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11 その関係性
11月 31
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そこは三喜雄は、ノアとかなり違う。基本的に独りで、長期休暇を楽しむことができる。たまに誰かと、旅先の景色や心躍った芸術の感想をシェアしたいと思うことはあるけれど。
「予定が無ければ、ぼーっと昼間からお酒飲んで漫画読んでたら、3日くらいすぐ過ぎますよ」
三喜雄の怠惰発言に、ノアは顔を振り向けて、信じられないと言わんばかりの顔になった。
「実家に帰ったらそんな過ごし方をしてるんですか?」
「あ、今年はしてないかも……」
ノアは呆れているというよりは、心配になったようである。
「私はもし三喜雄が歌えなくなるようなことがあるなら、飲み過ぎしか原因を思いつきません」
どれだけ酒飲みだと思われているのだろう。さっき蕎麦屋でビールを飲む客を見て、これからコンサートだからダメダメと自分を戒めたことは否定しないが。
「酒量は常識レベルだと思うんですけど……」
「そう言いながらアルコール中毒になる人がたくさんいます、今だから言うけれど」
ノアはやや説教モードになった。失礼だと思うのだが、こういう時のこの人は少し面白いので、三喜雄は殊勝に聞くふりをする。
「火事の後で三喜雄の部屋に初めて行った時、ちょっと驚きました……他にほとんど食べ物が無い冷蔵庫に、ビールと水だけ並んでるなんて」
予想外のことを蒸し返されて恥ずかしくなり、思わず三喜雄は言い訳に走る。
「あっ、あれは……火事の日が休みだったから、買い出しに行くつもりで」
「買い物に行ったとして、お酒も買っていたでしょう?」
まあ酒は追加していただろう。三喜雄は反論できない。ノアは小さく息をついた。
「私を含めて、ドイツ人もお酒は好きですよ……ただ私は日本に来てから、日本人の飲み方がたまに病的に感じます、学生や仕事帰りの若い人が、道端で吐いていたり寝ていたり」
学生時代、その例を飽きるほど見た(三喜雄はいつも介抱する側だったので)から、ノアの意見は否定しない。そもそもドイツ人は、酔っ払ってそこいらで寝るようなことはしない。街の治安も理由だとは思うが。
ノアの説教モードは止まらなかった。
「ちらっと話した気もするけど、私が三喜雄にうちに来ないかと言ったのは、三喜雄の酒好きに少し危機感を覚えたのもあったからです」
「はい、独りにしておくのが心配だったんですよね……」
説教されている間に、落ち着いた服装の老若男女が、次々と吸い込まれていく一角が見えてきた。その奥がホールだ。
「こんな話で、三喜雄とのデートをつまらないものにしたくなかったのに」
ノアが低く言うのを聞いて、三喜雄はつい笑ってしまった。おまえが始めたんだろが。つか、デートって何だ。
「いえ、俺はつまらなくないからいいです」
ホールが近づいてきてテンションが上がったこともあり、三喜雄は朗らかに応じたが、ノアは少しムッとした。
「ということは、ちっとも自省していないという意味ですね?」
へ? 俺ガチで説教されてる? 本気で反省しないといけない場面になったらしく、三喜雄はきちんと言葉を選ぶ。
「えーっと、……俺目黒に引っ越してからはあまり飲まなくなりましたし、やっぱ退屈とか寂しさを紛らわせるために飲んでたのかな、とは思ってます」
三喜雄の言葉に、ノアはにっこり笑ったが、ふと歩調を緩めて右手を額にやった。
「……ほんとにごめんなさい三喜雄、面倒くさいですね、私」
まあ多少そうなのだが、三喜雄はノアがやけに萎れてしまったので逆に気になった。ゆっくりと曲がって、ホールの入り口に向かう。
「いえ、俺が感じてた以上に心配してくださってるんだってびっくりしましたけど、嬉しいです」
