神々の愛し子

アイリス

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お風呂からあがると、部屋にはヴィレムしか居なかった。



「あれ、シュリクロンは?」



香月は部屋を見回し、シュリクロンの姿を探すが見当たらない。



「さぁ?まだ戻ってきてないよ?」




ヴィレムはあまり興味が無いのか生返事である。




「そうなんだ、何かあったのかな?」




香月はシュリクロンに何かあっのだろうかと考える。転移を仕える彼女が食事を運ぶのに長い時間がかかるとは思えない。




香月がお風呂でゆっくりしている間に準備を完了していそうなものだが、現状、何もされていない。




「あいつ、使えない奴だね?カツキがお風呂終わったのに食事の準備ができてない......」




興味なさげだったヴィレムは、憤りを隠さぬ声でシュリクロンに対して文句を連ねる。




「フロウティアに呼ばれてるのかもしれないよ?」




「フロウティアがカツキよりも優先するような仕事を与えると思う?有り得ないね。どうせどこかで道草してるに違いないよ」




ヴィレムはシュリクロンに対して、けっこう、いや、だいぶ評価が厳しい。初めてあったばかりだというのに、毒づく。



「ヴィレム、シュリクロンに対してきつくない?どうしたの?」



「......僕はもともとこういう性格だよ。カツキが知らないだけ。......ううん、カツキはこんな僕を覚えておく必要ないよ。僕がカツキに対してきつく言うことなんて無いから」




「......そういう問題?」



相変わらずなヴィレムに香月は苦笑を浮かべる。しかし、特別だと隠さぬヴィレムの態度に香月は嬉しいと感じてしまう。




「まぁ、いいや。ヴィレムと二人っきりでいれるんだもの、堪能させて?」




香月はヴィレムを抱き上げ、撫でる。ヴィレムは気持ちよさそうに瞳を細め、香月に身を委ねる。




「そうだね、カツキとの時間ができたと思えばいいね?」
















数分後、シュリクロンは食事を乗せた皿を持って部屋に現れた。



「カツキ様、遅れてしまい申し訳ございません」




シュリクロンは仕事の準備を初めて、終わり、香月に謝罪した。



「ううん、私は大丈夫だよ。それより、シュリクロン、顔色が悪いけど大丈夫?」




「......問題ございません」



シュリクロンは問題無いと言い切ったが、顔色は悪く、普通の状態には見えなかった。



香月はそれに気付き、食事を素早く済ませ、下げてもらい、シュリクロンにも休むように伝える。



「シュリクロン、今日はもう休んで。今日はこれ以上することがないから私も休むし。ね?」



シュリクロンは再度香月から体調を心配され、渋々ながら納得し、さがる。



「お気遣いありがとうございます。今日は早めに下がらせて頂きます」



シュリクロンはそう言い、香月の部屋から出ていく。



魔法を使わず、扉からだ。余程疲れているか体調が悪いのか、使い慣れているはずの魔法を使わないほどの状況であることは間違いなかった。














シュリクロンが部屋を後にし、香月は寝室へ移動した。



寝室のベッドに座り、ヴィレムもそのままついてきて横に座る。



「シュリクロン、体調が悪かったのかな?顔色もよくなかったし......」



「そうかもね。こんな状況が続くなら、考えないといけないね?」



ヴィレムは含みのある言い方をする。香月はヴィレムを宥めながら、シュリクロンの体調を慮りながら眠る準備をした。





初めて会い、接するのだから色んな感情があるだろう。



香月は割と他人の感情に敏感なほうだと自負している。



しかし、シュリクロンは感情の起伏が乏しい。まだ出会ったばかりなので、判断を下すには情報が足りないとは思う。だが、それにしても、だ。



それが無意識なのか、意図的なのかはわからないがあまりにも感情の振れ幅が狭く思えた。




負の感情も無いが好意的でもなく、ただひたすら無関心。感情を押し込めることに、長けている。



(仲良くなれるといいんだけどなぁ......)




仕えられる者と仕える者で、主従関係ではあるが年も近そうなので香月としては仲良くなり、交流していきたいと考えている。



だが本人が望まないなら、無理強いはできない。



関わる人数が少ないからこそ、関わる人と良い関係を築きたいものだが、難しいのが現実だ。それはきっと、世界が変わっても、変わらない事実だろう。




元の世界でも、香月の周りは絶対に二つに分かれる。好意的な者と批判的な者と。間の無難な立ち位置にいる者は居ない。凄く好意を示し盲信的な者と、嫌悪を抱き忌み嫌う者。そのどちらかだ。



間の感情を持つものがいないので、交わらない二つは、反発し合う。




香月自身、嫌われている者に関わる気は無いので放置していたし、周りが排除するべく動いていた。それが当たり前だった。



この世界なら、女神であるリローズから愛されているのだからより顕著に現れるだろう。好意も嫌悪も、どちらも。目に見える形で現れそうだからこそ、恐ろしい。



ヴィレムも割と物騒な言動をする。




「シュリクロンはなんだろう......」




好意を持ってくれるのか、それとも──。




「どうしたの、カツキ?」



「ううん、何も。そろそろ寝ようか?」



「うん、おやすみ、カツキ。よい夢を」



「ありがとう、ヴィレム。おやすみ」






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