10 / 67
3 こいのうた
2-②
しおりを挟む
「あら、顔を見たらどきどきする女の子とかいないのかしら」
それなら昨日、奏大に顔を近づけられて話しかけられるほうが、余程どきどきした。大人の男の人に対してそんな風になるなんて、おかしいのだろうか。奏人は顔が赤くなったのを自覚した。
「ふふふ、別に私に話さなくてもいいのよ、そういう歌なの……まあこの歌は命まで捧げるなんて言っちゃってるけど」
伯母はうまい具合に誤解してくれたようだった。
「おばさんもおじさんに命を捧げるとか思って結婚したの?」
奏人は試しに訊いてみる。伯母は再度、ふふふと笑った。
「おじさんは私に対してそうだったかもね」
「おばさんは違ったの?」
「私はね、……おじさんには内緒よ、アメリカに留学してた時にね、それくらい好きになった男の人がいたわ」
奏人は驚く。一番好きになった人と結婚するのではないのか。
「じゃあアメリカ人?」
「イギリス人よ、あっちも留学生で……お互い自分の国に戻って自然消滅しちゃった」
衝撃的だった。子ども扱いしないというのは、こういう話を聞かされるということらしい。
「あなたのお母さんはお父さんに命を捧げようとした筈よ、でなければ……ヴァイオリンを捨てたりしないわ」
奏人は分からなくなった。ならば父は、母の気持ちに応えていない。少なくとも奏人には、父が母に命を捧げるほどの思いを抱いているとは思えない。そして母は、今でもそんな気持ちでいるのだろうか。父と一緒になり、ヴァイオリニストでなくなったことを、悔やんでいるのではないのか……。
「あなたは茉理子によく似てるわ、かなちゃん……容姿だけじゃなく、内気なようで大胆なところも」
伯母は何故か少し寂しそうだった。
それなら昨日、奏大に顔を近づけられて話しかけられるほうが、余程どきどきした。大人の男の人に対してそんな風になるなんて、おかしいのだろうか。奏人は顔が赤くなったのを自覚した。
「ふふふ、別に私に話さなくてもいいのよ、そういう歌なの……まあこの歌は命まで捧げるなんて言っちゃってるけど」
伯母はうまい具合に誤解してくれたようだった。
「おばさんもおじさんに命を捧げるとか思って結婚したの?」
奏人は試しに訊いてみる。伯母は再度、ふふふと笑った。
「おじさんは私に対してそうだったかもね」
「おばさんは違ったの?」
「私はね、……おじさんには内緒よ、アメリカに留学してた時にね、それくらい好きになった男の人がいたわ」
奏人は驚く。一番好きになった人と結婚するのではないのか。
「じゃあアメリカ人?」
「イギリス人よ、あっちも留学生で……お互い自分の国に戻って自然消滅しちゃった」
衝撃的だった。子ども扱いしないというのは、こういう話を聞かされるということらしい。
「あなたのお母さんはお父さんに命を捧げようとした筈よ、でなければ……ヴァイオリンを捨てたりしないわ」
奏人は分からなくなった。ならば父は、母の気持ちに応えていない。少なくとも奏人には、父が母に命を捧げるほどの思いを抱いているとは思えない。そして母は、今でもそんな気持ちでいるのだろうか。父と一緒になり、ヴァイオリニストでなくなったことを、悔やんでいるのではないのか……。
「あなたは茉理子によく似てるわ、かなちゃん……容姿だけじゃなく、内気なようで大胆なところも」
伯母は何故か少し寂しそうだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる