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第二十八話 大学についてくるの?

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アイスクリームを買って家に帰ると、銀乃がルンルンで夕飯を作っていた。

「おかえり、さあや。もうすぐご飯だよ」

「えー、アイス買ってきちゃった」

「じゃあアイス食べてからお夕飯食べよ」

いいねぇと私は銀乃にアイスを渡す。

「わぁ、最中アイスか~。僕の分も飼ってきてくれたの?わるいね…」

銀乃がかわいそうなものを見る目で私を見た。

「お金ないのに、って言おうとしたでしょ」

「わかる?」

「大丈夫、このアイスは39円です」

それに、道端で100円を拾わせてもらったし、と私は心の中でつけたした。よく考えたら39円×2で、アイスを買ったのに黒字になっている。

「うそ、そんなアイスあるの!?」

「セーブオンにはある!」

そうなの?
と小首をかしげ、と美丈夫はもなかをかじり、「なかなかおいしいね」なんて言いながら料理を作っていた。


◇◇◇


夕飯を終えて、「明日からご飯、作らなくていいよ」と銀乃に告げると、銀乃はこの世が終わったみたいな顔をした。

「僕のご飯……君おいしいおいしいって食べてくれたじゃない……?僕何かしちゃった?僕のご飯の何が気に入らないの……?」

よよよと黒い狐姿の銀乃が平べったく地面に伏せる。

「違う、違うの銀乃。普通に大学が始まるから、朝から私いないんだよ。夕方くらいまで帰らないとおもう」

「あっ、そーゆーことか。
でも、それだったら夕飯はいるじゃない。あと、僕お弁当作ってあげるから持ってきなよ」

「え……悪い」

「夕飯作る時に一緒に作っちゃうから、君が思うほど手間じゃないし、いいよ。
僕、お弁当にいろいろ詰めるの好きだし」

「そうなの?」

「というか、そうか、明日から君、大学とかそのあたりをうろつくわけか……。
長く家を空けるってことだよね……大丈夫かな…」

「大丈夫ってあれ?魂がどうたらだから、銀乃から離れると危ないってやつ?」

「そうそう」

「今までも結構離れてたけど大丈夫だったような気がするけど」

「近所にお買い物とかアルバイトとかしか出歩いてないし、それも僕実は全部ついていってたじゃない」

あ、そういわれてみればそうだ。何というか、ストーカー……?

「ちょっと、さあや、そんな顔しないでくれる?僕も好き好んでさあやを束縛したいわけじゃないんだからね!」

「あっ、うん……」

「それにしてもどうしようかな……僕も大学に行こうかな」

銀乃が言うなり、私の脳裏には襟巻のように首に巻きつく黒狐が想像され、思わず吹き出してしまった。

「ちょっと、何笑ってるの」

むっとする銀乃。

「うーん、あのね、ふふっ、銀乃が学校にきたら、可愛い黒狐として人気者になれそう。youtubeに動画とか上がりそう」

「ちょっとさあや、僕が大学にいくなら、人間の姿でいくからね」

「えっ、本気?」

「狐の姿で大学内を闊歩していたら、噂になっちゃうでしょ。表立ってさあやのそばにいられないし」

「襟巻……」

「却下」

にべもなく銀乃は却下すると、ずっと襟巻のふりしてたら、君の首がいたくなっちゃうでしょ!
と真剣な目で私を諭したのであった。


◇◇◇


「おやー、さあやが普通に起きてきた。一人で起きるなんて偉いじゃない」

七時半のアラームが鳴り、私が起きだすと、テレビを見ながら卵焼きを作っていた人間姿の銀乃が、感心したように私を褒めてくれた。

「……お休みじゃなければ、ちゃんと起きれるから……」

といいつつ、吐きそうにねむい。

「朝ごはん食べられる?今卵焼きとごはんとトウモロコシのスープが出せるよ」

「食べます…ありがとうございます…」

私は顔を洗って着替えを済ませると、銀乃があつらえてくれたご飯に手を付ける。トウモロコシのスープは甘く温かく、卵焼きはふわふわだった。

一人で暮らしていたころ、私は基本的に朝は何も食べずに出かけていたのに、ありがたいすぎる……と私はありがたさをかみしめる。

「さあやって僕がいなかったころ、朝ごはんとかどうしてたの」

「買い置きのパンをかじるか…パンをかったり…何も食べなかったり」

「そっかぁ、じゃあ僕がきて役に立ってる感じかな?」

ふふっ嬉しそうに銀乃が笑いながら、二人分のお弁当に卵焼きを詰めた。私の分だけじゃないということは、銀乃は本気で大学についてくるつもりのようだった。

「銀乃、本当に大学についてくるの?」

「うん、ついてくよ」

「ついてきて…どうするの?」

「君と授業でもうけようかな。楽しみ!」

「……」

大学に一緒にくる、という銀乃が、ついてきた結果、私にくっついてくるのは想像できた。まぁそもそもそのために来るようなもんだし。
ということは、このイケメンが終始ついて回り、大学の同期たちから何か噂されたりしそうだなと思ったが、まぁいいや、と私は思った。

もしかしたら多少面倒なことは起こるかもしれないが、噂されたところでなんだっていうんだろう。どうせ私には友達も何もいないんだから、大学の人の関係性なんて、気にすることもない。

それに銀乃を止めてもきかないことは明白だった。銀乃がこうすると思ったら、何でも上手に通してしまうというのは私はこの二か月で学んでいた。

ご飯を食べ終えて流しに運ぶと、軽くお化粧をしてコートを羽織る。
もう8時15分、玄関では、お気に入りの紺マフラーをまいた銀乃が待っていた。

「さ、いこっか。お弁当は僕のカバンの中だし」

私は銀乃と一緒に玄関を出ると、鍵を閉める。

「少し急いでいこ。あんまり遅いと、前の席になっちゃう」

「前だとなんかまずいの?」

「……なんか恥ずかしいから嫌なの」

イケメン銀乃が目立つだろうしね、という心の声はしまっておいた。

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