夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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10 暴露

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 明里は興奮したせいか、美智生に驚かれるくらいがぶがぶビールを飲んで、ショーの終曲では感極まって涙ぐんでいた。晴也にすると、今日のショーはクリスマスの時のような気迫には欠けたものの、衣装や構成がスマートで、女性ファンには目の保養になった様子である。
 ショーが終わった後に客席に挨拶に来た5人は、終曲のダンスの燕尾服姿だった。そのため皆が写真を撮るなどするので、各テーブルからなかなか解放してもらえない。

「明里さん、あいつらと写真撮りたい?」

 ハイボールを飲む美智生が明里に訊くと、彼女はもちろんです! と鼻息を荒くした。

「ダンスファンの友達に自慢します」
「よーしじゃあ撮ってあげよう、ラストに燕尾って珍しいし映えるな」

 ようやく5人が晴也たちのところにやって来て、今年もよろしくお願いします、と挨拶した。明里はスマートフォンを美智生に手渡し、5人に囲まれてご満悦の表情になる。晴也も一枚撮ってやった。
 明里は興奮してユウヤとショウに何やら一生懸命話し出し、晴也はショウに謝る意味で手を合わせた。ショウはくすりと笑った。
 サトルが晴也と明里をしみじみと見比べるので、晴也はどうかしましたか? と訊く。彼はユウヤやショウから言い含められているのか、小声で言った。

「いや、ハルさんの妹さんって伺ったので女の時のハルさんみたいな人かなと思ったら、全然違うからびっくりしました」

 晴也は苦笑した。マキも言ってくる。

「あまり似てらっしゃらないんですね、僕は女のハルさんが2人並ぶのかなと期待してたんですけど」
「それはどういう期待?」

 晴也が突っ込むと、マキは説明が難しいんですけど、と首をひねった。サトルが笑う。

「何かとにかく今日はハルさんとみちおさんが男だったから、残念なようなホッとしたような」
「クリスマスの時何だかこの辺眩しかったですからね、見ないようにするってショウさん言ってましたよ」

 若い2人に口々に言われて、くすぐったくなる。明里と美智生との話が一段落着いたところで、5人はステージに戻り、拍手を浴びながら最後に頭を下げた。

「やぁ、明里さんが満足してくれて一安心」
「何処のプロデューサーなんですか」

 美智生に晴也が突っ込んでいると、明里が絶対納得いかない、と水割り片手に呟く。

「お兄ちゃんがあの人たちと親しげなのがどうしてなのかわからん」
「と言われても……」

 晴也は肩を竦めた。美智生は明里を覗きこみ、そこそこ酔っているのを確認してから、晴也の顔を見てにやりと笑った。

「簡単なことだよ明里さん、ハルちゃんはショウとつき合ってる」
「ほえっ⁉」
「あああっ、ミチル……美智生さん何訳わかんないこと言ってるんですか、冗談冗談」

 晴也は大慌てで否定する。明里はあ然としていた。

「お兄ちゃんちょっと待って、こないだ私訊いたよね? 気になる人でも出来たんじゃないのかって……まさか」
「いやいや何でそれがショウさんって話になるんだよ」
「お兄ちゃんがはっきりしないならショウに訊くわ」

 わあっと晴也は立ち上がる妹を押し留め、美智生は大笑いする。くっそ、この人も信用ならなかった。晴也は泣きそうになる。
 その時、見るからに酔っている藤田と牧野が出口に向かって歩きながらこちらに手を振って来た。

「ハルちゃん、ミチルさん、お先に~」
「おやすみなさーい、ショウさんによろしくね」

 晴也と美智生はおやすみなさい、と返す。明里は再度ぽかんとなる。

「みちる?」
「あ、俺の源氏名」
「樫原さん、水商売なさってるんですか?」

 美智生はふふふ、と笑った。明里はキッと晴也を見据えた。

「お兄ちゃんもハルちゃんだなんて、何でそんな変な呼ばれ方してんの? 何隠してんのよ、それもショウに訊いたらわかるのっ?」

 晴也は酔いが一気に醒めた気がした。待て、これ俺めちゃくちゃピンチなんじゃないか? すると後ろからこそっと声がした。

「ハルさん、今日はどうもありがとう……あかりさんは帰れるの? 送ろうか?」
「わあああっ! 何で今出てくるんだよ!」

 晴也は振り返り、セーターにジーンズ姿の晶を確認して叫んだ。周りが賑やかになっていて、声はかき消されたが、明里は舞台上にいたダンサーの私服姿での登場に目を丸くした。

「……誰を送ってくださるってお話なんですか?」

 晶はえ? と言ってから笑顔になった。

「あかりさんはお住まいはどちらですか? 遅いから車出します」

 明里は口をぱくぱくさせる。晴也は顔をひきつらせながら、晶に答えた。

「今夜うちに泊めますのでご放念くださいませ」
「そうなんだ、まあでもマンションまで行くよ、片づけしたら出るから駅で待ってて」

 晶は忍びの者のように、カウンター席の脇にあるらしいスタッフ用の通路にすっと姿を消した。美智生が笑いをこらえながら言った。

「じゃあ俺も終電乗りたいから、もう少ししたら出ますか? まあ後はお兄ちゃんから家で聞くといいと思うよ」

 明里は完全に混乱している様子である。とにかく3人で店の出口に向かい、コートを着こんでから会計を済ませた。店員たちがありがとうございましたと声を揃えて見送ってくれた。

「明里さん、あなたはさといみたいだから何か気づいてしまったみたいだけど、お兄さんは危ないこともいかがわしいこともしていない」

 日付けが変わり人通りが減った道をゆっくりと駅に向かいながら、美智生は明里に話しかけた。明里は整理するように言う。

「樫原さんは水商売をなさってる、兄もそれに噛んでる、ドルフィン・ファイブは……」
「俺がずっとファンなんだ、ハルちゃんを去年の11月に初めてルーチェに連れて行った」
「それで兄はショウと仲良くなったの?」
「そこは本人たちから聞くといい」

 新宿駅に着き、美智生はおやすみ、と言って階段に向かった。明里は彼に頭を下げて、ありがとうございました、と言った。酔っていても礼儀は忘れない妹を、晴也は誇りに思う。タクシー乗り場でたたずむと、冷たい空気が頬を刺した。
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