BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)

庚寅

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5歳の僕 ♢学園編 2♢

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僕の言葉を聞いて、息を詰め、主人公は動かなくなった。
その様子は黙秘しているようにも、僕の言葉に思案しているようにも見えた。
ただ、さっきまではあからさまだった僕への敵意は薄まっていて、僕は尚も警戒して力を緩めないルーに声を掛ける。


「ねえ、ルー。
僕、彼と少し話したい。
手を離してあげてくれない?」


ルーは珍しく不満を顔いっぱいに出して僕を見つめてきたけど、僕が引かないのが分かったのか、渋々主人公の華奢な背の上から退いた。
でもルーはひねり揚げた手は離したものの、主人公を立たせる形ですぐに彼の二の腕を掴み、立たせた後も離すことはしなかった。
リディも僕の足元で、僕より少し前に出る形で主人公との間に入り、依然睨みつけるように視線を向けたままでいる。



「手荒な事をしてごめんなさい。
できたら僕は、あなたと落ち着いて話がしたいです。
貴方の話も聞きたいし、できたら僕の話もしたい。
そこのベンチで話す時間をくれませんか?」




なるべく落ち着いた声音を心掛けながら話しかけると、顔を背け視線を外したまま考えたあと、目線だけこちらに向けて小さく頷いた。
それを確認して、横切ろうとしていた目の前の緑豊かな庭園の中に足を踏み入れる。
主人公は変わらずルーに腕を掴まれたまま、それでも何も言わず僕の後についてくる。
僕の横を歩くリディは心配そうに僕を見上げている。
きっと後ろのルーも同じような表情だろう。
心配をかけて申し訳ないけど、それでも僕は彼と話したかった。



この庭園は、これから向かおうとしていた保健室のある教師用の棟の裏手にあって、花の植え付けが少ない事から利用する人は少ないが、喧騒や華やかな場所が苦手な人やゆっくりと休息を取りたい教師達には密かに人気のある場所だ。
程よい距離で等間隔に置かれた休憩用のベンチもゆったり座れる大きさで、実は僕も人目に疲れた時などはこっそりと利用させてもらっている。
今の時間は昼休憩も終わりに差し掛かる頃で、いつも以上に人気がなかった。
だから彼もあんなふうに声を掛けてきたんだろうけど。



「ここに座りましょう。
リディ、ルー、申し訳ないけれど少し離れたところで待ってて貰えないかな?
彼と2人で話したいんだ。」



待たせる事に申し訳なく思いながら言うと、予想以上の反対にあった。
それでも何とか宥めすかして、声はギリギリ聞こえないけど動きを全て目視できる位置で、僕にはルーの守護の風魔法を数種類掛ける、という条件で許しを貰えた。
見た感じ、主人公の彼が僕に掴みかかることはもう無いと思うけれど、だからといって彼らの不安をそのままにして我儘を押し通して良い訳ではないし、それに絶対に大丈夫ともまだ言えないのは確かだから。
ゆとりのあるベンチに、近くはないが会話し辛くもない位の程よい距離を間に空けて、お互いにベンチの両端に腰を下ろした。



「挨拶が遅くなったけど、僕はレティシオ· マガリットです。
貴方の名前を教えて貰えますか? 」



「…ヘーゼリオ。
ヘーゼリオ· オリリアだ。



……さっきは突然悪かった。」



「いいえ。
確かに貴族間の事としては問題ですが…
もし、貴方が僕と同じなら、貴方の言ったように思うのは理解できます。
僕も同じように思っていますから。」



僕の言葉を聞いて、悩んでいたヘーゼリオが意を決した様にこちらを見た。



「『キミセカ』を知っているかと聞いたな。
あんたも、前世の記憶があるのか?」


「……ええ。」



「『キミセカ』の事も知っていて、この世界がそうだと言うのも分かってるんだな?」


「はい。そして、僕が『キミセカ』では存在していない、もしくは全く出てこない程に関係の無いキャラである事も…分かっています」



そう言って俯いた僕の事を、ヘーゼリオは暫く見詰めていた。
僕もずっと思っていた。
どうしてゲームに少しの話にも上がらなかった僕というキャラがここにいて存在して、この学園に通うことになってしまったのか。
僕は産まれる前から前世の記憶があった。
前世の記憶があるせいでゲームと違う今があるんだとしたら、僕の存在自体がこの世界ではイレギュラーだと言うことだ。




「貴方の言った、何故僕が存在しているのか、ですが…
僕にも分からないんです。
僕は産まれる前…母のお腹の中にいた時から自我がありました。
前世の記憶を持ったままうっすらと意識があったんです。
母のお腹の中で夢を見るように前世の僕を見ていました。
そこで『キミセカ』の世界も見ていたんです。
生まれてきて、ああ僕は前世の記憶があるまま新しい生を受けたんだと思いました。
そして1歳の誕生日の日に初めて兄達に会ったんです。
その時に気が付きました。
ここは『キミセカ』の世界だ、って。
そして、前世の僕の記憶の中に、兄達2人に歳の離れた弟がいるなんて話、聞いたこともない事に気が付きました。
でも分かったのはそれだけ。
どうしてここにいるのかは、僕にも分からないんです…」



