神々の愛し子

アイリス

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「私にできない魔法はヴィレムにお願いするね」




「うん!でもね、できない魔法だけじゃなくて全部でもいいんだよ?」



「全部任せちゃうと、感覚を忘れちゃうでしょう?だから、できることはする。ね?」




「カツキがそう言うなら。でも、転移は譲らないからね?これからも僕が使う」



ヴィレムが強い想いを込めた言葉を香月に投げかける。ヴィレムは自らの主張を示すように胸に手を当てて此方を見つめる。



唐突にヴィレムが言った言葉に香月は動きを止めた。



(流石、ヴィレム。気付いていたんだね)




香月が転移魔法に恐れを抱いていること、使うことに躊躇いを覚えていることに。



ヴィレムが気付いているのだ、フロウティアも触れてこないだけで、解っているだろうと思う。



案の定フロウティアと視線が交われば、何か言いたげな瞳と目が合った。しかしフロウティアは言葉は紡がず、曖昧に微笑むだけで、それ以上は何も追及しようとしない。されても困るので有り難い。




こういう細やかな気遣いをされる度、大事にされていると実感する。




「うん、お願いするね」



ここは素直に好意を受け入れておこう、そう思い香月は微笑を浮かべ答える。



自分が嫌だ、苦手だと感じることを無理しなくていい。代わりにやる、と善意で言ってくれているのだ。突っぱねる必要は無いし、推奨されている。



香月は素直にフロウティアとヴィレムに甘えられる。




「魔法の練習も一段落着きましたし、今日は終わりに致しますか?」



「そうだね、今日は疲れたし、もう終わりにしようかな」



「かしこまりました。ではカツキ様、ご紹介したい者がおりまして、お時間を頂いても宜しいですか?」



フロウティアにそう切り出され、香月は頷く。



「私だけでは全てをサポートするのが難しいこともあるかと思いまして、現在私の補佐をしている者を一人、カツキ様付きにしようかと思います」



フロウティアの合図と共に、一人の女性が転移してくる。



白いドレスを纏い、外套を羽織る同い年くらいの人物。




美しい少女だった。美しい顔立ち、長い睫毛に縁取られた緑色の瞳。綺麗に纏められた紅茶色の髪は複雑に編み込まれ、後ろで纏められている。髪飾りも白い花をあしらったものが使われ、華やかであり、華美過ぎず神聖さを醸し出す。





首元にはフロウティアよりも小さな首飾りがある。フロウティアと同じように太陽と月と花を模したものが。




「カツキ様、こちらは私の補佐を務めるシュリクロンです。シュリクロン、此方の方が今日からお前がお仕えするカツキ様です」



香月に紹介し、シュリクロンにも香月を紹介する。




「香月です。これからよろしくお願いしますね、シュリクロン」



香月はシュリクロンに挨拶する。紹介されたシュリクロンは香月の前に跪き、挨拶をする。



「先程ご紹介に与りました、シュリクロン・フォーディスでございます。誠心誠意お仕え致しますので、末永く宜しくお願い致します」




薄桃色の唇から紡がれる声は鈴の音のように軽やかである。



しかし、淡々とした話し方で素っ気なく感じる。初対面であり、初めて言葉を交わすのだから親しげに、というのも中々難しいだろう。




不愉快に思う程態度に出ているわけではないし、こういう性格で、話し方なのかもしれない。初見で全てを推し量ることはできないので、これから共に過ごす中でどんな人なのかがわかってくるはず。



香月はシュリクロンの挨拶に改めて頷き、立ち上がるように促した。




「自己紹介も終わったし、解散でいいのかなフロウティア?」



「そうですね、大丈夫でございます。仲を深めるためにも今からはシュリクロンをお傍に置いて頂きたいのですが、宜しいですか?」



フロウティアの問いに香月は一瞬だけ躊躇いを見せるも、それは刹那であり、誰かに気取られる様子は無かった。いや、ヴィレムは見逃さなかったが、香月の目には映らなかった。



香月はすぐに返事を返す。



「もちろん、大丈夫だよ。これからお世話になるんだもの、仲良くしたいから」



香月は本心から言っている。だが、全てが心から思っての言葉でもなかった。



香月にとって信頼できるのは、リローズ、ヴィレム、フロウティアであり、新たに紹介されたシュリクロンはまだ信頼に足る者ではない。だから、二人っきりになるのは嫌だと思う。しかし、ヴィレムは変わらず傍にいてくれるだろうから拒絶を示す程じゃない。

 


「ありがとうございます、カツキ様。至らぬ所もあるかと思いますが、宜しくお願い致します。シュリクロン、しっかりお仕えするように」




「かしこまりました」




シュリクロンはフロウティアの言い付けに深く頷く。




フロウティアはシュリクロンを見下ろし、香月に礼をし転移してその場から姿を消した。





「私たちも部屋に戻ろうか?」




「かしこまりました」




香月に返事をしたシュリクロンは、先程と変わらぬ声音で返した。



香月はヴィレムの魔法で転移した。




シュリクロンは香月が今し方まで立っていた場所を見下ろす。



「カツキ様、か......」



シュリクロンから溢れた声は冷たく、感情の籠らないものだった。爛々と輝く緑色の瞳は酷く翳っていた。










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