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7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢

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翌日ヘジィが執務室に来てくれたので、執務室の最奥にある小さめのソファーセットの方でお互い向かい合って座り、ルーに入れてもらった紅茶を飲みながら、ヘジィに相談したかった事を順番に話した。
プライベートの相談をしたいからと、リディやルー、クレッグさんにもこちらには来ないようお願いし、同時に遮音効果のある結界を魔力を通すと指定範囲に張れる魔道具をテーブルに置き起動した。
完全内密モードだ。
この魔道具は、学園に在学中に学園長さんとお話ししてる時に出来た物で、今は各個人用執務室や議会場、王族や一部貴族の屋敷の寝室や応接室など、様々な所で活用されている。


だから、僕は声量の心配もなく、ソファーセットと執務机との間にある衝立のお陰で口を読まれる心配もなく、ヘジィには事のあらましから不安に思っていると言うことまで全部話したんだ。
これを聞いたらヘジィも不安になるかもしれないと心配する気持ちもあったけど、知らないよりも知っていて対策なり解決策なりを一緒に考えた方がいいと思った。
だってこの世界の主人公はヘジィだ。
僕なんかよりも、ずっとこの事はヘジィにとって深刻な問題のはずだと思ったから。


それなのに。



何故か僕の話を聞き終えはヘジィは、酷く疲れたような呆れたような顔で、深ーいため息を吐いた。
あ、眉間の皺まで揉み出した。



「ヘジィ?」

「──何かと思ったら今頃そんな話か…。」

「え?ごめん小さくて聞こえなかった、もう一度言ってもらってもいい?」

「何でもねぇよ。
それにお前が話してる事も、別に大した問題でもねぇ。」

「え!?」


シナリオと違うことが起こって一番影響を受けるはずのヘジィの言葉に、一瞬理解が追いつかなかった。
今、問題ないって言ったの…?


「何で?だって、ゲームではこの時期にムーラン皇子がこの国に来るなんて無理なはずなのに…。
これじゃヘジィのこれからのシナリオが変わってしまうかも…。」


ムーランは、ムーラニアン第一皇子のゲームでの愛称だ。
ムーラニアン皇子との好感度が一定値を超えると、主人公に愛称呼びを許してくれるようになる、ゲーム攻略時のひとつの目安になっていた。


「なあ、レティシオ。俺はな、学園でお前に突っかかってくまで、そりゃあ必死にゲーム通りに、シナリオ通りに攻略しようとしてた。
主人公のチート能力ってやつも、汚ぇと分かってて使った。
それでも思い通りにはいかなくて、八つ当たりなのも承知でお前に詰め寄った。
そんで、お前と話して、そっから色々考えたんだよ。
ここは確かにゲームと同じ世界だ。
設定だって一緒だし、キャラだって同じ。
でもな、俺はもうここをゲームだとは思ってねぇよ。
俺もお前もここにいて、生きて生活して、色々考えて悩んで他人から影響受けたりして、そうやって成長してる。
そんで、それはゲームに出てきてたキャラ達だって同じだ。
同じように生きて、生活して、学んで、考えて、悩んで、そんで誰かからの影響を受けてる。
ゲームの世界かもしんねぇけど、俺達もあいつ等も、もうゲームのキャラじゃねぇよ。」


そう言って僕の頭を少し乱暴に撫でてきたヘジィは、少し苦しそうな表情の中で決意の灯った瞳をしていた。


「だから、何も心配ねえよ。
ゲームと時期が違うかろうと、就いてる仕事がおかしかろうと、俺もお前もこの先ちゃんとここで生きていける。
そんで、ゲームとは違う未来も望めば選べる。
お前も、ゲームに沿わないなんて気にしないで好きに生きろよ。
そこに罪悪感なんてもんも感じる必要ねぇ。
欲しいもんは欲しいって、声に出して掴みに行け。
お前には叶える力もあるし、叶えてくれる相手もいる。
俺が保証してやるよ。」


ヘジィの手は変わらず雑に頭を撫でて来るけど、声は酷く優しかった。
なんだろう、とても懐かしく感じる。



「だから、こうして俺を特別に呼び出すとか、訪ねてくるとかするな。
頼むから別の方法を取ってくれ!」



僕が不確かな懐かしさを感じてぼんやりヘジィを見上げていたら、突然顔をクシャッと歪めて、低い声でそう言われた。
さっきまで感じてた不思議な感覚なんて、一瞬で吹き飛んでしまう位の、低い声だった。
ヘジィのこの可愛い顔と、普段は少し高めの声からは想像もつかない、何処から出てるのか分からない声だった。
思わずビクッと体を跳ねさせてしまった程。


「ご、ごめんヘジィ。上官の僕がヘジィに個人的に会いに行くのはヘジィの立場にも良くないとは思ったんだけど、どうしても話したくて…。」


悪いのは全面的に僕なので、素直に謝罪すると、ヘジィは僕から手を離してソファーの背に深く凭れ、また深ーいため息を吐いた。


「いや、連絡も話もいつでもしてくれていいんだ。
いいんだけど…──ホントこいつが関わると嫉妬やら牽制やら、おまけになんだあの会。何で卒業してからの方が増殖してんだ。そのうち王宮乗っ取るぞあれ、大丈夫なのかよ…。」


ヘジィが天井を仰いで顔の半分を手で覆ってしまって、最初の方しか聞き取れなかったけれど、本当にいつでも連絡していいんだろうか?


「ヘジィ、本当にいつでも連絡したり、話したいって行ってもいいの?」

「んあ?…ああ、いいんだけど…いや、やっぱ不味ぃか…?
おい、個人で簡単に連絡取れる方法ねぇのかよ。
その……なるべくお前の周りや俺の周りにバレねぇ方法。」



ヘジィ個人はいいと思ってるって事は、やっぱり立場の違いとかが問題なのかも。
貴族としての家格も、仕事面での立場も僕の方が高いから、必然的に何かあれば僕ではなくヘジィの方が弱い立場になってしまうもんね。
つまり、何かで責められるとしたら言いにくい僕ではなく、言いやすいヘジィにって事になってしまう。


「うーん…こっちにもケータイがあれば良いのにね…。
うん…うん、ちょっと僕、そんな感じで個人通信取れる携帯型の魔道具考えてみるよ!」

「えっ」

「うん、今までは鳥を飛ばしていたけど、手元にあっても魔力を電波の代わりに飛ばしあって通信できる様にすれば、ヘジィと周りを気にせずいつでも連絡取れるようになるよね!
僕、頑張る!」



ヘジィと話したお陰で、僕の悩んでた事も、そこまで大変な事じゃ無いのかもって少し思えた。
考え込んでしまうと引き摺ってしまう僕は、なかなかヘジィみたいに切り替えて考えられないかもしれないけど、いつでもヘジィと話せればそのうちゲームと全く違う未来が来ても何でも無いって思えるようになるかもしれない。
この世界で、ヘジィと知り合えて本当に良かったと、この奇跡のような幸運に僕は心から感謝した。






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