今宵貴方と見る月は ~あきとかなnext 〜 《あきとかな後日談集》

穂祥 舞

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きみが旅立つ日

6月24日⑤

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「右、揃える、左、揃える、右……」

 晴夏の掛け声に合わせて、暁斗は脚を動かした。2人のリズムが揃ってきたからか、オルガニストが小さく音楽を鳴らし始める。そうして乃里子が座るひとつ後ろの椅子まで進むと、牧師がストップ、と両手を出した。

「ありがとうございます、ここでお兄様と新郎様が交代です……一旦腕を解いていただいて」

 牧師の指示に従い、晴夏と暁斗は腕組みを解く。暁斗が少し前に立つ武井と互いに軽く一礼すると、武井が左手を晴夏のほうに差し出した。晴夏はその手を取り、彼の横まで進む。
 衣擦れの音とともに妹が離れると、聖歌隊の女性が暁斗にそっと近づき、言った。

「お兄様はお2人が祭壇に進まれましたら、お席にお戻りください……こちらへ」

 案内されて左手に進む。暁斗は乃里子の前を横切って、彼女の隣に座った。父親と母親の席は最前列と決まっており、未婚のきょうだいがその横に座ることが多いが、そうでなければ着席する場所は自由だという。

「この椅子には5人座っていただけますけれど、本日は皆様お揃いでも余裕がございますので、ゆったりとお掛けください」

 聖歌隊の説明を聞き、暁斗は今更ながら、結構出席者の多かった蓉子との結婚式では、皆に窮屈な思いをさせたかもしれないと反省する。
 祭壇の前に並んだ晴夏と武井の後ろ姿を乃里子と見つめながら、暁斗は肩の荷が一旦下りたこともあり、感慨のようなものを覚えていた。本当に、結婚するんだな。
 誓約は手袋を外してするものらしく、晴夏はもたもたと長い手袋を下ろして、介添に渡していた。雑に脱いだ靴下のように裏返しになった白い手袋を見て、まあ! と乃里子が小さく叫ぶ。

「何てだらしない……後で特訓だわ」
「特訓って……」

 暁斗は苦笑したが、続いた母の言葉に驚きの声を抑えなくてはならなかった。

「あれは私がお父さんと結婚した時に買った手袋なの、今日のドレスに色味や生地がぴったりだから貸したんだけど、私はあんな外し方しなかったわよ」

 いわゆる「サムシング・オールド」で、晴夏は乃里子のお下がりを使うことにしたのだった。乃里子にとっても大切な手袋なので、娘に雑に扱われて気分が良くないのももっともだった。
 指輪の交換をして、武井が晴夏のヴェールを上げる。長いヴェールなのでややもたついたが、かつて暁斗がもっとがさがさしたことを思えば、かなりスマートだった。

「口づけはお好きなところにお贈りください、ただしみんな写真を撮るので、3つ数えてくださいね」

 牧師の言葉に、えーっ、と晴夏が文句めいた声を上げるのか聞こえた。武井はそれを見て苦笑している。
 暁斗は本当に妹が、大らかで心根のいい男性とめぐり会えたのだと思う。武井は頭もいいのだが、それをひけらかさないのも好感度が高かった。
 晴夏は武井にエスコートされ、署名台の前に進む。

「あきちゃん、蓉子さんとサインしたあれ、別れた時に捨てたの?」

 母の突然の小声での質問に、捨てた、と答えてから、一応母をこそっと諫めておく。

「こんな場所で離婚した夫婦の話とかするな」
「え? あなた再婚したんだからいいじゃない、蓉子さんも2月に入籍したそうよ」
「えっ、そうなのか」

 最近学生時代のゼミの友人と話をしておらず(蓉子は暁斗のゼミの1年後輩である)、晴夏からも聞いていなかったので、その情報は初耳だった。昨年の秋に彼女と同窓会で会った時、そのつもりだと言っていたので、何も不自然ではないのだが。

「あ、奏人さん、蓉子と初めて会うんだな」

 蓉子は晴夏の友人として、今日出席する。初めてだったっけ? と乃里子は応じた。

「うん、だからどうだということでもないんだけど」
「……そうよねぇ」

 勝手にしみじみとする母と息子の目の前で、新郎新婦は退場の支度を整える。前奏を聴くよう牧師に言われた2人が、オルガンを必死で聴いているのがわかってちょっと可笑しい。

「はい、ここで拍手が起きたら出発です」

 牧師と一緒に、暁斗と乃里子も手を叩く。ヴェールを上げて顔を晒している晴夏は、照れくさそうにヴァージンロードを進んで行った。
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