長谷川さんへ

神奈川雪枝

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勝手だ!

よくよく思い返して見れば、長谷川さんは優しい先輩だと社内じゃ有名だった。
だから、一緒の担当になった時も、それほど緊張していなかった。
長谷川さんは、非常にフランクで、ついついペースを持っていかれていた。
仕事終わりに行くご飯が、いつしか楽しみになっていた。
先輩とのご飯で、こんなに気楽な事はなく、お酒もついつい進んでしまう。
私の話をニコニコ聞いてくれる長谷川さん。
私がご飯を食べていると、面白いとは言えないけど、聞くのが苦じゃない他愛のない話をしてくれる長谷川さん。
(あぁ~、本当にいいひとだなぁ~。)なんて、ホロ酔い気分でうっとりと長谷川さんを見つめていた。
「大丈夫?もう、顔真っ赤やで?(笑)」
「長谷川さんも、お酒飲んでくださいよぉ~!私ばっかり呑んでる~。」
「お酒、好きなん?」
「そうっすね~好きですね、もう毎日呑んでますよ~。」
「俺も(笑)」
って、いたずらっ子みたいに笑った長谷川さんが可愛くて、言葉がつまってしまった。
「今日、泊まっていかん?」
急に真顔になった長谷川さんは、鍵をテーブルの上に置いた。
「上に部屋とってんよ。」
って、伏し目がちに話す長谷川さんが何だか知らない人に思えて、もっともっとこの人の事知りたいって思った。
関係を持ったのは、
その日からだ。
お酒が入ってた私は、フラフラで長谷川さんに抱えられながら部屋までたどり着いたはずだ。
ベットに座った私がスーツを脱ぐ長谷川さんをぼぅーと見ていた。
「そんなに見られたら、恥ずかしい。」
と、Yシャツのボタンを外しながら言う長谷川さんは、なんて官能的なんだろう。
中年なのに、贅肉もなく引き締まった体つきで、堅そうな肉体を見て、生肉食べたくなったとか、そうとう酔っていたに違いない。思い出した今は、馬刺が食べたい……。
さっきご飯食べたはずなのに、よだれが垂れそうだ……。
「起きてる?(笑)」
「すごい……。」って、長谷川さんの胸板をなぞって陶酔していた。
「何が?」
「毎日お酒飲んでるサラリーマンの身体じゃないみたい……。」
ふふふって長谷川さんは嬉しそうに笑う。なんて無邪気な笑顔だろう。
「鍛えるの、好きやねん。」ってニコニコ笑顔で話す長谷川さんは本当にもう可愛い。
胸板から上腕、前腕となぞっていく。
「今度は、焼肉が食べたいな。」
「いきなり、なんなん?笑」ってふわって笑う顔が好きだ。
指先までなぞり終わるところだった。
なぞらなきゃよかった、そしたら気づかなかったかもしれない。
見て見ぬふりできたかもしれない。
でも、長谷川さんは手繋ぐのが好きだからきっと気づくな。気づいちゃうな、どうしよう。
手繋ぐのが好きなんかじゃなくて、俺には奥さんが居るよアピールだったらどうしよう。
指先を凝視している私に、長谷川さんは優しく言う。
「結婚してもう、10年になるんかなぁ~。そういえば、来月記念日やった!」
酔いが醒めそうだ。
長谷川さんは何考えてるんだろう?あ、何も考えてないのか。ただの処理か。
そのまま茫然としながらひたすら天井見つめてた。
ぎゅって指絡まれたけど、指輪がずっとあの日から頭を離れない。
どうだった?って聞かれたら、天井と指輪と吐息と虚無感しか思い出せない。
その日からだ。会った後に泣くようになったのは。
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