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誰か…
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私が泣いてると、
いつでも隣に来てくれる。
出会ったのは、
夜の公園。
喧嘩した彼氏から電話があって、
話がしたいって言うから仲直り出来るのかなーって軽い気持ちで彼の指定したファミレスに行ったら、別れようって。
(正直、予想してなかった訳じゃないけどさー。)
私が好きになって、私から告白した。
私ばっかりが好きなのかなって思う事あったけど、幸せだったから別にいいかなって思ってた。
距離が全然近づいてない事、
むしろ彼が嫌がってる事、ほんとは薄々気付いてたのかもしれない。
けど、それをずっと無視して見ない振りして私は一方的に気持ちをぶつけていたのかもしれない。
わかってるんだけど、なー。
何でって質問ばかりしてた。
溜息ついて無理って一言。
泣いて喚く事出来たのに、
この時ばかりは何で私はいい子ちゃんなの?
そっかって。
一言。
水だってかければよかった。
(そーいう諦め、要らないのに。)
一人でフラフラファミレス出て、
この公園にたどり着いた。
ブランコに座ったら、
ぶぁって涙が溢れて 。
(だってさ、やっぱ好きなんだもんなっ。)
ボロボロ涙零した。
そんな時だったの。
「 綺麗 。」
頭の上の方から一言ボソって聞こえたのが、
始まり。
「 えっ?」
顔上げたら、
背の高いスーツを着た若い男の人が私の事を見下ろしていた。
「 何で泣いてるか理由知らんけど、さ。
俺に人生預けてみぃひん?」
「 は?」
「俺、こーいう仕事やってんねん。」
って、がさごさって名刺を一枚出して差し出された。
「 芸能事務所 ?」
「そー。」
にって笑って手を差し出した彼に、
一目惚れしたのかもしれない。
気がついたら、
彼の手を握っていた。
「 興味、あったりした?」
「いや、全然っ。
見るの専門みたいな感じ?」
「そーなんや。
つか、自分勢いだけとか言うのなしな。」
「え?」
「この仕事は、そんなに簡単ちゃうねんで。」
冷静に考えてみれば、
こんな話危険すぎる。
彼の手を握った事を後悔したのは、
もう少し後の事。
それ以上に、
隣を歩くスーツの彼にときめいていた。
スカウトされた訳だけど、
テレビに出るとか雑誌に出るとか表の仕事じゃなかった。
「 今夜、此処な。」
彼から渡されたのは、
ホテルへの道のりが書かれた地図だった。
「 ……。」
「 ちゃんと、行くんやで?」
タレントのポスターが沢山張ってある。
このタレント達の仕事の為の仕事。
露出の多い、生地の薄い洋服が沢山かかってある。
沢山の化粧品。
キャバクラのメイクルームみたい。
「 あ 、あのっ。」
「 なん?」
「 ……っ。」
「さっき、説明したやろ?
お金もちゃんと入れるし、契約書にサインした。
今さら止めるなんてありえへんよ。」
スーツを着た彼、本田さんは黒い手帳に沢山の予定が書いてあって、
携帯電話片手に忙しそうだ。
裏の仕事。
聞かされた時はびっくりして何もいえなかった。
(だって、てっきり自分が芸能人になるのかと思ってたなんて。)
説明をし終わると、本田さんは私の目をじっと見つめた。
「 雪枝。」
名前を呼ばれた、
それだけなんだけど、
まるで洗脳されたみたいに、
頭の中真っ白になって、
契約書にサインしていた。
あんなに大好きだったのに、
あんなに泣いたのに、
今は本田さんの事で頭がいっぱいだ。
適当にハンガーにかかってある洋服を取った。
「今日、送れたら良かったんやけどなー。
仕事あってさー。」
頑張れよって無邪気に笑って頭ぐしゃぐしゃに撫でるから、
洋服落としそうになった。
( 着てみたはいいけど、なんかほんと後戻り出来なくなっちゃったなぁー。)
「 新人?」
「 え?」
「 私、葵。」
「 雪枝 。」
「雪枝か。
もしかして、本田さんのスカウト?」
「えっ、あぁうん。」
「今日がはじめてだったりする?」
「うん。」
「初めてかー。
私ね、もう2年もやってるのー。」
「2年もっ?!」
「そー。
どうしてもね、アイドルになるって夢諦めきれなくてね。
家飛び出して、本田さんに声掛けられたの。
最初はね、すっごい抵抗あったんだけど。
本田さんに、いつかは報われるって言われて、アイドルになる為にこの仕事してる。」
「 そーなんだ。」
「この仕事ね、悪い事ばっかじゃないんだよー。
雑誌にならちょいちょい出してもらえるようになったしね。」
「 すごいね。」
「雪枝は?」
「 わたし ?」
「うん、なんでこの仕事やろうと決めたの?」
「 わたしは 。」
(なんで?アイドルになりたいの?いやいや、そんなわけない。じゃ、なんで?)
