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初恋
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春
桜舞う春の日、僕は君に恋をした。
入学式で君を初めて見た時、僕は感じたことのない違和感を感じた。大きく茶色い眼、かき分けられた髪、通った鼻筋。こんな気持ちになったことがない。僕はそこでは自分が恋に落ちたことを知ることはできなかった。ただ、恥ずかしいほどに見惚れていたのだ。
中学からの同級生と同じクラスになり、入学直後にある特有のホームルーム前の親睦タイムだ。僕は数人のクラスメイトと何部に入るだの、どこ中だのという定番の会話をしていった。そんな時間が担任の先生が入ってきて終わってしまった。
ここからホームルームである。初回の今日はこれもまた定番の出席番号順での自己紹介が始まった。一発ギャグをする者、中学での凄い経歴をいう者、人それぞれだった。そして僕の順番が回ってきた。無難に好きな食べ物と趣味を言って終わった。そして彼女の番になった。僕は彼女を意識しすぎて直視できなかった。でも、彼女の好きな歌手と食べ物を覚えた。サウシードックとオムライスだ。僕はそれを脳にタトゥーぐらいに焼き付けた。
僕は部活に迷っていた。まわりはどんどん部活を決めている。決めあぐねている僕はもういいかなと思い始めて、部活には入らないことに決めた。
放課後、自分の教室と同じ階の美術室をふと覗いた。そこには、彼女がいた。美しい彼女に少し見惚れていると、彼女に気づかれ照れながらその場を後にした。
夏
強い日差しが照りつける中、僕たちはエアコンの効いてない教室で学園祭の準備をしていた。
~あれから僕はクラスラインから学祭の準備班が一緒になったからという口実で彼女のLINEを交換した。だが、交換初日にLINEした程度でその先に進めずにいた。~
僕は汗を拭いながら段ボールを切っていた。彼女は僕が切った段ボールにペンキで色を塗っていた。僕は彼女に話しかけたくて仕方なかった。だが、どんな会話をしたらいいのか分からなかった。お互いに沈黙を保っていた。彼女は沈黙に耐えきれなくなったのか、飲み物を買ってくると教室を出て行った。僕は大規模な脳内会議を開いた。どんな話がいいのだ?どんな話が会話になるのだ?と会議は膠着状態だった。たった一つの記憶が脳内で再生された。
"女の子との会話に困ったら、おにぎりの具何が好き?ぐらいの話でいいんだよ"
父の言葉だ。DNAには逆らえず、その技を使った。
「突然なんだけどさ、おにぎりの具って何が好き?」
「うーん。ツナマヨかな。」
「俺もツナマヨすき!」
「えー!そうなの!」
「うん!コンビニでおにぎり買うとしたら真っ先にいっちゃうね笑」
「私も!私たち気合うかもね!」
父よ、偉大なる父よ、ありがとうございます。
この後、おにぎりの話で自信をつけた僕は好きな歌手や好きな食べ物などについて、作業を放り出して語り合った。彼女のくしゃっと笑う笑顔に見惚れながら僕らは陽が落ちるまで語り合った。
PM6:48、烏の声がよく聞こえる頃まで話し込んでしまった。完全下校のアナウンスがなると、僕らは片付けに入った。
帰り際、勇気を出して彼女に夏休みの予定を聞いてみた。
「夏休みは何かするの?」
「うーん。全然予定決まってないなー笑
そっちこそ何か予定ないの?」
「俺なんて何にもないよ笑。帰宅部だし。」「へー。じゃあさ、私に勉強教えてよ。学年2位さん♪」
「べ、別にいいけど、、、」
「じゃあ決まりね!また日にちはLINEするね!」
「う、うん。わかった。」
