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7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢
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しおりを挟む左右に温もりを感じて、深く沈んだところから、徐々に意識が浮上していく。
とても安らぐ、大好きな温もり。
そっと目を開けると、右に僕に腕枕をしながら僕の頭を抱え込む様に寄り添うディー兄様と、左に僕のお腹に手を回し抱き込む様に寄り添うミー兄様が寝ていた。
兄様達から目線を周りの様子に移すと、ここが僕の執務室の続き部屋に整えられた仮眠室である事が分かった。
個人に充てられた執務用の部屋に必ず付いているここは、多忙な職務を熟す上役達に与えられた、福利厚生のひとつだ。
人によってはここで仮眠を取りながら、何日も帰宅せずに執務室で仕事をし続ける。
僕も魔道具に熱中し過ぎたり、頑張りすぎていると周りに判断されると、半ば強制的にここで仮眠を取らされる。
そんな僕の仮眠室のベッドは、何故か備え付けの物ではなく、上等なキングサイズのものだ。
窓から差し込む陽射しはまだ明るい。
僕はどうしてここで寝ているんだっけ…。
「レティ、目が覚めたのか?」
僕が目覚めた気配でディー兄様が目を覚ましたらしい。
騎士であるディー兄様は、とても人の気配に敏感で、夜中に僕が目を覚ましてしまった時にもすぐに気がついてくれる。
ディー兄様が、抱え込んでいた僕の頭を優しく撫でながら瞼や額、頭部に口付けてくれる。
まるで僕を慰める様に。
ディー兄様の久しぶりの温もりに、自然と甘えるように擦り寄ると、反対側のミー兄様の手がお腹から僕の頬に伸び、その親指が柔く僕の目尻を拭う。
そこで初めて自分が涙している事に気が付いた。
「レティ、王からの話は断っても良いんだよ。
驚かせてごめんね?」
ミー兄様が涙を拭いながら、僕に謝ってくる。
きっと父様たちと一緒に僕の事を考えて出した結論が、僕に嫌な思いをさせたと思っているんだろう。
ディー兄様の頭を抱え込む力が少し強くなり、涙を拭い終わったミー兄様も腕をお腹に再度回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。
ああ、やっぱりこの温もりにずっと傍にいて欲しい、とつい抱え込むディー兄様の胸元に擦り寄り、お腹にあるミー兄様の腕を抱きしめてしまう。
兄様達と一緒にいられない時間に慣れてきたつもりだったけど、結局はつもりで、兄様達と離れる事に慣れるなんて出来そうもないと気がついてしまった。
このままで居られるはずはないのに。
「ディー兄様、ミー兄様、お仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、ちょうど今日の訓練は終わりだ。」
「私も、今日の仕事はもう終わりですよ。」
それはきっと、兄様達の優しさから出た嘘だけど、僕のために傍に居ることを選んでくれた事が凄く嬉しい。
浅ましいと理解しながらも、喜んでしまう気持ちを抑えられない。
「ありがとうございます、ディー兄様、ミー兄様。」
ディー兄様の胸元からそっと離れて、兄様達へ順番に目を合わせるようにしながら感謝を告げる。
僕の心からの気持ちを。
二人は優しく微笑んで、順にそっと唇にキスをくれた。
唇に数度触れ、軽く啄むような優しいキス。
兄様達から愛情を伝えられているような、そんな淡く優しい触れ合いだった。
それからしばらくを兄様達と過ごして気持ちが落ち着いてから、陛下のお話が嫌だった訳では無いと告げ、翌日きちんとお受けする旨を伝えに行った。
どうやら僕は、陛下達の前で気を失ってしまったらしく、翌日に会いに行った時には、それはもう陛下も殿下も気落ちしていらした。
自分たちのせいで僕が倒れたと思ったらしい。
兄様達と仮眠室から出てきた時の、ルーの顔色は珍しく誰から見ても顔面蒼白で、リディとクレッグさんの目には薄らと涙の膜が張っていた。
とても心配をかけたのが分かって、三人にも心からの謝罪とありがとうを告げた。
翌日は家の皆から、暫く家で休養するよう言われたのを何とか宥めて出仕したものの、結局殆どの時間を仮眠室での休憩と、色んな人から執務室へと届けられたお見舞いの品の確認と、ルーとクレッグさんが断れない少数の人達とのお見舞いという名のお茶の時間に費やした。
この日も兄様達はずっと傍にいてくれた。
兄様達といる間だけは、この世界への漠然とした不安や焦燥や何かからは離れられ、でもその分ますます兄様達が居ないと駄目になっている気がする自分への嫌気が増した。
そんな風にゆっくりと仕事をする時間を増やしながらも、相変わらず過保護に拍車のかかった気がする周りに、至らない自分で申し訳ないと思いながら過ごして1週間ほど。
ヘジィが遠征から王都に帰ってきたと報告を貰った。
あの日、ヘジィの所在を聞いた魔道士団第2小隊の隊長さんが、僕がヘジィを探していた事を覚えてくれていて、ヘジィが帰還した事の報告と一緒に良ければヘジィを僕の執務室に出向かせるとまで言ってくれたらしい。
クレッグさんにそれを聞いてすぐさま、ヘジィの都合の良い時にお願いしたいと伝えて欲しい、とお願いした。
クレッグさんはすぐに笑んで首肯してくれたので、上手に予定の調整をしてくれるだろう。
本当に、僕には勿体ない、とても優秀な人なのだ。
僕は今までに無いほどヘジィと会えるのを心待ちにしていて、そんな僕を見ている皆がどんな風に思っていたのか、なんて考える事もなく、それに気付く事もなかった。
その時の僕は、ヘジィにどう伝えるのか、それを考えるのに必死だったから。
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