異世界転生したら養子に出されていたので好きに生きたいと思います

佐和夕

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1巻

1-2

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「やっぱどこかで聞いたことあるよな」

 最初に読んでもらった指輪魔法の絵本を手に取り、表紙を眺める。
 十五年後ってことは俺は二十歳くらいか。でも正確に三百年じゃなくて、数年は前後するって言ってたな。そうすると俺がまだ学生か働き出したくらいの頃になるのか。そういえば、この世界の学校のシステムってどうなってるんだろ。高校や大学とかあるんだろうか……
 その時ふと『高校』というキーワードが引っかかった。
 王立高等学園。指輪の使い手。四属性魔法。

『フィン・ローゼシュバルツ。貴様を王族及び婚約者候補を襲った罪で斬首刑とする!』

 頭に響いたのは第三王子のフェリックスの声。突如脳裏に浮かんだ光景の中で、フィンは顔を醜く歪めながら、複数の男たちに取り押さえられている。

「指輪魔法と愛の奇跡……か?」

 そうだ。確かそんなゲーム名だった。主人公は平民だが魔力が高かった為、特待生として王立高等学園へ入学する。そこで攻略対象者たちと出会い、好感度を上げ、恋愛していくシミュレーションゲームのはずだ。 
 ゲームの世界では、三百年前に張った魔界との間にある結界が緩み始め、瘴気や魔物の被害が増加していた。一日でも早く結界を張り直したい王家は指輪の使い手を捜し始める。指輪の使い手は指輪自身が認めない限り、指に嵌めることができない。指輪は四つ。それぞれ四属性魔法と呼ばれる、土・水・風・火ごとにあり、その使い手も属性に特化した魔力の持ち主が選ばれた。
 主人公は魔力が高いので、王家主催の魔法大会に出場したり、魔物討伐の隊に参加して地方へ行ったり、瘴気が発生した場所へ住民の救助へ向かうなどのイベントが発生する。攻略対象者とイベントで協力して好感度を上げていけば、主人公か攻略対象者のどちらかが指輪の使い手となり、結界を張る最終イベントを迎え、無事に完了できればプロポーズされ、ハッピーエンドというシナリオだった。
 そして、そのゲームの中にいた。第三王子と婚約者候補が乗った馬車を襲わせて亡き者にしようとした、フィン・ローゼシュバルツという悪役令息が。
 …………それはつまり、もしかしなくとも俺か?

「いや、どう考えても俺には無理だろ」

 そもそも王子を襲撃する理由がないし、他人を殺そうとするなんて恐ろしくてできない。
 フィンはゲーム中では少ししか出てこなかった。第三王子を攻略対象にした時に発生するイベントの襲撃事件での犯人だった。
 主人公はこの襲撃事件で第三王子と婚約者候補を助けようとする。無事に助けることができれば王子の好感度が上がり、婚約者候補とは友達になれた。第三王子と共に馬車に乗っていた婚約者候補は確かバルバラという名前の女性で……って、あれ?

「バルバラって妹と同じ名前じゃないか」

 バルバラは継母が産んだ俺の妹だ。年齢は二歳離れている。ゲームのバルバラは第三王子や主人公と同い年だった。悪役令息のフィンは、主人公が一年生の時は三年生のはずで、年齢的にも合っている。

「王子ではなく妹の方を狙ったのか? フィンは継母と妹のせいで家を追い出されたと思っていたしな」

 ゲーム中ではフィンは端役の為、生い立ちなど細かな設定は不明だった。  
 ただ、バルバラと異母兄妹であり、恵まれた妹を憎んでいるということはフィンの口から語られてはいた。バルバラは魔力も高く、学園でも少し気の強い美人として人気があり、更に第三王子の婚約者候補であった。長年溜まった鬱憤が、学園で再会したことにより爆発したのだろうか。
 でも、それならバルバラのみを標的にすればいいはずで、よりにもよって第三王子と一緒の時を狙うなんてどうかしている。王子が一緒の時の方が警備は厳重なはずだ。成功する確率は下がるだろうに。