「じゃ、また明日ね。」
「うん。また明日。」
人生で最高の日曜日だった。こんなにも月曜日が来ることが嬉しいと思うことが人生であるだろうか。いや、ない。明日は何を話そうかと考えているうちに、眠りに落ちた。
それから1週間後の学園祭。
僕は中学の頃からの同級生と学園祭を周った。
彼女はいろんな男子から一緒に周ろうと声を掛けられていたが先着がいると断ったそうだ。
学園祭も終盤に近づき、校庭では花火が始まる時間。普段は使用が禁止されているスマホが鳴った。彼女からだ。
「今、教室来れる?」
僕はすぐに返信した。
「行けるけど、どうしたの?」
「じゃすぐ来て!」
僕は友人にトイレに行ってくると嘘をつき教室に向かった。
「どうしたの?急に呼び出して?」
「あのさ、一緒に写真撮ろ!」
「俺なんかでいいの?」
「君がいいの!」
僕は写真を撮ろうと彼女の横に並び腰をかがめる。シャッターを切るその時、花火が上がるのと同時に僕の頬は柔らかい感触を感じた。突然のことに驚き、彼女の方を見る。彼女はいたづらに笑いながら言う。
「しちゃったね。」
教室の窓から見える花火が写真のように止まって見えた。
今日は彼女と約束した夏休みの勉強会。
僕の心臓は彼女の家に近づくにつれ、勝手にBPMを上げた。
彼女の家に着きインターホンを鳴らす。玄関のドアが開く。
「いらっしゃい!さ!入って入って!」
「お、お邪魔します。」
僕は2階の彼女の部屋に通された。
「なにー笑緊張してんの?笑」
「そりゃするよ。女子の部屋なんて入ったことないし。」
「そうだよね笑。君にそんな人いないもんね笑」
「バカにすんなよ。確かに女子の友達はいないけど。」
「飲み物取ってくるからちょっと待ってて。」
初めて女の子の部屋に入った。白を基調とした綺麗な部屋。壁には制服がかけられていて、ベットの上には大きめのぬいぐるみが2つ。勉強机と、多分だか普通の部屋だ。彼女がオレンジジュースを持って戻ってきた。そこから15分ほど雑談をして、勉強会に移った。
勉強会が始まって1時間くらい。
「あーあ。もう飽きちゃったー。」
「まだ始めて1時間くらいだろ。頑張れよ。」
「やーだー。飽きた飽きた飽ーきーた。」
「高校生なんだから、小学生みたいに駄々こねない。」
「あっ!そうだ!気分転換にアイス買いに行こ!」
「だめだめ。あと1時間集中するんだから。」
「お願い!お願い!アイス食べたら頑張るから!」
「しょうがないな。ほら、行くよ。」
「やったあ!ありがとう!」
僕らは二人で近くのコンビニまでアイスを買いに行った。
気温34℃の中、コンビニに着いた。入るとそこは天国のように冷房が効いていた。
そして他愛ない話をしながらアイスを買い、彼女の家に戻った。
時刻は午後7時前。僕は彼女の家を出て帰路についた。今日も彼女とはただただ楽しくお喋りしただけだった。彼女への想いが募っていくばかりだ。彼女の心の内を考える蒸し暑い夜だった。
秋
木枯らしが吹き、紅葉が真朱に染まる頃。高校二年になり、修学旅行に来ていた。二年になっても彼女とは同じクラスで、僕は主に友人と、彼女は二年から同じクラスになった同じ部活の仲間と行動を共にしていた。1日目は京都府内のTHE修学旅行というスポットを周った。2日目、僕らは清水寺に来ていた。そこでは自由時間が設けられ生徒たちは自由に清水寺内を周ることができた。僕は友人と早めに清水の舞台を周って、清水坂のお土産店をみていた。
