今宵貴方と見る月は ~あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

穂祥 舞

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聖なる夜、恋せよ青年

おぐもち、活動する

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 それから1週間、先輩たちが取引先に年末の挨拶に行くのに同行しながら、陽佑はパーティの準備に精を出した。他の部署からの参加希望者がちらほら現れると、望月が案内を彼らに直接持って行くようにしていた。すると参加費を先に払おうと言う人が出てきたので、会計担当の陽佑も望月になるべくついていくことにした。
 営業課の新入社員男子がパーティの告知をして回っていることは、社内で何やら面白おかしく受け取られている様子だった。2人の苗字を取って、陽佑と望月を「おぐもち」と呼ぶ人まで出始め、そのうち社内報で紹介されるんじゃないかと桂山に笑われた。

「お互い不愉快でなければ、新人のあいだはそういうのも悪くないと思う、俺なんか企画の山中さんとずっと対にされてて割と嫌なんだけど」

 桂山は3時の休憩中、コーヒーの入ったマグカップ片手に話した。企画部長補の山中やまなか穂積ほづみは、桂山の大学の同窓生で先輩だという。彼もゲイで、桂山と一緒に「全てのマイノリティのための相談室」の室員として活躍しているので、2人は仲良しなのだと陽佑は思っていた。

「山中部長補のこと、好きじゃないんですか?」

 陽佑は思いきって訊いてみる。桂山は嫌いじゃないよ、と答えた。

「ただ俺は山中さんとはタイプが違うと認識してるし、あの人にはいろいろめられてるから」
「あ、そうなんですか……」

 陽佑が見る限りでは、山中は結構桂山が好きなようである。特に用が無くても営業課のフロアに顔を出すときがあるし、みんなで食えと言いながら、お菓子の箱を桂山に渡したこともあった。

「俺あの人といると、時々自己評価が下がるんだ……それが一番大きいかな」

 桂山の言葉が意外な気がした。彼が山中を羨ましがるということなのだろうか? 同じことを思ったのか、傍のデスクでコーヒーを飲んでいた営業事務の藤江ふじえが口を開く。

「でも課長は山中さんみたいな仕事をしたい訳じゃないんでしょう?」
「そうなんだけど、もししたかったとしてもきっとできないんだよな、たまにそれがムカつくというか何というか……」

 藤江は桂山の返事に、贅沢だぁと言ってくすくす笑う。

「課長のパートナーは10才年下だけど、山中さんのパートナーは18でしたっけ? 年下ってこともですか?」

 桂山は別にそれは羨ましくない、と言って笑った。いつも思うのだが、陽佑は桂山の朗らかな笑顔が好きだ。こんな話をしている時でも、変な自己卑下や、山中に対するマイナスの感情は、その表情からはうかがえない。

「それで? 参加費はどうする?」

 桂山に訊かれて、陽佑は答えた。

「営業課以外の人には前払いしてもらうように持って行こうと思います、望月と事務総元締めの平岡ひらおかさんとも確認しました」

 藤江が、総元締めという言葉に笑った。平岡も営業事務を担当するベテラン女子社員で、夫と子どもを差し置いて営業課のパーティに出席する。

「大丈夫だと思うけど、1000円でも取り扱いには気をつけて……こっちの控えのつもりで領収書作っておいたほうがいいかな」

 桂山は言った。同じことを平岡も言っていたので、彼女にテンプレートの簡易領収証を作ってもらおうと思う。

「そう、花谷さんに昨年の様子を教えて貰ったんですけれど、プレゼント交換は最初から番号をつけて、各自が引いた番号のものを持って行くほうがスムーズだと思います」

 陽佑は発案した。昨年は出席者が番号を引いて、1番から順に、並べられたプレゼントから各自で選んだらしかった。時間もかかり場がごちゃごちゃしたと花谷は話し、改善の余地があると陽佑も感じたのだった。
 藤江がそれでいいんじゃないか? と同意してくれた。

「でかいプレゼントのほうが得だって考える愚か者が多いことが明らかになっただけだったし」

 桂山がそれを聞いて苦笑した。

「後になると小さい包みが残ってたなぁ、高級チョコレートとかハーブティだったのに」
「課長もとっととでかい包み選んだじゃないですか」

 藤江が桂山に突っ込んだ。陽佑は思わず笑う。

「課長は去年何が当たったんですか?」
「ハートの柄の室内履きとひざ掛けだった、連れ合いが気に入って使ってる」
「たぶんそれ、たけうっちゃんが持って来たんですよ、課長が引いてくれたって年明けに喜んでました」

 藤江の言うたけうっちゃんとは、営業課女子で一番成績の良い竹内たけうちのことである。どうも彼女は、女子社員で構成される桂山のファンクラブの会員らしいのだが、男子社員は入れて貰えないのか、陽佑はずっと気になっている。

「そうだったのか、どう見ても柄は女性向けだったぞ」

 桂山の言葉に笑いが起きて、陽佑は逆に気を引き締める。プレゼント交換を盛り上げるのが、パーティの成功には欠かせないようだ。いい大人がプレゼント交換は無いだろうと、陽佑は最初鼻で笑いそうになったのだが、いい大人だからこそ、そんな無邪気なイベントが楽しいのだ。大きな発見をしたような気がした。
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