「でも、こういう疑問を感じるシナリオのゲームだったな」

 ここがゲームの世界だとして、自分は本当に馬車を襲撃して捕まり、斬首刑になってしまうのだろうか。
 フィンは、恵まれている妹が憎かったと言っていた。今のフィンである俺は、妹が心底嫌いではあるが憎んでなどいない。今の父上と母上が俺に心を砕き、優しく包み込むような愛情をかけてくれているからだ。まだこの家にきて一ヶ月だが、俺はすでに幸せだった。父上と母上が俺に笑いかけてくれる。そんな些細なことで幸せになれるくらい、前の俺は不憫だった。
 だから、その原因で嫌悪の対象でもある妹と継母には、二度と関わりたくないというのが本音だ。
 異世界転生の本は前世でたくさん読んできた。その中には強制力と呼ばれる見えない力が作用し、ゲームのシナリオ通りに運命が修正されるようなものもあった。逆に、ゲームの世界観に似ているが、キャラクターの性格が違ったり攻略対象が変わったり、あるはずのイベントがなくなったりと、似たような世界だけれど別世界というようなものもあった。この世界がどちらなのかは分からないし、本当はゲームの世界ですらないのかもしれない。

「ゲームの世界だったとしても、細かい内容とかうろ覚えなんだよな」

 大学生の頃、好きなイラスト作家がキャラクターデザインを担当していたことと、キャラクターボイスが豪華声優陣だったことから、乙女系のゲームだが試しに買ってみた。やり始めてイラストと声の素晴らしさに感動したが、すぐにシナリオの矛盾や設定の甘さなどに辟易した。すべてのルートをクリアせず途中でやめようとしたが、そこに姉の待ったが入った。腐女子でオタクの姉にすべてのスチルが見たいとルート攻略を命じられ、泣く泣く時間をかけてクリアすることになったのだ。

「まぁ似て非なる世界かもしれないし。すでに妹が憎くも興味もないから、関わることさえなければ何とかなるかもな」

 今は五歳で、周りには攻略対象のキャラクターもいないため実感も乏しい。フィンがその主要メンバーたちと接触があったのかさえ不明だ。ゲームは王立高等学園が最初の舞台なので、入学すれば会う機会はあるだろうが、まだまだ先の話だった。
 だからか、自分の斬首刑よりも魔王降臨の方がまだ現実味がある。父上が帰ってきたら母上に宣言した通り、怖くなくなる方法を聞いてみよう。
 あともう一つ確認したいことがあるのだが、こちらは本人には聞きにくい内容なのでアマーリアに聞くことにする。


「奥様は今年で三十歳になられますよ」

 三十歳ならまだ可能性はあるのではないだろうか。でも本人が望んでいないなら無理強いはできない。心の問題もあるが、肉体的にもつらいだろうから。
 不思議そうなアマーリアに、もう少し突っ込んで聞いてみる。

「ねぇ、アマーリア。母上は赤ちゃんを産むことをもう諦めちゃったのかな?」
「坊っちゃま……」

 俺の事情で早く養子にしてもらったが、まだ母上が妊娠できる可能性だってあるはずなんだ。俺を引き取ったからと諦めてしまっているなら申し訳ない。
 もし少しでも自分の子どもを産んでみたいという思いがあるなら、全力で応援したいのだ。実子ができたからと、養子の俺をないがしろにするような父上と母上ではないはずだ。……多分。多少は構ってもらえなくなるかもしれないが、それは実子同士でも普通にあることだろう。

「母上が僕に遠慮して子どもを諦めてしまったなら、とても悲しいんだ。だから、母上が少しでも父上との赤ちゃんを欲しくて頑張ろうって気持ちがあるのなら協力してあげたい」
「坊っちゃま!」

 俺の言葉にアマーリアがいきなり泣き出して驚いた。どうしていいか分からず俺が狼狽えているうちに、アマーリアは自分で気持ちを落ち着けて、エプロンからハンカチを取り出して涙をぬぐった。

