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しおりを挟む食後に用意された紅茶を飲み、一息ついたところで今まで食事を楽しんでいた香月を見守っていたフロウティアが口を開く。
「お料理はお口にあいましたか?」
「うん、とても美味しかった。ありがとう」
「良かったです、料理人も喜びましょう」
フロウティアは安心したように微笑み、お茶請けで用意されたケーキも美味しいと香月とヴィレムにすすめた。
真っ白な皿の上に載せられたケーキは果物のタルト。新鮮な果物が美しくカットされ、綺麗に飾れている。上からかけられているソースとクリームが味を引き立て、とても美味しい。タルト台がサクサクしていて、香ばしいのもよかった。
料理もケーキも見た目や味が元の世界と変わらないのが有り難い。リローズがこの世界を選んだのはこういった点も大きいかもしれない。
タルトに舌鼓を打ち、満足したところでフロウティアが話を始める。
「では、カツキ様が満足されたようですので、お話をさせて頂きますね」
フロウティアは座っていた椅子から立ち上がり、香月の前に来て跪く。右手を胸の前に添え、頭を垂れる。
「改めまして、教会の長──教皇を務めますフロウティアと申します。リローズ様の寵愛を受けし愛し子さま」
「教皇!?」
驚いて声を上げたが、教会を治める長なのだから、言い方が違うかっただけで、別段驚く必要は無い。
けれど、先程そこまで考えが至らなかった。
「教皇って、愛し子に跪くもの?」
教皇とは教会の頂点に君臨する者で、跪くなんて有り得ない。滅多に、というかほとんどそうする必要は無いはず。居ても数える程度だろう。
「まさか。普通の愛し子にはしません。カツキ様だからこそですよ」
そう言い、フロウティアは立ち上がる。
やはり香月の考えは間違っていなかった。教皇という地位は高く、当然、愛し子よりも高いようだ。
「リローズ様からある程度はお話を伺っています。すり合わせをしたいと思うのですが宜しいですか?」
拒否する意味は無いので香月は頷く。香月もフロウティアがどこまで把握しているのか知りたかった。
「カツキ様はこの世界とは異なる場所--異世界により、リローズ様に導かれ、ファースナルドにいらっしやったと」
間違いありませんか、とたずねられ香月は頷いた。
「それ故に言葉は理解し、話せるが、書くことは難しいとのことですが、文字はどうなんでしょう?」
「文字はまだ見たことないから何とも......理解できるかもしれないし、ただの文字の羅列に見えるかもしれないし、見てからの判断になると思うわ」
香月も気になっていることだ。こうやって言葉は不自由なく話せている。しかし、文字は今に至るまで目にする機会も無かったので、実際見てみないと分からないのが現状である。
「では、此方をご覧下さい」
そう言うと同時にフロウティアは机の前に本を出現させる。またしても、無詠唱である。しかし、今は文字が読めるか読めないか、そちらの方が気になる。
だから香月は敢えてそのことに触れない。
差し出された書物は分厚く、重量がありそうだ。しかし、受け取ってみれば目を見張るほどに軽かった。
それよりも文字だと思い直し、香月は本へと目を向ける。
(読める......!!)
本には、ファースナルドを守護する女神の名前としてリローズが挙げられていた。記されているのはこの世界の文字なんだろうが、香月の目には元いた世界の文字に見える。そう変換されているのだろうか。
「どうですか?」
フロウティアが気遣わしげに香月へ聞いた。
「文字も読めるみたい!」
フロウティアの懸念を他所に香月は本の中身へと視線を移す。
表紙だけ読めても仕方ない。中身もしっかりと理解出来るのかと、頁を捲る。
内容はリローズについて。ファースナルドを治め、導く創造神。要所に神殿を建てられていて、崇め、奉られる女神。この世界にとって絶対的存在であるということが窺える。
「そうなんですね、安心致しました。では、言葉については文字の記入の練習をしましょう。適任者を探しておきます」
「うん、お願い」
「あとは......カツキ様はどうされたいですか?」
フロウティアの問いかけにどう答えるか、香月は悩む。
やるべき事は文字を書けるようになること。それが目下、取り組むべきことではある。しかし、その先はどうするべきかまだ答えは出ていない。
「何も決まっていないようでしたら、決まるまで教会へ居てください。リローズ様もその方が安心されるでしょう。しかし、リローズ様もカツキ様が望むままに、と申しておりました。ここへ留まるも、別の場所へ行くことも、全てはカツキ様の心のままに。カツキ様が望む通りになるようにわたしも協力致しますので、何なりとお申し付けください」
黙りこくった香月を見て、フロウティアが急いで言う。
香月がやりたい事といえば、魔法を使うこと。でも、それはリローズもヴィレムも積極的にさせようとしない。むしろ避けているといってもいい。
それを言い出せば、間違いなくフロウティアは困るだろう。
「フロウティア、私が魔法を使いたいと言えばそれは叶えられる?」
「......正直に申し上げますと、わたしには判断致しかねます。直接、リローズ様に伺って頂いた方が宜しいかと」
フロウティアは判断出来ないことを申し訳なさそうに、眉を下げる。
フロウティアは悪くない。しかし、リローズに許可が必要なんだろうか。リローズは香月の好きなように生きていいと言った。ここは壊れない程度に頑丈で、大抵のことには耐えられると。
それならば、香月が魔法を練習したって大丈夫だと思う。
ここで言い合っても埒が明かない。フロウティアもヴィレムも口を噤み、理由を語らない。リローズがいいと言えば誰も何も言わないのなら、許可をもぎ取るのみ。
「リローズと話をするにはどうすればいいの?」
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