長谷川さんへ

神奈川雪枝

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グツグツ煮込んだスープ

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私はまた
長谷川さんと定期的に会うようになってしまった。

夫のはじめさんとも
連絡を取りあってる。
はじめさんが私と週一で時間を作って
ビデオ通話してくれて、
楽しそうな顔見てると、
罪悪感で胸が苦しくなる。

「雪枝さん。
なんか元気なくない?
なんかあった?」

「な、ないよ!
普通!
最近寒くなってきたね!」

何気ない会話。
(ごめんなさい、私……。)

長谷川さんは、
前より優しくて、
「雪枝が結婚したって聞いた時は、
びっくりしててんで。」と、笑った。

「ずっと、長谷川さんの事だけ見てると思ってたんですか?」

「いや、もう会えなくなるんちゃうかなって思って、寂しかった。」

私を優しく抱きしめないで下さい。

「奥さんと連絡とってるんですか?」

「んー、とってるとってる。
でも、ほぼ業務連絡やな。」

私たちは何度目の朝を迎えてるんだろう。

年末年始がきて、
夫が帰省してくることになった。
だから正月明けまで会えないと
長谷川さんに言ったら、
「前と立場逆転やな!笑」と、
いたずらっ子みたいに笑っていた。

夫が帰ってくる夜、
私はスーパーで買い物をして、
ミネストローネを作っていた。

野菜を細かく切り刻み、
真っ赤なトマトで煮込む。

長谷川さんの事も、
はじめさんのことも、
私は大好きだ。

ガスコンロの火がゆらゆら揺れる。

でも、
私は、
長谷川さんを諦めて、
はじめさんと結婚した。

結婚したのに、
長谷川さんと関係を戻すなんて、
いけないことだ。

頭では分かってる。

でも、
長谷川さんとの思い出が、
私の決断の邪魔をする。

懐かしい声、匂い、体温から、
私は離れられない。

単身赴任じゃなかったら?
長谷川さんと再会なんてしなかったら?

思わず泣きそうになった。

そんな時に、
夫は帰ってきた。

「ただいま!
いい匂いだね!
何作ってくれてるの?」

パッと顔をあげると、
私を愛しそうに見つめるはじめさんと
目が合った。

「寂しくさせてごめんね。」と、
私を抱きしめるはじめさん。

(違う、違うんです、はじめさん。)

グツグツ煮込んだミネストローネ。
(この想い、溶けて無くならないかな。)
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