長谷川さんへ

神奈川雪枝

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キャントフライ オア ドントフライ

眼鏡の人は朗らかに微笑んで歩く。

手を掴まれてしまって、ついていくしかない。




コロッケを食べ終わった私は息を切らしながら彼に問う。




「どこ、むかってるんですかっ?」




「近くに、素敵な宿があるみたいですよ。

 僕もまだチェックインしてなくて。

 飛行機のパンフレットで見つけたんです。

 あ、だから予約してないですけど。(笑)

 二部屋空いてるといいですね。」




「えっ。」




歩くこと20分。




商店街を抜けると宿の門構えが見えた。




「ここですか。」




「素敵でしょ?」




確かに素敵だけどお高そうとは言えなくて。




ずんずんと彼は入っていった。




「予約してないんですけど、二部屋空いてますか?」




「確認しますので少々お待ちください。」




着物をきた従業員だった。




大きい花瓶に花がいけてある。




「すいません、1部屋ならご案内できるのですが。」と申し訳なさそうに従業員が話す。




彼は後ろを振りかえって私に問う。




「聞こえてました?

 1部屋なら空きあるみたいなんですが、相部屋でも大丈夫ですか?」




(えっ。)




今日会ったよくわからない男の人と同じ部屋。

でも今日泊まるところ探してもない。




どうしよう。




頭がぐるぐると混乱する。




Can't fly or Don't fly ?




不意に長谷川さんが思い浮かんだ。




二人で何度入ったかわからないラブホのお風呂。




アパートのお風呂より広いのに、

二人で入るとぎゅうぎゅうで。




長谷川さんの方から私を誘ったくせに、




長谷川さんは私に向かって、




色気がない、子どもぽいとよくからかった。




その度に私はきっと彼を睨んだものだ。




このままアパートに帰っても長谷川さんは私のことを待っていない。




「どうします?」と

私を優しく見つめる目の前の彼なら大丈夫だと思えた。




何より色気がない私なのだ。




初対面でコロッケであやされるくらい子どもぽい私なのだから。




「大丈夫です、お願いします。」




「良かった。部屋取っちゃいますね。」と彼は手続きを始めた。




目の前の人も寂しかったのだろうか?




仕事をさぼる私と彼だ。




今夜は酒でも飲んで話に花を咲かせようじゃないか。
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