神々の愛し子

アイリス

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「ここは......?」



香月は周りを見回す。先程まで近くにいたヴィレムもリローズもいない。真っ暗な闇の中には香月一人が立っている。



灯りは無く、出口も見えない。




香月はここから脱出する為にもう一度魔力を込めて、リローズとヴィレムの元へ転移しようと試みる。だが、転移できない。



(どうして!?)



転移ができないわけではない、きっと。一度成功している。失敗はあれど、できないことはないと思う。



諦めずに何回でもやろう、そう決意と共に香月は魔力を込め──。



ぞくりと、肌が粟立つ。



真っ暗な空間に風が吹いた。香月の金色に近い茶色い髪が靡く。



姿は見えないが、何かが訪れたことを示すような風に、香月は周りを警戒する。




(誰も、いない。何も、いない......)




と、思った。安心して、息をついた。その時、暗闇から手が伸びてきた。その手は香月の腕を掴み、引き寄せる。




「何っ!?放して!」




香月は抵抗しようと身を捩るが、反対に抱き込まれる。香月よりも遥かに身長が高く、体つきがしっかりしている。香月は腕の中にすっぽり包み込まれていた。




「ああ、やっと」




感嘆する声。その声は低く艶があり、腕の主が男性であることを示す。




逃れようともがくが、びくともしない。強い力で抱き締められ、逃げられない。



暗闇の中で目が慣れてきたのか、暗がりの中でも辺りが視認できるようになってきた。周りは何も無い空間で、香月を抱きしめるものの姿もぼんやりと、見え始める。




彼の腕の中にいる為、顔は見えない。わかるのは香月の顔に触れる肌触りの良い服と、髪が長い事。



どれ位の間、彼の腕の中に居ただろうか。永遠のような、刹那のような。時間感覚が乏しい。ここは暗いから余計そう感じる。時間の経過がはっきりと確認できない。




その間も香月は魔法を込めて転移しようと試みているが、成功しない。



「やっと、逢えたのに逃すはずない」




唐突に、彼は言った。香月が何度も転移しようとしているのに気付いたのかもしれない。




「いつも貴女は俺たちを拒む。俺たちも貴女に無体を強いたくないから、いつも諦める」




彼は、香月に言っている。だが、香月には彼が何のことを言っているのかわからない。理解できない。




「ああ、愛しい人。早く貴女を迎え入れたい......」




「貴方は誰?私は、貴方のことを知らない。貴方は誰かと、私を間違えているんじゃ......」




ないか、そう告げようとしたら更なる力で抱き締められる。強すぎる力に香月は自身で立っていられなくなる。




「っ......」




息を吸うのも苦労するくらいに強く、骨が軋む。




「あぁ、ごめんね、苦しいよね?」




香月が苦痛に耐えかねているのに気が付いたのか、少し力が緩められる。



拘束から解放され、香月はそのまま座り込む。



荒くなった呼吸を整え、見えないとわっているが上を見上げる。




「何を、したい、の......」




香月は息を整えつつ、彼にたずねる。空気を急速に取り込もうとする為、とても苦しいが聞かずにはいられなかった。




誰かと勘違いしているような気がするし、香月を求めているような気もする。




「何をしたいかって......?もちろん、貴女を連れて行きたい」



「何処へ......?」




「我らが居るべき処」




それが何処なのか確かめようと口を開きかけた香月の顔を、彼の手が包み込む。




「ねぇ、早く俺を愛して。俺を救って。俺を罰して。貴女を助けれず、見殺しにし、生き永らえている俺を許さず、憎み......それでも、最後には俺と共にいて......」



懇願するような響き。



願いのようで、決定事項であるような、反論は認めないような強さも滲む。




香月は言葉を飲み込む。




ここで言い争っても無意味だ。




わけのわからない男性の言い分を黙って聞いているのは癪だが、力で叶わない。転移もできない今の状況で怒らせるのは得策ではない。




今はやんわりと会話をして、刺激せず、逃げる手段を考えるべきだろう。



助けが来るのを待つべきか、自ら動くべきか。




「今の貴女も美しいけど、我らの住処にその身体では行けないよ?地上に縫いとめる器を棄てて、戻ろう?」



顔を包む手が緩慢に動き、輪郭を撫でる。



更に移動し、首元へ──。



そして、ゆっくりと首を覆う。徐々に力が込められ、締められてゆく。




「やめっ......」



段々と強く、圧迫されてゆき、息が出来なくなる。空気を求め喘ぐが、望むようにはいかず苦しみが募る。



(私は、また死ぬの?こんなにも、すぐに、呆気なく?)



香月は生理的に流れる涙で滲む視界に映る男性の手を必死で剥がそうと爪をくい込ませ、抵抗する。



(私はこの世界で何もしてない──!魔法も、景色も、食べ物も買い物も、したいことが沢山あるのに)




また死ぬのも嫌だ。異世界を堪能し、楽しみ尽くして、寿命で息を引き取るならまだいいが、こんな強制的に再び歩み始めた人生を台無しにされれのは御免だ。




(死にたくない──死にたくないの!誰でもいいっ、助けて、助かる術を教えて......)



リローズやヴィレム、フロウティアの顔を思い浮かべる。



だが、そんな都合よく助けは来るはずもなく。




香月の意識は闇の中へ溶け込んだ。




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