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しおりを挟む目が覚めた時、辺りは暗かった。寝室で眠っているのだから当たり前だ。灯りをつけなければ暗いままだろう。
香月はベッドから起き上がり、当たりを見回す。元々暗闇に居たため、真っ暗な中でもある程度見える。
隣にはヴィレムがいた。すやすやと静かな寝息をたてて丸まっている。
しかし、香月が眺めているとヴィレムは緩やかに覚醒した。紅い目と目が合う。
「カツキ」
「ヴィレム、起きたの?」
「うん、カツキが目覚めたのがわかったから」
守護神獣にはそのような察知能力が備わっているのか。
「そうなの?別に私にあわせなくていいんだよ?眠かったら寝てていいからね?」
「ん、駄目。僕はカツキの守護神獣だから、いつも一緒に居るの」
ヴィレムはそう言い切り、ゆっくりと起き上がり香月の近くへやって来る。
「だから、一人で抱え込まないでね。僕はずっと一緒にいる。そして、誰が敵になろうとも、最後まで絶対的な味方だから。一人で抱えて、限界まで我慢して、壊れてしまわないで。不満も不安も、怒りも悲しみも、全て分かち合おう?」
香月はヴィレムが言わんとすることに、目の奥が熱くなり、視界が滲む。
ヴィレムもきっと香月がこの世界に来る事になった経緯を知っている。
知っていても、その気持ちを汲めるがどうかはその人次第だと思う。
ただ上辺で聞くのではなく、心に寄り添おうとしてくれる。その気持ちに心が温かくなる。
「話すだけで足りないなら、発散すればいい。魔法はまだ我慢してもらわないと駄目だけど、他のことならなんでもやっていいんだよ?」
「なんでも?」
私は微笑みながらヴィレムの言葉を繰り返した。ヴィレムの言葉は不思議だった。
「魔法を使う以外なんでも、って。それは大丈夫なの?」
そんな風に言われると、本当になんでも願いは叶うような気がした。そして、なんでもしてくれるような雰囲気もあった。どこまでしてくれるのか気になるのが人間というもの。香月はヴィレムが何を言うのか先を促した。
どんなことをしてくれるんだろうという好奇心が疼いた。
「大丈夫だよ?カツキが望むならばどんなことでも。善良な人間を巻き込みのはあまりよくないから、悪人を使用することにはなるかなぁ。粛清するついでに拷問するとか?腐るほどいるんだ、色んなものを試せるよ?」
ヴィレムは何気ない事のように告げる。
「はっ?」
香月はヴィレムが言い出したことに対して間抜けな言葉しか出せなかった。
「あぁ、悪い妖精もいるから、そいつの翅を毟る?性格は悪くても、翅はとても美しいから、鑑賞にはぴったりだ」
次から次へとヴィレムの口から出てくる提案に、香月は追いつけない。
「魔族は多種多様だからなぁ。いる種族によって楽しみ方は異なるよ?あとは獣人も居るし、あぁ、獣人は身体能力が高いから、戦闘を鑑賞するのも楽しいと思う」
「待って、待って!どうして提案する内容が残酷なことばかりなの!?」
香月は慌ててヴィレムの提案に反対する。
「え?人間ってこういうことを好むよね?」
曇りなき瞳で、ヴィレムは不思議そうにする。ヴィレムが思う人間は随分偏った思考を持っているような気がした。あまり関わらないから考えが偏っているのか、本当にこの世界の人間はそのような残虐行為を好む傾向にあるのか香月に判断は難しい。
もしこの世界の人間がそういった考えを抱く者ばかりならば、香月は誰とも関わりたくないと思う。
元の世界の感覚でいえばそういう残酷な事を好み、実行する人間はもちろん存在する。それは否定しようがない事実だ。しかし、それが香月に当てはまるといえば、違うと声を大にして言いたい。
「ヴィレム、私はそんなこと望まない。されても少しも嬉しくないし、目の前で見せられても自分のせいでそうなってる、って考えると罪悪感に苛まれそう......」
いくら悪人であろうとも、香月は血を喜んで見たいとは思わない。事故に遭って自分の四肢がバラバラになっているのも目にした。血を見ることによって恐怖が甦るかもしれない。
「そういうもの?催物として楽しめないの?」
「楽しめないわ」
「じゃあ、何がしたい?何を望むの?カツキは過激な事は好きじゃないんだね?なら、美しいものの鑑賞はどう?」
「例えば?」
「宝石で出来たお城とか、水晶で造られた教会とか?美しい自然を見に行くのはどう?」
ヴィレムには申し訳ないが、やっとまともな案が出てきたと思ってしまった。初めからこちらを提案してくれたら、香月は喜んでヴィレムにお礼を言えただろうに。
「それなら見てみたい」
やっとヴィレムが出した企画に、香月が興味を示したことにヴィレム自身が一番安心していた。
「じゃあ、行こう!」
「え、今から?もう夜でしょう?」
「夜にしか見れない景色もあるよ!」
「そうかもしれないけど、今日はやめておこう?お風呂に入りたいし、リローズから魔法を使っては駄目だと言われてからの楽しみにとっておきたいから」
香月がそう言えば、ヴィレムは渋々納得した。
その後は、フロウティアがやって来て夕食を食べて、お風呂に入った。入浴の手伝いをフロウティアが申し出てきたが、それは断った。
見知らぬ人に見られるのも恥ずかしいが、知り合いに見られるのも恥かしい。
フロウティアは慣れてくださいと苦笑を浮かべていたが、安心して身を任せるにはまだ早い気がして断った。
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