異世界転生したら養子に出されていたので好きに生きたいと思います

佐和夕

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第二章

94話 駆け引き

 その人間は、感情表現が豊かだった。
 僕の言葉に一喜一憂し、面白いように反応してくれる。
 それに、とても美味だ。
 魔力の純度が高いのだろう。
 血や体臭からも、その魔力を感じることができて、甘い蜜のようだった。

 あの子、たまには良いことするじゃん。

『ピュイ!』

 褒められたと分かったのか、嬉しそうに鳴かれて、僕は慌てて叱る。

『しっ!もう少し我慢して!』

 出てこようとするのを、尻尾でさり気なく、ぐいぐいと押し込む。
 最初は、巻き添えのように連れて来られたので、内心では憤慨ものだったが、召喚者の人間は、なかなか骨があり面白い存在だった。
 今は怒りは消え失せており、好奇心がムクムクと頭をもたげている。
 この僕を目の前にして怯まないなんて、根性あるよね。
 一度は恐怖に染まった顔も、話してるうちに落ち着きを取り戻していった。
 虚勢を張っているわけではなく、本当に平常心に戻ったのだ。
 人間の恐怖に染まり切った顔が好きだという奴もいるが、僕にはそこまで魅力を感じない。
 僕を必要とし、縋りつく顔を見る方が何倍も楽しい。
 君の苦渋に満ちた顔も、とっても素敵だね。
 つっ、と指で頬をなぞってあげると、ふるりと睫毛を震わせた。
 きっと、泣き崩れる顔も唆られるほど可愛いんだろうな、と僕が想像を膨らましていると、彼は腹を決めたのか、やっと口を開いた。
 その瞳は強い意志を宿らせており、僕は体に快感が走るのを感じる。
 さぁ、君はどんな答えを出すのかな。


 淫魔は意地悪そうに俺を見ていた。
 俺がどんな選択をしても、彼には痛くも痒くもないからだ。
 答えも急かさない。
 淫魔は急いでいないからだ。
 時間が経って、父さまが死んでしまっても、力を使わなくて良かったと思うくらいだろう。
 くそったれ、という気持ちで、俺は淫魔に挑戦的な眼差しを向けた後、視線を逸らし、わざとらしく溜息を吐いた。

「そっか、ごめんね。君には荷が重かったよね」
「……………はっ?」
「父さまを助けるだけで、精一杯ってことでしょ?ごめんね、気がつかなくて。こんな複雑そうな呪いだもの。とっても強そうな君でも、難しいよね」

 俺は、悩ましげに視線を伏せる。

「しかも、術者に力を貸しているには、獲物を横取りされたことがあるんでしょ?強い相手には誰でも尻込みしちゃうもん。心苦しいけど、仕方ないよ。は頼めないもの」

 俺の首に回している淫魔の腕が、ぶるぶると震え始めた。

「あっ、もしかして、父さまの呪いも難しいのかな。詳しく説明はしてくれるけど、全然始めてくれないし。死にそう過ぎて、生かして助けることは、無理って感じ?じゃあ、仕方ないか」

 言葉の途中で、ぐわしっと顔を掴まれた。
 無理矢理顔を上げさせられ、その先には、ギラギラと赤い瞳を燃え上がらせた淫魔がいた。

「仕方ないから、何?」

 低い声で問われ、俺は怯みそうになる自分を叱咤し、腹の底に力を入れた。

「仕方ないから、帰ってもらっていいよ。僕たちには時間がないんだ。ならもういい。召喚した対価は、僕の魔石分くらいでしょ?なら、もう支払いは済んでる。あぁ、でも。有益な情報をくれたからね。もう一つ差し上げるよ」

 そう言って、俺はポケットから闇の魔石を一つ取り出した。
 予備に複数、即席で作っていた分だ。
 淫魔は、魔石には目を向けず、俺から視線を外そうとしなかった。
 交渉材料にはならないのかと、俺は内心で冷や汗を流す。

「君、僕のこと馬鹿にして、タダで済むと思ってるの?このまま首の骨を折ることも、目玉をえぐることも造作もないんだよ。やって欲しいの?」
「別に馬鹿になんてしてないよ。僕は悪魔をよく知らない。人間と同じように個体差があって、悪魔にもできるできないがあるんじゃないかと思っただけさ。過度な期待を押し付けていたなら、申し訳ないでしょ。じゃあ、改めて聞くよ。君は、より強いの?根源を移されてる被害者と、呪われてる僕の父さまを助けることができる?もちろん、どちらも死なせないように。五体満足であれば、尚いい」

 俺が言葉を言い終わったと同時に、淫魔からビリビリと闇の力で圧力をかけられた。
 先程の比ではない。
 歯を食いしばり、足に力を入れ、押し潰されないように魔力を使い、必死に対抗する。
 絶対に負けるもんか!
 もう後には引けないんだ。
 俺は更に、ぐっと淫魔を睨みつけた。
 余裕の淫魔はニヤリと悪辣に笑うと、俺から手を離し、父さまの方へ片手をかざした。
 その手に魔力が集中していくのを見て焦る。
 殺すつもりか!
 煽り過ぎたのかと、後悔しても遅い。
 淫魔の力に対抗するのに手一杯で、父さまへ手を伸ばそうとするが、届かない。

「っ」

 声も出ない。
 くそくそくそっ!
 ここまで来て、失敗するのか。
 僅かな父さまの死期を、早めてしまったのか。
 自分のせいで、みんなが死ぬのか。
 沸々と、自分に対しての怒りが溢れる。
 何て不甲斐ない。
 不甲斐なさ過ぎるだろ!
 フィン・ローゼシュバルツ!!
 俺は、ありったけの魔力を体から解き放った。

「えっ?うわっ!?」

 淫魔の焦るような声が聞こえ、押さえつけられていた力を弾き返せたことだけは、体感的に分かった。
 だが、俺は魔力を使い切ったせいで意識が薄れ、体から力が急激に抜けてしまった。
 自分の足で支えきれなくなった体がぐらりと傾き、床に倒れる寸前、弾力のある物が顔に引っ付いたような気がしたが、俺にはどうすることもできなかった。
 
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