「取り乱してしまい申し訳ありません。最近ご本人に直接確認したことはありませんが、旦那様との子を欲しいと思う気持ちは、残っていらっしゃるようにアマーリアは感じています」
「そっか」

 うん。そうだよね。だって母上は父上を大好きだもの。好きな人との赤ちゃんは誰だって欲しいし、諦めきれないよね。
 でも何故だろう。望んだ答えをもらったのに、少し悲しい気分だ。

「そしてそれとは別に、フィン坊っちゃまがこの家に来てから、奥様の気持ちに変化が表れたこともアマーリアは感じました」
「僕が来たことで?」

 それって悪い意味なんじゃと不安になった俺に、アマーリアは優しく首を振って教えてくれた。


 ラーラがルッツと結婚したのは十八歳の時だった。許嫁時代から仲睦まじく、結婚してからも二人の仲は冷めることはなかった。周りも本人たちも、こんなに愛し合っているのだから、すぐに子どもはできるだろうと思っていた。それなのに、一年が経ち、三年が経ち、五年経っても子はできなかった。
 そのうちに、ルッツがローゼシュバルツ家を本格的に継ぎ、更に二十八歳の若さで宰相に大抜擢された。大変名誉なことであるが、領主としての仕事と慣れない宰相の仕事に多忙を極め、ルッツは家に帰れない日が続くようになった。
 そして気づくと、あっという間に結婚して十年が過ぎていた。ラーラは自分の体に問題があるのだと悲しんだ。
 頻繁に開かれる貴族同士のお茶会でも、子どもができないラーラは嘲笑されることが増えた。他人に、ましてや他の貴族に弱みを見せるはずもなく、お茶会では毅然とした余裕の態度を貫いていたが、ラーラの精神は少しずつ病んでいった。
 そんな時、養子を引き取る話をルッツが持ち帰ってきた。ラーラは見限られたと思った。子はできないと見捨てられたのだと思い、ラーラはついに倒れてしまった。
 ルッツは慌てて、子どもを諦めたわけではないこと、酷い境遇におかれている甥を助けたいことを、目が覚めたラーラに丁寧に説明した。同時にルッツは、ラーラがここまで気に病んでいることに気がつかず後悔した。だが今更、養子の話をなかったことにはできない。ラーラは悩んだが、最後にはルッツの提案を受け入れてくれた。
 久しぶりに会った甥は可哀想なくらいに緊張していた。病み上がりらしく、少し咳もしている。何でも体罰を受けて熱を出して寝込んでいたらしい。
 ラーラはそれを聞いた瞬間に絶句した。こんな幼子にそんなことをするなんて、どうかしている。体罰を躾だと思っている貴族や平民もいるがラーラは反対だった。もちろんルッツも同じだ。
 フィンは初日に悪かった顔色が、日に日により悪くなっていった。フィンが来て一週間後の夜、ラーラは夜中に目が覚めて胸騒ぎがした。不安になって、フィンがちゃんと寝ているか確認しようと部屋を訪れたら、もぬけの殻だった。シーツを触ってみたがすでに冷たく、いなくなって時間が経っていることを知る。ラーラは慌ててルッツを起こし、執事を呼んで使用人を叩き起こした後、総出でフィンの行方を探した。大人でも広いと感じる屋敷なのに、フィンは屋敷の外にまで行ってしまっていた。しかし、やはり子どもの足では限界で、座り込んでいるところを発見され事なきを得たが、フィンはその夜から高熱を出して寝込んでしまった。突然いなくなったトラウマからか、ラーラは何度も部屋を訪れては、フィンがいることを確かめた。
 熱を出して一週間後、フィンは無事起き上がれるようになると、この家に、ラーラとルッツに慣れようと努力し始めた。どんな心境の変化があったのか、フィンは笑顔まで見せてくれるようになり、その笑顔を見て、ラーラは亡き義妹を思い出した。弟の妻は、体は弱かったが、気丈でよく笑う女性だった。ラーラのことも慕ってくれていた。ラーラも、そんな義妹を大切に思っていた。
 義妹の忘れ形見のフィン。
 ラーラにフィンへの愛しさが芽生え始めた瞬間だった。それからは、ラーラはよく笑うようになった。細かった食も戻り、夜もよく眠れて顔色も良くなった。ルッツが仕事で帰れない日があっても、フィンがいるから寂しくない。ラーラは元気を取り戻していった。