「 本田さん ?」
「え?」
「 本田さんに言われたから、断れなかったとか?」
「 うーん。」
葵ちゃんはゲラゲラ笑ってた。
後ろのファスナー閉めてもらって、
ちょっとだけお化粧もしてもらった。
「 2年も居るとさ、慣れちゃうんだよねー。」
笑いながらチークを塗る葵ちゃんを見てたら、
なんだか胸が切なくなった。
「 よろしくね。」
「うん。」
玄関でお互いに別々のタクシーに乗り込んだ。
「 なんでなの、本田さん 。」
葵ちゃんの言葉なんか私に聞こえる訳もなく 。
タクシーの運転手さんに、
本田さんから貰った地図の書かれた紙を見せた。
「 此処までお願いします。」
運転手さんは何も言わずに車を走らせた。
ラジオから流れる歌謡曲。
ホテルに着いた。
お金払おうと思ったら、
「 料金はもう先に払ってあるんで大丈夫です。」とだけ言われた。
降りたらすぐに、
タクシーは出発してしまった。
今になって
心臓がドキドキと刻み始める。
ホテルの受付に行くと、
相手の人はもう来ているらしかった。
エレベーターで部屋に向う。
ドアの前。
( 開けたらもうほんとに、後戻りは出来ない んだよね 。)
ガチャ 。
部屋に入っていく。
「 あれ ?」
誰も居なかった。
ガチャ。
「 今来たの?」
後ろを振り返れば、
知らない男の人。
「 あ、あの。」
「んー、どーかした?
部屋入ったら誰も居なくて、びっくりしちゃったとか?笑」
その人はコンビニの袋を持っていて、
がさがさと袋から何かを取り出した。
「本田さんから聞いたんだ、君今日が初めてなんだってね。」
「 はい。」
「そんなに緊張しないでよ~、大丈夫だよ~。」
ねって、肩に手。
そのまま、ベッドの上に腰掛けた。
「 プリン買ってきたんだけど、食べる?」
笑顔で言われたけど、
私は俯く事しか出来なかった。
「 ねぇ?」
顔覗き込まれて、
思わず身を後ずさりさせてしまった。
「 可愛いね。」
この一言から先は正直思い出したくなかったりする。
いつでも隣に来てくれる。
出会ったのは、
夜の公園。
喧嘩した彼氏から電話があって、
話がしたいって言うから仲直り出来るのかなーって軽い気持ちで彼の指定したファミレスに行ったら、別れようって。
(正直、予想してなかった訳じゃないけどさー。)
私が好きになって、私から告白した。
私ばっかりが好きなのかなって思う事あったけど、幸せだったから別にいいかなって思ってた。
距離が全然近づいてない事、
むしろ彼が嫌がってる事、ほんとは薄々気付いてたのかもしれない。
けど、それをずっと無視して見ない振りして私は一方的に気持ちをぶつけていたのかもしれない。
わかってるんだけど、なー。
何でって質問ばかりしてた。
溜息ついて無理って一言。
泣いて喚く事出来たのに、
この時ばかりは何で私はいい子ちゃんなの?
そっかって。
一言。
水だってかければよかった。
(そーいう諦め、要らないのに。)
一人でフラフラファミレス出て、
この公園にたどり着いた。
ブランコに座ったら、
ぶぁって涙が溢れて 。
(だってさ、やっぱ好きなんだもんなっ。)
ボロボロ涙零した。
そんな時だったの。
「 綺麗 。」
頭の上の方から一言ボソって聞こえたのが、
始まり。
「 えっ?」
顔上げたら、
背の高いスーツを着た若い男の人が私の事を見下ろしていた。
「 何で泣いてるか理由知らんけど、さ。
俺に人生預けてみぃひん?」
「 は?」
「俺、こーいう仕事やってんねん。」
って、がさごさって名刺を一枚出して差し出された。
「 芸能事務所 ?」
「そー。」
にって笑って手を差し出した彼に、
一目惚れしたのかもしれない。
気がついたら、
彼の手を握っていた。
「 興味、あったりした?」
「いや、全然っ。
見るの専門みたいな感じ?」
「そーなんや。
つか、自分勢いだけとか言うのなしな。」
「え?」
「この仕事は、そんなに簡単ちゃうねんで。」
冷静に考えてみれば、
こんな話危険すぎる。
彼の手を握った事を後悔したのは、
もう少し後の事。
それ以上に、
隣を歩くスーツの彼にときめいていた。
スカウトされた訳だけど、
テレビに出るとか雑誌に出るとか表の仕事じゃなかった。
「 今夜、此処な。」
彼から渡されたのは、
ホテルへの道のりが書かれた地図だった。
「 ……。」
「 ちゃんと、行くんやで?」
タレントのポスターが沢山張ってある。
このタレント達の仕事の為の仕事。
露出の多い、生地の薄い洋服が沢山かかってある。
沢山の化粧品。
キャバクラのメイクルームみたい。
「 あ 、あのっ。」
「 なん?」
「 ……っ。」
「さっき、説明したやろ?
