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しおりを挟む「やぁ、リローズ遅かったな?」
香月が意識を失ったと同時に姿を表したリローズに、彼は親しげに声をかけた。
香月をしっかりと抱え、リローズに向き直る。
「どうするのかと思って、見ていたのよ」
「うん、知ってる。だから、諦めた。どうせこれ以上手を出そうとすれば介入されるだろうってわかってたから。こんなにもあっさり、器を壊させてくれるはずない」
男は残念そうに肩をすくめる。男は香月の首を絞め、意識を失わせたが、その先の行為は控えた。
今、香月は意識を失ってはいるが生きている。
「この世界は君側の場所だから、分が悪い」
「分が悪いといいつつ、仕掛けてくるなんて。相変わらずね」
「だって、君の世界から弾かれたから。今しか機会は無いと思ったからな」
「そうね、まさか香月がここに転移するなんて思ってなかったから、油断したわ」
「カツキ──そう、今の名前は、香月なんだね」
愛おしげに香月の髪を掬い、口付ける。
「ドゥーム、もう少し待ってられないの?」
「リローズ、俺はもう、ずっと待っている。あの日からずっと。ずっと、ずっと待ってる。リローズ、君たちが阻もうとも器を壊し、手に入れようとしても手に入らず、何故だ?何故、拒むんだろう......?どうして、戻ってこない、こんなに擦り切れても尚......」
ドゥームと呼ばれた男は、香月を見下ろしながら、言い募る。最後はリローズに向けてではなく、眠る香月に対して問いかけるように、責めるような響きを持って。
リローズはドゥームに対してため息を着く。
「それを、望んでいるからよ。わたくしたちは、この子に無理強いしたくないし、できない。だから、選ぶまで待つしかないのよ?」
「わかっている、だから、ずっと待っているんじゃないか......」
ドゥームは言葉を紡ぎながら、終わらぬ繰り返しにうんざりしている様子を隠さず、香月の顔を見つめ続ける。開かない瞳に焦がれるように、しかし、開かぬことを望みながら。
「本当に、どっちが擦り切れる寸前かわからない有り様ね?」
リローズはドゥームの一挙手一投足に注目しながら苦笑を浮かべる。
「今回は諦めるけど、俺は諦めない。一秒でも早く戻ってきて欲しいと思っている」
だから。と、ドゥームは呟き、香月の顔にかかる髪をどけ、唇に触れる。ゆっくり、優しくなぞり、そして、口付ける。
「何度でも器を壊す。この手に取り戻すその日まで」
「そうでしょうね。わかっているわ、でもね、わたくしたちも同じく阻むわ。何度でも。香月が諦めるその日まで」
「あぁ、わかっているとも。君はいつも彼女の味方だからな」
ドゥームは悲しげに言葉を吐き出すと、香月をリローズへ返す。リローズは香月を抱え、ドゥームを見送る。
「じゃあ、またね香月、リローズ」
ドゥームは転移でその場から姿を消した。
ドゥームが消えた空間で、リローズは暫く佇んだ。
「今世を楽しみ尽くして、寿命を迎えれば受け入れそうなんだから邪魔しないでほしいわ......」
リローズのため息と共に吐き出された言葉を聞く者はいなかった。
リローズは香月を抱えたまま転移する。教会に用意されている香月の部屋へ転移してきた。
「リローズ様!カツキは!」
ヴィレムはリローズが姿を現すと走り寄ってきた。
リローズは寝室に移動し、抱える香月を寝かせる。
「っ......」
身体が軋む。思いの外、強い痛みで顔を顰める。
「リローズ様、フロウティアの身体が限界だよ。そろそろ出ないと」
「そうね、これ以上は危険だわ。ヴィレム、香月への説明をよろしくね」
「わかった。......ねぇ、リローズ様、香月に魔法を使わせてよかったの?」
ヴィレムの問い掛けにリローズは不思議そうにして、そして、微笑んだ。
「ヴィレム、言ったでしょう?香月の好きにさせたいのよ。彼女に我慢を強いては駄目。無理強いも駄目よ?周りにもよく言い聞かせなさい。破れば、それに相応しいものを返す」
リローズは瞳を眇め、ヴィレムに言い聞かせる。声はいつも通りで、優しく告げているがリローズは本気だった。
「あぁ、本当に限界みたい。ヴィレム、フロウティアを自室に寝かせておいてあげて」
ヴィレムは頷くと、静かに人型に姿を変える。香月には見せたことない人の姿。毛色と同じ白い髪に、紅い瞳。年齢は幼さの残る少年のような姿であるが、腕に抱えるフロウティアを難なく運ぶ。
すぐさまフロウティアの部屋へ移動し、フロウティアをベッドに寝かせる。フロウティアの顔色はだいぶ悪い。
今日はリローズがいた時間が長いのもあるし、本来ならフロウティアは行けぬ場所に転移している為身体への負荷が大きいのだろう。
フロウティアはリローズを宿せるとはいっても人間なのだ。無理をすればするほど、その身を害す。
リローズもそれをわかっている。ヴィレムもわかっているが、今回はフロウティアよりも香月の身が心配だった。
「ゆっくり休んで、フロウティア。カツキが目覚めた時、一緒に傍にいてあげよう?」
香月が次、目覚めた時、フロウティアもいたほうが安心するだろう。
早く二人が目覚めれようにと思い、ヴィレムは香月の部屋へ戻り、姿を再び神獣へと変える。
香月がお気に入りの姿へと変わり、そっとベッドにのぼり、隣で眠る。
「カツキ、ゆっくり休んでね。早く目を覚まして、頭を撫でて......」
ヴィレムは香月の頬に口付け、祈るように呟いた。
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