神々の愛し子

アイリス

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「シュリクロン様、今日はフロウティア様の傍で見かけないわね?」



誰かが、シュリクロンの不在について触れる。



「シュリクロン様は、この前いらっしやった愛し子様付きになったみたいよ」



答えたのはシュリクロンに仕える者だ。



「え?シュリクロン様が愛し子様に仕えているの?」



シュリクロンがこの前来た愛し子──香月に仕えている。その噂は、一瞬で教会内に伝わる。



愛し子が愛し子に仕える異様さに人々は戸惑いを隠せなかった。普通なら有り得ない。愛し子は普通、仕えられる立場の人間だ。魔力が他よりも高く神に愛されている。



今、現在確認されている愛し子は少なくない。しかし多くもない。



だからこそ教会で保護され、大切にされている。




だから教会本部で愛し子が愛し子に仕えるという出来事はとても特殊である。




「シュリクロン様は、最有力候補でしたのに。もう候補から外れたと?」



「さぁ、それは分かりませんよ?愛し子同士結束を固めているのかもしれませんし」




シュリクロンに仕える者に視線が戻る。問われた者は首を横に振る。



「真意は分かりかねます」



「そうなの?シュリクロン様のご実家からも何も?」




「そうですね、今のところは何も音沙汰ありません」




「......随分、楽しそうね貴女たち」




話し込んでいた女たちの背後から、声をかける者が現れた。全員一斉に振り返り、声を失う。



後ろに居たのは今し方、噂の種となっていた人物──シュリクロンだった。




彼女は緑色の瞳を険しくし、話をしていた人物たちを睨めつける。




「シュリクロン様っ、申し訳ございません!」



シュリクロンに仕える女はすぐに平伏し、謝罪する。



その様を冷めた目でシュリクロンは見下ろす。




「それは何に対する謝罪かしら?わたくしに対する侮辱?それとも情報漏洩に対して?どちらにしてもわたくしに仕えるお前を、わたくしが許す理由はないわね?」




「も、申し訳ございません!申し訳ございません!シュリクロン様、どうか、どうかご慈悲を!」




シュリクロンに冷たく言い放たれ、女は青ざめ謝り続ける。



シュリクロンは歯を食いしばり、感情を抑えるよう務める。




シュリクロンは貴族出身の愛し子だ。貴族としての地位もあり、愛し子としても地位を持つ。




平謝りする女は、この教会にシュリクロンが来てからそばにいる者だった。一年程時間を共にしたくらいで思い入れはない。





「......罰を与えるつもりはないわ。でも、もうわたくしにお前は必要ないわ。顔を見せないで」




それだけを告げるとシュリクロンはその場から姿を消す。



彼女はまだ仕事中だ。香月からさがる許しを得てから、彼女の仕事は終わるのだから。
















シュリクロンは香月が入浴中に夕食の準備をする為、動いていた。




シュリクロンはフロウティアの傍で仕事を任せられるくらい優秀であり、魔力も豊富なほうだ。魔力消費の多い転移魔法を何回か使っていてもまだ、余力がある。



しかし、食事を取り寄せるのはあまりにも繊細であるので、食事を取り寄せるのでなく自ら厨房に取りに行き、食事を持って転移しよう。そう考え、シュリクロンは来た。




近くまで転移し、そこから歩いて厨房に向かう途中、話し声が耳に入った。




夕食の時間だ。人がいることは珍しくない。むしろ当たり前で、シュリクロンと同じように身分の高い者へ食事を運ぶ側仕えが混雑することもある。



数日前まで、シュリクロンはフロウティアと自分の食事を取りに来ていた。



だが、聞き慣れた声が聞こえたため、つい足を止めた。




聞こえてくる話は、シュリクロンの話だった。良い話ならよかったが、そうではなかった。シュリクロンに仕える立場にいながら、簡単に他人に情報を洩らす。そんな者、シュリクロンには必要ない。シュリクロンは、シュリクロンに忠誠を誓う側仕えに視線で目配せする。




シュリクロンの意図を正確に受け取り、女を連れていった。




女が連れていかれる様を見ながら、他の者にもこの場から去るように伝える。




誰も居なくなった廊下でシュリクロンは壁にもたれ掛かり、ため息をつく。




シュリクロンがフロウティアから遠ざけられ、香月が次期教皇として最有力候補になったのではないかという臆測。シュリクロンは最有力候補を外されたのではないか、という話題。




それ自体は、シュリクロン自身も考えた説だ。今までは誰よりもフロウティアの傍で仕えていた。それなのにこの時期に、傍から遠ざけられた。




教皇になれればいいとも思っていた。なれれば、フロウティアもあの人たちも、シュリクロンを褒めてくれる。認められる。必要とされる。そう思ったから、シュリクロンにとって教皇という地位は必要で、欲しているものだった。




そして、一番近い位置にいると信じて疑っていなかった。それを裏付けるように様々な仕事もフロウティアの指導の元、こなしていった。




だが、数日前から全てが狂いだす。シュリクロンが務めるはずだった儀式は、新たに来た愛し子が執り行うと発表された。




普通、新しく教会に来た愛し子は儀式などしない。



愛し子とは、様々な生まれ方がある。生まれてすぐ愛し子だとわかる場合、数年後にわかる場合。先天的に産まれた瞬間から愛し子である者。生きていて突然、愛し子になる場合もあり、後者は後天的な愛し子である。




こうして、愛し子には色んな経緯を持つものが多い。その為、愛し子は保護され、教育を受けて、愛し子として立場を確立していくものだ。




香月は明らかに後天的な愛し子だ。今から学ぶ事は多いはずだ。儀式をしたというが、基本的な知識が無いように見受けられる。魔法も、生活にしても。




(それなのに、あの子が次期教皇かもしれない......)




シュリクロンはもう一度、ため息をつく。どうにもならない現実に打ちのめされながら。









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