ふと、裏路地を見ると彼女の姿があった。僕は友人が土産店に入っていくのを見計らって、彼女の後を追った。彼女も一人でいるようだった。後ろから彼女をみていると、僕の前にいた別の高校の修学旅行生二人組が彼女に近づいて行った。そう、所謂ナンパだ。彼女に声をかける糞野郎ども。彼女は如何にも拒絶している。彼女を助けたいと強く思うが、体が震えていた。でもここで助けなければ漢じゃない。僕は丹田に力を込めながら糞どもに近づいていった。
「その娘、俺の彼女なんだけど。」
「チッ、こいつ彼氏持ちかよ。」
「行こうぜ。」
すぐに糞どもは去っていった。
「あっ、ありがとう。」
「友達困ってたら、助けるのが筋でしょ。」
「今のかっこよかったよ。」
「裏路地とか危ないから、友達といな。友達来るまでそばにいるから。」
「ありがとう。」
その後、彼女は友達と、僕は友人と合流して集合時刻ギリギリになりながらも、集合場所に間に合った。
3日目は何事もなく終わった。
最終日に悲劇は起きた。僕らの高校の修学旅行には毎年恒例のイベントとして、一人の男子が一人の女子に向かって告白をするイベントだ。僕は今年は誰が誰にするのだろうとドキドキしていた。
告白する側で出てきたのは、バスケ部のイケメン高身長キャプテン。彼はテストでは毎回学年1位。全女子の憧れの的だ。そんな彼が呼び出した女子は、彼女だった。そして僕の目の前で彼らは恋人同士になった。まわりの歓声とは裏腹に僕は海の底に沈められたようになった。
僕は家に着いた後も今日の事実に目を向けていなかった。僕はただただ呆然としていた。
次の日、やっと現実を見て後悔が込み上げてきた。何度も何度もチャンスはあった。僕の零細な自尊心と巨大な自己否定が僕を締め上げる。それから、彼女との距離を大きくした。
冬
天気予報で気温が氷点下ほどに表示される頃。塾からの帰り道、最寄り駅近くのカフェに入る。コーヒーは飲めないので温かいカフェオレを買って席に着く。あれから僕は彼女のことを忘れて勉強に励んでいた。インスタを開くと、いくつかのストーリーがあがっている。いくつかみているうちに、彼らの5ヶ月記念のストーリーが目に入る。それをすぐにタップして変えた。
時間を確認すると乗るはずの電車が後3分で着く。カフェオレを飲み切り、駅に走って向かう。
ギリギリ電車に乗れて安堵した。5つ駅を過ぎ自宅の最寄駅に着き、電車を降りる。
駅を出て帰路につく。月の光が差し込みながら雪降る中、帰り道にある公園を見ると、一人の女性が寒そうな格好でブランコに座っていた。僕の良心が働きその女性に話しかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
その女性は顔を隠しながら泣いている。
「あ、あの!寒くないですか?」
震えた声で言う
「だ、大丈夫です。」
絶対にそんなわけない。と思った僕は自分のダウンを女性に渡した。
「これ、着てください。流石にその露出だと今日の気温じゃ死んじゃいます。」
その女性はまた震えながら啜り泣く。
「ありがとうございます。」
どこかで聞いたことのある声。かき分けられた髪、通った鼻筋。ここで女性が彼女だと気づく。
「えっ、ど、どうしてここに?」
「ぐすっ、今気づいたの?」
「いや、そんな格好見たことなかったから。っか、どうしたの?」
「振られた。」
「彼氏に?」
首を縦に振る。そして彼女は僕に抱きついた。
そして、僕の胸の中で子供のように泣いた。
僕はただ、彼女の頭を撫でていた。
落ち着いた彼女は、ことの顛末を話してくれた。彼氏に二股されてたこと。それをきっかけに"お前はもう飽きた"と言われて振られたこと。その時、僕は怒りのあまりに言葉を失うと同時に、彼女に今恋仲がいないという事実に喜んだ。その日は彼女を励まして、彼女を家まで送った。
次の日彼女は学校を休んだ。僕はクラスで唯一最寄りが同じだったため、彼女にプリントを届けるよう担任から頼まれた。
