ほさちのBL小品詰め合わせ

穂祥 舞

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雄ばかりの水槽で泳げ

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 暁斗がカーシェアリングで車を借り、ショッピングモールに車を走らせる日は、その中にあるペットショップに立ち寄ることが多い。奏人は動物全般が好きで、ペットショップに連れて行くと、いつもひとしきり無邪気に楽しんでくれるからだ。
 季節柄なのか、店内では魚のコーナーが拡張されている様子だった。いつも子犬を一番に見る奏人が、珍しくそちらに興味を示した。

「昨日お邪魔した事務所がね、社長さんが熱帯魚がお好きでアクアリウム置いてたんだ……きれいだったから」

 奏人の本業はSEで、取引先の会社のシステムの不具合がある時は外回りもする。昨日行ったのは個人経営の小さな会社か、士業の事務所だろうか。
 2人とも昼間は家にいないので、犬や猫や鳥を飼うのは難しいと考えてきた暁斗だが、飼育が難しくない熱帯魚を選べば、何とか飼えないだろうか、と思った。
 店内に並ぶアクアリウムは、どれも涼やかで美しく、南の海の一部を切り取ったようだ。暁斗は昔、夏祭りの金魚すくいで取った金魚たちを水槽で育てたが、藻をちらちらと置いただけだった。それが最近は、石や藻の種類や配置にこだわり、そこにきれいな魚を泳がせるのが主流らしい。
 奏人はひとつの水槽に近づき、少し身を屈めて覗きこむ。白い身体に、青の混じった尾びれを持つ魚が泳いでいた。スカートのように広がったひれをそよがせ、すいと泳ぐ小さな魚は、何となく奏人自身を連想させた。

「可愛いしきれいだな」

 暁斗が言うと、聞いていた店員が言った。

「ブルーグラスグッピーです、穏やかで飼いやすいですよ」
「あ、これがグッピー……」

 名前は聞いたことがあった。奏人は、別の場所に注目していた。

「これ、大きいですけどマリモですか?」

 水槽の底に、緑色の球体がふわふわ揺れている。白いグッピーたちは、その藻の隙間にたまに戯れるように身体を隠した。店員は、奏人の問いに答える。

「はい、西洋マリモです、最近人気があるんです」
「へぇ……何だか暁斗さんみたい」

 暁斗は思わず、は? と言った。普段奏人は暁斗のことを犬っぽいと言うが、マリモみたいという発言は初めてだ。

「何で俺がマリモなんだ」
「いや、何かね、中に入りこんだら面白そうな感じとか……グッピーたちかくれんぼしてない?」

 暁斗はマリモの周囲で優雅に青い尾びれを揺らすグッピーを目で追いつつ、多少自分はこんな風に、奏人の退避場になれているのかなと思う。
 店員は2人を購入の脈ありと見たのか、様々な情報を提供してきた。

「グッピーは繁殖しやすいんですよ、増やすおつもりがなければ、雌2尾か雄2尾から始めるのがいいですね」

 そうなんですか、と奏人は呟き、暁斗にだけ聞こえる声で、言った。

「雄2尾でも、仲良くなっちゃうことはあるよね」

 暁斗は鼻から笑いの息をそっと抜いた。確かに、それはそうだ。

「繁殖はしないだろうけど?」
「あ、そこが大事なんだね」

 たまに奏人はこんな風に、ボケる。それもまた、一緒にいて楽しいところだ。


現在『夏の扉が開かない』という連作短編スタイルのヒューマンドラマを7月限定で連載中で、毎日お題をもらっているのですが、どうしてもストーリーに合わないお題がある時はそれでBLを書いています。それをこちらに載せます(ですので新しい作品です!)。
*初出 2024.7.4 #文披31題 Day4「アクアリウム」
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