正直な思いだった。実家を出て独り暮らしが長くなり、恋人と過ごす時間もそんなに経験していない三喜雄にとって、ノアとの暮らしは目新しく、孤独が癒される。
「予定が無ければ、ぼーっと昼間からお酒飲んで漫画読んでたら、3日くらいすぐ過ぎますよ」
三喜雄の怠惰発言に、ノアは顔を振り向けて、信じられないと言わんばかりの顔になった。
「実家に帰ったらそんな過ごし方をしてるんですか?」
「あ、今年はしてないかも……」
ノアは呆れているというよりは、心配になったようである。
「私はもし三喜雄が歌えなくなるようなことがあるなら、飲み過ぎしか原因を思いつきません」
どれだけ酒飲みだと思われているのだろう。さっき蕎麦屋でビールを飲む客を見て、これからコンサートだからダメダメと自分を戒めたことは否定しないが。
「酒量は常識レベルだと思うんですけど……」
「そう言いながらアルコール中毒になる人がたくさんいます、今だから言うけれど」
ノアはやや説教モードになった。失礼だと思うのだが、こういう時のこの人は少し面白いので、三喜雄は殊勝に聞くふりをする。
「火事の後で三喜雄の部屋に初めて行った時、ちょっと驚きました……他にほとんど食べ物が無い冷蔵庫に、ビールと水だけ並んでるなんて」
予想外のことを蒸し返されて恥ずかしくなり、思わず三喜雄は言い訳に走る。
「あっ、あれは……火事の日が休みだったから、買い出しに行くつもりで」
「買い物に行ったとして、お酒も買っていたでしょう?」
まあ酒は追加していただろう。三喜雄は反論できない。ノアは小さく息をついた。
「私を含めて、ドイツ人もお酒は好きですよ……ただ私は日本に来てから、日本人の飲み方がたまに病的に感じます、学生や仕事帰りの若い人が、道端で吐いていたり寝ていたり」
学生時代、その例を飽きるほど見た(三喜雄はいつも介抱する側だったので)から、ノアの意見は否定しない。そもそもドイツ人は、酔っ払ってそこいらで寝るようなことはしない。街の治安も理由だとは思うが。
ノアの説教モードは止まらなかった。
「ちらっと話した気もするけど、私が三喜雄にうちに来ないかと言ったのは、三喜雄の酒好きに少し危機感を覚えたのもあったからです」
「はい、独りにしておくのが心配だったんですよね……」
説教されている間に、落ち着いた服装の老若男女が、次々と吸い込まれていく一角が見えてきた。その奥がホールだ。
「こんな話で、三喜雄とのデートをつまらないものにしたくなかったのに」
ノアが低く言うのを聞いて、三喜雄はつい笑ってしまった。おまえが始めたんだろが。つか、デートって何だ。
「いえ、俺はつまらなくないからいいです」
ホールが近づいてきてテンションが上がったこともあり、三喜雄は朗らかに応じたが、ノアは少しムッとした。
「ということは、ちっとも自省していないという意味ですね?」
へ? 俺ガチで説教されてる? 本気で反省しないといけない場面になったらしく、三喜雄はきちんと言葉を選ぶ。
「えーっと、……俺目黒に引っ越してからはあまり飲まなくなりましたし、やっぱ退屈とか寂しさを紛らわせるために飲んでたのかな、とは思ってます」
三喜雄の言葉に、ノアはにっこり笑ったが、ふと歩調を緩めて右手を額にやった。
「……ほんとにごめんなさい三喜雄、面倒くさいですね、私」
まあ多少そうなのだが、三喜雄はノアがやけに萎れてしまったので逆に気になった。ゆっくりと曲がって、ホールの入り口に向かう。
「いえ、俺が感じてた以上に心配してくださってるんだってびっくりしましたけど、嬉しいです」
正直な思いだった。実家を出て独り暮らしが長くなり、恋人と過ごす時間もそんなに経験していない三喜雄にとって、ノアとの暮らしは目新しく、孤独が癒される。
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