26 / 67
5 いばしょのありか
5-②
しおりを挟む
自分の声で耳がおかしくなりそうだった。頭の中が真っ白になる。
「奏人くん、分かった、返すから落ち着いて!」
奏大の慌てた声に、奏人は我に返った。自分を圧迫していた力から解放されたと同時に、寝室の扉が乱暴に開く音がした。
「かなちゃん! どうしたの! 何してるの、奏大くんっ‼」
伯母の声が部屋に響き渡った。奏人は完全に正気に戻った。そして自分のせいで奏大が悪者にされたことを悟る。顔を上げると、伯母は目を吊り上げ、奏大を威嚇するような厳しい表情をしていた。初めて見る、本気で怒った顔だった。
「涼子さんごめん、僕が悪ふざけをして怖がらせたんだ」
「あんな声を上げさせるなんて、何をしたの!」
奏人はとんでもないことになったと、先ほどとは違う恐怖に混乱する。このままでは、伯母は奏大をこの家から叩き出してしまう。そんなことになったら、奏大は今夜どこで寝ればいいのだ。説明しなくては。
「違う、違うの、僕が悪かっ……」
奏人は必死に訴えたが、喉が詰まってそれ以上言えなかった。涙が一気に両眼から吹き出す。さっきとは違う音が勝手に喉から出た。部屋の中に、自分の鳴き声が響いて、情けなくて余計に泣けた。熱い涙が頬を流れ、ぼたぼた顎から落ちる。
「奏人くん、ほんとにごめん」
言いながら奏大は、奏人の身体に腕を回してきた。奏人は一瞬びくりとしたが、奏大が触れているところが温かく、風呂上がりの良い匂いが心地良くて、ほっとしてこわばった身体を緩めた。
「ごめん……奏人くんは弟がいるから、あんなこといつもやってるって思ったんだ」
本当に申し訳なさそうな声が、耳のすぐそばから聞こえてきて、奏人はごめんなさい、と泣きながら言った。
「奏人くん、分かった、返すから落ち着いて!」
奏大の慌てた声に、奏人は我に返った。自分を圧迫していた力から解放されたと同時に、寝室の扉が乱暴に開く音がした。
「かなちゃん! どうしたの! 何してるの、奏大くんっ‼」
伯母の声が部屋に響き渡った。奏人は完全に正気に戻った。そして自分のせいで奏大が悪者にされたことを悟る。顔を上げると、伯母は目を吊り上げ、奏大を威嚇するような厳しい表情をしていた。初めて見る、本気で怒った顔だった。
「涼子さんごめん、僕が悪ふざけをして怖がらせたんだ」
「あんな声を上げさせるなんて、何をしたの!」
奏人はとんでもないことになったと、先ほどとは違う恐怖に混乱する。このままでは、伯母は奏大をこの家から叩き出してしまう。そんなことになったら、奏大は今夜どこで寝ればいいのだ。説明しなくては。
「違う、違うの、僕が悪かっ……」
奏人は必死に訴えたが、喉が詰まってそれ以上言えなかった。涙が一気に両眼から吹き出す。さっきとは違う音が勝手に喉から出た。部屋の中に、自分の鳴き声が響いて、情けなくて余計に泣けた。熱い涙が頬を流れ、ぼたぼた顎から落ちる。
「奏人くん、ほんとにごめん」
言いながら奏大は、奏人の身体に腕を回してきた。奏人は一瞬びくりとしたが、奏大が触れているところが温かく、風呂上がりの良い匂いが心地良くて、ほっとしてこわばった身体を緩めた。
「ごめん……奏人くんは弟がいるから、あんなこといつもやってるって思ったんだ」
本当に申し訳なさそうな声が、耳のすぐそばから聞こえてきて、奏人はごめんなさい、と泣きながら言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる