のレースなんだ?)
まちが寝てるのをいい事に、
まじまじと見てしまった。
(なにやってんだ、俺。)
俺はまた、
まちをお姫様抱っこして、
ベッドに運んで、
布団をかけた。
(俺はまちが心配だよ。)
こんな無防備だと、
男にやられちゃうよ。
俺は、
リビングに戻って、
横になった。
目をつぶると、
さっき見た下着姿のまちの残像が何度もリフレインする。
(忘れろ、忘れろ。)
もんもんとして気づけば朝だった。
「とおるくん!」と、
朝なのにまだ下着姿のまちが、
俺を起こす。
「だからぁ、何で服きてないの?!」
「とおるくん、
もしかして、まちのことヤラシイ目で
みてるんじゃないの?!」
「なわけ。」と、顔をそらす。
「とおるくん、好き。」と、
下着姿のまちが俺に抱きつく。
「離れろ!」
「とおるくん、好き好き!」と、
まちが俺に胸を押し当てる。
(朝から勘弁してくれ。)
「まち、いい加減にしないと!」と、
振り返ると、
まちの顔が真正面にあった。
「チュー、しちゃう?」と、
まちが笑う。
「し、しないよ。」
「うそ、したいでしょ?」
「いい加減に……。」(いい加減にしろって言いかける俺にまちは近づいてくる。)
ちゅっ。
まちは、俺の頬にキスをした。
「ドキドキした?」
「からかうなよ!」
「朝ごはん買いに行こっか?」と、
まちは立ち上がる。
俺の心臓は凄い勢いで脈打っている。
まちはやっと服をきてくれて、
二人でコンビニに来た。
「今日はなにたべるー?」
「おにぎりだな。」
「この前もだったじゃん!」
「好きなの食べればいいじゃん。」
まちは、
「とおるくんと同じのを食べたいの!」と、
頬を膨らまして、
おにぎりを手に取った。
アパートに向かう。
隣を歩く、まち。
手が触れそうで触れない距離。
俺にいつでも無邪気に笑いかけるまち。
そんなまちも、
そのうち彼氏が出来て、
俺なんか見向きもしなくなるのだろうか?
ちくっと、
心臓が痛くなった気がした。
「とおるくん、話聞いてた?」
「ああ、聞いてるよ。」
アパートで朝食。
テレビの天気予報では、
もうすぐ梅雨明けだと報じた。
「とおるくん!」
「なに?」
「今年の夏は、
一緒にお祭りいかない?」
「えー。」
「プールも行こうよ!」
「めんどくさー。」
「海も行きたいな!」
「友達といけよ。笑」
「とおるくんといくのがいいの!」
まちは、可愛いな。
「とおるくんは、どんな浴衣が好きー?」
「浴衣?」
「色とか柄とか!」
「派手じゃなかったらなんでもいい。」
「もう!
じゃあ、水着は?」
「水着ぃー?」
「どんなの、まちに着てほしい??」
昨日の下着姿が頭によぎる。
「貝殻のやつとかきたら?笑」
「なにそれ?!笑」
二人で笑いあってる時間が、
楽しいと感じる今日この頃。
まちは、お昼前に
「友達と約束してたから。」と、
帰っていった。
(友達いるんじゃん。)
まちに起こされると、
早起きだから、
時間が有り余るな。(苦笑)
気晴らしに晴れてるし、
散歩する事にした。
歩いていると、
見慣れた人が目の前に。
(杏子?!)
「げ、とおるじゃん!」
「なんだよ、その反応!!
俺まだ納得してないんだけど!
なんで、別れることになるんだよ?!」
杏子は面倒くさそうな顔をした。
とりあえず立ち話じゃあれだからということで、近くのカフェにきた。
「とおる、何飲む?」
「アイスコーヒーでいいかな。」
杏子は、アイスコーヒーを2つ注文してくれた。
「なぁ!あれから連絡もくれないしさ!
どういうこと?!」
「私、アメリカに転勤になるの。」
「アメリカ?!」
「そう。
大きなプロジェクトで、
私プロジェクトリーダーになったの。」
「すごいじゃん!」
「だから、とおると結婚したら、
子供作ろうってなって、
仕事から離れるかもって考えたの。」
「うん。」
「私、仕事がすごく好きなの。
憧れの上司だっている。
自分もそういう人になりたいなって思ってて。」
「なら、そういってくれよ。」
「そう言ったら、とおるは、
遠距離恋愛でも私と関係を続けようとすると思って。」
「そりゃ、もちろん。」
「申し訳なくなる。
きっと、40歳くらいにならないと、
私の仕事落ち着かないと思うの。
とおるの時間をそこまで奪えないなって思って!」
「杏子。」
「だから!あのタイミングになっちゃったけど!別れる事はずっと決めてたの。
言い出すのが、あのタイミングで本当にごめん。」
「理由は分かったよ。
杏子らしいな!笑
よかった、嫌いになったから別れたいとかじゃなくて!」
「とおるとは、気も合うし楽しかったよ!」
「俺も!」
二人で笑いながらお茶をした。
(杏子は、大きい決断をしたんだな。)
その決断に、俺は入ってなかったけど。
でも、それが杏子の思いやりだもんな。
(応援しないとな!)
「じゃあね、とおる!」
「頑張れよ、杏子!」
杏子が俺に背を向けて歩き出す。
何度もデートに来てきた青のストライプのワンピース。
杏子の流れるような艶のある長い黒い髪。
胸がきゅっとなる。
(俺は杏子の事、大好きだったよ。)
未練がましく、
杏子が視界から消えるまで見てしまった。
(まちの言う通り、
早起きは三文の徳かもな!笑)
スーパーで夜飯を買って、
アパートに帰ってきた。
引き出しにしまった、
杏子の為に買った婚約指輪を取り出す。
(杏子に似合うと思ったんだけどな。)
売るのも気が引けるし、
もうしばらく、
引き出しに寝かせておくか。
ふと、壁に貼ってあるカレンダーを見たら、見覚えのないピンクのペンで書かれた文字がたくさん書いてあった。
(なんだ?!)
その文字は、まちによるものだった。
猫のイラストとかが意味もなく書いてある。
(俺の予定が見えづらくなってる!!)
まちは、
きっと俺の母親から話を聞いた
まちの母親から、
「とおるくん、残念だったみたいよ」的なことを聞いて、
まちなりに俺の事を励まそうとして、
遊びに来てくれているのかもしれない。
(大きなお世話だけど。笑)
婚期を逃した俺、とおる。
年齢30歳。
さあてどうなる、俺の人生。
まちに振り回されるのはごめんだけどな。
杏子の事が本当に大好きだった。
結婚して、家庭を築くイメージもしてた。
きっと、杏子とならうまくやっていけると
思い描いてた。
杏子が仕事に一生懸命なのは、
知ってた。
そんな杏子が会社に認められて、
大きなプロジェクトのリーダーになったんだ。
アメリカ行きは栄転なんだ。
応援しなきゃな。
杏子もわかっているんだ、
今が仕事か結婚かの選択の時期だって。
今仕事を選んだら、
結婚適齢期を過ぎた頃にしかできないとわかった上で、
仕事を選んだんだ。
(かっこいいな、杏子。)
俺はそんな岐路に立たされたら、
杏子みたいにはっきり決められるだろうか。
杏子のかっこいいところが好きだった。
杏子といると俺は凄く安心出来た。
杏子。
杏子。
涙が出てきた。
(楽しかったな。)
どんなに遅くまで残業しても、
休みの日はちゃんと俺とデートしてくれて。
本当に優しい。
杏子の作る肉じゃがが本当に美味しくて
好きだった。
もう食べられないのは、
痛手すぎるな。
杏子、
頑張れよ。
杏子なら出来る。
なんで今日せっかく会えたのに
もっと伝えたい事沢山あったのに、
俺は笑って楽しい話しかしなかったんだ。
寝よう。
寝て起きたら、
俺も仕事を頑張ろう。
7月になる頃、
杏子のLINEのアイコンが変わった。
俺と行った旅行の時に食べたご飯の写真から、
英会話の本の写真になった。
杏子とは、多分もう会うことはないんじゃないかと、うっすら思う。
こんな未練タラタラの俺だから、
杏子ははっきり別れ話をしてくれたのかな?
梅雨が明けた。
夏が来る。
日差しが眩しい。
ピンポーンと、
呼び鈴がなる。
「とおるくーん!」と、
元気いっぱいなまちが来た。
俺の夏は、
杏子が居なくても、
まちのおかげで寂しくならなそうだ。
「とおるくん!」と、
玄関に出ると、
まちは俺に笑顔を向けた。
「だからさ、朝早すぎなんだよ!笑」
「「早起きは三文の徳。」」
「え?笑」
「毎回聞かれてれば覚えるよ。笑」
「今日も暑いねぇー!」
「日差し強いから帽子かぶったほうがいいぞ?」
「それ!今日は一緒に帽子買いに行かない?」
「はぁ。笑」
「とおるくん、早く出かける準備して!」
「仕方ないな。」
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