「悪妻持ちの独り言」

くしき 妙

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「悪妻持ちの独り言」

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 嫁が握ったおにぎりを見るとかあちゃんを思い出す。無骨にただ米粒を丸めただけの塩さえついていないあのおにぎりを。嫁はかあちゃんに似ているなと思う。
 毎日、おにぎりを握って持たせてくれるうちの嫁。うちの嫁は、仕事を持っている。いわゆるキャリアウーマンだ。結婚当初は忙しくてあまり家にいなかった。だから、正直言って、あまり構ってもらってなかった。
 結婚して以来、毎日、弁当をつくってくれているが、嫁の出張が多くなると、自分で弁当をつくるようになった。

 前は、コンビニで買ってすませていた俺が、勿体ないと思って、自分で弁当を詰めてる姿は、なんだか男の哀愁が漂っている気がして、誰にも見せたくない。

 嫁がそれも可哀そうだと思ったらしく、明日出張に出かけるので、今晩のうちにつくっておこうとしたんだろうな。「弁当つくっておいたよ」と言う。明日、休みなのに。

 
 嫁が毎朝キャベツを刻むようになった。キャベツを刻みまくっている嫁を毎日目にした。キャベツの栄養素が素晴らしいのだと言っている。食物繊維も豊富だし、ビタミンがいろいろ入っているようだ。そして、人参ピーマン、ブロッコリーなどなど。とにかく野菜を食べまくるようになった。
  
 俺は、劇的に痩せた。80キロ近くにまで到達していた体重が70キロになった。肌艶が良くなり、四角かった体が細長くなった。けっこうカッコよくなった。脂肪肝です!と言われた肝数値も見事な変化だった。GPT140→14!!!

 それが、かえって「あ!俺呑めるんだ!」と引き金になってしまったが。

 嫁は、仕事を持っていると冒頭で言った。だんだん忙しくなって俺に構わなくなってきた。そして、だんだん家事をしなくなってきた。

 掃除がもともと苦手な嫁は、「埃では死なないよね」と言う。俺はあんまり気にしない性質だから、許している。むしろ、俺が掃除機をかける。嫁さんは、洗濯はする。しかし、取り込むのを面倒がる。畳むのを面倒がる。俺がする。トイレくらい綺麗にしろと言っても、しない。俺がする。

 昼間家にいるから買い物くらいいけよと思うが、なにやら、PCの前で一心不乱に調べものをして、なにか書いている。俺が、買い物をして帰ってくる。ありがとうで済ませるお前が憎らしい。

 夜に、ズームとやらで生徒と大声で外国語を喋っていて、晩酌している俺につまみもつくらない。俺は、一人冷蔵庫を開いて冷ややっこを喰う。時々、飲み過ぎて管を巻く。そうすると、怒鳴り散らしてくる。そうならないように、お前が見張ってろよ!と悪態をつきたくなるが、俺は一人で自分の世話をする。仕方ない、彼奴は仕事だと言っているから。

 でも、嫁は出張で家にいない時以外は、弁当をつくる。飯だけはつくる。あまり上手くはないが。でも、それでもいい。おにぎりは毎日握る。毎日、塩をふってないおにぎりを俺は食っている。嫁さん曰く、「あんたは高血圧だから塩は要らない」のだそうだ。俺は、だんだん、薄味にならされてしまっていて、コンビニ飯を食うとしょっぱく感じる。

 俺は詩を書いている。レコードだって出た。が、嫁は、興味がないらしく、意見を求めても、「うん、いいんじゃない?」で済ませて、PCに向かって仕事ばかりしている。この態度が一番腹が立つが、たまに、辛口批評をしてくれる。それはそれでいいのだ。クオリティーがあがるからだ。でも、嫁には、女らしいしおらしさがない。女の情念や、男に媚びるような思いを綴った歌詞を見せると酷評する。「女はそんなにしおらしくない!」という。そういう女はお前だけだと俺は思う。

 お前は可愛い女とは言い難い。でも、俺は結婚してやった。哀れで仕方ないから貰ってやったんだ、と言うと、嫁は、「こっちのセリフだ」と言い返してくる。それでもいい。別れる気はない。美人でもないし、キャリアウーマンだと言っている割には俺よりも頭が悪いし、世故に長けてない。放り出すのはしのびないんだ。多分、俺のほうが先に死ぬんだろうが、ずっと、俺の側にいるんだろう、この嫁は。

 結婚してやった。そうだ、結婚してやったんだ。お互いそう思っているんだろうけどな。

 まあ、100歩譲って、言ってやるよ。惚れてんだよ。知っているよ、お前も俺に惚れてんだろ?
 

 - うん、分かってるよ。大方、貴方はこう思っているんでしょう? でも、照れ臭いけど一言いっておくわよ。結婚してくれてありがとう。まあね、惚れてるかもね…。
 
 
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