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15 昼に舞う蝶とダンサー
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「珍しく汗ばんでたよな」
「後半軽くトランス状態になりかけたかも」
「……脚は大丈夫?」
晴也はふと気になり、顔を上げた。足を踏む振りが多かったので、膝に負担はかからないのだろうかと思ったのだった。
晶は少し目を見開き、すぐに蕩けた顔になった。
「平気だよ、でもよく頑張ったねってしてくれたら嬉しい」
晶が左脚を曲げるので、晴也は彼から少し離れた。晶の左膝を両手で包んで、お疲れさま、と言いながら撫でてやった。
「あっ、これは新しいプレイ……」
晶は上半身を軽く捩る。何言ってんだ、と晴也は思わず突っ込んだ。
「ちんこにもして」
「しない、別に頑張ってないだろ? 本体にはしてやるよ」
晴也は晶の頭に手を伸ばす。心から労う気持ちをこめて、晴也のよりも少し硬い、黒い髪を撫でた。
「……これは俺のだからな」
晴也が呟くと、気持ち良さそうに目を細めていた晶が、え? と晴也を覗き込む。
「……ショウさんは人気者だからみんな舞台の後に話したり触りたがったりするけど、今日ぶっちゃけ……その人たちにイラッとした」
晶は何も言わない。晴也は途端に気まずくなった。黒い髪を一筋、指先で摘む。
「俺は心が狭い」
晶は自分の髪に触れる晴也の手をそっと取る。自分より大きくて男らしい手に包まれると、それだけで幸せになった。
「そんなことはない、俺だってめぎつねで笑顔で働くハルさんを見てたらそんな気持ちになる」
「……そんな」
「まさかって思った? じゃあそれもたぶん俺も一緒だ」
うーん……。晴也は困惑した。だからと言って晶のためにめぎつねを辞めるつもりは無いし、晴也に気を遣って晶がルーチェで踊らなくなってしまったら、きっと悲しい。
晶は晴也を優しい目で見つめていた。
「でもハルさんがそんな可愛い焼きもちを焼いて……それを俺に素直に話してくれるなんて、感激」
感激? うざい、ではなく? 晴也は晶の気持ちがやはりよくわからないが、彼は続ける。
「俺はハルさんだけのものだ、ルーチェのお客様が俺に沢山の拍手や花をくれるのは、ほんとに嬉しいし感謝してるけど……別の種類なんだ」
晴也だって、めぎつねの客が自分を気に入り常連になってくれるのは、驚くし嬉しい。だからと言って、その人たちとどうこうなるということはあり得ない。そういうことか。
「……俺もショウさん以外と一緒に寝たりはしない、したくもない」
晴也が言うなり、晶はああ、と言いながら身体をもぞもぞさせて、がばっと抱きついてきた。両脚を晴也の腰に引っ掛けてくるので、身動きがとれなくなる。
「可愛い俺のハルさん……」
「もうっ、何ちんこ硬くしてんだよ、擦りつけてくるなっ」
晴也は晶の肌の匂いを、自分と同じボディソープの匂いの中に嗅ぎ分けて、どきどきしながら言う。
「こんなおまえを見たら絶対……ルーチェのお客さんはがっかりするぞ」
舞台上で、スーツや燕尾で軽やかに踊るショウは二枚目である。それが一皮剥けば、ちんこを連発するデレたスケベだとは、誰も思うまい。
「見せないからいい」
「ああ、まあそうですよね、はい……」
晴也は溜め息混じりに言い、枕元のリモコンで明かりを落とした。暗くなるなり、晶の温かい唇が晴也の唇の端に押しつけられ、胸がきゅっとなる。
「お客様が俺に何を話していても、ハルさんが気にすることなんかないから……」
晶が諭すように言い、晴也は小さく頷く。
「それで自分が嫉妬深いなんて悩まなくてもいい」
人を好きになるというのは、面倒くさい。でも晴也は薄闇の中で晶の目を見ながら、こいつが相手で良かったなと思う。晶はいつも晴也に、何かと根気よくつき合ってくれるからだ。
晶は晴也を見つめていたが、小さな声で晴也、と呼んだ。ぴょこんと心臓が跳ねた。
「……ショウさん、あの……」
晶は晴也の頬をそっと指先で撫でて、うん? と応じた。
「呼び方を変えるのは何か意味があるの?」
「え? いや、別に……気分とノリ?」
何だ、いつもどきっとして損した。ところが晶は耳のそばで、吐息混じりに晴也、とやけに色気を出してくる。
「一回俺のこと晶って呼んでみて」
「え……それこそどういうプレイなんだよ」
晴也は目の前に顔を据えられて、拒否権を奪われた。仕方なく、ゆっくり口を開く。
「……あきら……さん」
何だこれ、思った以上に照れくさい。晴也は俯こうとしたが、晶が覗き込んでくる。
「もう一回、ちょい溜めながら」
「晶、さん……」
「楽しげに」
「晶さん」
「囁いてみて」
「……晶さん……」
何の演技指導だ? 晴也は首を傾げたが、晶はうっ、と呻いて上半身を捩った。
「このバリエーションだけで立派なおかずになる……ハルさん天才かもしれない」
晴也は呆れた。
「勝手に楽しむなよ」
「吉岡は予想外に痺れてしまいました……でも私はお嬢様にショウさんと呼ばれるのも大好きでございます」
あ、そう、と晴也は笑ってしまう。晶が楽しいならまあいいかと思えるあたり、晴也もどうかしていた。
「ショウは芸名だって認識はないのか?」
「うん、だってイギリスにいた時はみんな俺をそう呼んだから」
晶は晴也の背中をちょっと抱き直し、耳に唇を近づけた。
「ハルさんは口が悪いのにいつも名前は丁寧に呼んでくれる、俺それすごく好き……」
「そうかなぁ」
少し首を傾けると、頬が晶の熱い頬に触れた。それだけなのに、気持ちいい。晴也はついそのまますりすりとしてしまい、そんな自分を猫みたいだと思う。
「後半軽くトランス状態になりかけたかも」
「……脚は大丈夫?」
晴也はふと気になり、顔を上げた。足を踏む振りが多かったので、膝に負担はかからないのだろうかと思ったのだった。
晶は少し目を見開き、すぐに蕩けた顔になった。
「平気だよ、でもよく頑張ったねってしてくれたら嬉しい」
晶が左脚を曲げるので、晴也は彼から少し離れた。晶の左膝を両手で包んで、お疲れさま、と言いながら撫でてやった。
「あっ、これは新しいプレイ……」
晶は上半身を軽く捩る。何言ってんだ、と晴也は思わず突っ込んだ。
「ちんこにもして」
「しない、別に頑張ってないだろ? 本体にはしてやるよ」
晴也は晶の頭に手を伸ばす。心から労う気持ちをこめて、晴也のよりも少し硬い、黒い髪を撫でた。
「……これは俺のだからな」
晴也が呟くと、気持ち良さそうに目を細めていた晶が、え? と晴也を覗き込む。
「……ショウさんは人気者だからみんな舞台の後に話したり触りたがったりするけど、今日ぶっちゃけ……その人たちにイラッとした」
晶は何も言わない。晴也は途端に気まずくなった。黒い髪を一筋、指先で摘む。
「俺は心が狭い」
晶は自分の髪に触れる晴也の手をそっと取る。自分より大きくて男らしい手に包まれると、それだけで幸せになった。
「そんなことはない、俺だってめぎつねで笑顔で働くハルさんを見てたらそんな気持ちになる」
「……そんな」
「まさかって思った? じゃあそれもたぶん俺も一緒だ」
うーん……。晴也は困惑した。だからと言って晶のためにめぎつねを辞めるつもりは無いし、晴也に気を遣って晶がルーチェで踊らなくなってしまったら、きっと悲しい。
晶は晴也を優しい目で見つめていた。
「でもハルさんがそんな可愛い焼きもちを焼いて……それを俺に素直に話してくれるなんて、感激」