コンビニに寄って、ポカリとinゼリーと彼女の好物のカステラを買って彼女の家に向かった。
インターホンを鳴らす。彼女の母が出迎えてくれた。昨日も顔を合わせていたので、すんなり彼女の部屋に通してくれた。
彼女は寝ていた。プリントを取り出して机に置く。寝ている顔さえも綺麗な彼女。僕は彼女の寝顔をしばらく眺めていた。
彼女が眼を覚ますと、驚いて言った。
「どうしているの?」
「プリント届けにきたんだよ。あと、これ。好きだろうなって思って。」
「あ、ありがとう。」
「体調は大丈夫?」
「少しよくなった。」
「そっか。よかった。」
しばらく沈黙に包まれる。
彼女が僕に聞く。
「どうしてそんなに優しいの?」
僕は少し考えて応える。
「好きだからかな。君が。」
僕と彼女は頬を赤らめた。
「じゃ、帰るね。」
僕が鞄を持ち部屋を出ようとすると、制服の袖を彼女が掴んだ。
「まっ、まって。あの時は本当にありがとう。」
「うん。じゃあね。」
と言うと僕は彼女の部屋を後にした。
次の日、彼女は元気に登校していた。彼女の笑顔が見れるだけで心から嬉しかった。
春
僕らはあれから話すことなく三年になり、受験を終えて、卒業式を迎えた。
桜が舞い、鶯が鳴く。
式を終え、最後のホームルームも終え、クラスでは最後の挨拶があちこちで行われていた。スマホをふと見ると一件のLINEが入っていた。
「公園で待ってる。」
彼女からだ。僕は帰り道にあの公園に向かった。
春風がふき、月が照らす。
公園に着くと、あの日のと同じように彼女がブランコに座っていた。その彼女に近づいていく。
「あっ、来てくれてありがとう。」
「うん。」
なんとも言えない空気に包まれる。
「あのさ。」
彼女が口火を切った。
「私の気持ち、気づいてた?」
「うん。けど、関係を壊したくなくて言い出せなかった。だけど、今なら言える。いや、言わせて欲しい。井上さん。いや、咲月さん。僕と付き合ってください。」
彼女は涙を流す。
「遅いよ、バカ。」
あの日と同じように咲月は僕に抱きつく。彼女が流した雨は約一年の歳月を経て、二人の間に虹をかけた。
桜舞う春の日、僕は君に恋をした。
入学式で君を初めて見た時、僕は感じたことのない違和感を感じた。大きく茶色い眼、かき分けられた髪、通った鼻筋。こんな気持ちになったことがない。僕はそこでは自分が恋に落ちたことを知ることはできなかった。ただ、恥ずかしいほどに見惚れていたのだ。
中学からの同級生と同じクラスになり、入学直後にある特有のホームルーム前の親睦タイムだ。僕は数人のクラスメイトと何部に入るだの、どこ中だのという定番の会話をしていった。そんな時間が担任の先生が入ってきて終わってしまった。
ここからホームルームである。初回の今日はこれもまた定番の出席番号順での自己紹介が始まった。一発ギャグをする者、中学での凄い経歴をいう者、人それぞれだった。そして僕の順番が回ってきた。無難に好きな食べ物と趣味を言って終わった。そして彼女の番になった。僕は彼女を意識しすぎて直視できなかった。でも、彼女の好きな歌手と食べ物を覚えた。サウシードックとオムライスだ。僕はそれを脳にタトゥーぐらいに焼き付けた。
僕は部活に迷っていた。まわりはどんどん部活を決めている。決めあぐねている僕はもういいかなと思い始めて、部活には入らないことに決めた。
放課後、自分の教室と同じ階の美術室をふと覗いた。そこには、彼女がいた。美しい彼女に少し見惚れていると、彼女に気づかれ照れながらその場を後にした。
夏
強い日差しが照りつける中、僕たちはエアコンの効いてない教室で学園祭の準備をしていた。
