緑の風、金の笛

穂祥 舞

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6 じぶんのため、だれかのため

4-⑤

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「あ、右手……奏人くん、持ってみたらたぶんもっとよくわかる」

 奏大が金色の楽器を差し出そうとするので、奏人はぎゅっとスケッチブックを胸に抱いた。

「駄目、僕が触っちゃいけないよ」
「指を置くだけで壊れたりしないから」

 今度は奏大が後ろに回ってきて、スケッチブックを置くように言った。奏人の手を取り、まず左手の人差し指と親指の間に楽器を挟む。美しい筒型のそれは、ひんやりとして驚くほど重かった。

「キーの1個ずつに順番に指を置いて、リコーダーと同じことだよ」

 奏人はどきどきしながら、指の腹でキーの真ん中に開いた穴を押さえた。

「キーに穴の無い楽器もあるよ、初めて吹くときはそれを使う場合が多い」

 右手に楽器が乗ると、親指がつりそうだった。指を広げてキーに置き、バランスを保つ。

「ほんとは左の人差し指の付け根と右の親指だけで持つよ、あと演奏する時はマウスピースに唇を乗せるから、その3点で支える」

 伯母は奏人が指示を受けつつ、おっかなびっくりフルートを持つのを見て、くすくす笑う。

「いいじゃない、似合うわ」

 とにかくフルートが重い。奏大が吹くのを見ている限りでは、想像できない重さだ。

「重い、んだね」

 奏人が言うと、白銀のよりはね、と当然のように奏大は答えた。価値がよくわからないが、9金なのだそうだ。
 それを聞き、伯母が笑い混じりに言う。

「あらぁかなちゃん、100万じゃ全然足りないかも」
「ええっ? 怖いよ」

 その会話に奏大は声を立てて笑った。奏人はフルートが手から転げ落ちないかと、どきどきする。……それにしても美しい楽器だ。どこもかもがきらきらしている……。
 楽器を支える右手の形が把握できたので、奏人は吹いてみろと言われる前に、金色の笛を持ち主に返した。持つのが怖かったけれど、本当にきれいだった。
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