感激? うざい、ではなく? 晴也は晶の気持ちがやはりよくわからないが、彼は続ける。
「俺はハルさんだけのものだ、ルーチェのお客様が俺に沢山の拍手や花をくれるのは、ほんとに嬉しいし感謝してるけど……別の種類なんだ」
晴也だって、めぎつねの客が自分を気に入り常連になってくれるのは、驚くし嬉しい。だからと言って、その人たちとどうこうなるということはあり得ない。そういうことか。
「……俺もショウさん以外と一緒に寝たりはしない、したくもない」
晴也が言うなり、晶はああ、と言いながら身体をもぞもぞさせて、がばっと抱きついてきた。両脚を晴也の腰に引っ掛けてくるので、身動きがとれなくなる。
「可愛い俺のハルさん……」
「もうっ、何ちんこ硬くしてんだよ、擦りつけてくるなっ」
晴也は晶の肌の匂いを、自分と同じボディソープの匂いの中に嗅ぎ分けて、どきどきしながら言う。
「こんなおまえを見たら絶対……ルーチェのお客さんはがっかりするぞ」
舞台上で、スーツや燕尾で軽やかに踊るショウは二枚目である。それが一皮剥けば、ちんこを連発するデレたスケベだとは、誰も思うまい。
「見せないからいい」
「ああ、まあそうですよね、はい……」
晴也は溜め息混じりに言い、枕元のリモコンで明かりを落とした。暗くなるなり、晶の温かい唇が晴也の唇の端に押しつけられ、胸がきゅっとなる。
「お客様が俺に何を話していても、ハルさんが気にすることなんかないから……」
晶が諭すように言い、晴也は小さく頷く。
「それで自分が嫉妬深いなんて悩まなくてもいい」
人を好きになるというのは、面倒くさい。でも晴也は薄闇の中で晶の目を見ながら、こいつが相手で良かったなと思う。晶はいつも晴也に、何かと根気よくつき合ってくれるからだ。
晶は晴也を見つめていたが、小さな声で晴也、と呼んだ。ぴょこんと心臓が跳ねた。
「……ショウさん、あの……」
晶は晴也の頬をそっと指先で撫でて、うん? と応じた。
「呼び方を変えるのは何か意味があるの?」
「え? いや、別に……気分とノリ?」
何だ、いつもどきっとして損した。ところが晶は耳のそばで、吐息混じりに晴也、とやけに色気を出してくる。
「一回俺のこと晶って呼んでみて」
「え……それこそどういうプレイなんだよ」
晴也は目の前に顔を据えられて、拒否権を奪われた。仕方なく、ゆっくり口を開く。
「……あきら……さん」
何だこれ、思った以上に照れくさい。晴也は俯こうとしたが、晶が覗き込んでくる。
「もう一回、ちょい溜めながら」
「晶、さん……」
「楽しげに」
「晶さん」
「囁いてみて」
「……晶さん……」
何の演技指導だ? 晴也は首を傾げたが、晶はうっ、と呻いて上半身を捩った。
「このバリエーションだけで立派なおかずになる……ハルさん天才かもしれない」
晴也は呆れた。
「勝手に楽しむなよ」
「吉岡は予想外に痺れてしまいました……でも私はお嬢様にショウさんと呼ばれるのも大好きでございます」
あ、そう、と晴也は笑ってしまう。晶が楽しいならまあいいかと思えるあたり、晴也もどうかしていた。
「ショウは芸名だって認識はないのか?」
「うん、だってイギリスにいた時はみんな俺をそう呼んだから」
晶は晴也の背中をちょっと抱き直し、耳に唇を近づけた。
「ハルさんは口が悪いのにいつも名前は丁寧に呼んでくれる、俺それすごく好き……」
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少し首を傾けると、頬が晶の熱い頬に触れた。それだけなのに、気持ちいい。晴也はついそのまますりすりとしてしまい、そんな自分を猫みたいだと思う。
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