神々の愛し子

アイリス

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香月が完全に熟睡したのを確認し、ヴィレムは寝室に結界を張り巡らせ、部屋から転移する。



転移した先は、フロウティアの部屋だ。




「フロウティア。まだ起きてるよね?」



フロウティアの部屋について、ヴィレムは本人に声をかける。灯りは付いているし、フロウティア自身は机の前に座り、書類に目を通しているのでまだ眠りについてないのは明らかだ。



「勿論よ、ヴィレム。まだまだ仕事が終わりそうにないもの」



フロウティアは視線を書類に注いだままヴィレムに返事を返した。



「仕事中に申し訳ないけど、単刀直入に聞くよ。フロウティア、あいつをカツキに付けたのは何故?」




「あいつ、ってシュリクロン?」



フロウティアは紙をめくり、ヴィレムにたずねる。




「そう。あいつは、教皇後継者として最有力候補じゃないの?」




「えぇ、そうね」 



フロウティアは視線を上げ、ヴィレムの瞳を見据え言い切る。



「じゃあ、何故カツキの傍に?まだ確定でないし、確定であったとしても、しなければならないことは山ほどあるはずでしょうが」




「ヴィレム。だからこそ、よ?」




「どういうこと?」



「そのままの意味よ、ヴィレム。教皇になるならば、必要でしょう?カツキ様の特異性を知るためにも、傍で仕えた方が早いと思ってね」



「まぁ、確かにそうだろうけど......ちゃんと説明して送り出したの?あいつ、何か不安定だけど」



ヴィレムはシュリクロンと知り合いではない。フロウティアとの会話に出てくるので知っている、その位の存在だ。あと、フロウティアの後継者最有力候補として、知っている。



しかし今日少し時間を共にし、シュリクロンの感情の起伏の激しさを目の当たりにして、ヴィレムはフロウティアをたずねた。



シュリクロンがどんな人物であろうと、ヴィレムには関係ない。どう過ごし、どう考え、生きようと興味は無い。だが、香月が関わるならば、話は別である。





香月の側仕えとして来たのにまともに仕事が出来ず、主人である香月に気を遣わせる始末。香月が許しても、ヴィレムは許せず、フロウティアに物申す為に来た。





フロウティアは首をかしげる。




「説明しても意味は無いからしてないわ。自分で気付いてもらわないと、とてもじゃないけど後を任せられないもの」



フロウティアは穏やかに言い、更に付け加える。




「私はあの子が相応しいと信じているけれど、最終的になれるかはシュリクロン次第だもの。あの子が、リローズ様のお眼鏡に叶うかどうか。このタイミングなら、いかにカツキ様の為になるかどうかで決まりそうね?」



フロウティアは楽しそうに笑う。




「リローズ様の御考えが私ごときにわかるはずがないけれど、楽しみだわ。誰が選ばれるのか。あぁ、リローズ様が選ぶから故に、シュリクロンたちは不安なのかもしれないわ。カツキ様が選ばれる、そう考えて」





「カツキが望めば、リローズ様は選ぶだろうね。そうすれば、確実な約束になるもの。今のところ、教皇だった者は殆どが皆リローズ様の近くにいるから」



リローズだって、できるなら香月を指名したいと思っているだろう。そうすれば、確実に目的を果たせる。リローズにとって、目的の近道となるから。



「そうね。だけど、カツキ様は世界を見たいと言っているのだから、選ばれたくないでしょうね」



フロウティアの言う通り香月は色んなものを見たいと言っていた。この世界の美しいものを見に行く為には、高すぎる地位は自由が少ないだろう。仕事が付きまとえば、義務が発生し、のびのびと生きれなくなるのは間違いない。



自由も時間も制限され、それを苦痛に思うかもしれない。だから香月が教皇になれる資格を疾うに有していたとしても、香月自身が願うこともなければ、リローズが無理やり指名し、縛り付けることは絶対にしないはず。



「そもそも、教皇が代替わりする、って知らないでしょ。教えてないし」




「カツキ様には一切話してないわ。だって、カツキ様に必要な情報では無いもの」




「確かに、教皇が誰であろうがカツキには関係ないね。誰になろうとも、カツキの立場は揺るぎようがない」



ヴィレムは断じる。



フロウティアもヴィレムの発言に同意を示し、頷く。




教皇が代替わりする、それはローズナイド帝国にとっては重大な出来事の一つではあるけれど、香月にとっては特に意味も重要性も無い。




ただ過ぎ去ってゆく季節のように、止めることも止まることもない、事象の一つに過ぎない。




「だから、ヴィレム。私たちは見ているだけよ。私たちが気にするべきはそんなことじゃないわ」



「わかってるよ。ドゥーム様がどう仕掛けてくるかを考えろっていうんでしょ。簡単なのは誰かを器にしてくることだけど、そう簡単に器が見つかるとは思えない」



力が強大な神であればあるほど、世界に干渉するには制限がある。ただ干渉する事が可能になれば、制限などものともせずに力をあらんかぎり振り回すだろう。 




これは終わりの見えない戦いだ。どちらかが諦めない限り、ずっとずっと続く追いかけっこ。ずっと前から続く、逃走。



「私も器として見定められているわ。だから、ヴィレム。私が器に成り下がったその時は遠慮なく叩き切るのよ。カツキ様に害を成す、その前にね」



フロウティアが告げる言葉に、ヴィレムは渋々ながら了承する。



フロウティアは長い付き合いで大切な人間だ。だが、主と定めた香月と比べるのは、違う。香月は、もっと大切で、大切にしたくて堪らない。二人を比べた時、どうしても、どんな時でも、ヴィレムは香月を選ぶ。短い時間を重ねただけで、そんな風に香月はヴィレムに影響を与えた。



ヴィレムの苦渋の表情を見つめながら、フロウティアは小さく笑う。



「やっと現れた主人でしょう。大切にしなくては駄目よ」



何を切り捨てても、という言葉が含まれているのは十分理解出来た。



ただ、すぐには返事を返せなかった。ヴィレムにとって、フロウティアもまた、大切な人間であるから。



だが、どちらかしか選べず、片方しか助からないなら。ヴィレムも覚悟を決めて選び取らなければらない。




選ぶ状況になってほしくない。そう願っている。



フロウティアと香月でなければ、ヴィレムは迷わない。他の人間なら、容易く切り捨てられるのに。




「わかってる。でも、退ければいいだけのことだ。そうでしょう?」











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