~あれから僕はクラスラインから学祭の準備班が一緒になったからという口実で彼女のLINEを交換した。だが、交換初日にLINEした程度でその先に進めずにいた。~
僕は汗を拭いながら段ボールを切っていた。彼女は僕が切った段ボールにペンキで色を塗っていた。僕は彼女に話しかけたくて仕方なかった。だが、どんな会話をしたらいいのか分からなかった。お互いに沈黙を保っていた。彼女は沈黙に耐えきれなくなったのか、飲み物を買ってくると教室を出て行った。僕は大規模な脳内会議を開いた。どんな話がいいのだ?どんな話が会話になるのだ?と会議は膠着状態だった。たった一つの記憶が脳内で再生された。
"女の子との会話に困ったら、おにぎりの具何が好き?ぐらいの話でいいんだよ"
父の言葉だ。DNAには逆らえず、その技を使った。
「突然なんだけどさ、おにぎりの具って何が好き?」
「うーん。ツナマヨかな。」
「俺もツナマヨすき!」
「えー!そうなの!」
「うん!コンビニでおにぎり買うとしたら真っ先にいっちゃうね笑」
「私も!私たち気合うかもね!」
父よ、偉大なる父よ、ありがとうございます。
この後、おにぎりの話で自信をつけた僕は好きな歌手や好きな食べ物などについて、作業を放り出して語り合った。彼女のくしゃっと笑う笑顔に見惚れながら僕らは陽が落ちるまで語り合った。
PM6:48、烏の声がよく聞こえる頃まで話し込んでしまった。完全下校のアナウンスがなると、僕らは片付けに入った。
帰り際、勇気を出して彼女に夏休みの予定を聞いてみた。
「夏休みは何かするの?」
「うーん。全然予定決まってないなー笑
そっちこそ何か予定ないの?」
「俺なんて何にもないよ笑。帰宅部だし。」「へー。じゃあさ、私に勉強教えてよ。学年2位さん♪」
「べ、別にいいけど、、、」
「じゃあ決まりね!また日にちはLINEするね!」
「う、うん。わかった。」
「じゃ、また明日ね。」
「うん。また明日。」
人生で最高の日曜日だった。こんなにも月曜日が来ることが嬉しいと思うことが人生であるだろうか。いや、ない。明日は何を話そうかと考えているうちに、眠りに落ちた。
それから1週間後の学園祭。
僕は中学の頃からの同級生と学園祭を周った。
彼女はいろんな男子から一緒に周ろうと声を掛けられていたが先着がいると断ったそうだ。
学園祭も終盤に近づき、校庭では花火が始まる時間。普段は使用が禁止されているスマホが鳴った。彼女からだ。
「今、教室来れる?」
僕はすぐに返信した。
「行けるけど、どうしたの?」
「じゃすぐ来て!」
僕は友人にトイレに行ってくると嘘をつき教室に向かった。
「どうしたの?急に呼び出して?」
「あのさ、一緒に写真撮ろ!」
「俺なんかでいいの?」
「君がいいの!」
僕は写真を撮ろうと彼女の横に並び腰をかがめる。シャッターを切るその時、花火が上がるのと同時に僕の頬は柔らかい感触を感じた。突然のことに驚き、彼女の方を見る。彼女はいたづらに笑いながら言う。
「しちゃったね。」
教室の窓から見える花火が写真のように止まって見えた。
今日は彼女と約束した夏休みの勉強会。
僕の心臓は彼女の家に近づくにつれ、勝手にBPMを上げた。
彼女の家に着きインターホンを鳴らす。玄関のドアが開く。
「いらっしゃい!さ!入って入って!」
「お、お邪魔します。」
僕は2階の彼女の部屋に通された。
「なにー笑緊張してんの?笑」
「そりゃするよ。女子の部屋なんて入ったことないし。」
「そうだよね笑。君にそんな人いないもんね笑」
「バカにすんなよ。確かに女子の友達はいないけど。」
「飲み物取ってくるからちょっと待ってて。」
