27 / 50
27
しおりを挟む「シュリクロン様、今日はフロウティア様の傍で見かけないわね?」
誰かが、シュリクロンの不在について触れる。
「シュリクロン様は、この前いらっしやった愛し子様付きになったみたいよ」
答えたのはシュリクロンに仕える者だ。
「え?シュリクロン様が愛し子様に仕えているの?」
シュリクロンがこの前来た愛し子──香月に仕えている。その噂は、一瞬で教会内に伝わる。
愛し子が愛し子に仕える異様さに人々は戸惑いを隠せなかった。普通なら有り得ない。愛し子は普通、仕えられる立場の人間だ。魔力が他よりも高く神に愛されている。
今、現在確認されている愛し子は少なくない。しかし多くもない。
だからこそ教会で保護され、大切にされている。
だから教会本部で愛し子が愛し子に仕えるという出来事はとても特殊である。
「シュリクロン様は、最有力候補でしたのに。もう候補から外れたと?」
「さぁ、それは分かりませんよ?愛し子同士結束を固めているのかもしれませんし」
シュリクロンに仕える者に視線が戻る。問われた者は首を横に振る。
「真意は分かりかねます」
「そうなの?シュリクロン様のご実家からも何も?」
「そうですね、今のところは何も音沙汰ありません」
「......随分、楽しそうね貴女たち」
話し込んでいた女たちの背後から、声をかける者が現れた。全員一斉に振り返り、声を失う。
後ろに居たのは今し方、噂の種となっていた人物──シュリクロンだった。
彼女は緑色の瞳を険しくし、話をしていた人物たちを睨めつける。
「シュリクロン様っ、申し訳ございません!」
シュリクロンに仕える女はすぐに平伏し、謝罪する。
その様を冷めた目でシュリクロンは見下ろす。
「それは何に対する謝罪かしら?わたくしに対する侮辱?それとも情報漏洩に対して?どちらにしてもわたくしに仕えるお前を、わたくしが許す理由はないわね?」
「も、申し訳ございません!申し訳ございません!シュリクロン様、どうか、どうかご慈悲を!」
シュリクロンに冷たく言い放たれ、女は青ざめ謝り続ける。
シュリクロンは歯を食いしばり、感情を抑えるよう務める。
シュリクロンは貴族出身の愛し子だ。貴族としての地位もあり、愛し子としても地位を持つ。
平謝りする女は、この教会にシュリクロンが来てからそばにいる者だった。一年程時間を共にしたくらいで思い入れはない。
「......罰を与えるつもりはないわ。でも、もうわたくしにお前は必要ないわ。顔を見せないで」
それだけを告げるとシュリクロンはその場から姿を消す。
彼女はまだ仕事中だ。香月からさがる許しを得てから、彼女の仕事は終わるのだから。
シュリクロンは香月が入浴中に夕食の準備をする為、動いていた。
シュリクロンはフロウティアの傍で仕事を任せられるくらい優秀であり、魔力も豊富なほうだ。魔力消費の多い転移魔法を何回か使っていてもまだ、余力がある。
しかし、食事を取り寄せるのはあまりにも繊細であるので、食事を取り寄せるのでなく自ら厨房に取りに行き、食事を持って転移しよう。そう考え、シュリクロンは来た。
近くまで転移し、そこから歩いて厨房に向かう途中、話し声が耳に入った。
夕食の時間だ。人がいることは珍しくない。むしろ当たり前で、シュリクロンと同じように身分の高い者へ食事を運ぶ側仕えが混雑することもある。
数日前まで、シュリクロンはフロウティアと自分の食事を取りに来ていた。
だが、聞き慣れた声が聞こえたため、つい足を止めた。
聞こえてくる話は、シュリクロンの話だった。良い話ならよかったが、そうではなかった。シュリクロンに仕える立場にいながら、簡単に他人に情報を洩らす。そんな者、シュリクロンには必要ない。シュリクロンは、シュリクロンに忠誠を誓う側仕えに視線で目配せする。
シュリクロンの意図を正確に受け取り、女を連れていった。
女が連れていかれる様を見ながら、他の者にもこの場から去るように伝える。
誰も居なくなった廊下でシュリクロンは壁にもたれ掛かり、ため息をつく。
シュリクロンがフロウティアから遠ざけられ、香月が次期教皇として最有力候補になったのではないかという臆測。シュリクロンは最有力候補を外されたのではないか、という話題。
それ自体は、シュリクロン自身も考えた説だ。今までは誰よりもフロウティアの傍で仕えていた。それなのにこの時期に、傍から遠ざけられた。
教皇になれればいいとも思っていた。なれれば、フロウティアもあの人たちも、シュリクロンを褒めてくれる。認められる。必要とされる。そう思ったから、シュリクロンにとって教皇という地位は必要で、欲しているものだった。
そして、一番近い位置にいると信じて疑っていなかった。それを裏付けるように様々な仕事もフロウティアの指導の元、こなしていった。
だが、数日前から全てが狂いだす。シュリクロンが務めるはずだった儀式は、新たに来た愛し子が執り行うと発表された。
普通、新しく教会に来た愛し子は儀式などしない。
愛し子とは、様々な生まれ方がある。生まれてすぐ愛し子だとわかる場合、数年後にわかる場合。先天的に産まれた瞬間から愛し子である者。生きていて突然、愛し子になる場合もあり、後者は後天的な愛し子である。
こうして、愛し子には色んな経緯を持つものが多い。その為、愛し子は保護され、教育を受けて、愛し子として立場を確立していくものだ。
香月は明らかに後天的な愛し子だ。今から学ぶ事は多いはずだ。儀式をしたというが、基本的な知識が無いように見受けられる。魔法も、生活にしても。
(それなのに、あの子が次期教皇かもしれない......)
シュリクロンはもう一度、ため息をつく。どうにもならない現実に打ちのめされながら。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています
放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。
希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。
元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。
──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。
「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」
かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着?
優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。
お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません
Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。
乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。
そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。
最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。
“既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう”
そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい…
何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる