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しおりを挟む割とあっさり許可が下りた。確かに、リローズが反対しても使えばいいと考えていたが、こうも簡単にいいと言われれば、拍子抜けする。
だが、魔法を使う制限を設けられていたのにはちゃんとした理由が存在していた。
運命。人間の意思に関わらず、身に巡ってくる吉凶禍福。断ち切れない巡り合わせ。魔法という力はそれが、更なる力を以て香月に降り注ぐとリローズは言っていた。幸せも不幸も、選ばず、選べず、共にやってくる。
リローズは、香月が選べという。使う、使わない、自由に選択すればいいと。
リローズは香月が自由に選び、考え、手を伸ばすものを奪わないと言った。
リローズが許すならば、誰にも邪魔されない。邪魔できない。
「さぁ、どうするの香月?」
香月が出す答えを待つリローズは楽しそうだった。
「リローズ......」
「なぁに、香月」
リローズは嬉しそうに香月の言葉に耳を傾け、返事をする。
「私は、魔法を使ってみたい。その気持ちに嘘はつけないの」
「えぇ、一度生まれた好奇心を人は無視できない生き物だもの。だから、香月がそうしたいと願うことは、何も間違っていないわ」
わかっている、というような、リローズの声音。
「いいのよ、香月。さぁ、魔法を使いましょう!何をしたいの?魔力を込めて思い浮かべれば、それはカタチを変えて世界に循環し、魔法という事象に変えてくれるわ」
そもそも、魔力を込めるという事が香月にはわからない。使ったことがないから当たり前のことだが、この世界では魔法を使うことが当たり前のことであり、魔力を込めるということは基本中の基本。できなければ、魔法を使うことすらできない。
魔法の大小かわらず、魔力を込めるということは必要不可欠のもの。大抵は親から教わり、魔法を習得してゆく。やがて自分の魔力に相応しい魔法を使いこなすようになっていくもの。
よって、香月は魔法を使うにあたり、魔力込める、という工程で躓いた。
「魔力込める、ってどういう感じなの?」
「そうねぇ、子供が親から教わる時にはこうやって手を取って、親の魔力を子供に流して感覚を教えるのが一般的ね」
リローズは香月の両手をとり、魔力を流す。リローズの手から温かい何かが流れ込んでくる。
異質であるが嫌なものではなく、香月は流れてくるものを受け入れ、身を任せる。
(何だか不思議な感覚......暖かくて、安心する)
身に流れる血液をなぞるように、全身へ巡ってゆく。手の先から腹部、腹部から頭へ。反対に足の先にも巡り、いき渡る。
「これが、魔力よ。魔力を込める、というのはこの巡る魔力を力へ変えること。つまり、魔力を身体の外へ出す作業の事よ。身体の外に出た魔力へ何をするのか指示するために、詠唱するの」
リローズは魔力を香月に送り続けながら説明をする。
「無詠唱は、魔力を込めている時点で、頭の中で魔力に指示が既に終わっているの。それ故に、顕現速度が詠唱するのと比べて格段に早くなるの」
更に無詠唱についての説明を始める。
「でも、普通の人間の脳では処理できない。特別な、頭の回転が恐ろしく速い人間、もしくは、それを可能にする才能が必要になるわ」
「私が無詠唱で使えるのは?」
「香月はそういうものなのよ?あと、フロウティアはわたくしを身に宿す資格を持つ故に、無詠唱で使えるようになったのよ」
答えのようで、違うような回答をリローズはする。
そして、今まで香月が疑問に思っていたフロウティアが無詠唱で魔法を使う件についても解決した。
「感覚が掴めたかしら?」
「うーん、たぶん?」
「感覚が掴めたら後は簡単よ。後は思い描くの。何をしたいか、何をするのか。今回は速度を気にしなくていいから、ゆっくり考えればいいわ」
リローズは香月と繋げていた手をそっと放して、一歩離れた。
香月はリローズに言われた通り、魔力を込める。そして、なにをしたいのかを思い浮かべる。
「香月は何がしたいの?」
「色んな魔法を使いこなせるようになりたい!でも、今は転移をしてみたい。ヴィレムもフロウティアも簡単にやってたけど、できるかな?」
「やってみればいいわ。最初は近くに転移して、慣れたら長距離を試すの。まずは、ヴィレムの傍に転移してみたら?」
同じ空間にいるヴィレムの傍へ転移する。初めて試すのだから、ちょうどいい距離かもしれない。失敗しても差し障りのない範囲。
香月は魔法を込めたまま、ヴィレムの傍にいる自分を想像する。
身体の内から力がゆっくりと溢れ、循環し、そして、次の瞬間目の前の景色が揺らぐ。思わず目を瞑り、再び開ければ、ちゃんとヴィレムの傍にいた。成功していた。
「できた!」
「カツキ、よかったね!」
「うん、成功して良かった!」
やりたかったことが出来て、尚且つ、成功した為、香月の喜びも大きい。
「じゃあ、次は長距離を試す?」
リローズにそうたずねられ、香月は頷く。
「もちろん」
「わかったわ、じゃあやってみましょう。ただ、場所を移動する魔法は予め知っている場所、自分の認識のある所にしか行けないの。だから、ここから試すなら、教会にある香月の部屋くらいが無難かしら」
リローズに提案された通り、香月は教会にある部屋への転移を試みる。
先程と同じように魔力を込めて、場所を思い浮かべる。先程はヴィレムの傍に行く事は無事、成功した。今回も同じようにすれば、難なくこなせる、そう思っていた。
だが、いざ、試してみれば──。
香月は教会の部屋ではなく、真っ暗な闇の中に転移していた。
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