神々の愛し子

アイリス

文字の大きさ
10 / 50

10

しおりを挟む



ファースナルドは一年が三百三十六日。二十八日をひとつの周期とし、一ヶ月としている。つまり、ファースナルドも十二ヶ月存在する。そして一ヶ月に一度女神を讃える儀式を行う事になっているそうだ。リローズと話をするには、月に一度行われる、この儀式を利用すればいいとフロウティアから提案された。



いつもはフロウティアが代表を務めるが、今回は香月がやってみてははどうかという話になっている。というのも、話をしたい香月と、香月の地位を確たるものにしたいフロウティアの利害の一致である。




やはり、突然やってきたフロウティアよりも立場が上の愛し子を認めさせるには、神事に参加するのが一番早いとのこと。参加し、成功させることが大事だが。



「穏便に済まさずに排除するだけならば、簡単ですけどね」



サラッとフロウティアが物騒な事を呟く。文字通り、文句や不満を言うものを有無を言わさずに消すんだろう。教会から追い出すだけなのか、存在を消すのか、どちらかはわからないが何せ、穏やかに見える容貌とはかけ離れた言動をする女性だ。



「排除とかいいから。ここは穏便にいこう?」



何かされたわけでもないのに、排除という選択になるフロウティアが怖い。




香月だって悪口くらいならば気にしない。自分に害がない限り、手を出すつもりは無い。しかし、言い換えれば、自分に害を与えるならば容赦はしないだろう。有害となるならば、徹底的に排除するのも厭わない。手を出されて黙っている性格ではない。




「穏便に、と希望されるのでしたら、やはり儀式を執り行っていただくのが一番良いと思います。煩い者を黙らせるには効果的ですので、効率的です」



フロウティアは頬に手を添え憂鬱そうな雰囲気を醸し出し、微笑を浮かべ告げる。



香月的には、こっそりリローズに会って話せればよかった。しかし地位を確実にする為には必要な行程ならば、受け入れるしかない。確実な立場というのは、教会に居続けるならば、あった方が有利だから。フロウティアの案を突っぱねても得はしないだろう。せっかくフロウティアがお膳立てしてくれるのだ、文句を言わずこなしたほうがいい。



打算もあり、香月はフロウティアの案を受け入れた。



「じゃあ、やるしかないね」



無駄に目立ちたくはないが、儀式を行うのだ、きっとその望みは叶わない。香月は誰にも気付かれないよう、小さくため息をついた。



「かしこまりました、では早速、準備を進めましょう!」



やる気満々のフロウティアは嬉しそうだった。












一ヶ月に一度行われる儀式は祈りを捧げるものであり、特別難しいことはないだろう、とのこと。



儀式では正装する。フロウティアが着ているようなドレスを着て、外套を羽織るらしい。



「今回は時間もありませんし、既製品を手直しして使用しましょう。それともカツキ様ように誂えましょうか?教皇としての力を持ってすれば、期日に間に合うようにする事は可能でございます」



「既製品でいいよ、わざわざ特注しなくて大丈夫」



何回も参加するならば必要かもしれないが、香月は何度も儀式に出るつもりはない。フロウティアが言うような特注品は必要ない。



「では、そのように」



フロウティアは恭しく頭を下げる。



「早速ですが、サイズがあうか確認致しますが宜しいですか?」



フロウティアの確認に香月は頷く。フロウティアは香月が了承した後すぐに、指を鳴らした。



その瞬間、香月の服装が簡素なワンピースからドレスへと変わる。ドレスは真っ白。滑らかな肌触りで上品な光沢感を持つ。サイズもぴったりで手直しが必要ないくらいだ。



「サイズは大丈夫そうですね、裾も大丈夫そうですし、このままでいきましょう」



「本当にぴったりでびっくりしたわ」



「そうですね、手直しの手間が減ったので裾の刺繍をもう少し華やかにしましょうか」



今も裾には刺繍が施されている。しかし、フロウティアと比べると既製品なので控えめである。



「私はこれでも」



「せっかく正装するのですから、華やかに着飾りましょう?そうだ、普通のドレスも作りましょうか」



儀式用だけでなく、他のドレスも作るという話になった。



「フロウティア、大丈夫だから!」



「でも、ワンピースだけでは不便ではないですか?あ、では、ワンピースをあと何着かとドレスを作りましょう?サイズは今把握したドレスがありますので、採寸の必要は無いですし、面倒はありません」



香月は採寸が面倒だから断ったわけではないが、フロウティアがすすめる他のワンピースは確かに欲しい。きっと他にも色んな洋服があるんだろう。それには興味がある。



「わかった、じゃあ、お願い」



ここで断っても食い下がってきそうな勢だ。香月は反論せず、フロウティアの好きにさせる。



「わかりました、色々ご用意致しますね。では、わたしは一度失礼します。ゆっくりとお休みください。また夕食前には伺いますが、何かありましたら置いてある水晶に触れてください」



フロウティアは香月の服を元のワンピースに戻し、水晶の位置を教え、部屋をあとにする。



水晶は扉の近くにあり、呼び鈴のような役割を持っているみたいだ。どういった仕組みかはわからないが、用もないのに触れるのは躊躇う。また用事ができたときにでもたしか確かめようと思った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...