お金もちゃんと入れるし、契約書にサインした。
今さら止めるなんてありえへんよ。」
スーツを着た彼、本田さんは黒い手帳に沢山の予定が書いてあって、
携帯電話片手に忙しそうだ。
裏の仕事。
聞かされた時はびっくりして何もいえなかった。
(だって、てっきり自分が芸能人になるのかと思ってたなんて。)
説明をし終わると、本田さんは私の目をじっと見つめた。
「 雪枝。」
名前を呼ばれた、
それだけなんだけど、
まるで洗脳されたみたいに、
頭の中真っ白になって、
契約書にサインしていた。
あんなに大好きだったのに、
あんなに泣いたのに、
今は本田さんの事で頭がいっぱいだ。
適当にハンガーにかかってある洋服を取った。
「今日、送れたら良かったんやけどなー。
仕事あってさー。」
頑張れよって無邪気に笑って頭ぐしゃぐしゃに撫でるから、
洋服落としそうになった。
( 着てみたはいいけど、なんかほんと後戻り出来なくなっちゃったなぁー。)
「 新人?」
「 え?」
「 私、葵。」
「 雪枝 。」
「雪枝か。
もしかして、本田さんのスカウト?」
「えっ、あぁうん。」
「今日がはじめてだったりする?」
「うん。」
「初めてかー。
私ね、もう2年もやってるのー。」
「2年もっ?!」
「そー。
どうしてもね、アイドルになるって夢諦めきれなくてね。
家飛び出して、本田さんに声掛けられたの。
最初はね、すっごい抵抗あったんだけど。
本田さんに、いつかは報われるって言われて、アイドルになる為にこの仕事してる。」
「 そーなんだ。」
「この仕事ね、悪い事ばっかじゃないんだよー。
雑誌にならちょいちょい出してもらえるようになったしね。」
「 すごいね。」
「雪枝は?」
「 わたし ?」
「うん、なんでこの仕事やろうと決めたの?」
「 わたしは 。」
(なんで?アイドルになりたいの?いやいや、そんなわけない。じゃ、なんで?)
「 本田さん ?」
「え?」
「 本田さんに言われたから、断れなかったとか?」
「 うーん。」
葵ちゃんはゲラゲラ笑ってた。
後ろのファスナー閉めてもらって、
ちょっとだけお化粧もしてもらった。
「 2年も居るとさ、慣れちゃうんだよねー。」
笑いながらチークを塗る葵ちゃんを見てたら、
なんだか胸が切なくなった。
「 よろしくね。」
「うん。」
玄関でお互いに別々のタクシーに乗り込んだ。
「 なんでなの、本田さん 。」
葵ちゃんの言葉なんか私に聞こえる訳もなく 。
タクシーの運転手さんに、
本田さんから貰った地図の書かれた紙を見せた。
「 此処までお願いします。」
運転手さんは何も言わずに車を走らせた。
ラジオから流れる歌謡曲。
ホテルに着いた。
お金払おうと思ったら、
「 料金はもう先に払ってあるんで大丈夫です。」とだけ言われた。
降りたらすぐに、
タクシーは出発してしまった。
今になって
心臓がドキドキと刻み始める。
ホテルの受付に行くと、
相手の人はもう来ているらしかった。
エレベーターで部屋に向う。
ドアの前。
( 開けたらもうほんとに、後戻りは出来ない んだよね 。)
ガチャ 。
部屋に入っていく。
「 あれ ?」
誰も居なかった。
ガチャ。
「 今来たの?」
後ろを振り返れば、
知らない男の人。
「 あ、あの。」
「んー、どーかした?
部屋入ったら誰も居なくて、びっくりしちゃったとか?笑」
その人はコンビニの袋を持っていて、
がさがさと袋から何かを取り出した。
「本田さんから聞いたんだ、君今日が初めてなんだってね。」
「 はい。」
「そんなに緊張しないでよ~、大丈夫だよ~。」
ねって、肩に手。
そのまま、ベッドの上に腰掛けた。
「 プリン買ってきたんだけど、食べる?」
笑顔で言われたけど、
私は俯く事しか出来なかった。
「 ねぇ?」
顔覗き込まれて、
思わず身を後ずさりさせてしまった。
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