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番外編 姫との夏休み
第2楽章④
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札幌の市街地に戻り、天音が昼食に目星をつけていたのがファミレスだったので、三喜雄は驚いてから笑った。自分は別にセレブではないということを、何とか彼に理解してほしい天音である。
「デミグラスソースのハンバーグにサラダとライスつけてください」
昔よく家族で訪れた店だった。注文にだって慣れている。三喜雄はおろしハンバーグを頼んでいた。天音は早速、前期の打ち上げの予算オーバーの件で言い訳を始める。
「飲み放題の中にカクテル系が入ってないって、俺は聞かされてなかったんだ……俺は店の選定には携わってない」
「そうだったのか……でもあれだけ女子がいるのに、カクテル系が全く入ってないのはちょっとなぁ、グラスワインは入ってたのに」
呑兵衛の三喜雄はやけに冷静に分析する。実は彼は、焼酎が無いのか幹事に確認していて、無いと言われたのでビールで我慢していた。天音は犯人探しに走ってしまう。
「確かにそうではあるけど、カクテルを勝手に頼み始めたの誰だったんだ?」
「え? 太田さんじゃないかな、カシスオレンジが飲みたいって言い出して、周りの女子が賛同したのは覚えてる」
三喜雄の答えに、天音は舌打ちした。あの女は俺を叩き潰すために、俺に迷惑をかけるのを楽しんでいるに違いない。ハンバーグがやって来て、三喜雄は水をテーブルの隅に寄せた。
「そんなことで舌打ちするなよ、これからは追加飲みを禁止するか、した人は別途徴収って、皆が酔っ払う前にきちんと通達したらいいだけだ」
「面倒くさい奴らだな!」
「誰に対して言ってんだ、こんなことで微妙にキレてる塚山が面倒くさいわ」
三喜雄の言葉に天音は愕然とする。善意で幹事を手伝ったのに手際の悪さの責任を問われたばかりか、三喜雄からこんな風に言われるなんて。泣きたくなった。
ハンバーグにナイフを黙々と入れていると、三喜雄が軽く覗きこんでくる。
「どうしたんだ、飲み会の幹事が多少上手いこといかないなんてよくあることだよ、そう落ちこむな」
「俺は幹事じゃないのに……」
天音がぼそっと呟くと、三喜雄がぷっと吹き出した。
「オペラ基礎の試験前も思ったんだけど、塚山ってもしかして、失敗とか怒られることに慣れてない子?」
意味が分からなくて、じっとりと三喜雄を睨みつけてしまった。彼はきれいな形の目に、笑いを浮かべる。
「あのさ、たぶんみんなおまえのこと責めてないし、代金を追徴したことなんか夏休み中に忘れるよ……次に同じことやらかさないように、気をつけたらいいんだ」
そう言ってから三喜雄は、何か面白い、と微笑して呟いた。そして、切ったハンバーグの上に大根おろしをナイフで器用に載せてから、フォークで口の中に運んだ。天音はそんな三喜雄の様子に毒気を抜かれてしまい、飲み会の話はもうどうでもよくなった。ただ、もし次回幹事を押しつけられそうになったら、三喜雄に手伝ってもらおうと思った。
「このファミレス、中学生くらいまで父親と母親と……ばあちゃんとちょこちょこ来たんだ」
普段家族の話をほとんどしないせいか、三喜雄は天音の話に興味を示した。
「塚山家でもファミレス使うのか」
「だから俺ん家はセレブじゃないって言ってんだよ……中3の今頃が最後だったかな? それから俺が高校受験体制に入って、特別な日以外の外食は無くなったな」
自分も歌い手である母は、天音に同学年の歌う友達(少なくとも天音の認識では)ができたと知り、家に連れて来いと今でも言うのだが、どちらかといえば寒めの家の空気を三喜雄に感づかれたくなくて、拒んでいる。仮に塚山家がセレブであったとしても、天音は三喜雄から聞く彼の家庭のほうが羨ましい。
三喜雄の母方の祖父母は音楽愛好家で、孫の舞台を必ず観に来てくれたという。天音の父方の祖母はこれまた声楽家だったので、天音が歌うと観に来てくれたが、とにかく目が厳しかった。良くなかったところをがんがん指摘し、三喜雄の祖父母のように、ホールに差し入れを持って来て、家に帰るとべた褒めしてくれるなどあり得なかった。
天音はざっくりと祖母について話し、自分は怒られることに慣れていない子ではないと三喜雄に言った。なるほどね、と彼は応じ、サラダをフォークでつつく。
「でも失敗したくない子だろ? 失敗を責められたくない子って感じかな?」
「誰だって失敗は責められたくないだろが」
「それもそうか、自責の念に駆られてるところにそれは辛い」
また三喜雄に弱みを見せてしまったような気がしつつ、他愛ない話のうちに昼食を終えた。そこそこ満足してファミレスを後にする。太陽が高くなり、少し暑いということもあり、木陰で涼を取れる場所に自転車を走らせた。
「デミグラスソースのハンバーグにサラダとライスつけてください」
昔よく家族で訪れた店だった。注文にだって慣れている。三喜雄はおろしハンバーグを頼んでいた。天音は早速、前期の打ち上げの予算オーバーの件で言い訳を始める。
「飲み放題の中にカクテル系が入ってないって、俺は聞かされてなかったんだ……俺は店の選定には携わってない」
「そうだったのか……でもあれだけ女子がいるのに、カクテル系が全く入ってないのはちょっとなぁ、グラスワインは入ってたのに」
呑兵衛の三喜雄はやけに冷静に分析する。実は彼は、焼酎が無いのか幹事に確認していて、無いと言われたのでビールで我慢していた。天音は犯人探しに走ってしまう。
「確かにそうではあるけど、カクテルを勝手に頼み始めたの誰だったんだ?」
「え? 太田さんじゃないかな、カシスオレンジが飲みたいって言い出して、周りの女子が賛同したのは覚えてる」
三喜雄の答えに、天音は舌打ちした。あの女は俺を叩き潰すために、俺に迷惑をかけるのを楽しんでいるに違いない。ハンバーグがやって来て、三喜雄は水をテーブルの隅に寄せた。
「そんなことで舌打ちするなよ、これからは追加飲みを禁止するか、した人は別途徴収って、皆が酔っ払う前にきちんと通達したらいいだけだ」
「面倒くさい奴らだな!」
「誰に対して言ってんだ、こんなことで微妙にキレてる塚山が面倒くさいわ」
三喜雄の言葉に天音は愕然とする。善意で幹事を手伝ったのに手際の悪さの責任を問われたばかりか、三喜雄からこんな風に言われるなんて。泣きたくなった。
ハンバーグにナイフを黙々と入れていると、三喜雄が軽く覗きこんでくる。
「どうしたんだ、飲み会の幹事が多少上手いこといかないなんてよくあることだよ、そう落ちこむな」
「俺は幹事じゃないのに……」
天音がぼそっと呟くと、三喜雄がぷっと吹き出した。
「オペラ基礎の試験前も思ったんだけど、塚山ってもしかして、失敗とか怒られることに慣れてない子?」
意味が分からなくて、じっとりと三喜雄を睨みつけてしまった。彼はきれいな形の目に、笑いを浮かべる。
「あのさ、たぶんみんなおまえのこと責めてないし、代金を追徴したことなんか夏休み中に忘れるよ……次に同じことやらかさないように、気をつけたらいいんだ」
そう言ってから三喜雄は、何か面白い、と微笑して呟いた。そして、切ったハンバーグの上に大根おろしをナイフで器用に載せてから、フォークで口の中に運んだ。天音はそんな三喜雄の様子に毒気を抜かれてしまい、飲み会の話はもうどうでもよくなった。ただ、もし次回幹事を押しつけられそうになったら、三喜雄に手伝ってもらおうと思った。
「このファミレス、中学生くらいまで父親と母親と……ばあちゃんとちょこちょこ来たんだ」
普段家族の話をほとんどしないせいか、三喜雄は天音の話に興味を示した。
「塚山家でもファミレス使うのか」
「だから俺ん家はセレブじゃないって言ってんだよ……中3の今頃が最後だったかな? それから俺が高校受験体制に入って、特別な日以外の外食は無くなったな」
自分も歌い手である母は、天音に同学年の歌う友達(少なくとも天音の認識では)ができたと知り、家に連れて来いと今でも言うのだが、どちらかといえば寒めの家の空気を三喜雄に感づかれたくなくて、拒んでいる。仮に塚山家がセレブであったとしても、天音は三喜雄から聞く彼の家庭のほうが羨ましい。
三喜雄の母方の祖父母は音楽愛好家で、孫の舞台を必ず観に来てくれたという。天音の父方の祖母はこれまた声楽家だったので、天音が歌うと観に来てくれたが、とにかく目が厳しかった。良くなかったところをがんがん指摘し、三喜雄の祖父母のように、ホールに差し入れを持って来て、家に帰るとべた褒めしてくれるなどあり得なかった。
天音はざっくりと祖母について話し、自分は怒られることに慣れていない子ではないと三喜雄に言った。なるほどね、と彼は応じ、サラダをフォークでつつく。
「でも失敗したくない子だろ? 失敗を責められたくない子って感じかな?」
「誰だって失敗は責められたくないだろが」
「それもそうか、自責の念に駆られてるところにそれは辛い」
また三喜雄に弱みを見せてしまったような気がしつつ、他愛ない話のうちに昼食を終えた。そこそこ満足してファミレスを後にする。太陽が高くなり、少し暑いということもあり、木陰で涼を取れる場所に自転車を走らせた。
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