神々の愛し子

アイリス

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ファースナルドは一年が三百三十六日。二十八日をひとつの周期とし、一ヶ月としている。つまり、ファースナルドも十二ヶ月存在する。そして一ヶ月に一度女神を讃える儀式を行う事になっているそうだ。リローズと話をするには、月に一度行われる、この儀式を利用すればいいとフロウティアから提案された。



いつもはフロウティアが代表を務めるが、今回は香月がやってみてははどうかという話になっている。というのも、話をしたい香月と、香月の地位を確たるものにしたいフロウティアの利害の一致である。




やはり、突然やってきたフロウティアよりも立場が上の愛し子を認めさせるには、神事に参加するのが一番早いとのこと。参加し、成功させることが大事だが。



「穏便に済まさずに排除するだけならば、簡単ですけどね」



サラッとフロウティアが物騒な事を呟く。文字通り、文句や不満を言うものを有無を言わさずに消すんだろう。教会から追い出すだけなのか、存在を消すのか、どちらかはわからないが何せ、穏やかに見える容貌とはかけ離れた言動をする女性だ。



「排除とかいいから。ここは穏便にいこう?」



何かされたわけでもないのに、排除という選択になるフロウティアが怖い。




香月だって悪口くらいならば気にしない。自分に害がない限り、手を出すつもりは無い。しかし、言い換えれば、自分に害を与えるならば容赦はしないだろう。有害となるならば、徹底的に排除するのも厭わない。手を出されて黙っている性格ではない。




「穏便に、と希望されるのでしたら、やはり儀式を執り行っていただくのが一番良いと思います。煩い者を黙らせるには効果的ですので、効率的です」



フロウティアは頬に手を添え憂鬱そうな雰囲気を醸し出し、微笑を浮かべ告げる。



香月的には、こっそりリローズに会って話せればよかった。しかし地位を確実にする為には必要な行程ならば、受け入れるしかない。確実な立場というのは、教会に居続けるならば、あった方が有利だから。フロウティアの案を突っぱねても得はしないだろう。せっかくフロウティアがお膳立てしてくれるのだ、文句を言わずこなしたほうがいい。



打算もあり、香月はフロウティアの案を受け入れた。



「じゃあ、やるしかないね」



無駄に目立ちたくはないが、儀式を行うのだ、きっとその望みは叶わない。香月は誰にも気付かれないよう、小さくため息をついた。



「かしこまりました、では早速、準備を進めましょう!」



やる気満々のフロウティアは嬉しそうだった。












一ヶ月に一度行われる儀式は祈りを捧げるものであり、特別難しいことはないだろう、とのこと。



儀式では正装する。フロウティアが着ているようなドレスを着て、外套を羽織るらしい。



「今回は時間もありませんし、既製品を手直しして使用しましょう。それともカツキ様ように誂えましょうか?教皇としての力を持ってすれば、期日に間に合うようにする事は可能でございます」



「既製品でいいよ、わざわざ特注しなくて大丈夫」



何回も参加するならば必要かもしれないが、香月は何度も儀式に出るつもりはない。フロウティアが言うような特注品は必要ない。



「では、そのように」



フロウティアは恭しく頭を下げる。



「早速ですが、サイズがあうか確認致しますが宜しいですか?」



フロウティアの確認に香月は頷く。フロウティアは香月が了承した後すぐに、指を鳴らした。



その瞬間、香月の服装が簡素なワンピースからドレスへと変わる。ドレスは真っ白。滑らかな肌触りで上品な光沢感を持つ。サイズもぴったりで手直しが必要ないくらいだ。



「サイズは大丈夫そうですね、裾も大丈夫そうですし、このままでいきましょう」



「本当にぴったりでびっくりしたわ」



「そうですね、手直しの手間が減ったので裾の刺繍をもう少し華やかにしましょうか」



今も裾には刺繍が施されている。しかし、フロウティアと比べると既製品なので控えめである。



「私はこれでも」



「せっかく正装するのですから、華やかに着飾りましょう?そうだ、普通のドレスも作りましょうか」



儀式用だけでなく、他のドレスも作るという話になった。



「フロウティア、大丈夫だから!」



「でも、ワンピースだけでは不便ではないですか?あ、では、ワンピースをあと何着かとドレスを作りましょう?サイズは今把握したドレスがありますので、採寸の必要は無いですし、面倒はありません」



香月は採寸が面倒だから断ったわけではないが、フロウティアがすすめる他のワンピースは確かに欲しい。きっと他にも色んな洋服があるんだろう。それには興味がある。



「わかった、じゃあ、お願い」



ここで断っても食い下がってきそうな勢だ。香月は反論せず、フロウティアの好きにさせる。



「わかりました、色々ご用意致しますね。では、わたしは一度失礼します。ゆっくりとお休みください。また夕食前には伺いますが、何かありましたら置いてある水晶に触れてください」



フロウティアは香月の服を元のワンピースに戻し、水晶の位置を教え、部屋をあとにする。



水晶は扉の近くにあり、呼び鈴のような役割を持っているみたいだ。どういった仕組みかはわからないが、用もないのに触れるのは躊躇う。また用事ができたときにでもたしか確かめようと思った。



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