初めて女の子の部屋に入った。白を基調とした綺麗な部屋。壁には制服がかけられていて、ベットの上には大きめのぬいぐるみが2つ。勉強机と、多分だか普通の部屋だ。彼女がオレンジジュースを持って戻ってきた。そこから15分ほど雑談をして、勉強会に移った。
勉強会が始まって1時間くらい。
「あーあ。もう飽きちゃったー。」
「まだ始めて1時間くらいだろ。頑張れよ。」
「やーだー。飽きた飽きた飽ーきーた。」
「高校生なんだから、小学生みたいに駄々こねない。」
「あっ!そうだ!気分転換にアイス買いに行こ!」
「だめだめ。あと1時間集中するんだから。」
「お願い!お願い!アイス食べたら頑張るから!」
「しょうがないな。ほら、行くよ。」
「やったあ!ありがとう!」
僕らは二人で近くのコンビニまでアイスを買いに行った。
気温34℃の中、コンビニに着いた。入るとそこは天国のように冷房が効いていた。
そして他愛ない話をしながらアイスを買い、彼女の家に戻った。
時刻は午後7時前。僕は彼女の家を出て帰路についた。今日も彼女とはただただ楽しくお喋りしただけだった。彼女への想いが募っていくばかりだ。彼女の心の内を考える蒸し暑い夜だった。
秋
木枯らしが吹き、紅葉が真朱に染まる頃。高校二年になり、修学旅行に来ていた。二年になっても彼女とは同じクラスで、僕は主に友人と、彼女は二年から同じクラスになった同じ部活の仲間と行動を共にしていた。1日目は京都府内のTHE修学旅行というスポットを周った。2日目、僕らは清水寺に来ていた。そこでは自由時間が設けられ生徒たちは自由に清水寺内を周ることができた。僕は友人と早めに清水の舞台を周って、清水坂のお土産店をみていた。
ふと、裏路地を見ると彼女の姿があった。僕は友人が土産店に入っていくのを見計らって、彼女の後を追った。彼女も一人でいるようだった。後ろから彼女をみていると、僕の前にいた別の高校の修学旅行生二人組が彼女に近づいて行った。そう、所謂ナンパだ。彼女に声をかける糞野郎ども。彼女は如何にも拒絶している。彼女を助けたいと強く思うが、体が震えていた。でもここで助けなければ漢じゃない。僕は丹田に力を込めながら糞どもに近づいていった。
「その娘、俺の彼女なんだけど。」
「チッ、こいつ彼氏持ちかよ。」
「行こうぜ。」
すぐに糞どもは去っていった。
「あっ、ありがとう。」
「友達困ってたら、助けるのが筋でしょ。」
「今のかっこよかったよ。」
「裏路地とか危ないから、友達といな。友達来るまでそばにいるから。」
「ありがとう。」
その後、彼女は友達と、僕は友人と合流して集合時刻ギリギリになりながらも、集合場所に間に合った。
3日目は何事もなく終わった。
最終日に悲劇は起きた。僕らの高校の修学旅行には毎年恒例のイベントとして、一人の男子が一人の女子に向かって告白をするイベントだ。僕は今年は誰が誰にするのだろうとドキドキしていた。
告白する側で出てきたのは、バスケ部のイケメン高身長キャプテン。彼はテストでは毎回学年1位。全女子の憧れの的だ。そんな彼が呼び出した女子は、彼女だった。そして僕の目の前で彼らは恋人同士になった。まわりの歓声とは裏腹に僕は海の底に沈められたようになった。
僕は家に着いた後も今日の事実に目を向けていなかった。僕はただただ呆然としていた。
次の日、やっと現実を見て後悔が込み上げてきた。何度も何度もチャンスはあった。僕の零細な自尊心と巨大な自己否定が僕を締め上げる。それから、彼女との距離を大きくした。
冬
