夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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15 昼に舞う蝶とダンサー

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「またそんな鳥行動を……」

 晶の笑い混じりの声を聞いて、鳥なのかと解釈の違いに晴也も笑ってしまう。

「実家にいた雄の文鳥、俺に一番懐いてくれてて……ほんとに可愛かったんだ、学校から帰ってバレエの練習に行きたくなくて寝転んでたら、懐に飛び込んできて柔らかい頭を頬に擦りつけてくるんだ」
「……練習行けって言ってるのか?」
「いや、単に部屋にいるなら遊べって」

 文鳥はある日、晶の兄の服にふんを落とし、怒った兄にはたきで追い回された。そして廊下に飛び出して、開いていた窓から逃げてしまったという。

「それを姉貴から聞いて、俺が兄貴に掴みかかって大喧嘩になったなぁ……絶対あいつが先に鳥の嫌がることをしたんだ」

 晶の言葉を聞いた晴也は、何となく暗い気持ちになった。

「……発表会にはお兄さんも来るのか?」

 へ? と晶は声を裏返し、晴也から頰を離した。

「来ないよ、兄はバレエスタジオの運営には一切関わってない」
「ショウさんがゲイだってことにも、いい感情を抱いてないんだったよな?」

 晴也の言葉に、晶は口許を緩めた。

「気にするな、先回りして気を揉むのはハルさんの良くない癖だ……まあ当日は母に紹介することになると思うけど、関係を突っ込んだりはして来ないよ」

 スタジオの発表会の手伝いをすることになり、晴也は晶の家に関わらざるを得なくなった。晴也の家のほうだって、きっと明里が母親には晶の話をしているだろう。もう既に、お互いが好き合って楽しければ良い関係ではなくなっている気がする。

「……ショウさんは呑気だから」

 晴也が呟くと、晶は晴也の頬を優しく両手で包んだ。

「もちろん俺だって、お互いの家族が俺たちの交際を認めてくれたら嬉しい……でも俺たち、学校を卒業したての若者じゃないだろ? いざとなれば俺たちだけでも生きていける」

 まあ確かにそうだとは思う。2人とも家を出てだいぶ経つ。でも、だからこそ、家族には安心してもらいたいと晴也は感じるのだ。男同士で、晶をパートナーとしてやって行っても大丈夫なのだと、思ってもらいたい。
 そこまで考えて、晴也は自分の気持ちに驚き、ひやりとさえする。男の晶と、ずっと一緒に歩いて行こうというのか。
 晶の言葉で、晴也は我に返る。

「万が一兄貴がはたきでハルさんを追い回すようなことがあったら、俺が兄貴を掃除機で叩き殺す」
「……やめろ、殺さなくてもいいから」
「ハルさんは優しいな」
「普通だろ!」

 晴也は言うなり肩をぎゅっと抱きしめられ、晶の胸の中に取り込まれて、それ以上何も言えなくなる。

「俺は馬鹿で頼りないかもしれないけど、ハルさんが悲しんで泣かないように頑張るから」

 そんな風に言われて、晴也の胸がきゅんと苦しくなった。晶は続ける。

「ハルさんは今まで俺が知らなかったことを、これまででも沢山教えてくれた……これからもいっぱいいろんなサプライズがあると思うと、楽しみしかない」

 晴也はくすぐったいと同時に、じんとしてしまう。晴也のほうこそ、どれだけ晶から教えられたことか。うわべの知識なんかではない、自分を見つめながら地に足をつけて歩いていくための方法。だから……これからも一緒に歩いて行きたい、と思うのだ。
 少し気になり、晴也は晶に訊いてみる。

「これまでで何が一番サプライジングだった?」

 晶は低く笑った。額をつけている場所が、微かに震える。

「気持ち良くて声を上げるのははしたないとか、精液を飲んだら身体に毒とか思ってること……」
「……っ、くだらないことばっかじゃねぇか!」

 晶の笑いが少し高くなった。晴也は恥ずかしくて、それ以上反撃の言葉も見つからない。仕方ないだろ、知らないんだから!

「ほんと、『俺と童貞処女彼氏の日々』みたいなブログ書こうかと思うくらい新鮮」

 晴也は晶の言葉に顔を跳ね上げた。

「ええっ、やめろ、そんなの絶対許可しないからな!」

 晴也が本気で否定しても、晶は笑うばかりである。晴也はふくれて黙り込んだ。

「……何も言わずに俺の元から飛び去ったりしないで欲しい」

 晶がぽつりと落とした声は、やや寂しそうだった。晶の家の文鳥は、晶の兄が怖くて、戻りたくても戻れなかったのかもしれない。文鳥は賢く怖がりで、怒鳴られたことなどを忘れないと聞いたことがある。

「うん、ムカついて飛び去る時はくちばしでおまえの目を潰してからにするわ」

 晴也が答えると、晶は変態らしく嬉しげに笑った。
 父が動物全般を好きではないため、晴也は金魚以外の生きものを飼ったことがない。ただ小さい頃は、よくいろんな友達の家に遊びに行ったので、犬や猫やハムスター、小鳥と触れ合う機会があった。
 小さい頃から人と育った文鳥は、種としての性格から時に攻撃的になるけれど、1人の飼い主をパートナーと見做みなして懐く習性がある。そのことまでは、晴也は知らなかった。だから晶が願望を込めて、自分を文鳥呼ばわりするのだということも、晴也には想像がつかないのだった。
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