 俺は、気がつくと涙を流していた。
 先程とは正反対だが、アマーリアはできるメイドなので、新しいハンカチを取り出して俺の涙を拭いてくれた。

「奥様は、フィン坊っちゃまが来られてから良い方向に変わられました。坊っちゃまは、すでに奥様にとって、かけがえのない存在ですよ」
「そっか」

 同じ返事をしたが、今は胸がほかほかと暖かい。俺にとっても父上と母上はかけがえのない存在だ。

「アマーリア、教えてくれてありがとう。僕は、やっぱり可能性があるなら母上に赤ちゃんを諦めて欲しくない」
「私もそう思います」
「アマーリア協力してくれる?」
「もちろんです」

 まだ未練があるならやりたいだけヤったらいいと思う。セックスって意味じゃないよ。いや、子作りするなら必要不可欠だけど、セックスしまくれという意味じゃないってこと。
 この世界は治癒魔法が存在するから医療技術があまり発達していない印象がある。つまり、前世の世界でタイミング療法と呼ばれていた、排卵日を予測して妊活に挑むしか方法はない。
 前世で未婚の男性だった俺が、どうしてそんなに詳しいかといえば、前世で不妊に悩む姉の愚痴を聞かされていたからだ。旦那への不満とともにね。
 とりあえず、望むなら結果がどうであれ、満足するまで頑張ればいいと思う。アマーリアにも協力してもらえるということで、夜の段取りの方はお任せした。タイミング療法についても説明して理解してもらったので、母上の妊娠する日を予想してもらう。
 方法については『前の家で不妊に悩んでいるメイドが外国の治療法を聞いて同僚に話しているのをたまたま聞いた』と言って誤魔化した。五歳児が不妊治療法など知っていたらおかしいもんな。
 俺の方は、本人たちのやる気を上げる為に行動することにする。
 作戦①褒め褒め大作戦!

「母上は、どうして父上と結婚されたのですか?」

 王子様とお姫様が結婚してハッピーエンドを迎えた絵本を読んでもらい、その後にさり気なく聞いてみる。

「ルッツとは許嫁だったのよ。初めて会ったのは、私が七歳の時だったわね。場所はここの中庭で、花がたくさん咲き誇っていたわ。その時に、ルッツが花冠を作ってプレゼントしてくれたのよ。ふふ。一目惚れだったけど、ますます好きになってしまったわ」
「一目惚れだったんだ!」

 父上やるな、と俺は感心した。花冠なんて作れないや。今度父上に作り方を教わることにしよう。

「そうなの。いつお会いしても紳士的で優しくて。私は好き過ぎて、ルッツの通う学園まで追いかけて入学したわ。学年差があるから一年間しか一緒に通えなかったけれど、とても楽しかった」

 思い出を嬉しそうに語る母上は、情熱的な人だったみたいだ。意外だな。見た目は父上と同じで冷静沈着で物事にあまり関心がなさそうなのに。

「父上と結婚できて良かったですね」
「えぇ、本当に。許嫁という間柄だったけれど、それでも絶対に結婚できるわけじゃないしね。実際、私と結婚するまでルッツには複数の縁談話があったそうよ」

