神々の愛し子

アイリス

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香月は祭壇の前で跪いたまま、ペンダントを握りしめながら言葉を捧げる。




「古より世界を統べし女神、我が声に応え、姿を現し下さい」



香月の言葉が終わるや否や、天井から眩い光が降り注ぎ、礼拝堂内を明るくする。一目でわかる、人成らざるものが訪れたことが。




光はおさまらず更に増えてゆき、水晶が光を反射して礼拝堂の中は輝きを増す。



「美しい......」



誰が呟いたかは分からないが、静まり返る空間の中でその言葉は一際大きく聞こえた。幻想的な空間を誰も否定出来ず、ただ感嘆の息を洩らす。




『祈りは確かに聞き届けました』



儀式は成功した。それを示す、女神の声。言葉遣いは異なるが、発される声は確かにリローズのもの。香月をこの世界へ誘った女神の声だった。姿は無い。




『フロウティア』



声だけの存在のリローズはフロウティアの名前を呼ぶ。



呼ばれたフロウティアは跪き、ペンダントを握り掲げる。




「準備は出来ております。いつでも大丈夫でございます」




フロウティアが言い終えると共に、光はフロウティアへ向かい、そして注がれてゆく。身体の中へと収まっていく光。暫くして、全てが収まった。



フロウティアは立ち上がり、裾についた汚れを払う。




「儀式は無事終了しました、皆さんは各自仕事に戻ってください」




フロウティアはそう告げ、礼拝堂から香月とヴィレム以外を追い出した。

















「香月ー!!」



礼拝堂から人が居なくなり、扉をしっかり閉めた瞬間。フロウティアが香月の名前を呼び、勢いよく抱きついてきた。何とかフロウティアを受け止めたが、香月はふらつきながらフロウティアを見上げる。



「フロウティア?」




名前の呼び方がフロウティアではない。




「香月、わたくしよ、リローズよ!」




「リローズ!?どういう事!?」




「言葉の通り、今、フロウティアの身体を動かしているのはわたくしなのよ」




そう言いながら、リローズは香月に頬擦りしてくる。フロウティアならば絶対しない。突拍子ない行動をする様や、先程の現象を目の当たりにしたのだ、信じる要素は多い。




香月は遠慮なくリローズを押し戻す。




「もう少し堪させてくれてもいいと思うんだけれど......」




リローズは残念そうに呟く。フロウティアの身体だから、違和感しかない。




「まぁ、いいわ。それより、香月、魔法を使いんですって?先程、入れ替わる際にフロウティアから聞いたわ」



いきなり、本題に突入するリローズに香月は小さく身動ぎした。



リローズから問われ、香月は覚悟を決め、頷き、言葉を紡ぐ。




「そう、使いたいの」




「それは、どうして?この世界には魔法以外にも沢山楽しめるものがあるの。それを堪能してからでも遅くないと思ってたんだけれど」




リローズは憂いを帯びた表情を浮かべ、たずねてくる。




「ヴィレムにも香月を楽しませる案を幾つか教えておいたんだけど、気に入らなかったのね?」




「案?」




「そう、人間が好きそうなもの。その中のどれか一つでも香月が気に入ればいいなと思って」




「リローズ様、カツキは物騒なのは嫌いみたい。だから、美しいものを見に行くの」




「あら、一つは気に入って貰えたのね?」




ヴィレムが出していた候補は元々リローズが提案していたもののようだ。





「ヴィレムやフロウティアが魔法を使ってるのを見て、あぁ、本当に魔法があるんだなって理解して。リローズは私も使える身体だと言っていたでしょう?使ったことないから、使いたいなぁって思ったの」




それは紛れもない、香月の本心だった。この世界は魔法で溢れている。移動手段、部屋を照らす灯り。様々な場所で使われ、身近にある。




「リローズも、ヴィレムもフロウティアも私に魔法を使ってほしくなさそうで、どうしてかな、って思う。何か理由があるの?それは聞けば、教えてくれるの?何かあって使わないほうがいいなら、私も考えるけど」




「そうねぇ、理由かぁ......」




リローズは呟いた後は、考え込み黙る。




「簡単に言えば、香月の魂は運命にも好かれているのよ」



「運命?」



「そう。幸せなことにも、不幸にも。魔法を使えば、更にそれは増すの。どちらもね。悪いことばかりじゃないけれど、悪いことも寄ってくるということ。だから、使わなくてもいい環境に身を置けば、大丈夫だと思ったけれど......」




香月は魔法に興味を抱き、リローズにたずねるまでに至った。




「運命とは不安定で、不確かなもの。でも確実に存在し、逃れられないもの。だから、香月、好きにしていいわ。わたくしは香月に幸せを味わってほしいのであって、我慢を強いたいわけではないから」



香月が幸せにいることがリローズにとって大切なことであり、行動を制限したいわけではないのだ。



香月が香月であるならば、魔法を使っていい。リローズにとっては香月が運命に抗えずともいいと思っている。立ち向かうならそれもいい。抗いたいならば、抵抗するのもいい。



多少、順番が前後するだけだ。人である期間が長引くのか、人でなくなるか。



だから、リローズは香月を諌めない。止めない。香月がしたいように、やることを肯定する。



「香月、魔法を使いたいなら使えばいいわ」





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