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普通の人っぽいGW
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母親らしき女性にひなちゃん、と呼ばれた女の子は、少し名残惜しそうにももちゃんの顔を見てから、亜希に押しつけるようにして返した。そして、またね、と言って身を翻す。彼女のリュックのてっぺんから顔を出していたピンク色のブランが、耳を左右に揺らしていた。それがぱたぱたと走る女の子の背中についた、小さな羽のようにも見えた。
娘から何か説明を聞いていた母親がこちらを向き、軽く会釈した。母親は亜希と同じくらいの年齢に見えた。うさぎのぬいぐるみを抱いた変なおばさんに近づいた娘が、心配だったかもしれない。会釈を返しながら、そんな必要は無いのに、亜希は申し訳なく思う。
右に立っていた千種が、軽く覗き込んできた。
「うさぬい仲間だ」
その涼やかな目には、優しい笑いが滲んでいる。そんな風に言ってくれる千種の存在が有り難い。
「どうする? もっと撮影する?」
「あ、したいのはやまやまだけど……ちょっと変な人っぽさが増してきたかなぁ」
ももちゃんを左腕に抱きっぱなしの亜希は、ちらちらと自分に送られる視線が気になり始めていた。しかし千種は、やたらと確信に満ちた声で言う。
「亜希さんがあまりに真剣に撮るからさ、みんなガチなカメラマンだと思ってるんじゃないかな? プロが試作をスマホで撮ることもあるし」
これには亜希は笑ってしまう。写真を生業にしている人に失礼ではないのか。
「やめてよ、大西さんが私のために言ってくれるのは嬉しいけど」
「嘘でも誇張でもない、少なくとも俺はプロが撮影する現場を何度か見てる」
千種は大真面目である。あ、そうか、と亜希は思い当たる。彼はデザイナーの家の人だ。彼が家にいた頃も、父親の新作を身につけたモデルを、カメラマンが撮影することは度々あっただろう。
「それに子どもは敏感だよ、言い方は悪いけど、亜希さんのことをほんとに変な人だと感じたなら、あんな無防備に近づいて来ないと思う」
千種の後ろに広がる空が青過ぎるせいもあるのか、何となく恥ずかしくていたたまれなくなってきた。亜希はももちゃんをトートバッグに入れながら、千種と目を合わせずに言う。
「えっと、じゃあ、できれば別の場所で撮影したいと思います」
「了解、あとそろそろ俺を苗字呼びするのやめて」
千種はしれっと言う。それもわかっているが、彼をどう呼ぶと自分の中でしっくり来るのか、亜希がわからないのだった。
腕時計を見た千種は、驚いたように言う。
「え、もうこんな時間? 昼ご飯食べようか」
ももちゃんと飛行機の写真を撮ってテンションが上がったせいか、小腹が減り始めたことに気づいた亜希は、うん、と答える。2人は連れ立って、建物の中に入った。
「ね、こんな感じで楽しいの?」
亜希はつい不安を口にした。楽しいよ、とあっさり千種は返す。
「ぶっちゃけ女の人と出掛けて純粋に楽しいのは凄く久しぶり……若い時はこの後エッチするからって自分に言い聞かせながら、女の子の買い物とかにつき合ってたな」
「えーっ、ヤリ目だったんだ」
亜希はわざと眉間に皺を寄せて言ってやった。若い男なんて、ほぼセックスが交際の第一目標だと、亜希だって熟知しているつもりである。
「引いた? 俺結構モテたくていろいろ頑張った黒歴史ホルダーなんだ、肌の手入れもしたし身体も鍛えた」
あけすけな千種に、笑ってしまう。彼は続ける。
「針子ってモテないんだよ、デザイナーって言えばみんなハッとするんだけどさ、俺デザイナーとしてはからっきし駄目だから」
「ももちゃんのワンピースは大西さんのデザインじゃないの?」
亜希は気になっていたことを訊いてみた。千種は微妙、と苦笑する。
「あれはクードゥル・オオニシのプレタポルテのワンピの基本形なんだ、型紙は確かに俺が起こしたけどデザインは親父」
「へぇ……」
それでも亜希は、ぬいぐるみに合わせて型紙を作る千種に感心したし、高級ブランドのワンピースをももちゃんが着ている(と言ってもいいのかよくわからないが)ことに軽くときめいた。
「蔵田さんはかかわってない?」