 誰だか知らんが、許嫁がいる人に縁談話持ってくるなんて強いな。それともこの世界では普通のことなのか?
 何せこの国では複数婚が認められている。子どもを産める女性が少ないからそういう制度になったそうだ。女性数が少ないから一妻多夫がほとんどだが、別に一夫多妻でもいいらしいし、男性数が多いことから同性婚も認められている。婚姻に関しては自由度が高かった。そう考えれば『複数婚前提だから許嫁がいる相手でも問題ない』という感覚の人がいても、おかしくないのかもしれない。
 それにしても、複数の縁談話があった割には母上一筋だなんて、父上もきっと母上を大好きなんだな。まぁ、執事やメイド、庭師などへの聞き取り調査の結果、結婚して十年経っても二人が仲良しなのは判明している。あとは、それが事実かどうか当人たちに確認するのみだ。こっそりとね。
 その後は、母上に父上との思い出話をいろいろ聞かせてもらって、今日の取り調べは終了です。次は父上の番ですぞ。
 父上は、一日に一回は必ず俺と話す時間を作ってくれるようになった。新しい家族になった俺たちには対話が必要なんだって。コミュニケーションって大事だもんな。同じ家にいても、話をしなければ相手のことなど分かるわけがない。

「今日は母上に父上との馴れ初めを聞きました。母上は父上に一目惚れしたと言ってましたよ」

 今は夕食後の団欒タイムで、俺は父上に膝抱っこされている。ひょいっと抱っこされたと思ったら膝に乗せられていた。さりげなさ過ぎて抵抗することも出来なかったよ。
 父上を見上げるとうっすら頬が赤い。俺の言葉に照れたのだろうか。

「ラーラが?」
「はい。一目惚れして、その後もっと大好きになったって言ってました。父上は? 父上は母上のこと好き?」
「もちろん好きだとも。実は、私も一目惚れだったんだよ。ここの庭で初めて会った時、とてもいい天気でね。ラーラの水色の髪に陽の光が当たってキラキラ輝いてる姿が、まるで妖精のようだった。この世にこんな美少女がいるのかと驚いたよ」

 父上がめっちゃデレてる。夫婦揃って見た目詐欺ですか。そうですか。あれかな。手を握るだけでお腹いっぱい、一緒にいるだけで満足ってやつですかい。よし。頑張ればいける気がしてきたぞ。
 父上が母上を好きなことの確認は終了したので、母上との思い出話や好きなところなどを色々聞き出した。
 後日、お互いが好きなところや褒めていたところを、俺が経由して二人に交互に伝える。
 二人とも『ラーラがそんなことを……』『ルッツったら……』と嬉しそうにしていた。第三者を経由して聞く褒め言葉って結構嬉しいんだよね。俺の言葉の効果か、父上と母上は顔を合わせると初々しいカップルのような反応をするようになった。
 あ、甘酸っぱい。くっ……! 怯んではいけない! まだミッションは残っているのだ!
 作戦②一緒に寝ましょう!

「父上と母上は何故一緒に寝ないのですか?」

 これだけ仲良しなのに寝室は同じじゃないなんて納得いかない。でもアマーリアに聞いたら貴族はそれが普通らしい。そんなの夜のお誘いにハードル上がると思うんだけど。今日はそんな気分じゃないとか、旦那のイビキがうるさくて寝られないとかなら助かるけどさ。
 とにかく、貴族のルールでそうなっているなら、それを知らない年頃である俺が押し切るのは問題ない。子ども特有の飛躍しがちな結論にたどり着いたのだろうと、きっと許されるはずだ。

「今日読んだ絵本ではつがいのヴォルフが一緒に寝ていました。仲良く身を寄せ合って幸せそうでしたよ。つがいは伴侶で夫婦ってことですよね? 父上と母上も仲良しだから一緒に寝たらいいと思うんです」

