降り注いだ水

神奈川雪枝

文字の大きさ
1 / 1

流しちまえ

しおりを挟む
________
私が
浮気相手だった
みたい……笑
________

「 お疲れ様でしたーっ。」

深夜12時。
午後8時からの仕事が終わった。
大学生で、小遣い稼ぎの為のバイト。

( 明日は、休みなんやーっ!)

明日の授業は午後からだし、
今日はゆっくり寝れると思って、
自然と頬が緩んでしまう。

帰り道、
深夜だからなのか、
いつもよりも、
暗い気がした 。

(そー言えば、雨降るとか言ってたなぁ~。)

日頃の疲れが溜まっていた為、
俺は家に着くと、
ずぐさまベッドにダイブした 。

( もう、寝てまうか ~ 。)

ピンポーン 。

半分夢の中に入りかけていた時に、
鳴り響いた、チャイム 。
( もう、誰やねん 。)

俺は重たい体を起こして、
ドアのところに向った 。


ドアの覗き穴を覗けば、
そこに居たのは、
俺の好きな人やった……。

今にも泣きそうな彼女の顔を見て、
俺の脳はすぐに目を覚ました 。

ガチャ 。

「 どーしたん ?」

「んー、会いたくなってん 。」

「って、何でそんなに濡れてんっ?!」

「んー、何や向ってる時に雨降ってきてん 。」

彼女の服から、
髪の毛から、冷たい水がポタポタと滴っている 。

「 もう、何してんの?
 俺、迎えに行くのに 。
 いくら家が近くやって言っても、歩いて10分もかかるんに 。
 危ないやろ?」

「 ん、 ごめんごめん。笑」

彼女は儚く笑う。

「今度は絶対、アカンからな。
 俺が雪枝の家に行くから 。」

「ありがとう。」

立ち話もそこそこに、
俺は、彼女を家の中に入れた。

「なぁ、メール見た?」

「 えっ ?」

「やっぱり、見てへんかったんやんなぁ。笑
 返事無いから、そーなんかなぁって思ってとった。」

「あー、本間にごめんなっ。」

「ええよ、ええよ。笑」

彼女は笑いながら黙って、
ソファーに腰を下ろした 。

「 ちょ、何してんねんっ?!」

「 えっ?!」

あまりに俺が大きな声で言ったもんやから、
彼女は驚き、立ち上がってしまった 。

「 風呂、入り?
 雨で濡れたんにそのままとか、風邪引くやろ?」

「 えっ、あっそーやんね 。
 もう、いきなり大きな声出すからめっちゃ驚いてもうたやん。笑」

「ごめんやでぇ。笑
 って言うても、シャワーでええ?」

「うん、大丈夫。」

「ジャージ出しとくから、服、洗濯しいや?」

「うん、ほんまにいつもありがとう 。」

彼女は、
浴室へと歩いていった 。

俺は急いで、
引き出しの中を漁って、
綺麗なジャージを探して、
鞄に入れっぱなしの携帯を開いた 。

( ほんまにメール来てた 。)


「 は ?」

( 浮気相手って、何?)

俺は、
ジャージを持って、
浴室の方に行った。

浴室の近くだというのに、
シャワーの音が、
聞こえない ……。

( 雪枝、入ってんの?)

「ちょ、雪枝 ?
 開けるでぇ~……?」

浴室の脱衣所の扉を開ければ、
 雪枝の姿は無い 。

洗濯機も、
動いてない 。

( 何してんの?)

電気の点いている浴室。
音のしない浴室には、
確かに人影 。

「 ぅっ ぅ”っ 。」

( 泣いてるん ?)

俺は、
ジャージを置いて、
浴室への扉を開けた 。

「 ぅ”ぅっ う”うぅっ 。」

浴室には、
服を着たままの彼女が、
蹲って、
泣いていた 。

「 メール見たで ?」

俺がそう言えば、
彼女の嗚咽はさらに酷くなった 。

「 どーいう事なん?」


俺もしゃがんで、
彼女の頭を撫でながら、
そう訊いた。

「……っう”っわぎっ……っあいっでっ……やっだんっはっ……、
 ……っわたし……っ……っやっでんっ……。
 ……っだいじなっ……ぅっ……っぼんめいのごぉっ……、
 ……いるっんやっでっっ……。」

ゆっくりと聞き取りにくい言葉を、
彼女は確かに発した。

( 浮気相手やったのは、私?
 大事な本命の子、居るとか 。)

今すぐにでも抱きしめたかったけど、
彼女が今泣いているのは、
まだ、そんな酷い男のことが好きだからと考えると、
手が彼女に触れようとはしなかった。

 今なら、彼女は俺を受け止めてくれるかも知れないのに 。

( 何で自分のことを泣かせるような奴を、好きなん?)

もう、彼女が泣いているのを見るのは何回目だろう?
きっと彼女は、アイツの前では無理して笑っているのだろう 。

何度君の口から、苦しいって言葉を聴いた?
浮気してるって、何回相談に乗ってあげた?

いつだって泣いている君を慰めてきたのは俺なのに、

君は、俺の欲しい心を一切くれはしない ね 。

俺は、立ち上がってシャワーを持った。
捻ると、
昨日洗濯物の手洗いしたままの温度設定なのか、
温い水が出てきた。

勢いよく降り注ぐ緩い水は、
彼女にとったら、俺みたいな存在なのだと思った。

なら、君をこの緩い水で溶かしたいと思った 。


俺は、彼女にシャワーを掛ける。

少し乾いてきていた彼女の衣類は、
また、濡れ始める。

彼女は泣きながら、
俺を驚いた目で見上げた 。

( ほんまは水なんか掛けないで、
 優しく抱きしめてキスしたりなんやろうけど、
 いつまでも俺を焦らす君には、もう失望だ 。)

彼女の瞳に、
シャワーの雫が当たる 。

(君は汚い 、やから俺も汚い 。
 君に惚れるなんて、ほんま救われへん 。
 何で 雪枝は、アイツが運命なんて想いこむんやろ ?)

彼女の目から、
液体が流れている 。

(もういっそ、君は溶けてしまえばええんや 。)








降 り 注 い だ        水 。
_______________________

(好きやけど、君やって充分酷い 女 。)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...