「………………俺は、この学園に入学する1週間前に思い出した。
街に出た時馬が暴れて突っ込んできた馬車を避けようとして、倒れて頭を打ったんだ。
目が覚めたら前世の俺が強く出ていて、全部一気に思い出した。
ここに生まれてからの記憶もあるが、今は正直、前世の俺の方が強く表に出てる。
前世の俺の性格と、ここでの俺の性格は全く違うから、頭を打ったせいだと今の両親にも心配された。
医者も原因は分からないと言っていたが、俺だけは理由が分かってた。前世の俺の方が、魂の我が強かったんだ。
それも、ここに生まれることになった理由も、頭打って思い出した。」



僕が話して暫く沈黙が続いた後、ヘーゼリオは自分のことを教えてくれた。
前世では田舎に住んでたけど、その中でも柄の悪い友達と一緒にいて学校なんかもよくサボったりしてたこと。
そんな中で周囲には内緒でこっそりと『キミセカ』をプレイしていたこと。
僕と同じで同性愛者だったこと。
それも内緒にしていたこと。
前世で死ぬ時に、幼なじみを巻き添えにして死んでしまったこと。
幼なじみを巻き添えにしてしまったことを今でも後悔していること。


「でも、せっかく『キミセカ』に生まれ変わったんだ。
しかも今度は俺の欲しかった見た目でな。
ここでは同性しかいない。誰の目も気にする必要もない。
だから今度こそ、好きに生きようと思った。
ここへの入学も、推しキャラを攻略する気満々で入ったんだよ。
……なのに、蓋を開けてみりゃ見たこともねぇキャラが周りにチヤホヤされて、隠しキャラよりもすげえキャラ引き当てて、おまけに俺の推しキャラもお前に夢中ときた。
去年はそれでも俺なりに正攻法で攻略しようと頑張った。
主人公のチート能力使ってな。
それなのに、ちっとも、見向きもしねぇ。
お前は、天使を見守る会だなんて意味分かんねえもんにも攻略キャラ達にも守られて、のほほんと楽しそうに生活してる。
……そう見えたんだ。
だから、腹立っちまって…八つ当たりなのも分かってんだ。
でも見たこともねぇ奴が俺のポジションにいるって思ったら、ムカつくのを抑えられなくなっちまって…」



可愛い顔に眉間をぐっと寄せ、悩ましげに話す彼に、酷く申し訳ない気持ちになる。
やっぱり彼は兄様達を攻略したかったのだろう。
楽しみに入学したら見たことのない子供が2人の弟として可愛がられてて、それで僕に夢中になっているように見えたんだ。
正攻法での攻略も僕といる事でゲームとは違う行動をする兄様達では難しかっただろうし、見守る会はよく分からなかったけど、いつも傍で見守ってくれてるルーの事を言ってるのかもしれない。
彼は僕の執事だからだよって、機会があったらちゃんと教えてあげよう。
チヤホヤされて見えるのも、子供に負担がかからないようにと周りが気にしてくれてるからだ。
事実はそんな取り留めもないものに僕は感じているけれど、特別待遇なのは明らかだし、周りから見ればそう見えるんだろうな。
もっと気をつけて生活しなくっちゃ…。



「あの、僕のせいで上手く攻略出来なくてごめんなさい。
でも、僕、今からでも協力します!
兄様達といる時に、ヘーゼリオさんもさりげなく参加出来るようにしたりとか…。
あ! 僕の家にも遊びに来てくれれば、そこからでも好感度上げれると思います!! 
ヘーゼリオさんがこの後どう動こうと思ってるかにもよりますけど、僕もそれに合わせて兄様達を誘導して…」


「いや、ちょっと待て!!!! 」



慌てたようにヘーゼリオさんが掌を僕に向けるように出して、僕の話に待ったを掛ける。
少し大きくなったヘーゼリオさんの声に、ルーとリディが反応したけど、そこから動かない僕達を見て、まだ様子を見てくれている。
体の体勢が明らかにいつでも間に入れるぞと言っているが…。




「お前、何か勘違いしてねぇか?」


「…? 」


僕に夢中な人の心当たりが兄様達しかない僕は、ヘーゼリオさんの言葉に首を傾げる。



「俺が、いつ、お前の兄貴達を攻略したいと言った」


「……違うのですか? 」


「全然ちげぇ!」



その言葉に僕は心底驚いた。
だって、僕に夢中で、理性も追いつかなくなるほど僕の事が邪魔になる攻略対象者なんて、兄様達しか思いつかない。



「……お前、本当に分かんねぇのか」



僕はびっくり顔のままポカンと口を半開きにして首を横に振る。
そんな僕を見て、ヘーゼリオさんは深く長い溜息を吐き出した。
そして、もう一度僕を見て…また溜息をつく。
こいつ、ダメだわ、とヘーゼリオさんの顔が語っている。
そんなヘーゼリオさんに、何だか納得出来ない気持ちが湧いて思わず口を尖らせた。
だって、本当に意味が分からない。



「……はぁ、もういいわ、本当に余計な心配だったみてぇだな。
突っかかって悪かった。」


「……いえ、誤解が解けたんなら良かったです。」


何だか納得し難いですけど、と付け加えたら、ヘーゼリオさんがふっ、と小さく笑った。
その顔に似合わない、大人な笑い方だった。






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