 ちょっとあざといかな? と思うようなニコニコの笑顔で言ってみた。動物と一緒にするなんてと不快感を出されるかな、と思ったが心配いらなかった。俺の発言に二人はいきなりで驚いていたが、お互い目が合うと恥ずかしそうに、ぱっと逸らした。父上は咳払いをした後、じゃあまた今度そうしてみるよと言ってくれた。言質は取りましたよ。
 最終作戦③僕は応援しています!
 毎日父上に今日は母上と一緒に寝ますかと聞き続けて七日目、とうとう一緒に寝てくれる日がやってきた。
 アマーリアにも聞いたらタイミング的にもちょうど良さそうな感じだ。今回成功しなくても、この日が周期になるように愛を営んでくれたら、きっとうまくいくよね。楽観的な見解だとは思う。子どもができない人はどんなに頑張ってもできない。望んでも欲しい人にはできなくて、虐待したり捨ててしまうような人は簡単に身篭ってしまう。現実は残酷だ。
 それでも、前向きに考えた方が物事はうまくいく気がするんだ。例え父上と母上が信じなくても、俺だけは絶対できると信じることにする。
 父上と母上が一緒に寝るのを見届けるために、二人の寝室まで来た。俺が確認しに来たからか、二人は大人にとってはまだ早い時間だというのに、律儀に二人でベッドに入ってくれた。

「フィンも一緒に寝るかい?」

 新しく家族になった俺も入れてくれようとするなんて、父上は優しい。二人は俺が一緒に寝るイコール睡眠だと理解していると思っているんだろう。五歳児の俺が『父上と母上には今からセックスしてもらうので、僕は遠慮します』とか言ったら、二人とも卒倒してしまうかもしれない。まぁ似たようなことは言うつもりなんだが。

「いいえ。僕はお二人が一緒に寝てくれるのが嬉しいから今日はやめておきます。いっぱい愛を営んでください」
「「!!」」

 俺の言葉に、二人とも目を見開いて驚愕している。こんなに驚いている父上と母上は初めて見た。俺は、こてんっと不思議そうに首を傾げてみる。

「夫婦は一緒に寝て愛を確かめ合うものなんでしょう? 一緒に寝て仲良くなるそうです。そして、いっぱい仲良くしていると赤ちゃんができることもあるんですって!」

 無邪気に何も知らない子どものように振る舞う。驚いていた二人は、今度は複雑そうな顔をした。子ができない母上に赤ちゃんが欲しいと言うのは酷だ。そう思うのは、俺の精神が大人だからだろうか。
 同じように思ったらしい父上がそれを懸念して俺を遮ろうとする。でも最後まで言わせてほしくて、俺は急いで次の言葉を出した。

「でも、それはどちらでもいいと思うんです。赤ちゃんができたから愛が深いとか、もしくはできないから愛が不足しているとかはありません。父上と母上が愛し合うことに関係はないと思います。それに、僕がいるからといって『もう赤ちゃんをつくってはいけない』ってこともないんです」
「……フィン」

 母上がちょっと涙ぐんでいる。俺の言葉は、良い意味で母上に届いただろうか。思いは伝わっているかな。

「僕に遠慮しないでください。弟か妹ができたら嬉しいけど、できなかったら父上と母上を僕が独り占めするだけです。どちらになっても、二人にはいつまでも仲良しでいて欲しい。僕の初めての我儘です。いっぱい愛を営んでくださいね」

 最後に、おやすみなさいと挨拶をして寝室を出た。自室に戻るために廊下を歩いていると、後ろから鼻を啜る音が聞こえてきた。

「アマーリアが泣いてどうするのさ」
「ですが、うぅ、坊っちゃまの言葉に、ずびっ、かん、感動致しまして」
「それはありがとう」

 そうは言われても一抹の不安は残る。デリケートな問題で、かける言葉によってはプレッシャーにもなるし、傷つけてしまうこともある。今は心に響いて励ましの言葉に思えても、時が経ってうまくいかなければ、その言葉が呪縛になることもある。
 でも、信じるって決めた。だからきっと大丈夫。

