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4歳の僕 ♢学園編♢
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しおりを挟む兄様達とゆっくりと幸せな休日を過ごした翌日。
学園に登校すると、慌ただしい様子で担任のオランジル先生が来て、そのまま学園長室に連れていかれた。
兄様達も一緒に。
オランジル先生の落ち着きのなさから、いつものような魔道具の話がしたくて呼んだってわけではなさそう。
兄様達も一緒にっていうのも、理由が分からない。
首を傾げながら先生に促されて学園長室に入る。
直前まで抱き上げてくれてたミー兄様の腕からきちんと降りてね。
先生はここまでで、中には入らないみたい。
ルーも、学園長室の外で待機しててもらう。
「「「失礼します」」」
部屋に入ると、いつもと違って硬い雰囲気で応接ソファーに座る学園長さん。
その向かいには、漆黒の長い髪に漆黒の瞳の、人間とは思えない容貌の…人?
目は爬虫類を思わせるが形のいい涼やかな雰囲気の目で、細く整っている眉とのバランスが妖しい雰囲気を醸している。
鼻筋はすっと細く高く、唇も薄い色気のあるものだ。
肌は薄褐色で、全体的に異国情緒を思わせる造りだが、その肌にはうっすらと鱗のような部分が所々に見えている。
明らかに人の形をとった人ではないもの…
ゆっくりとこちらに目線を向けるその人の膝の上には…
先日のレクリエーションでお弁当を分けてあげた、蜥蜴の子、と認識したのと同時位に、その蜥蜴の子が僕の腕の中に飛びついてきた。
え? え? どういうこと?
「3人ともよく来てくれたね。
話をするからこちらに来なさい」
困惑しきりな僕達に向かって、学園長さんが手招きする。
学園長さんに促されるまま、僕は学園長さんの隣に座り、兄様達は僕の背後に並び立った。
「黒帝様、ご紹介致します。
このご子息が抱きついておられるのが、話に上がっておりました我が国公爵家の3男、レティシオです。
後ろに控えているのが、この子の兄の、カディラリオと、ミスティラリ。
3人とも優秀な、我が学園の生徒です。
3人共、この方は聖魔の森の聖獣様達を束ねておられる、黒竜の黒帝様だ。
今日は黒帝様のご要望をレティ君、君に聞いて欲しいそうだよ」
聖魔の森の聖獣様達を束ねる、黒竜様の『ご子息』……?
僕は学園長さんの言葉がなかなか飲み込めなくて、学園長さん、蜥蜴くん、黒帝様を順番に見比べてしまう。
不敬なのは理解出来てるのに、混乱しすぎてつい目が泳いでしまうんだ。
僕の膝の上では僕のお腹に頬を擦り付けるように、『ご子息』がキュルキュルと鳴いている。
「黒帝様…発言することをお許しください。
先日の、ご子息様への不敬は、私の独断でした事で、家族も学園も関係ないのです。
処罰でしたら、僕だけに…」
呼び出された理由は、先日黒帝様のご子息にお弁当を食べさせてしまった事で不興を買ったのかと思い、お腹のご子息を圧迫しない角度でしかできない座ったままという平伏で、僕はできる限りの心からの謝罪を口にした。
知らなかったとは言え、聖魔の森の聖獣様方を束ねる尊い存在のご子息に、ただの人間の僕が向こうからしたらよく分かりもしない物を食べさせたのだ。
ご不興を買うのは当たり前だと思った。
でもそのせいで、家族やあの日付き添っていた兄様達、聖魔の森へ行くきっかけとなった学園側にまでその不興が及ぶのは止めたい。
必死に頭を垂れ続ける僕を、ご子息は不思議そうにお腹から見上げてくる。
「頭を上げるがいい、人の子よ。
そなたを罰するために来たのではない。
今日はそなたに、我が息子の我儘を聞いてもらえぬか訊ねに来たのだ。」
竜という種族のイメージと違い、小川のせせらぎのような、耳に心地いい優しい声だった。
言われるがまま顔を上げ、その言葉の意味が分からず首を傾げる。
「まずは礼を言わせておくれ。
先日は我が息子にそなたの食料を分け与えてくれて有難う。」
「そんな、身に余るお言葉です…」
まさかお礼を言われるとは思わなくて動揺してしまう。
そんな僕に優しく微笑みを向けながら、黒帝様は僕の膝に視線を向ける。
「あの日は、我と空を散歩している時に誤ってその子が背から落ちてしまってね。ようやく見つけ出したらそなたの側にいたいと言って聞かないのだ。
どうやら我が息子は、助けてくれたそなたの事を、好いてしまったようなのだ。
まだ人型も取れぬ幼子ゆえ、人の言葉も話せぬが…そなたの側にいればそなたの成人する頃には人型をとれるようになるであろう。
そなたもまだ幼い。
ひとまず息子を側において様子をみてやってくれぬか?
その先の事は、その子が人型になった時に、自分で言うであろう。」
黒帝様の言葉に、後ろにいる兄様達が息を飲む気配がした。
何だか兄様達の気配が物々しい気がするけど、ここで今発言できるのは問いかけられている僕だけ。
正直、黒帝様の言ってることは、迷子になった時ご飯をくれた僕に息子が懐いちゃったから、しばらく仲良くしてあげてって事なんだと思うけど…
聖獣様の子供をただのモブな人間の僕が預かっていいんだろうか…
預かるとなると、邸で、となるし。
どっちみち僕1人では判断できない。
困って隣の学園長さんを見ると、僕では判断出来ないだろう、と言って黒帝様にこのまま父様にも確認を取らせてくれるよう願い出てくれた。
快く了承を頂いたので、学園長さんの王宮直行魔法陣にて急ぎで父様に連絡を取ってもらうと、僕の好きにしていい、と返事が来た。
えっ、いいの?
膝を見るとクルクルと喉を鳴らしながら、僕の膝で微睡み始めているご子息。その様は竜だって聞いてもやっぱり可愛くて。
悩んでる僕に気がついたのか、眠そうな目を開けて、キュウ?と僕に向かって小首を傾げてくる。
その様子が、「ダメ?」と甘えて聞いているように見えて…
思わず引き受けてしまった。
ぐぅ…もふもふ至上主義だったはずなのに、妙にあざと可愛くて、これに否とは言えない…。
僕の返事に再びお腹にぎゅうっと抱きついてきたご子息を見ながら、安堵したような表情を浮かべた黒帝様は、ここに週1度、ご子息の様子を見に来る、と告げられた。
僕は授業中もご子息と一緒に参加することになった。
帰られる間際、黒帝様が僕だけに、ご子息の名前を教えてくれた。
ご子息から、僕に伝えてほしい、と言われたらしい。
彼の名前は、ブリデリアニシュ。
これは真名で、本来人間には教えてはならないものらしい。
僕以外の人間には教えないように、という誓約を交わし、リディと呼ぶことになった。
主人公が出会うはずだった隠れキャラの幻獣よりも高貴な存在。
竜種の頂点。
でも、ゲームには話にすら出てこないこの幼い黒竜。
終始複雑で苦しげな表情を浮かべる兄様達に気が付かないまま、僕に懐いてくれているこの子が側にいるのを嬉しく思っていた。
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