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思い出せない……
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「危ないっ!」
誰かが叫びながら、
私に手を伸ばす。
だけど、その手は私に届かなくて。
ドンっという強い衝撃とともに、
私は意識を手放した。
ぴ、ぴ、ぴ。
目を開けると、規則正しい機械音が聞こえた。
白い天井。
(ここは、どこ?)
「中田さん?目、覚ましたんですね。」
看護師らしき人の声が聞こえ、
そのあとすぐに医者らしき男がやってきた。
どうやら、私は交通事故にあったのだという。
個室の部屋に移ると、
「大丈夫?!」と金髪の男の人が泣きながら、
抱き着いてきた。
「心配かけやがって。」と、
黒髪の男の人は入り口でぼそっとつぶやいた。
どうやら、私はシェアハウスに住んでいたらしいのだ。
事故前後の記憶がいまいち思い出せない。
「ボクのことも覚えてない?」
金髪の彼が寂しそうに話す。
「ごめんなさい。」
「いいよ。僕はね、中川洋介。
あっちの人は、鮫島郁人だよ。
僕たち、今年の春から一緒にシェアハウスに住んでたんだ。」
「そう、なんですね。」
「本当に、記憶ねぇーのか?」
「郁人!」
(病室で、ぎゃあぎゃあ騒がないで。
頭に響く……。)
記憶は戻らないものの、
身体は大丈夫とのことで、
退院になった。
退院の付き添いには、
中川さんがきてくれた。
「ありがとう、ございます。」
「いいって。ゆりちゃんと僕の仲じゃん。
気にしないで。
荷物、持つよ。」
(優しい。)
シェアハウスについても、
私はやっぱり何も覚えてなかった。
「邪魔。」
後ろを振り返ると、
鮫島さんがいた。
「入口でぼけっとしてんなよ。」
「郁人!」
「中川さん、私は気にしてないから。」
「でも、ゆりちゃん、びっくりしたでしょ?」
「それは、まぁ。」
3人で夕飯を食べる。
料理は中川さんが作ってくれた。
どうやら、食事、掃除は当番制らしい。
「ゆりちゃん、どうかな?」
「おいしいです。」
「ならよかった。」
(鮫島さんって、無口の人なのかな?)
食後のコーヒーを飲んでるいるときだった。
「ゆりちゃん。」
「なんですか?」
「ゆっくりでいいからね。」
「え?」
「無理して思い出そうとしなくても、大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
「つうか、忘れるとか本当あほだよな。」
「郁人。」
「本当のこと、言っただけ。」
(むかつく~。)
夜、寝るときだった。
心になにかひっかかる。
私は大事な何かを忘れている気がする。
忘れちゃいけないことを、忘れちゃったんじゃないか。
(なんだろう。)
眠れなくて、台所に水を飲みに行ったら、
鮫島さんがいた。
「なんだよ、ねれねーのか?」
「ちょっと、喉が乾いて。」
「お前、本当に覚えてねぇの?」
「え?」
私のきょとん顔を見た鮫島さんはちっと舌打ちをした。
「信じらんねー、大事なこと忘れるとか。」と、
小声でつぶやいた。
(私だって、好きで忘れた訳じゃないし。)
「お前の部屋に、オルゴールあったろ?
寝れねーときとか、きいてたんじゃねーの?」と、
鮫島さんは二階にあがっていった。
(オルゴール?)