「うまくいくよね。アマーリア」
「えぇ、きっと」


 俺がローゼシュバルツ家に引き取られて二ヶ月が経過した。父上と母上は、俺の『子作り大作戦!』の効果か、以前より増して仲良しになって定期的に愛を営んでいるようだ。母上は美人度が増し、父上までもお肌がピチピチのツルツルになっている。父上は仕事の処理スピードも上がったらしい。愛の力は偉大だね。
 俺がこの家にそろそろ馴染んだということで、父上が俺に家庭教師を探してきてくれた。侯爵家の跡取りで英才教育は必要だから仕方ない。

「明日から頑張って勉強するんだぞ」
「はい!」

 元気に返事したものの、俺の家庭教師になった人は少し変わっていた。

「この私の授業を受けられる! 君はなんて幸運なんだ!」

 身振り手振りが大袈裟で、まるで舞台役者を見ているようだった。外見も派手で、どこで売ってるんだろうと思うような不思議な柄の服装に、羽根や宝石のついた帽子まで被っている。彫りが深いバター顔で、サラサラの長い髪は半分が黄緑色、もう半分が黄色だった。正直眩しすぎて目に痛い。どこからそんな自信が、と思うくらい自画自賛も激しかった。
 でも、父上が探してきただけあって優秀な人で、質問したことには全て答えてくれた。難点を言えば、専門用語や難しい言葉が多すぎる。五歳児の家庭教師だとちゃんと理解しているのだろうか。

「先生。専門用語が多すぎて理解できません」
「なんと!!」

 前世で言うところのオーマイガッ! って感じの手ぶりをする先生。そう言いたいのはこっちだよ。たまにいるんだよな。やたらと専門用語を使いたがる人。一般人に話す時に、その道の専門家が使うような言語で説明されても理解などできるわけがない。

「先生が優秀なのはよく理解しています。全ての分野に博識でいらっしゃって、生徒としても先生に教えていただけるなんて光栄の極みです」
「ほほう」
「ですが、僕はまだ五歳児です。難しい言葉を使われると、その言葉の意味をその都度先生にご教示願わないといけません」
「ふむ」
「正直言って時間の無駄です。博識な先生なら、その言葉を五歳児でも理解可能な言語に変換することはできますよね?」
「まぁ、造作もないな」
「そうだと思いました! 先生のお手を煩わせることは承知の上ですが、五歳児のレベルに合わせた授業にしていただけませんか?」
「うむ。あい分かった。こちらこそ配慮に欠けたな。君にでも分かるよう説明しようではないか!」

 ビシィィッ! と決めポーズまでされたので『さすが先生!!』と拍手しておいた。
 やれやれ。褒めて下手に出た効果かあっさりと受け入れてくれて安心した。変にプライドの高い人でなくて良かったよ。
 それからの授業はスムーズに進んだ。先生は言葉通り、優しく簡単な単語を使って説明してくれたので分かりやすかった。変わってるけど、いい先生そうで良かった。
 授業の後は、先生と一緒にお茶することが日課となった。先生は甘いものが好きで、うちの料理人が作るお菓子もやたらと褒めてくれる。自分のことのように嬉しくて、新しいお菓子を料理人が作ってくれると、毎回先生にも出してもらえるようにお願いしてあった。
 今日は季節の果物を使ったタルトだ。料理人から聞いたお菓子の説明をそのまま伝え、一緒に食べて美味しさに笑顔を浮かべていると、先生は突然ぽつりと呟いた。

「フィンは変わっているな」
「そうですか?」

 先生のような個性豊かな人に変わってると言われると、少し複雑な気分だ。

「今までの教え子たちには、あまり好かれたことがなくてね。このように、一緒にお茶をすることなどなかったよ。私といてそんなに嬉しそうにしてくれる子は、君が初めてだ」

 先生は表現が大袈裟で声が大きく、喋り方も独特なので、苦手だと思う人や偉そうだと感じる人もいるのかもしれない。話してみると気さくだし、高圧的のようで自分大好きなだけだし、基本いい人なんだけどな。

「僕は先生といるの楽しいから好きですよ」
「フィン!」
「明日もよろしくお願いしますね」
「もちろんだとも!」


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