夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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10 暴露

14

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「あの、ショウさん」
「何?」
「実家に帰ってる時さ、その……実家は一戸建てなんだけど」
「うん、うちもそうだ」

 言いながら晶は晴也の背中を抱き直す。密着度が増して思わず息を詰めた。

「……それでマンションより寒いだろ」
「うんうん」
「……あっ、何かもういいや、終わり」

 晴也はぼうっとするあまり、いたずらに晶を喜ばせることを言おうとしていた。

「何だ、気になるから話せよ」

 晶が続きを聞きたがるので、仕方なく話す。

「いや、その……寒いからさ、ぎゅっとして欲しいなってたまに思ってた」

 晶は沈黙した。気まずいと思った瞬間、拘束が少し緩んで、頬にぶちゅっと唇を押しつけられた。

「ハルさん……可愛い……」

 晶は言うなり唇を重ねてくる。晴也はびっくりして身体を硬くしたが、背中でなだめるように手が動き、肩の力を抜く。
 三度目に唇をつけ直した時、舌が入ってきた。前にちょっと気持ち良かったことを思い出して、晴也もそれに応じる。

「ふ……んっ」

 湿った音と互いの呼吸音が微かに響く。夢中になり始めると、口の中に唾液が溢れてきた。

「あ」

 よだれ出る……。晴也が頭を引こうとすると、晶はじゅっと音を立てて、溢れそうになった液体を吸い取ってしまった。歯医者のバキュームかよ。可笑しさと申し訳なさが一緒に晴也の脳内に去来する。
 唇を離して晴也の頬を撫でていた晶は、耳や首にキスを浴びせ始めた。晴也は身を縮める。くすぐったくて、気持ち良かった。つい、あっ、と声が出てしまう。
 晶は小さく笑って、ついばむようなキスをする。そして薄闇の中で、じっと晴也を見つめてから、もう一度笑った。

「……何だよ、何がおかしいんだよ」

 言った晴也の声はかすれていた。身体が火照ってきて、喉が渇く。

「ハルさんがいろんな顔をするから面白い、こんなに表情豊かなんだなと思って」
「……仕方ないだろ、初めてのことばっかりなんだから」

 うふふ、と晶は笑い声を洩らし、額をくっつけてくる。触れたところが熱かったので、晴也は心配になった。彼の肩甲骨に触れていた手で彼の頬を触ってみると、そこも随分と熱い。

「大丈夫か、熱出てるんじゃないのか」

「うん、興奮して発熱状態だ、馬鹿にしてくれたらいいけどもう明日死んでもいいとか思ってる」

 晴也は自分に触れてこんな状態になっている晶が、やはりよくわからない。でも嬉しくもある。

「おまえやっぱり馬鹿だと思うわ」
「すみません、感情が欲望に直結してるものですから」

 晴也もくすっと笑った。

「でも明日死んでもとか言うのはやめろ、ルーチェのお客さんが後を追ったらいけないだろ」
「ハルさんは悲しんでくれる?」

 は? と晴也は言う。晶は晴也を見つめながら、確かめるように繰り返した。

「もし俺が明日死ぬってわかったら、ハルさんは悲しんでくれる?」

 晶が明日死ぬようなことになったら。晴也はやや呼吸を浅くして、答えた。

「当たり前だろ、そんなこと考えさせるな」

 身体が勝手に動いた。晴也は晶の首に腕を巻きつけ、彼の肌の温度を全ての神経で感じながら、胸の中で叫ぶ。……もしそんなことになったら、耐えられないだろ、くそ馬鹿!

「あーもうハルさんほんとに可愛い」

 耳に唇をつけながら晶が言うので、背筋にピリッとしたものが走る。
 晶は耳たぶを噛んできた。同時に左の乳首を軽く撫でられ、ひゃっと声が出た。

「ここ感じるんだったな、てかハルさんそこらじゅう感じるから何処から攻めようか迷う」

 晶は言いながら本格的に晴也に覆い被さってくる。この間は触らせていない鎖骨や肩にまでキスされて、身体の内側で熱が生まれるのを晴也は自覚した。
 あ、これまずいやつだ。これが始まると、ちんこがピンチに……晴也は身体をよじらせて、愛撫を軽く拒絶するアピールをしてみたが、逆に尖ってきたものを指の腹でくりくりされた。腰が勝手にぴくっと震えた。

「うあっ! やめ……っ!」

 たったこれだけのことなのに。晴也は羞恥で顔を伏せたいのに、許して貰える訳も無かった。

「やめろっ、あっ、ちょ……あ」

 自分の声に変な甘さが混じってくるのが、ますます恥ずかしい。ほとんど無意識に右手を口に持って行こうとしたのを、晶に止められた。

「手を噛むな、声くらい好きなだけ出せばいい」
「とっ、隣に聞こえる」

 晴也の訴えに晶は吹き出した。

「このマンション割と壁厚いし、こんな小さな声聞こえないよ」
「……自分が嫌だ、気持ち悪い」

 晶は笑う。何をしても彼には自分の振る舞いが笑いのネタらしい。

「じゃあ口を塞いでおこうか?」
「えっ、……んふっ!」

 晴也は深々と唇を重ねられた上に、胸の突起をつままれたり転がされたりして、ふんふんと声にならない音を立てる。股間が反応し始めたのを晶に気づかれない筈もなく、彼は太腿でそれを緩く擦り始めた。

「んーっ、ううっ、うんっ」

 やめろっ! 晴也は晶の背中を右手で叩いた。晶は晶ですっかりのぼせてしまったのか、口の中に舌を押し込んできて熱心に探索する。舌を捕まえられ、口の中でぬめぬめやっているうち、晴也は何がどうなっているのかわからなくなってきた。自分の身体が晶の熱で溶けて、形を崩してきているような気がする。
 やっと晶が唇を解放してくれて、晴也は水面に必死で上がってきた人のように、ぷはっ、と音を立てて息を吸った。

「ショウさん、もう許して、訳わかんない」

 頭の中にもやがかかり言葉を上手く選べない。そんな晴也を見て、晶はにんまり笑う。

「たったこれだけでこんなにトロトロになってくれるのは……経験が少ないからってだけじゃないな」

 言いながら晶はズボンの中に手を入れてきた。迷わず下着の中にまで指が入ってきて、熱くなった晴也のものにぎゅっと絡みつく。
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