天気予報で気温が氷点下ほどに表示される頃。塾からの帰り道、最寄り駅近くのカフェに入る。コーヒーは飲めないので温かいカフェオレを買って席に着く。あれから僕は彼女のことを忘れて勉強に励んでいた。インスタを開くと、いくつかのストーリーがあがっている。いくつかみているうちに、彼らの5ヶ月記念のストーリーが目に入る。それをすぐにタップして変えた。
時間を確認すると乗るはずの電車が後3分で着く。カフェオレを飲み切り、駅に走って向かう。
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「あの、大丈夫ですか?」
その女性は顔を隠しながら泣いている。
「あ、あの!寒くないですか?」
震えた声で言う
「だ、大丈夫です。」
絶対にそんなわけない。と思った僕は自分のダウンを女性に渡した。
「これ、着てください。流石にその露出だと今日の気温じゃ死んじゃいます。」
その女性はまた震えながら啜り泣く。
「ありがとうございます。」
どこかで聞いたことのある声。かき分けられた髪、通った鼻筋。ここで女性が彼女だと気づく。
「えっ、ど、どうしてここに?」
「ぐすっ、今気づいたの?」
「いや、そんな格好見たことなかったから。っか、どうしたの?」
「振られた。」
「彼氏に?」
首を縦に振る。そして彼女は僕に抱きついた。
そして、僕の胸の中で子供のように泣いた。
僕はただ、彼女の頭を撫でていた。
落ち着いた彼女は、ことの顛末を話してくれた。彼氏に二股されてたこと。それをきっかけに"お前はもう飽きた"と言われて振られたこと。その時、僕は怒りのあまりに言葉を失うと同時に、彼女に今恋仲がいないという事実に喜んだ。その日は彼女を励まして、彼女を家まで送った。
次の日彼女は学校を休んだ。僕はクラスで唯一最寄りが同じだったため、彼女にプリントを届けるよう担任から頼まれた。
コンビニに寄って、ポカリとinゼリーと彼女の好物のカステラを買って彼女の家に向かった。
インターホンを鳴らす。彼女の母が出迎えてくれた。昨日も顔を合わせていたので、すんなり彼女の部屋に通してくれた。
彼女は寝ていた。プリントを取り出して机に置く。寝ている顔さえも綺麗な彼女。僕は彼女の寝顔をしばらく眺めていた。
彼女が眼を覚ますと、驚いて言った。
「どうしているの?」
「プリント届けにきたんだよ。あと、これ。好きだろうなって思って。」
「あ、ありがとう。」
「体調は大丈夫?」
「少しよくなった。」
「そっか。よかった。」
しばらく沈黙に包まれる。
彼女が僕に聞く。
「どうしてそんなに優しいの?」
僕は少し考えて応える。
「好きだからかな。君が。」
僕と彼女は頬を赤らめた。
「じゃ、帰るね。」
僕が鞄を持ち部屋を出ようとすると、制服の袖を彼女が掴んだ。
「まっ、まって。あの時は本当にありがとう。」
「うん。じゃあね。」
と言うと僕は彼女の部屋を後にした。
次の日、彼女は元気に登校していた。彼女の笑顔が見れるだけで心から嬉しかった。
春
僕らはあれから話すことなく三年になり、受験を終えて、卒業式を迎えた。
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春風がふき、月が照らす。
公園に着くと、あの日のと同じように彼女がブランコに座っていた。その彼女に近づいていく。
「あっ、来てくれてありがとう。」
「うん。」
なんとも言えない空気に包まれる。
「あのさ。」
彼女が口火を切った。
「私の気持ち、気づいてた?」
「うん。けど、関係を壊したくなくて言い出せなかった。だけど、今なら言える。いや、言わせて欲しい。井上さん。いや、咲月さん。僕と付き合ってください。」
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