部屋に戻り、
机の引き出しをあけると、
確かにオルゴールはあった。
ためしに音を鳴らしてみる。
(懐かしい。)
本当にオルゴールを鳴らしたら、
すっと眠ることができた。
記憶は戻らないまま数日が過ぎたときだった。
今日は、鮫島さんはバイトでいない。
中川さんと二人きり。
「ゆりちゃん。」
「ん、なんですか?」
「僕ね、ずっとゆりちゃんのことが、好きだったんだ。」
「え?」
「記憶が戻ってないけど、やっぱりゆりちゃんのことが好きなんだ。」
「ちょ。」
「ためしに、つきあってみない?」と、
中川さんは私をおそるおそる抱きしめた。
いつも気遣ってくれる中川さんは、
きっと悪い人じゃない。
「ためし、ですよ。」と答えると、
「うれしっ。」と、ちゅーされた。
中川さんから、
シェアハウスだし、
郁人にいうと面倒だから二人の内緒ねと言われた。
中川さんがバイトに行く前に、
「ゆりちゃん。」と後ろから抱きしめられた。
「きゃっ。」
「そんなに驚かないでよ(笑)」
「いきなりだったから。」
「可愛い。」
彼の唇が耳に触れる。
「ゆりちゃん。」
彼の手が胸を触る。
「ちょ。」
「だめ?」
「だって、これからバイトでしょ?」
「まだ時間大丈夫だよ?(笑)」
「でも。」
がちゃ。
鮫島さんだった。
「 なにしてんの?」
私からぱっと中川さんは離れる。
「ちょっと、ふざけてただけだよ(笑)」
鮫島さんの顔を、見れない。
「じゃ、僕バイトいってくるね。」
がちゃ。
「 ゆり。」
「え?」
鮫島さんから名前を呼ばれたのは初めてで、
驚いて顔をあげたら、
そのまま、あごをつかまれて、
キスされた。
「ちょっ。」
「ん。」
そのまま私は床に押し倒された。
無言のまま、
鮫島さんに荒々しく服を脱がせられる。
「や、やめってっ。」
「なんで?」
「え?」
「洋介はいいのに?」
「だって、それは。」
スカートの中に鮫島さんの手が入ってくる。
「ほんとにっだめっですってばぁ。」
パンツを下げられる。
力強い腕。
もうだめだと思ったら、
怖くて、涙が出た。
「ひっくひっく。」
「ゆり?」
「やめてくださいっ。」
鮫島さんは私から離れた。
「 なくなよ。」
そう一言残して、二階に上がっていった。
さっきまでの鮫島さんの体温が虚しく熱い。
中川さんと一緒にいると、
私は平常心でいられる。
あの日から、
私は鮫島さんを意識してる。
でも、鮫島さんからは特になんのアクションもない。
なんであんなことをしたの?
私の事を好きなの?
ただたんに目の前でいちゃついてるのをみてムラムラしただけ?
(あなたがわからない。)
私のこと、名前で呼んでた。
「ゆり」って呼んだ。
記憶をなくす前の私とあなたの関係が知りたいよ。
「ゆりちゃん!」
「ん?どうしたんですか、中川さん。」
「もうすぐ、僕の誕生日なんだよ!」
(誕生日?)
何かが心にひっかかる。
「お前、いい年してまだ浮かれられるなんてめでたいやつだな。」
「うるさいな!郁人だってあの日本当は嬉しかったんじゃないの?」
「誰かさんのせいで誕生日どころじゃなかっただろうが。」
「僕のせいだっていうの?」
なんで言い争ってるの?
「お前があんなことしなきゃ、こんなことにならなかったんだよ。」
「いつまで根に持ってるの?!」
「ねぇ、鮫島さんの誕生日っていつだったの?」
「ゆりちゃんは、知らなくていいよ。」
「なんで?」
「それは。」
珍しく中川さんが言葉につまっていた。
「お前が事故った日だよ。」
なげやりに鮫島さんがいう。
「うそ。」
私が記憶をなくした日?
事故の前に、なんかあったの?
「ゆりちゃん。」
「僕だけのゆりちゃんでいてね。」と、
中川さんは私の耳にささやいた。
どきん、どきん。
嫌な脈打ちをした。
雨だった。
この日は中川さんはバイトでいない日だった。
お風呂にはいっているときだった。
ぴかっとした稲妻のあとに、
ごろごろと大きな音が聞こえたと思ったら、
電気が消え、
停電になってしまった。
「きゃっ。」
「ゆり?大丈夫か?」
ちょうど髪の毛を洗っていたときだった。
真っ暗で何も見えない。
「ゆり、風呂か?」
近くで鮫島さんの声が聞こえる。
「懐中電灯お願い。」と話そうとしたら、
口にシャンプーの泡が入ってしまった。
「わっ。」と急いで吐き出す。
「大丈夫か?せき込んでるけど?」
「シャンプーの泡がっ口に入っちゃって。」
「お前、相変わらずあほだな。」
「もしかして、笑ってる?」
「ばれた?(笑)」
鮫島さんの声が脱衣所から聞こえる。
「ひどい!」
「こっから照らすから、早く洗え。」
そういうと、脱衣所から懐中電灯の光があたった。
急いで洗い流す。
「終わった。」
「どうすっか。」
「懐中電灯、おいてってください。」
「これ一個しかねぇーんだよ。」
「私、服着れないじゃないですか?」
「光、しぼるから。」
どきどき。
裸のまま、鮫島さんのいる脱衣所にいけってこと?
