今宵貴方と見る月は ~あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

穂祥 舞

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早春の言祝ぎ

18:40

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 両親が周りに会釈しながら席に戻ると、宴の結びがアナウンスされた。新郎新婦は高砂の席から深々と頭を下げ、祝福の拍手を浴びた。そして介添人に手伝われながら、ゆっくりと退場する。晴れやかな笑顔で会釈する芙由美と、涙が止まらないらしい清水との組み合わせが可笑しくて、皆の笑いを誘った。
「いつまで泣いてんだよ!」
「泣き止まないと写真に残って一生ネタにされるわよ!」
 山中と大平の言葉に、会場がどっと沸いた。清水がうるさいです、と応じたのがまた笑えた。暁斗は奏人とともに、二人に大きな拍手を送る。後ろのテーブルのゼミ友たちは、皆揃って泣きながら芙由美におめでとうと言っていた。
 来賓は親族のテーブルが空になったのを見計らい、引出物の紙袋を手に、ゆっくりと会場を後にし始めた。
「またひとり結婚という牢獄に繋がれていったなぁ」
 岸がこちらにやってきて言った。山中がまったくです、と笑った。
「何をおっしゃるんですか、奥様と仲良しでいらっしゃるのに」
 暁斗が突っ込むと、岸はそれとこれとは別だ、と言って周囲を笑わせた。
「常に相手のことを考える必要があるというのは、幸福でもあり不幸でもあるよ……まあ暁斗はいまのところ幸福でしかないようだけど?」
「あ、はい、まあそうです」
 惚気のろけるな、と山中に後頭部を押され、暁斗は想定外の攻撃につんのめりそうになった。奏人は自分の会社の出席者たちから、演奏について感想を述べられている様子だった。会社の人も、あの奏人のピアノには驚いたことだろう。
 新郎新婦とその両親が、バンケットホールの入り口で来賓を見送っていた。赤い目をした清水は、暁斗たちにありがとうございました、と頭を下げた。
「いやいや、お祝い事だから、こちらこそどうもありがとう……おめでとう、仲良く暮らせよ」
 暁斗が言うと、清水はまた目を潤ませて、桂山さん好き、と言った。
「それはキモいから」
「すみません、こいつ桂山さんのこと結構マジで好きなんで」
 芙由美に言われて暁斗は苦笑した。彼女は母親に似た朗らかな口調で続ける。
「引っ越しは4月に入ってからなんですけど、高崎さんと遊びに来てくださいね」
「そうなんですか、清水くんが居ない時にお邪魔します」
「何でそんなこと言うんですか!」
 清水の叫びが聞こえたのか、奏人が追いついてきて、おめでとうございます、と2人に声をかける。
「こちらまで幸せな気持ちになりました、井上さんのお友達やゼミの先生ともお知り合いになれて良かったです」
「奈良に行くようになったら遊んであげて」
 芙由美の言葉に奏人は笑う。暁斗は奏人ときちんと並ぶように心がけた。今ここにいる人に、彼を自分のパートナーであることをきちんと印象づけたかったからである。
「いいお式だったわね」
 大平の言葉に暁斗はそうですね、と心から答えた。大勢が集まり何かを祝うようなことを長く自粛してきたせいもあっただろう、この場に参加できてほんとうによかったと思った。
 花束を抱えた2人の両親にも挨拶をして、ゆっくりと会場を後にする。ロビーのほうまでぞろぞろと戻ってくると、芙由美のゼミの先生と友人たちが、挨拶してきた。今夜は全員、芙由美の親族と共に、このホテルに泊まることになっているという。
「これからもよろしくお願いします」
 代表するように先生に言われて、暁斗は恐縮した。
「こちらこそ、遠いところお疲れさまでした」
「お時間よろしければコーヒーでも飲みませんか?」
 大平の提案で、カフェのコーナーに皆で移動した。外はもうすっかり暮れていた。暁斗は奏人と目を合わせて、店員に人数を告げた。宴会部長として、プチ二次会も仕切っておかなくてはいけないだろうと思った。
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