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普通の人っぽいGW
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手摺りに腕を引っ掛けたももちゃんと、その脚を両手で持つ千種という絵だけで結構笑えた。亜希がその様子を撮ると、千種はこちらを向いてあっ、と言った。
「まさか俺も載せるの?」
「まさか、面白いから撮っちゃった」
千種のすぐそばまで行き、彼の手を画面に入れないようにして、亜希はスマートフォンのカメラの角度を変えてみる。
「あのさ、亜希さん」
千種の呼びかけが一瞬耳に入っていなかったので、亜希の返事はワンテンポ遅れた。
「はい?」
「そんな真剣に撮るならさ、一眼レフとか使ってみたら?」
亜希はスマートフォンの画面から千種の顔に視界を移した。予想もつかない彼の発言に、自分でも感じるくらい目をぱちぱちしてしまった。
「まさか、そんな贅沢な……それにほら、スマホで撮るほうがアップしやすいんだって」
「それもそうか……あまりに真剣だからびっくり……」
千種の言葉を聞いて、引かれたのかとぎくりとする。彼はそんな亜希を見て、目に微笑を浮かべる。
「ごめん、邪魔したね、続けよう」
引かれてはいないらしい。亜希はそっと胸を撫で下ろす。すると千種が呟くように言った。
「ももちゃんは幸せだな、こんなに大事にしてもらって……俺も」
大きな音を立てて飛行機が助走を始めたので、その後は聞こえなかった。さっきよりも近い場所でその飛行機がふわりと機体を浮かせたので、亜希は千種の横に並び、斜め後ろからももちゃんにピントを合わせる。
「あっ、切れるかな」
亜希はシャッターボタンを2回押した。ももちゃんは手摺りに手をかけて、小さな子どもが飛び立つ飛行機に夢中になっているように、上半身を乗り出している。
写真では2枚とも、飛行機はぎりぎり機体が切れずに写っていた。ももちゃんを腕に抱く千種は、亜希のスマートフォンの画面を見て、おおっ、と言った。
「いいねぇ、何かのポスターに使えそう」
「大げさね」
答えつつも亜希は、我ながら良く撮れたと密かに嬉しくなっていた。その時、スカートをくいくいと、誰かが引っぱった。
「ねえ、おねえさん何してるの?」
下のほうから声がして、亜希はぎょっとした。3、4歳くらいの女の子が、亜希のスカートを握って、千種と亜希の顔を順番に見つめてくる。
「あっ、えっとね、……ぬいぐるみの写真を撮ってるの」
亜希はややしどろもどろになる。おねえさんと呼んでくれたことに愚かしくもほっとしたが、きっと子ども心に不審に思えたのだろう。
女の子は、柔らかそうな黒い髪をツインテールにして、ももちゃんとよく似た色のワンピースを着ていた。彼女は千種が抱くももちゃんに注目している。
「うさぎさん、名前何ていうの?」
亜希は思わず、えっ? と声を裏返した。そして女の子が背負うリュックの口から、ピンク色の小さなうさぎが顔を覗かせていることに気づく。
「もも……ももちゃんっていうの」
見ず知らずの女の子に奇妙な親近感を抱きつつ、亜希は答えた。彼女がももちゃんに興味津々なことが伝わってきたので、千種と視線を合わせる。彼が女の子にももちゃんを差し出すと、女の子はそっとももちゃんを受け取り、小さな手で頭を撫でた。
「ももちゃん、可愛いね」
「ありがとう、あなたのうさぎちゃんは何ていうの?」
亜希は女の子に訊いた。彼女がブラン、と答えるのを聞いて、千種が笑った。
「ブランは白のブラン?」
女の子はドヤ顔になった。
「そうよ、フランス語をお勉強してるおねえちゃんに名づけてもらったんだから」
「ピンク色なのにブランなんだね」
「ももちゃんは白いのにももちゃんだよ」
亜希も思わず笑った。
「そうだね」
「まさか俺も載せるの?」
「まさか、面白いから撮っちゃった」
千種のすぐそばまで行き、彼の手を画面に入れないようにして、亜希はスマートフォンのカメラの角度を変えてみる。
「あのさ、亜希さん」
千種の呼びかけが一瞬耳に入っていなかったので、亜希の返事はワンテンポ遅れた。
「はい?」
「そんな真剣に撮るならさ、一眼レフとか使ってみたら?」
亜希はスマートフォンの画面から千種の顔に視界を移した。予想もつかない彼の発言に、自分でも感じるくらい目をぱちぱちしてしまった。
「まさか、そんな贅沢な……それにほら、スマホで撮るほうがアップしやすいんだって」
「それもそうか……あまりに真剣だからびっくり……」
千種の言葉を聞いて、引かれたのかとぎくりとする。彼はそんな亜希を見て、目に微笑を浮かべる。
「ごめん、邪魔したね、続けよう」
引かれてはいないらしい。亜希はそっと胸を撫で下ろす。すると千種が呟くように言った。
「ももちゃんは幸せだな、こんなに大事にしてもらって……俺も」
大きな音を立てて飛行機が助走を始めたので、その後は聞こえなかった。さっきよりも近い場所でその飛行機がふわりと機体を浮かせたので、亜希は千種の横に並び、斜め後ろからももちゃんにピントを合わせる。
「あっ、切れるかな」
亜希はシャッターボタンを2回押した。ももちゃんは手摺りに手をかけて、小さな子どもが飛び立つ飛行機に夢中になっているように、上半身を乗り出している。
写真では2枚とも、飛行機はぎりぎり機体が切れずに写っていた。ももちゃんを腕に抱く千種は、亜希のスマートフォンの画面を見て、おおっ、と言った。
「いいねぇ、何かのポスターに使えそう」
「大げさね」
答えつつも亜希は、我ながら良く撮れたと密かに嬉しくなっていた。その時、スカートをくいくいと、誰かが引っぱった。
「ねえ、おねえさん何してるの?」
下のほうから声がして、亜希はぎょっとした。3、4歳くらいの女の子が、亜希のスカートを握って、千種と亜希の顔を順番に見つめてくる。
「あっ、えっとね、……ぬいぐるみの写真を撮ってるの」
亜希はややしどろもどろになる。おねえさんと呼んでくれたことに愚かしくもほっとしたが、きっと子ども心に不審に思えたのだろう。
女の子は、柔らかそうな黒い髪をツインテールにして、ももちゃんとよく似た色のワンピースを着ていた。彼女は千種が抱くももちゃんに注目している。
「うさぎさん、名前何ていうの?」
亜希は思わず、えっ? と声を裏返した。そして女の子が背負うリュックの口から、ピンク色の小さなうさぎが顔を覗かせていることに気づく。
「もも……ももちゃんっていうの」
見ず知らずの女の子に奇妙な親近感を抱きつつ、亜希は答えた。彼女がももちゃんに興味津々なことが伝わってきたので、千種と視線を合わせる。彼が女の子にももちゃんを差し出すと、女の子はそっとももちゃんを受け取り、小さな手で頭を撫でた。
「ももちゃん、可愛いね」
「ありがとう、あなたのうさぎちゃんは何ていうの?」
亜希は女の子に訊いた。彼女がブラン、と答えるのを聞いて、千種が笑った。
「ブランは白のブラン?」
女の子はドヤ顔になった。
「そうよ、フランス語をお勉強してるおねえちゃんに名づけてもらったんだから」
「ピンク色なのにブランなんだね」
「ももちゃんは白いのにももちゃんだよ」
亜希も思わず笑った。
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