いくら暗くても、恥ずかしいよ。
「お前の裸なんか、みねぇーよ。」
「な?!」
がちゃ。
薄暗い中に、かすかに感じる人の気配。
手探りでバスタオルを探して、体にまく。
「なぁ。」
「な、なに?」
「お前、ほんとに記憶ねぇーの?」
(私やっぱり、忘れちゃいけないことを忘れてるの?)
「ないよ。」というのと同時に、
抱きしめられていた。
「ちょ。」
「俺は、忘れてほしくなかった。」
ずきんと胸が痛む。
時が止まったような気がした。
(私だって、忘れたくなかったよ。)
ばちんという音とともに、
電気が復活した。
「ただいまぁ~。」
中川さんの声も聞こえる。
「ちょ、離して。」
「やだ。」
力強く抱きしめられる。
「ゆりちゃん?郁人?」
中川さんの声が近づいてくる。
「いいから、離れてっ。」
「俺は、待ってるから。」というと、
鮫島さんは私を離し、
脱衣所から出て行った。
どきどきどきどき。
鼓動が早い。
私、鮫島さんとなにがあったんだろう?
思い出したいよ。
この日の出来事をきっかけに、
私は自分の本当の気持ちに気づいた。
(鮫島さんが、好き。)
一緒にいると、胸がどきどきする。
身体は嘘をつけない。
鮫島さんがバイトの日、
中川さんに自分の気持ちを伝えることにした。
「中川さん。」
「ん、なに?どうしたの、ゆりちゃん?」
ニコニコ私の顔を見る中川さん。
「私。」
「鮫島さんのことが、気になるんです。」
「え?」
「だから、中川さんの気持ちには答えられない。」
「なんで?」
「え?」
「今僕と付き合ってるんだよ?
どうして、郁人なの?
ねぇ?」
すごい剣幕で腕を掴まれる。
「いた。
ごめんなさい。
私。」
「ゆりちゃんは、僕のことが好きなんだよ?!
郁人じゃないよ!
ねぇ。」
中川さんが私の頬に手を振りかざす。
「やめろ。」
鮫島さんが中川さんの腕をつかんでいた。
あぁ、そうだ。
思いだした。
事故の日、
郁人の誕生日、
告白しようとおもってた。
そう中川さんに打ち明けたら、
今見たいに、
僕はゆりちゃんがずっと好きだったんだ、
なんで郁人なの?って詰め寄られて、
やめてって逃げようとしたら、
郁人がかえってきて、
中川さんと郁人が口論を始めて、
そのうちに、
うるさいって中川さんが外を飛び出して、
私たち二人は追いかけていった。
車道付近で、
ふいに、中川さんが郁人の背中をどんって押そうとしてるのが見えて、
だめって私は郁人をかばって、
車道に飛び出た。
「危ないっ。」
郁人は手を伸ばしてくれたけど、
間に合わなくて、
そのまま、私は車にひかれた。
涙が出てくる。
こんなはずじゃなかった。
郁人の誕生日をお祝いするはずだった。
「ゆり、好きだ。」
私は郁人から告白されてて、
返事をする予定だった。
「私も好きだよ。」って答えるつもりだった。
「ゆり?」
「郁人。」
「お前?!記憶がもどったのか?」
「ごめんなさい、忘れて。」
「ゆりちゃん!」
「中川さんっ!」
「私、中川さんの気持ちには答えられない。」
「ゆりちゃん、なんでそんなこというの?」
「私は、郁人が好きだから。」
「ゆり。」
郁人が私を強く抱きしめる。
(あったかい。)
「郁人。」と、彼の背中に手をまわす。
「うわー!ひどいよ、ひどい。
僕の気持ちをしっていたのに。」
「洋介、受け入れろ。」
「うるさいっ。」
そのまま中川さんはシェアハウスを出て行ってしまった。
「よかった、記憶が戻って。」
「ごめん、忘れて。」
「いいよ。」
「ずっと待ってるつもりだった。
俺には、ゆりしかいない。」
「ありがとう、郁人。」
誰かが叫びながら、
私に手を伸ばす。
だけど、その手は私に届かなくて。
ドンっという強い衝撃とともに、
私は意識を手放した。
ぴ、ぴ、ぴ。
目を開けると、規則正しい機械音が聞こえた。
白い天井。
(ここは、どこ?)
