長谷川さんへ

神奈川雪枝

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走れ、走れ、涙止まるまで、

あの日から私たちはホテルに行っていない。
ラインも来ない。

会社に行けば会えるけど、
それだけ。

書類の確認するときに目が合って、
用紙を渡すときに指先が触れ合うだけ。

長谷川さんは毎日元気に笑顔で仕事をしている。
私は食欲がでなくてふらふらしていた。

休憩時間になにか食べなきゃとコンビニでサラダとゼリーを買ってきた。
フライドチキンも頑張って買って食べてみたけど、
胸がむかむかして、

給湯室でお茶を入れに行った。

うっとフライドチキンが飲み込んだはずなのに、
口元まであがってきそうになる。

ハンカチで思わず口元を抑えていたら、

「具合、悪いん?」と、
耳がびくっと動いた。

ぎょろっとした目を向ければ、
珈琲を入れに来た長谷川さんがいた。

ぱくぱくと口が動くだけで声が出せなかった。

「痩せた、やんな?」

カップにインスタントコーヒーを入れる長谷川さん。

「あのさ。」

(聞きたくない。)

「俺たち。」

(やめてっ。)





「もう、会うのやめへん?」




「あ。」

それしか声が出なかった。
声よりも先に涙があふれ出した。

「ごめん。」

長谷川さんはそういって湯気をたてるマグカップを持って、
席に戻って行った。

(終わりですか、私たち……?

 あなたにとって私はもういりませんか?

 何急にいいパパになろうとして?

 嫌です。

 あなたと会えなくなるなんて嫌です。)

うえっと口から吐瀉物が出てきた。
流しにかがんで水を出しながら嗚咽と嘔吐をした。

(嫌です、嫌です。絶対嫌です。別れたくない。)

体調が悪いと言って早退した。
使える有給休暇も早急にとった。

急に困ると白い目で見られたけど、
長谷川さんだけは、
「ええんやない?顔色も悪いし、な。」と判を押してくれた。

私はあなたから婚姻届けの判をもらいたかったです。と諦めの悪い私は頭で考える。

10日間の休み。

あー、一体何しよう?

久しぶりに実家でも帰ってみようか?

でもなんていって帰ろうか?


あぁ、また泣けてくる。

ただ私は大人になったら毎日したい仕事をして、
大好きな人と結婚するもんだと思ってた。

なんで恋した人にはもう愛する人が居るのでしょうか?

よくわからないなと思いながら適当に詰めたキャリーケースを持って、
直ぐにのれる便の飛行機に飛び乗っていった。






走れ、走れ、涙止まるまで、
(ついた先は、雪で真っ白な東北でした。)
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