「ああ、マジックテープをつけてくれた……だけ? うん、それだけだな」
2人で笑いながら向かったレストランコーナーには、人が集まり始めている様子だった。いつも安いものばかり食べているからと、少し高級な蕎麦屋に入ってみる。
娘から何か説明を聞いていた母親がこちらを向き、軽く会釈した。母親は亜希と同じくらいの年齢に見えた。うさぎのぬいぐるみを抱いた変なおばさんに近づいた娘が、心配だったかもしれない。会釈を返しながら、そんな必要は無いのに、亜希は申し訳なく思う。
右に立っていた千種が、軽く覗き込んできた。
「うさぬい仲間だ」
その涼やかな目には、優しい笑いが滲んでいる。そんな風に言ってくれる千種の存在が有り難い。
「どうする? もっと撮影する?」
「あ、したいのはやまやまだけど……ちょっと変な人っぽさが増してきたかなぁ」
ももちゃんを左腕に抱きっぱなしの亜希は、ちらちらと自分に送られる視線が気になり始めていた。しかし千種は、やたらと確信に満ちた声で言う。
「亜希さんがあまりに真剣に撮るからさ、みんなガチなカメラマンだと思ってるんじゃないかな? プロが試作をスマホで撮ることもあるし」
これには亜希は笑ってしまう。写真を生業にしている人に失礼ではないのか。
「やめてよ、大西さんが私のために言ってくれるのは嬉しいけど」
「嘘でも誇張でもない、少なくとも俺はプロが撮影する現場を何度か見てる」
千種は大真面目である。あ、そうか、と亜希は思い当たる。彼はデザイナーの家の人だ。彼が家にいた頃も、父親の新作を身につけたモデルを、カメラマンが撮影することは度々あっただろう。
「それに子どもは敏感だよ、言い方は悪いけど、亜希さんのことをほんとに変な人だと感じたなら、あんな無防備に近づいて来ないと思う」
千種の後ろに広がる空が青過ぎるせいもあるのか、何となく恥ずかしくていたたまれなくなってきた。亜希はももちゃんをトートバッグに入れながら、千種と目を合わせずに言う。
「えっと、じゃあ、できれば別の場所で撮影したいと思います」
「了解、あとそろそろ俺を苗字呼びするのやめて」
千種はしれっと言う。それもわかっているが、彼をどう呼ぶと自分の中でしっくり来るのか、亜希がわからないのだった。
腕時計を見た千種は、驚いたように言う。
「え、もうこんな時間? 昼ご飯食べようか」
ももちゃんと飛行機の写真を撮ってテンションが上がったせいか、小腹が減り始めたことに気づいた亜希は、うん、と答える。2人は連れ立って、建物の中に入った。
「ね、こんな感じで楽しいの?」
亜希はつい不安を口にした。楽しいよ、とあっさり千種は返す。
「ぶっちゃけ女の人と出掛けて純粋に楽しいのは凄く久しぶり……若い時はこの後エッチするからって自分に言い聞かせながら、女の子の買い物とかにつき合ってたな」
「えーっ、ヤリ目だったんだ」
亜希はわざと眉間に皺を寄せて言ってやった。若い男なんて、ほぼセックスが交際の第一目標だと、亜希だって熟知しているつもりである。
「引いた? 俺結構モテたくていろいろ頑張った黒歴史ホルダーなんだ、肌の手入れもしたし身体も鍛えた」
あけすけな千種に、笑ってしまう。彼は続ける。
「針子ってモテないんだよ、デザイナーって言えばみんなハッとするんだけどさ、俺デザイナーとしてはからっきし駄目だから」
「ももちゃんのワンピースは大西さんのデザインじゃないの?」
亜希は気になっていたことを訊いてみた。千種は微妙、と苦笑する。
「あれはクードゥル・オオニシのプレタポルテのワンピの基本形なんだ、型紙は確かに俺が起こしたけどデザインは親父」
「へぇ……」
それでも亜希は、ぬいぐるみに合わせて型紙を作る千種に感心したし、高級ブランドのワンピースをももちゃんが着ている(と言ってもいいのかよくわからないが)ことに軽くときめいた。
「蔵田さんはかかわってない?」
「ああ、マジックテープをつけてくれた……だけ? うん、それだけだな」
2人で笑いながら向かったレストランコーナーには、人が集まり始めている様子だった。いつも安いものばかり食べているからと、少し高級な蕎麦屋に入ってみる。
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