「中田さん?目、覚ましたんですね。」
看護師らしき人の声が聞こえ、
そのあとすぐに医者らしき男がやってきた。
どうやら、私は交通事故にあったのだという。
個室の部屋に移ると、
「大丈夫?!」と金髪の男の人が泣きながら、
抱き着いてきた。
「心配かけやがって。」と、
黒髪の男の人は入り口でぼそっとつぶやいた。
どうやら、私はシェアハウスに住んでいたらしいのだ。
事故前後の記憶がいまいち思い出せない。
「ボクのことも覚えてない?」
金髪の彼が寂しそうに話す。
「ごめんなさい。」
「いいよ。僕はね、中川洋介。
あっちの人は、鮫島郁人だよ。
僕たち、今年の春から一緒にシェアハウスに住んでたんだ。」
「そう、なんですね。」
「本当に、記憶ねぇーのか?」
「郁人!」
(病室で、ぎゃあぎゃあ騒がないで。
頭に響く……。)
記憶は戻らないものの、
身体は大丈夫とのことで、
退院になった。
退院の付き添いには、
中川さんがきてくれた。
「ありがとう、ございます。」
「いいって。ゆりちゃんと僕の仲じゃん。
気にしないで。
荷物、持つよ。」
(優しい。)
シェアハウスについても、
私はやっぱり何も覚えてなかった。
「邪魔。」
後ろを振り返ると、
鮫島さんがいた。
「入口でぼけっとしてんなよ。」
「郁人!」
「中川さん、私は気にしてないから。」
「でも、ゆりちゃん、びっくりしたでしょ?」
「それは、まぁ。」
3人で夕飯を食べる。
料理は中川さんが作ってくれた。
どうやら、食事、掃除は当番制らしい。
「ゆりちゃん、どうかな?」
「おいしいです。」
「ならよかった。」
(鮫島さんって、無口の人なのかな?)
食後のコーヒーを飲んでるいるときだった。
「ゆりちゃん。」
「なんですか?」
「ゆっくりでいいからね。」
「え?」
「無理して思い出そうとしなくても、大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
「つうか、忘れるとか本当あほだよな。」
「郁人。」
「本当のこと、言っただけ。」
(むかつく~。)
夜、寝るときだった。
心になにかひっかかる。
私は大事な何かを忘れている気がする。
忘れちゃいけないことを、忘れちゃったんじゃないか。
(なんだろう。)
眠れなくて、台所に水を飲みに行ったら、
鮫島さんがいた。
「なんだよ、ねれねーのか?」
「ちょっと、喉が乾いて。」
「お前、本当に覚えてねぇの?」
「え?」
私のきょとん顔を見た鮫島さんはちっと舌打ちをした。
「信じらんねー、大事なこと忘れるとか。」と、
小声でつぶやいた。
(私だって、好きで忘れた訳じゃないし。)
「お前の部屋に、オルゴールあったろ?
寝れねーときとか、きいてたんじゃねーの?」と、
鮫島さんは二階にあがっていった。
(オルゴール?)
