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2 直樹の哀愁
高橋直樹は、IT企業のオフィスで午前中の会議を終え、デスクに戻ってため息をついた。40歳の中間管理職、短い黒髪に疲れが滲む目元、かつて引き締まっていた体型はスーツ越しに少し緩んでいる。
仕事はできる男として知られ、プロジェクトを着実に進める手腕は今も健在だが、若い頃の勢いは薄れ、ストレスと疲れが彼を蝕んでいた。デスクに散らばる書類と、メールの未読件数がその重圧を物語っている。妻の沙織とのセックスレスが、彼の自信をさらに削いでいた。
若い頃、直樹は理想の先輩として慕われていた。新卒社員を的確に指導し、チームを牽引する姿に、部下たちは目を輝かせた。特に女性社員の間では噂が絶えなかった。
「高橋さん、めっちゃカッコいいよね。奥さん羨ましい」
「あの落ち着いた雰囲気で抱かれたらヤバいんじゃない?」
と、休憩室での囁きが彼の耳に届くこともあった。175cmの長身と、仕事中の鋭い視線は、確かに女性を引きつけた。
しかし今、部下たちは彼を「うまく厄介ごとを押し付けられる上司」と見なし、面倒なタスクを回してくる。かつての輝きは、会議室の蛍光灯の下で色褪せていた。
そんな中、佐藤遼だけは違った。28歳の部下、短い黒髪に爽やかな笑顔、ジムで鍛えた引き締まった体型がカジュアルなシャツ越しに際立つ。遼は直樹のチームで働き、彼の指示を正確にこなし、時に提案を加える。会議で直樹がクライアントの無理難題に頭を抱えると、遼がフォローに入り、
「高橋さんの進め方、参考になります」
と敬意を込めて言う。その言葉に、直樹は一瞬だけ昔の自分を取り戻すような感覚を覚える。だが、遼の若々しいエネルギーと、ジム帰りの汗ばんだシャツから漂う活力は、直樹に自分の衰えを突きつけるようでもあった。遼の自信に満ちた態度は、直樹の内に微かな嫉妬を掻き立てていた。
昼休み、トイレの個室で一息つく直樹。鏡に映る自分の疲れた顔を見ながら、かつて女性社員の視線を集めた自分が遠い過去に感じられた。遼が休憩室で同僚に話す声が、廊下から漏れ聞こえる。
「俺がここに入る前の高橋さん、昔はバリバリだってよく聞くけど、俺は今だって憧れる、めっちゃ勉強になる」
その正当に評価する言葉に、直樹はほのかな安堵を覚えるが、遼の若さが眩しすぎる。沙織とのぎこちない夜を思い出し、ストレスと欲求不満が絡み合い、身体の奥で疼くような熱が生まれるが、それを押し殺してデスクに戻る。
オフィスを出る頃、遼が軽く手を挙げて言う。「高橋さん、今日の資料、助かりました。また相談させてください」
その笑顔に、直樹は小さく頷くが、心の中では複雑な感情が渦巻いていた。尊敬とライバル意識、疲れと欲望。スーツのポケットに手を突っ込み、駐車場に向かう彼の背中は、どこか重たげだった。車に乗り込み、ルームミラーで自分の顔を確認する。まだ、男としての何かを取り戻せるかもしれない。そんな考えが一瞬よぎり、心が静かにざわめいた。
仕事はできる男として知られ、プロジェクトを着実に進める手腕は今も健在だが、若い頃の勢いは薄れ、ストレスと疲れが彼を蝕んでいた。デスクに散らばる書類と、メールの未読件数がその重圧を物語っている。妻の沙織とのセックスレスが、彼の自信をさらに削いでいた。
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