長谷川さんへ

神奈川雪枝

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人生は選択の連続である。

静かな個室内に、
着信音が鳴り響く。

「出ぇへんの?
もしかして、旦那さん?」

「出ますよっ!」とついムキになる。
目を1回強く瞑って、
涙を押し込む。

電話に出ると、
「雪枝さん、今電話大丈夫?」と、
優しいはじめさんの声がした。

「大丈夫ですよ。」
(お願い、泣いてるの気づかないで!)

「バレンタインチョコ、
届いたよ!
いつも手作りのチョコ、
ありがとう!」

はじめさんと電話を終える。

バレンタイン、
手作りのチョコ。

思い出して、
私は鞄を漁る。

「なにしてんの?」
長谷川さんは、退屈そうにお酒を飲んでいる。

(あった!)

「これ!」

私は、リボンのかかった箱を長谷川さんに渡す。

「え、なに?俺にぃ?」

「受け取って下さい!
私の気持ちです!」

(迷わないって決めたんだ!)

長谷川さんは、
「なんやろぉ~?」と、リボンをほどく。

「2月といったら、
バレンタインデーかな?」と、
口角の上がる長谷川さん。













人生は選択の連続である。-シェイクスピア-













「雪枝、これ、どういうこと?」

目を見開いて驚いてる長谷川さん。

チョコ入ってると思いましたか?


「私の答えです。」

「空っぽが答えってこと?」

「そうです。」

私は、
はじめさんには手作りチョコを、
長谷川さんには、
空の箱を渡した。

長谷川さんに恋してた時、
私の部屋に来て貰えず、
手料理も振る舞えず、
弁当を作っても食べて貰えず、

泣きながらお願いした、
甘ったるいクリスマスケーキだけ、
長谷川さんは、
面倒くさそうに食べてくれた。

はじめさんと、
出会ってから、
はじめさんと付き合ってから、
はじめさんは、
いつだって、
私が一生懸命気持ちを込めて作った料理を、
ありがとうと、
美味しいと、
笑顔で完食してくれた。

私が人生で初めて
手作りのバレンタインチョコを
渡したのは、
長谷川さんではない、
はじめさんだった。

「はじめさん、
バレンタインなんだけど。」

「どうしたの?」

「手作りしようかなって思ったけど、
やっぱり、
お店のチョコの方がいいよね?」って、
恐る恐る聞くと、

「雪枝さんが作ってくれたチョコが
いいかな!」と笑った。

「私、いつもお菓子作ると
甘ったるくなっちゃうの。」と肩を落とす。

「大丈夫!
甘いのでも苦いのでも、
雪枝さんからくれた物は、
何でも嬉しいから。」と、
はじめさんははにかんだ。

長谷川さんのことは、
やっぱり、
嫌いにはなれないけど、

私は、
もう、はじめさんを裏切りたくない。













「雪枝。」と、
長谷川さんが私に手を伸ばす。

(ごめんなさい、
もう、私手を伸ばせないです。)

長谷川さんの手を避けて、
私は立ち上がった。

「私、帰ります。
長谷川さん、ごめんなさい。
長谷川さん、もう会えないです。
夫の単身赴任、もうすぐ終わって、
こっちに、帰ってくるんです。
私は、夫と生きていきます。」

長谷川さんは、
「そっかぁ。」と、
目を細めて、私を見ていた。

私は店を出る。

家まで歩いて帰る。

涙が出る。
涙を拭うと、
左手の薬指の指輪が濡れた。

「雪枝さん。」と、
私の名前を呼ぶはじめさんの声を
思い出す。














さようなら、長谷川さん。
(大好きでした、私の初恋。)
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