部屋に戻り、
机の引き出しをあけると、
確かにオルゴールはあった。
ためしに音を鳴らしてみる。
(懐かしい。)
本当にオルゴールを鳴らしたら、
すっと眠ることができた。
記憶は戻らないまま数日が過ぎたときだった。
今日は、鮫島さんはバイトでいない。
中川さんと二人きり。
「ゆりちゃん。」
「ん、なんですか?」
「僕ね、ずっとゆりちゃんのことが、好きだったんだ。」
「え?」
「記憶が戻ってないけど、やっぱりゆりちゃんのことが好きなんだ。」
「ちょ。」
「ためしに、つきあってみない?」と、
中川さんは私をおそるおそる抱きしめた。
いつも気遣ってくれる中川さんは、
きっと悪い人じゃない。
「ためし、ですよ。」と答えると、
「うれしっ。」と、ちゅーされた。
中川さんから、
シェアハウスだし、
郁人にいうと面倒だから二人の内緒ねと言われた。
中川さんがバイトに行く前に、
「ゆりちゃん。」と後ろから抱きしめられた。
「きゃっ。」
「そんなに驚かないでよ(笑)」
「いきなりだったから。」
「可愛い。」
彼の唇が耳に触れる。
「ゆりちゃん。」
彼の手が胸を触る。
「ちょ。」
「だめ?」
「だって、これからバイトでしょ?」
「まだ時間大丈夫だよ?(笑)」
「でも。」
がちゃ。
鮫島さんだった。
「 なにしてんの?」
私からぱっと中川さんは離れる。
「ちょっと、ふざけてただけだよ(笑)」
鮫島さんの顔を、見れない。
「じゃ、僕バイトいってくるね。」
がちゃ。
「 ゆり。」
「え?」
鮫島さんから名前を呼ばれたのは初めてで、
驚いて顔をあげたら、
そのまま、あごをつかまれて、
キスされた。
「ちょっ。」
「ん。」
そのまま私は床に押し倒された。
無言のまま、
鮫島さんに荒々しく服を脱がせられる。
「や、やめってっ。」
「なんで?」
「え?」
「洋介はいいのに?」
「だって、それは。」
スカートの中に鮫島さんの手が入ってくる。
「ほんとにっだめっですってばぁ。」
パンツを下げられる。
力強い腕。
もうだめだと思ったら、
怖くて、涙が出た。
「ひっくひっく。」
「ゆり?」
「やめてくださいっ。」
鮫島さんは私から離れた。
「 なくなよ。」
そう一言残して、二階に上がっていった。
さっきまでの鮫島さんの体温が虚しく熱い。
中川さんと一緒にいると、
私は平常心でいられる。
あの日から、
私は鮫島さんを意識してる。
でも、鮫島さんからは特になんのアクションもない。
なんであんなことをしたの?
私の事を好きなの?
ただたんに目の前でいちゃついてるのをみてムラムラしただけ?
(あなたがわからない。)
私のこと、名前で呼んでた。
「ゆり」って呼んだ。
記憶をなくす前の私とあなたの関係が知りたいよ。
「ゆりちゃん!」
「ん?どうしたんですか、中川さん。」
「もうすぐ、僕の誕生日なんだよ!」
(誕生日?)
何かが心にひっかかる。
「お前、いい年してまだ浮かれられるなんてめでたいやつだな。」
「うるさいな!郁人だってあの日本当は嬉しかったんじゃないの?」
「誰かさんのせいで誕生日どころじゃなかっただろうが。」
「僕のせいだっていうの?」
なんで言い争ってるの?
「お前があんなことしなきゃ、こんなことにならなかったんだよ。」
「いつまで根に持ってるの?!」
「ねぇ、鮫島さんの誕生日っていつだったの?」
「ゆりちゃんは、知らなくていいよ。」
「なんで?」
「それは。」
珍しく中川さんが言葉につまっていた。
「お前が事故った日だよ。」
なげやりに鮫島さんがいう。
「うそ。」
私が記憶をなくした日?
事故の前に、なんかあったの?
「ゆりちゃん。」
「僕だけのゆりちゃんでいてね。」と、
中川さんは私の耳にささやいた。
どきん、どきん。
嫌な脈打ちをした。
雨だった。
この日は中川さんはバイトでいない日だった。
お風呂にはいっているときだった。
ぴかっとした稲妻のあとに、
ごろごろと大きな音が聞こえたと思ったら、
電気が消え、
停電になってしまった。
「きゃっ。」
「ゆり?大丈夫か?」
ちょうど髪の毛を洗っていたときだった。
真っ暗で何も見えない。
「ゆり、風呂か?」
近くで鮫島さんの声が聞こえる。
「懐中電灯お願い。」と話そうとしたら、
口にシャンプーの泡が入ってしまった。
「わっ。」と急いで吐き出す。
「大丈夫か?せき込んでるけど?」
「シャンプーの泡がっ口に入っちゃって。」
「お前、相変わらずあほだな。」
「もしかして、笑ってる?」
「ばれた?(笑)」
鮫島さんの声が脱衣所から聞こえる。
「ひどい!」
「こっから照らすから、早く洗え。」
そういうと、脱衣所から懐中電灯の光があたった。
急いで洗い流す。
「終わった。」
「どうすっか。」
「懐中電灯、おいてってください。」
「これ一個しかねぇーんだよ。」
「私、服着れないじゃないですか?」
「光、しぼるから。」
どきどき。
裸のまま、鮫島さんのいる脱衣所にいけってこと?
