神々の愛し子

アイリス

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誰かの呼ぶ声が聞こえた。はっきりと誰かは分からない。遠くから繰り返し求めるように、強く引っ張られる、そんな錯覚に陥った。



誰かもわからないのに、それに応えようとするかの如く、声のする方へと向かいたくなる。




行っては駄目だと警鐘が鳴る。でも、危険を冒してでも向かわなければいけないと身体がいう。




(行ったら駄目......)



駄目だとわかってる。わかっているけれど、向かいたい気持ちもあって、抗えない強さで湧き上がる。




そんな香月に誰かが問う。



あちら側にいけば、今、あるものを棄てて行かねばならないがいいのか?と。



踏みとどまらなくていいのかと。



宥める問い掛けに、香月は立ち止まる。




(行ったら駄目。私はまだ、やりたいことがあるはず)




死にたくないと願い、人生を満喫すると決意したはずだ。




だから──。


















目が覚めた時、ここが夢なのか現実か判断がつかなかった。



ぼんやりと天井を眺めながら、これまでのことを思い返す。



暗い空間に転移してしまい、再度転移しようとしてもできず。怪しい男が現れ、意味のわからない事を並べ立てられ、首を締められた──。



香月は勢いよく身を起こす。




自らの体に触れ、無事を確認する。息をし、心臓は脈を打ち、身体は温かく、動いている。



「生きてる......」




息ができず苦しくて意識を手放した。どんな思惑があったが不明だが、首を絞められたことは確かで、明らかにこちらを害する気があったことは間違いなかった。




あの時はあまり湧かなかった恐怖が、今になって香月を襲う。いや、無事に生きているからこそ、さらなるものとなって、苛む。





(苦しくて苦しくて、もう駄目だと思った......)




自ら脱することもできす、助けも来ず、終わりを迎えるのだと思い意識を失った。しかし、今、まだ生きている。



(ここは現実よね?)



改めて周りに目を向ければ、ここは教会にある香月の部屋。寝室であった。





「カツキ、良かった、目が覚めたんだね!」




ヴィレムが香月の近くに歩いてきて抱きついてくる。小さな体を香月にめり込ませるように強く、身を押し付けてきた。




「ヴィレム、がいるってことはここは現実、なのよね?」



「うん、現実だよ?ちなみに、教会にある香月の部屋。体調はどう?」




「そう......体調は、大丈夫だと思う」




「痛いところとかは?」




「痛いところもない、かな」




「そっか、良かった。カツキの体調が良いなら昨日の事について、話そうと思うんだけど、どう?」




ヴィレムは香月の体調を慮りながら、提案する。




一方、香月はヴィレムの言葉で転移してから半日が過ぎたのだと理解した。




「ヴィレム、確認したいんだけど、今は朝ってこと?」




「うん、そうだよ。目覚めるまでもう少しかかるかと思ってたけど、早かったね」




嬉しそうにヴィレムは言い、香月の返事を待っていた。香月も昨日の出来事について聞きたいことは沢山ある為、頷き促す。



「じゃあ、着替えて隣の部屋で話そうか」



ヴィレムが魔法を使い、香月の服装を変える。ネグリジェから、簡素ながらも品のあるドレスへと瞬く間に着替えが終わる。




こういったことも自分で出来るようになればいいな、と思いつつ隣の部屋へ移動する。転移を使うまでもない為、歩いて移動する。




いや、たとえ距離があろうとも香月が自ら転移を使うことはなかっただろう。昨日、どうしてあの空間へ転移したかわからないのだ。ヴィレムに連れて行ってもらうのはいいが、自分ではする気にはなれない。




そう思うくらい、昨日の出来事は恐ろしかった。




















ヴィレムと共に隣の部屋へ足を運べば、そこにはフロウティアが居た。



「おはようございます、カツキ様」




フロウティアは目が合うなり、恭しく香月に挨拶をする。



「おはよう、フロウティア」



「ご気分はいかがですか?お疲れではないですか?」



フロウティアは香月をしきりに心配する。




「大丈夫だよ、私よりもフロウティアは大丈夫なの?」




香月はフロウティアの身に起きたことを知らない。しかし昨日フロウティアがリローズを身に宿していた事は知っている為、たずねた。



「全快とはいきませんが、業務をこなすのに支障はありません」



フロウティアはそう伝え、テーブルの上にいつも通り朝食を準備した。




「待って、私よりもフロウティアの体調のほうが心配なんだけど。大丈夫なの?」



香月はフロウティアが心配になり早口で捲したてる。



顔色を変えた香月にフロウティアは安心させるように微笑を浮かべ、頷く。




「大丈夫ですよ、カツキ様。お気遣いありがとうございます。それよりもカツキ様、お腹がすいていらっしゃるでしょう?さぁ、遠慮なくお召し上がりください」




フロウティアに促されるまま香月は朝食を食べる。確かに彼女の指摘通り、香月は空腹だった。昨日は結局、朝食しか食べていないからだ。




「ご馳走さまでした。じゃあ、早速だけど、昨日の件について聞いてもいい?」




「えぇ、もちろんです。その為にヴィレムも私もここにいますから」




フロウティアは素早く机の上の食器を片付けてゆく。そして、食後の紅茶を準備してくれた。









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