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6歳の僕♢学園編 3♢
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しおりを挟む褐色の彼の温もりに包まれて暫く、漸く少しずつ頭が回ってきた。
自分自身を落ち着けるように、ゆっくりと深く、数度の深呼吸を繰り返し、そっと彼から身を離す。
しっかりと抱き込んでいた腕は、思いの外すんなりと僕の動きに合わせて力を緩めてくれた。
漆黒の瞳を改めて見つめる。
「リディなの?」
「ああ。本来なら人化出来るようになるのはまだまだ先の事なのだが、どうしても早くお前と話したくてな。
故に身体はまだ未熟なままだが、お前になら我が恥を晒してもいいと思った。」
恥…とはまだ育ちきっていない体の事だろうか。
確かにまだ青年と言うよりは少し幼くは見えるが、それでもミー兄様と同じ年頃のように見える。
立って並べば僕よりも確実に背は高いだろうし、筋肉も細いがしっかりと付いた、僕と違い十分に大人に近い体つきだ。
いつも甘えて擦り寄ってくるリディとのイメージが、目の前の彼と合わない。
しかし、その綺麗な漆黒の瞳も、鈍く紫に光る艶やかな黒髪も確かにリディの色。
黒竜だから褐色肌なのだろうか?
この国では見ない肌の色だ。
「涙も止まったな。良かった。」
大きな掌で僕の右頬をそっと包み、親指で目尻を優しく拭ってくれる。
そう言えば、驚きですっかり涙も悲しい気持ちも引っ込んてしまった。
リディは優しい笑みを浮かべたまま、目尻に涙がない事を確かめると、優しく僕の頬を撫でた。
リディの手は変わらず温かかった。
「レティシオ。
お前が何を恐れているのかは分からないが、我はレティシオが望んでくれるのならこれからもずっと傍にいよう。お前は独りではない。
……まあ、彼等が易々と手放すとは思えんが…」
最後の方は小さ過ぎて聞こえなかったけれど、リディの言葉はとても嬉しかった。
確かにゲームと関わりのないリディならば、僕とずっと一緒にいてくれるかもしれない。
いつかはあの聖域で聖獣達を纒める為に彼の地に戻るのだろうけれど、少なくとも子供のうちはいてくれるはずだ。
人の柵に捕らわれない彼ならば、兄様達のように仕事で離れなくてはいけないという事もない。
自分の心の隙間を埋めるように、リディとこれからも一緒にいらることを嬉しく思ってしまう自分が酷く浅ましいと感じながらも、それでもゲームの事を考えずにいられる彼には安心する。
リディに甘えられているようで、もしかしたら今までも甘えさせて貰っていたのは僕だったのかもしれない。
「ありがとう、リディ。」
「いや、お前が礼を言うことではない。
我がしたくてしている事だ。
願わくば、この先も我を受け入れてくれたら嬉しいのだがな。」
リディが苦笑混じりに呟いた最後の言葉には、僅かに懇願が混じっているように聞こえた。
リディの事はすでに受け入れているつもりだったけれど、僕の思っているのと違う意味なのかもしれない。
聖獣は人とはものの考え方や捉え方も違うと聞くし。
「黒帝様に、リディが人化出来るようになった事、報告に行かなくちゃね。」
今はミー兄様がいないから、学園にも帰ってくるまで行かないつもりで、そうするとリディも学園長室で黒帝様に会え無くなるから、そう黒帝様には伝えて貰っていたけれど、人化が聖獣の中で何かの分岐になるのなら僕1人でもリディと一緒に報告に行った方がいいかもしれない。
「……いや、暫く人化の事は黙っていようと思う。
ここでもレティシオ、お前の前でだけこの姿になろう。
そもそも未熟なこの姿を晒すのは良くない事だ。
それに人化できるようになった事が知れれば、今以上にお前と離されてしまいそうだからな。
お前も、この事は誰にも言わず秘密にしてくれないか?」
人化できる事が分かったら、直ぐに聖域に帰らなくてはならなくなるという事だろうか?
それとも成長途中の姿の人化では危険があるのだろうか。
兄様達にも秘密と言うのは初めての事だけど、リディが僕の側にいようとそう言ってくれてるのは分かるから。
リディがそう言うなら、僕も彼を守らなくては。
「うん、分かったよ。誰にも言わない。」
「ありがとう。」
リディが笑ってくれたのが嬉しい。
リディにこれからも安心してここで暮らして貰えるように、僕もできる限りの事はしてあげたい。
家族とも、仲間とも、生まれた場所からも離れ、僕と共にいてくれるのだから。
「ねえ、リディ。リディの事教えてくれる?
教えられない事はそう言ってくれていいから。
僕もリディとずっと話したかったんだ。」
「勿論だ。これからも我と2人で話す時間を作ってくれるか?」
「うん!」
これからの約束が嬉しい。
これからも一緒にいるって約束。
兄様達には口に出来ない約束。
胸がまた少し痛んだ気がしたけれど、僕は気が付かない振りをして、ルーが夕食に呼びに来るまでの間、リディと手を繋いだままソファーに隣合って座り、今までに感じたことや、聖獣との暮らし、聖域のお気に入りの場所の話なんかを聞いた。
リディから見たあの森もとても素敵で、許されるならもう一度あそこに行ってみたいと思った。
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