いくら暗くても、恥ずかしいよ。
「お前の裸なんか、みねぇーよ。」
「な?!」
がちゃ。
薄暗い中に、かすかに感じる人の気配。
手探りでバスタオルを探して、体にまく。
「なぁ。」
「な、なに?」
「お前、ほんとに記憶ねぇーの?」
(私やっぱり、忘れちゃいけないことを忘れてるの?)
「ないよ。」というのと同時に、
抱きしめられていた。
「ちょ。」
「俺は、忘れてほしくなかった。」
ずきんと胸が痛む。
時が止まったような気がした。
(私だって、忘れたくなかったよ。)
ばちんという音とともに、
電気が復活した。
「ただいまぁ~。」
中川さんの声も聞こえる。
「ちょ、離して。」
「やだ。」
力強く抱きしめられる。
「ゆりちゃん?郁人?」
中川さんの声が近づいてくる。
「いいから、離れてっ。」
「俺は、待ってるから。」というと、
鮫島さんは私を離し、
脱衣所から出て行った。
どきどきどきどき。
鼓動が早い。
私、鮫島さんとなにがあったんだろう?
思い出したいよ。
この日の出来事をきっかけに、
私は自分の本当の気持ちに気づいた。
(鮫島さんが、好き。)
一緒にいると、胸がどきどきする。
身体は嘘をつけない。
鮫島さんがバイトの日、
中川さんに自分の気持ちを伝えることにした。
「中川さん。」
「ん、なに?どうしたの、ゆりちゃん?」
ニコニコ私の顔を見る中川さん。
「私。」
「鮫島さんのことが、気になるんです。」
「え?」
「だから、中川さんの気持ちには答えられない。」
「なんで?」
「え?」
「今僕と付き合ってるんだよ?
どうして、郁人なの?
ねぇ?」
すごい剣幕で腕を掴まれる。
「いた。
ごめんなさい。
私。」
「ゆりちゃんは、僕のことが好きなんだよ?!
郁人じゃないよ!
ねぇ。」
中川さんが私の頬に手を振りかざす。
「やめろ。」
鮫島さんが中川さんの腕をつかんでいた。
あぁ、そうだ。
思いだした。
事故の日、
郁人の誕生日、
告白しようとおもってた。
そう中川さんに打ち明けたら、
今見たいに、
僕はゆりちゃんがずっと好きだったんだ、
なんで郁人なの?って詰め寄られて、
やめてって逃げようとしたら、
郁人がかえってきて、
中川さんと郁人が口論を始めて、
そのうちに、
うるさいって中川さんが外を飛び出して、
私たち二人は追いかけていった。
車道付近で、
ふいに、中川さんが郁人の背中をどんって押そうとしてるのが見えて、
だめって私は郁人をかばって、
車道に飛び出た。
「危ないっ。」
郁人は手を伸ばしてくれたけど、
間に合わなくて、
そのまま、私は車にひかれた。
涙が出てくる。
こんなはずじゃなかった。
郁人の誕生日をお祝いするはずだった。
「ゆり、好きだ。」
私は郁人から告白されてて、
返事をする予定だった。
「私も好きだよ。」って答えるつもりだった。
「ゆり?」
「郁人。」
「お前?!記憶がもどったのか?」
「ごめんなさい、忘れて。」
「ゆりちゃん!」
「中川さんっ!」
「私、中川さんの気持ちには答えられない。」
「ゆりちゃん、なんでそんなこというの?」
「私は、郁人が好きだから。」
「ゆり。」
郁人が私を強く抱きしめる。
(あったかい。)
「郁人。」と、彼の背中に手をまわす。
「うわー!ひどいよ、ひどい。
僕の気持ちをしっていたのに。」
「洋介、受け入れろ。」
「うるさいっ。」
そのまま中川さんはシェアハウスを出て行ってしまった。
「よかった、記憶が戻って。」
「ごめん、忘れて。」
「いいよ。」
「ずっと待ってるつもりだった。
俺には、ゆりしかいない。」
「ありがとう、郁人。」
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二人の男の間で、思い出せない
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とても不安で怖いものでしす。
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