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15 昼に舞う蝶とダンサー
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低い声に晴也は目を剥き、叫びそうになるのを堪えた。そして晶の肘を突いて、外に出るよう促した。晶は総務課の連中に朗らかに言った。
「勤務時間中失礼いたしました、ありがとうございました」
お疲れさまでした、とか、ご馳走さまです、という複数の声が晶にかけられた。紙袋をカウンターに置き、むすっとして客人を送ろうとする晴也を見て、ちらほら笑いが起こった。晴也はそちらを見ないようにして、晶の腰を手先で軽く押しながら部屋の外に出る。
「何言ってんだよ! ここは会社! 公私混同するな」
「これも公私混同なの?」
営業課の部屋の前を通った時、晴也は視線を感じて足を止めた。そちらを見ると、部屋の入り口に崎岡と、最近ウィルウィンの業務を任され始めた岡野が、笑顔を見せて立っていた。そして2人の少し奥から、早川が晶を睨みつけていた。
晴也は早川と目を合わせないようにして、崎岡と岡野に微笑を送り会釈する。晶も2人に、ありがとうございました、と明るく言った。それからほんの一瞬目を鋭くして、早川に攻撃的な視線を送ったように、晴也には見えた。……この2人の闘いは、まだ継続されるらしい。
晴也がエレベーターを呼ぶと、晶が言った。
「ここでいいよ、いろんなところで噂になるだろ?」
「……もう噂になるには十分だよ」
「そう? でも総務課は雰囲気良さそうじゃないか、うちの社長も気にしてたから、良い報告ができそうで安心したよ」
うん、まあ、と晴也は口籠る。エレベーターがやって来て、晶が乗り込むと、晴也は彼にお辞儀をした。頭を上げると、半分閉まったドアの向こうで、晶は蕩けた顔をして手を振っていた。
こういうことが続くのか。晴也は複雑な気分になりながら、総務課の部屋に足を向ける。殺伐とした勤務時間中に晶の顔を見ることができるのは、正直嬉しいけれど、立派な公私混同だ。こんなことをしていると、自分と晶は会社公認のゲイカップルになってしまう。それは……あまり好ましくない。晴也はもうこれ以上、社内で目立ちたくなかった。
晴也が戻ると、3人の女子社員たちが、紙袋の中身をカウンターに広げていた。
「福原さん、どれ食べてもいいの?」
「あ、できれは同じお菓子の味違いは一緒に試してあげたほうが……」
崎岡か岡野に確認すべきかと思ったが、まあ自由に食べてもらおうと晴也は思う。前回のデータは、商品のプレゼンに大いに役立ったと晶から聞いているので、具体的な意見や声をきちんと取れるかどうかが大切だ。どの商品がどう美味しい、あるいはそうでないと感じたか、パッケージの印象、どれくらいの価格帯なら納得して購入できるか……。
「ねえねえ、福原さんっていつもイケメン狙い?」
「いつどこでデートしてるんですか?」
「福原さんがバイトしてる店とあの人が踊ってる店が近所ってほんと?」
晴也は女たちから、一度に質問を受けて固まった。いや、あの、とあたふたしてしまう。他の社員たちの視線も何となく痛い。
「そ、そういう話は休憩中にでも……」
苦し紛れの晴也の返事に、彼女らはそれもそうね、と口々に言う。
「3時のお茶の時間に、彼氏の差し入れ食べながら語らうってどうよ?」
「いいですね、そうしましょう」
差し入れじゃない、と晴也は言いたかったが、何も言わずに自分のデスクに戻る。お菓子のアンケート用紙を作るべく、エクセルを立ち上げたものの、休憩時間に何を訊かれるのだろうと気が気でなく、なかなか作業が進まなかった。
「勤務時間中失礼いたしました、ありがとうございました」
お疲れさまでした、とか、ご馳走さまです、という複数の声が晶にかけられた。紙袋をカウンターに置き、むすっとして客人を送ろうとする晴也を見て、ちらほら笑いが起こった。晴也はそちらを見ないようにして、晶の腰を手先で軽く押しながら部屋の外に出る。
「何言ってんだよ! ここは会社! 公私混同するな」
「これも公私混同なの?」
営業課の部屋の前を通った時、晴也は視線を感じて足を止めた。そちらを見ると、部屋の入り口に崎岡と、最近ウィルウィンの業務を任され始めた岡野が、笑顔を見せて立っていた。そして2人の少し奥から、早川が晶を睨みつけていた。
晴也は早川と目を合わせないようにして、崎岡と岡野に微笑を送り会釈する。晶も2人に、ありがとうございました、と明るく言った。それからほんの一瞬目を鋭くして、早川に攻撃的な視線を送ったように、晴也には見えた。……この2人の闘いは、まだ継続されるらしい。
晴也がエレベーターを呼ぶと、晶が言った。
「ここでいいよ、いろんなところで噂になるだろ?」
「……もう噂になるには十分だよ」
「そう? でも総務課は雰囲気良さそうじゃないか、うちの社長も気にしてたから、良い報告ができそうで安心したよ」
うん、まあ、と晴也は口籠る。エレベーターがやって来て、晶が乗り込むと、晴也は彼にお辞儀をした。頭を上げると、半分閉まったドアの向こうで、晶は蕩けた顔をして手を振っていた。
こういうことが続くのか。晴也は複雑な気分になりながら、総務課の部屋に足を向ける。殺伐とした勤務時間中に晶の顔を見ることができるのは、正直嬉しいけれど、立派な公私混同だ。こんなことをしていると、自分と晶は会社公認のゲイカップルになってしまう。それは……あまり好ましくない。晴也はもうこれ以上、社内で目立ちたくなかった。
晴也が戻ると、3人の女子社員たちが、紙袋の中身をカウンターに広げていた。
「福原さん、どれ食べてもいいの?」
「あ、できれは同じお菓子の味違いは一緒に試してあげたほうが……」
崎岡か岡野に確認すべきかと思ったが、まあ自由に食べてもらおうと晴也は思う。前回のデータは、商品のプレゼンに大いに役立ったと晶から聞いているので、具体的な意見や声をきちんと取れるかどうかが大切だ。どの商品がどう美味しい、あるいはそうでないと感じたか、パッケージの印象、どれくらいの価格帯なら納得して購入できるか……。
「ねえねえ、福原さんっていつもイケメン狙い?」
「いつどこでデートしてるんですか?」
「福原さんがバイトしてる店とあの人が踊ってる店が近所ってほんと?」
晴也は女たちから、一度に質問を受けて固まった。いや、あの、とあたふたしてしまう。他の社員たちの視線も何となく痛い。
「そ、そういう話は休憩中にでも……」
苦し紛れの晴也の返事に、彼女らはそれもそうね、と口々に言う。
「3時のお茶の時間に、彼氏の差し入れ食べながら語らうってどうよ?」
「いいですね、そうしましょう」
差し入れじゃない、と晴也は言いたかったが、何も言わずに自分のデスクに戻る。お菓子のアンケート用紙を作るべく、エクセルを立ち上げたものの、休憩時間に何を訊かれるのだろうと気が気でなく、なかなか作業が進まなかった。
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